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第二百二十一話『冒険』

 



 ――仕事を終えて、夕方になる前に協会に戻ってきたゼントとライラ。


 も採集作業は細々としていて時間がかかるが難しいわけではない。それほど時間も掛からず達成してしまって帰ることとなってしまった。

 もう少しゆっくりしていても良かったのだが、ライラが早く戻りたいと言い出したので已むを得ず。


 そして戻る途中、気が付くと頭にあったはずの髪飾りは取り払われており、いつものぶっきらぼうな前髪が彼女を覆い隠す。

 いつも付けてくれればいいのに、とゼントは真摯に願うも本人の意思が優先されるべくものだ。

 仕方なく自分の胸の中だけで愚痴を漏らす程度で止めておいた。



 なんやかんやで受付に品を渡し、ライラとともに報酬を受け取ろうとしていると――

 並んでいる横から列に割り込むようにセイラが話しかけてきた。



「ゼント、ちょっと」


「なんだ、まだ何か用か?」


 その声は当たり障りのないように見えて、常日頃の彼と比べると少々冷たかった。

 表では真顔でも、その裏ではきっと面倒だと思っているに違いない。



「お昼に話したことの追加の打診」


「はぁぁ」


 分かりやすく大きなため息を一つ。もうその話はすんだだろうとばかりに頭を抱えながら疲れを見せる。

 セイラはその対応を気にも留めず至極冷静に返す。でも何とか取り繕おうとする焦燥感はあるらしい。



「申し訳ないわね、でもこれが私の仕事だから」


「悪いけど無理なものは無理なんだ。どんなに心強い存在が居たとしても、俺はもう昔のようには振舞えない」


 ゼントはちらと後ろに目をやる。視線の先にはライラが。

 それ見たセイラは何かを理解したのか小さく憤りの声を漏らす。

 そして焦りからか本末転倒な提案で気を引こうとした。



「報酬は大量に用意する。金銭に興味がないのなら、協会でできることはなんでもしてあげる」


「じゃあ亜人の森で死んだあいつの遺体を回収できるか? せめて慣れ親しんだこの町で埋葬したいんだが」


 流れるような即答だった。まるで初めから予期でもしていたかのように。

 ゼントは我ながら迷いもなくこの提案ができることに自ら驚き、同時に恋人への想いはまだ冷めていないのではと期待を膨らませる。

 しかしこの望みが叶わないことくらい彼も分かっていた。セイラの困った顔を見たのなら尚更。



「さすがにそれは……」


「ならもう一切合切諦めてくれ、これ以上しつこいと俺にも考えがある」



「……分かったわ、もうこの話はしない。今日のところはもう話しかけたりもしないから」


 彼女は呆れたように、それだけを言い残して足早に去って行った。

 しかし口惜しむように爪を噛む。腑に落ちない、と表情はいささか険しく。


 その後姿からは未だ疲れと焦りとが入り交じり、いつものセイラらしくはない。

 ゼントとてできるものなら願いを聞き入れたかった。それも冒険者の仕事の内だから。



 だが今回ばかりは彼も開き直らない。ライラ以外に対して心を凍り付けてしまったわけではなく。場所は違えど同じ遺跡、大切な人を失ったことが本当にトラウマになっていたのだ。

 協会側もそれを分かっていながらこう何度も声を掛けてくるのは流石に呑み込めない。それほどに切羽詰まる状況でもあるまいに。




「――それでゼント、明日はどの依頼にする?」


「え、明日?」


 深く考え込んでいると、横から改まったように健気で明るい声が聞こえてきた。まるでその予定が確定しているかのように躊躇がない。

 単語のせいでゼントは無理やり現実に引き戻される。そして自分の聞き間違いではないかと尋ねなおした。



「そう、また一緒に行くでしょ? 選んでおくから、どんなやつがいい?」


「え、えっと……」



「早く」


「じゃ、じゃあ……全て任せる……!」


 思考の波から引き上げられて、またすぐ思考の波に放り出される。しかも謎に急かされて考えがまとまらない。

 結果、自身の意思と反した答えが出てくる。流石に明日は休もうと思っていたのに。



「大型魔獣の討伐とかでもいい?」


「……俺は直接的な戦闘はできない。最低限の自衛ならできるが万が一の時は……」



「そのへんは大丈夫、全部私がやるし、必ず護るから」


「うん、だったら、まあ……」


 結局、そんなこんなで言いくるめられてしまう。よりによって今までずっと避けてきたような内容でも押し切られる。

 そしてその直後からどうにかして訂正したいという欲求が溢れてきた。でも、見えるにっこり嬉しそうな表情を見て口を噤んでしまう。


 ライラは比較的難しい依頼を受けたがる。それは自分の実力から来る自信でもあれば、失敗の未経験からくる過信でもあった。

 ゼントは彼女を信用していないわけではない。ただやはり万が一というのはあるし、可能であれば危険は避けたかった。

 家で待つユーラやジュリがために、そして恐怖という意味でも彼は冒険ができなくなってしまっている。




 程なくして解散する二人。今回の報酬は僅かにしろ、ライラにはしっかりと握らせたゼント。

 だが逆に明日の約束も取り付けられて、しっかりと握られてもいるゼントだった。


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