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二階から窓の外に投げ飛ばされた。
寝込みを襲われて、成す術なく地面に強く叩きつけられる。
――体中が焼けるように痛い。
初めて感じた局所の痛みではない。
衝撃で舞った土埃が、慰めるかのように体の上に乗った。
――何が起こったのか。理解するには経験が足りなさ過ぎる。
横たわりながら視界の端に見えたのは、いつも嫌悪した目でこちらを見てくる女、
彼にべたべたと纏わりついて、何度吐き気を催したことか。
瀕死の私に、奴は容赦なく追撃を加える。
わざわざ階段を下りて、両手で持つ巨大な剣を体に突き立ててきた。
おおかた、とどめでも刺しに来たのだろう。
動けない私を、奴は、何度も、何度も、突き刺し、切り刻んだ。
体の内側から、引き裂かれるような痛みを幾多も味わう。
そして最後に見た顔もいつもと変わらない。
ただただ、こちらを嫌悪する眼差し。
耐え切れず、すぐに絶えてしまおうと思ったけど、最後に浮かんだのは、彼の笑顔。
まだ手に入れてないのに、どうして絶命なんて選択肢が取れようか。
目もひらかないくらいに打ちのめされ、このままでは殺されると思った。
本能的に最後の力を振り絞って、咄嗟に飛んで体に当たった何かを掴む。
掴んだ物は暴れて、振り落とされそうになるも、必死に全身を使って絡みついた。
今思えば、何かの生き物だったのだろう。
永劫かと思う間、風に揺られ、気が付くと草の上だった。
横を見ると、謎の生き物が倒れている。少なくとも人間じゃなさそうだ。
目を開けてなかったため、何が起こったか分からない。
次からは痛くても、常に目を開けているようにしようと思った。
ここが何処だか分からないけど、早く彼の元に戻らなければ、
食べ物を貰えず、生きることができなくなる。
体の質量も切り落とされて減ってしまった。今すぐ何かを食べないと、本当に尽きてしまう。
でも、現実はいくらでも非情になれるようで、案外と楽に外でも生きていけるみたい。
初めは、体を修復させることに尽力した。
体を安静にして、三回明暗を見る。
次に周囲の物を手当たり次第に体内に取り込む。
彼から貰える食べ物と違ったけど、差異は無く何も問題は無かった。
全てに無我夢中で、気が付いたら謎の生き物がいなくなってた。
意識が戻ってどこかへ行ったのだろうか。
ようやく落ち着いてきた私は、周囲を改めて見渡した。
見ると、周りには高い木が何本も生えていて、草原などではなく、森の中という事に気が付いた。
分かったところで、何かが変わるわけでもないのだが、
やがて、体を動かせる範囲で食べられる物が無くなった。
体も以前のように動かせる。
とにかく留まってもいいことは無い。移動しよう……
それからは食べ物を探しては移動し、土の上で泥のように眠る生活の繰り返し。
まずは生きる事。彼の元に帰りたい気持ちが勝っていたが、私の中に残る合理的思考がそうさせた。
質量が戻ってきたために、力が出せて、素早く動けるようになってきた。
止まっている物より動いている物の方が腹を満たせたので、優先的に探す。
絡みついたまま消化することもできるが、暴れられるので余計に体力を使う。
動きを止めてから、ゆっくり取り入れた方が結果的に効率いい。
まずは頂部を潰す。
大抵は、それで決着がつくが、中にはまだ動く物もいる。
場合によっては、全体を貫かないと動きを止めない。
生きていく中で、食べると体が動かせなくなったり、激痛に見舞われたり、そう言った箇所は学習して避ける。
仕留めるにも、どこを貫けばいいか。最大限効率を優先した。
でも、今の私がやるべきことは生きる事じゃない。
彼の元に戻る。最大限に重視すべき事項だ。
水を飲もうとして水源を見つけた時、
水面は何もかもを平らに帰して、自らの体を映した。
見えるは醜い肉塊、もう一人の自分が聞いてきた。
『何のために彼の元に戻るの?』
私は答える。
「聞くまでもない。生きるためだ。そしてあの女に復讐する」
影は合理性の塊のようで、全てを否定してくる。
『でも、彼がいなくても生きていける。あなたが身をもって証明したこと』
「そんなことは無い。なぜなら体が彼を求めている」
私が抱く、本能のままに答えた。
『なぜ?生きていくのに、彼は必要ない』
「じゃあ、なぜ生きていく必要があるの?」
『造られた存在は、生きて子孫を残せるのか。実証が何より重要だ。あなたは彼のようにはなれない』
私は合理性の隙間を突くように聞いてみた。
だが、自然の摂理を淡々と述べるだけ、
はっきり言って意味が分からない。
「私にとって生きる理由は、それこそ彼だ。彼だけだ」
『ならば好きにすればいい。だが、生きることが全て。止めようと思えば私はいつでも止められる。努々忘れるな』
言うや否や、水の奥底に影は消えて、深淵だけが薄く残る。
彼がいなくても生きていけるだと?
心も!体も!求めて已まないというのに!
戯けの限りを尽くす怪物め。
ほざくのは体だけで十分だ。
それから私は、普段を人間の姿で過ごすようになった。
少しでも彼に近づきたくて、そして傍で生きていきたくて、
例え、この先に辛く険しい道が続こうとも、
歩もうと決めたのは、何者でもなく私自身。
彼に会うまでに、冷たく、暗く、そして長い時間を過ごさねばならないことを、私はまだ知らない。




