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第百九十五話『軋轢』

 



 ――ゼントは気が付くと、もう夕食の時間となっていることを理解した。



 また曖昧な意識の中を過ごしていたのか。いや、今回は完全に寝落ちしていたのだと分かる。

 今日は一日を浪費して、時間をかなり無駄にした気がする。しかしこんな日がたまにならあってもいいのだろう。


 寝る前にジュリと接していたはずなのだが、腕の中に彼女は今いない。付け加えるならユーラもいなくなっている。

 だが寝違えかけた首を回すと疑問はすぐに解消された。ユーラは夕ご飯を作ってくれている。

 ジュリは……部屋の隅で蹲って眠っていた。さすがにずっと傍に居るのは憚られたのだとゼントは勝手に憶測する。



 それにしても、口元が甘い気がするのはどうしてだろう。体を起こした瞬間、彼は唇に妙な圧迫感を覚えていた。

 しかし、だからとってそれ以外に不審があるわけでもなく、特に体に異常も見当たらず。

 一先ずは立ち上がり宅に着く。台所から美味しそうな匂いがしてもうすぐ料理が運ばれてくるのだと想像できた。


 ふと、まだ寝ているジュリに視線が行く。起こした方がいいのか考えてみる。

 もしかしたら起きてはいるのかもしれないが、居心地が悪いので寝ているふりをしているだけかもしれない。


 そんな感じでまたゼントは一方的に心中を思いやり、あえて声をかけるような真似はしなかった。

 一見は独善的に慮ったのかもしれないが、ジュリにとっては実にありがたい事だっただろう。

 なぜなら実際、彼女は寝ているふりをしていたから。無意識に耳がゼントたちを向いている。



 やがていつもより少し豪勢な料理が並べられる。とっておきだった柔らかい肉がいつの間にか使われていた。

 机の上の食器は三人分。しかしユーラも察してなのか、ジュリを食卓に呼ぶことはしない。

 そして食事を始めた途端に話しかけてくる。部屋の隅で寝ている彼女について。



「――ねえねえ」


「どうしたん?」



「その、お兄ちゃんはしばらくジュリと距離を置いたほうがいいとおもうの」


「? それはどうしてだ」


 ジュリについて尋ねてくるだろうというのは彼も想定していた。

 だがその内容は予想外だった。むしろ一緒にいてあげて、などと言ってくると思っていたから。

 視線を左右に逸らしながら彼女は続ける。俗にいう目が泳いでいる状態で。



「えっとね、一緒にいるときっと辛いこと考えちゃうでしょ。こんな時ならむしろ離れてみたらいいとおもうよ!」


「うーん、まあ確かに。それはそうかもしれないけど……」


 ゼントは首を傾げる。確かに気を使ってくれていて、理に適ってもいる。

 しかしなんとなく、今までのユーラが言いそうにない発言のように感じた。

 提案が理知的という話ではなく、両者に配慮が見られないという点で。


 自分が彼女のことをよく知ろうとしなかったのだろうか。

 ゼントはそんな謎の責任を感じざるを得なかった。




「――ジュリの見張りはちゃんとしているから。だから今日は隣の部屋で休んで!」


 そして、夕食を取り終わった直後にそう言い放つや否や、背中を押してきて子供のように急かしてきた。

 就寝前の身支度を整える前にジュリの部屋に押し込められる。薄弱な女性とは思えないほどの強い力で。


 ゼントはやはり言葉選びが少し気になっていた。面倒を見るなどではなく、“見張っている”と。

 確かに敵かのような振る舞いはした。しかしユーラまでもが敵かのような意識を持つことが相当に珍しいと思う。少なくとも今まではなかった。



 彼女は部屋へ押し入れると、すぐにジュリのいる部屋に戻っていく。

 しかしまたゼントのいる部屋へやって来たかと思うと、右往左往と行き来する。毛布などの就寝道具を携えて。


 するといつの間にか簡易的な寝床が床に出来ている。一人で使うには少々狭く、二人で使うにはやや狭い場所が。

 ユーラが何をしようとしているかについては、自身でも驚くほどすぐに察しがつく。

 だがそれでは彼女が今言ったばかりの内容が履行されない気がした。だから勇気をもって尋ねる。



「ユーラ? ジュリを見張ってくれるんじゃないのか?」


「うん? もし逃げようとしたら物音がするはずだし、何か必要な事があれば向こうからやってきてくれるでしょ?」


 ゼントはまた一瞬首を傾げる。彼女の言っていることがあまり理解できなかったから。

 何かが変な気がする。しかし咄嗟には思い浮かばず適当に相槌しておいて、話題を次に移す。


「じゃ、じゃあ、もう少し床に毛布を敷いて寝床を広くしないか? このままだと狭いような……」


「それだとジュリの寝る場所に毛布がなくなっちゃうでしょ?」


 見張るというのは言葉の綾で、本当はジュリが寂しくないように傍に居てやるのかと想像していたのだが。

 だから配慮してないのかと思いきや、今度は毛布の量を気に掛ける。よく分からない行動理由だと感じた。


 違和感を指摘できないまま、ゼントは床に入る。そして頭を使いながらも流されるまま眠ってしまう。

 夜にジュリが彼らの部屋を覗いた時、ユーラは今にも火が吹き出そうなほど熱い抱擁をしていた。



実はゼントが目覚める前にジュリとユーラの一悶着があったのですが割愛しました。

本文中の暗示から自由に想像してあげてください。

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