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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
合理への狂信者
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第二百二十四話『闘争』

 



 ――茂みから飛び出して、迷いなく真っすぐ切り込みに掛かるライラ。


 動きにくそうな長い髪と外套、そして人の体重よりも重い大剣を携えて、まるで格上の相手にも物怖じせず。

 僅かに上がった口角と血走った眼からは、死線を顧みない寂滅為楽の様相を呈する。

 どちらもが獲物になりえる戦い。ゼントとしては真面目にやってほしいところではあったが。



 そしてそう時間も掛けずに枝の広がる真下付近までたどり着き、魔術具の平を地面に叩き付ける。

 今しがた切り込みに掛かるとは言ったが、実際そんなことをすればどうなるか分からない。

 少し離れた場所から確実に仕留める。


 彼女が魔術具に力を使うのはこれで三回目、つまり今までの依頼では使うまでもなかったということでもあった。

 ゼントが初めて力を使うよう指示したのだ。下手に余力を持て余して長期化させるより、全力を叩き込み一気に片を付ける方がいいと思ったから。

 それに口元を布で覆っているとはいっても、胞子が飛んでいる場所に長居したくない。



 ライラ付近の地面が一瞬、青白い光を淡く放ったかと思えば、大地に小さくも強烈に亀裂が入り小さな結晶が浮き出る。

 それは即座に波紋のように広がり、強く美しく、そして冷徹に敵を討つ。顕現させた力はどんな小さな生物でも抹殺せんと、瞬く間に正面の視界のほとんどを埋め尽くした。

 作り出されるは幻想的な一面の銀世界、流麗ながら静かな所作を持った少女一人を除いては。


 人間が扱っても許されるのだろうか、そんな疑問すら軽々しくわいてくる。だが強大な力は時に身を滅ぼしかねない。加えて注意するべき点もある。

 魔術具はあくまで魔石の力を増幅させているだけ、その魔石に力が無くなれば普通の武器と変わらなくなってしまう。


 変換効率が途轍もなく高いおかげでほとんど心配する必要はないが、須らく常に気を止めておくべき事項でもある。

 魔術具は適正さえあれば使用者の力量に依存しない。これが最も恐ろしい部分でもあった。



 ……少し話が逸れたが今は目の前に集中しよう。

 ライラの足元から出た堅氷は蹌踉樹全体を覆い切っていた。

 このまま動かずに凍死してくれればよかったのだが――



「――まあ、そんな簡単にはいかないわな……」


 流石に魔術具の全力を以てしても、木の表面全体を分厚い氷で固めることはできなかったのか。

 ちょうど木の頂点あたり、不気味な花が咲いていた根本付近から“それ”が噴き出した。

 見た目は半透明の灰色で、質量は成人男性の十数倍はあろうかというところ。だがまだ敵は表れつつあり猶も大きくなるだろう。


 先程から何度も説明にあった蹌踉樹の守護者たる不定形生物。その生物自体には具体的な名前がない。

 ほぼ必ず蹌踉樹と一緒に見られるので蹌踉樹“乙”とでも名付けとけばいいだろう。体の全てが適度な粘性を持ち、体の質量を用いて襲撃者を打ち倒す。

 その攻撃手段は多彩で、獲物に纏わりついて窒息させたり、自身の体の一部を高速で飛ばし斬撃を繰り出したりなど。


 逆にこちらからの物理的な攻撃はほとんど用をなさず、普通の魔獣とは戦い方が根底から異なる。

 しかも仮足での移動は見た目にそぐわず素早い。大勢の冒険者でも対策が無ければ当然の如く全滅する。

 一見、五感を感じ取る器官は無いように思えるが、おそらく周囲の音の振動を体で感知しているのだろう。



 この奇妙な生物達がどこからやってくるのか、どんな風に繁殖するのかは未だよく分かっていない。

 長距離を移動できる種子を飛ばし乙が付いていくと語る者もいれば、はたまた全て地下茎のようなもので繋がっている同一個体、なんて突飛な事を言い出す人もいる。


 胞子と説明したものも厳密には防衛機能の一環の分泌物。なにぶん、発見例が少なく解明は進んでいない。

 乙に関してもとにかくそういう風に特化した生物なのだと割り切る方が楽でいい。


 とにかく蹌踉樹においては気づいたら突然生えてきた、という状況が多く報告されている。

 何もできないのなら逃げることしかできない。

 人間は大した身体能力はないがその分知恵がある。蹌踉樹乙に関しても対応策がないわけでもない。


 例えば大きく深い穴を掘ってそこに落とし、上から土を被せて生き埋めにする。あるいは一日以上の長期戦に持ち込んで干からびさせる。

 乙は長時間外にはいられないらしく、普段は蹌踉樹に閉じこもっている。そして栄養を分け与えられ万が一の時に外に出て防衛する。故の共生だ。

 また周囲を猛火で囲み時間をかけて焙るのも一つの手。だがこれら全ては準備に何日もかかり、人手も大量に必要なため今回は使えなかった。




「――成り損ないみたい」


 それは乙と直接相対した本人から零れた言葉だ。後ろのゼントまでは流石に届かず、空虚の中に消える。

 何を思ってそんな単語が出てきたのかは定かではないが、表情を見る限りあまり快く感じてはいないらしい。



「――ライラ、作戦は失敗だ。一旦戻ってこい!」


「いや、気が変わった。面倒だからこのままこいつを葬る」


 ゼントが後ろから声を掛けると、乙が声に反応して一瞬標的を切り替えたような動きを見せる。

 その仕草に肩を竦ませつつ、しかしそれ以上に驚いたのはライラの返事だった。

 反抗期の子供でもあるまいに。常日頃から独断専行はご法度だと何度も言い聞かせてきたというのに。



 彼は一瞬で恐怖と剣呑が入り交じった顔に染まり、とうとう腰に掛けた剣に手を合わせていた。


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