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第百八十九話『棄損』

 



「――私の、魔術具を持っていた白い獣人を殺してほしいの」



 それはまるで息を吐くかのように、さらさらと流れる声だった。

 ゼントは言葉を聞いた瞬間、サラの亜人嫌いを思い出す。願いの意図が直接関連あるかはわからない。しかし、彼女の表情からは少なくとも負の感情が渦巻いていることだけは分かった。



「あいつは突然、私の目の前に現れて魔術具を奪い去った。多分ゼントは一度、姿形を見ているのよね? まだ近くに居るかもしれない。あなたは優しいから殺せないかもしれないけど、殺さないまでもそれ相応の報いを与えてほしい……」


「――あ、あのっ、サラ! あまりに突然の事で訳が分からない……! ただでさえ頭がいっぱいいっぱいなのに……あの獣人と一体何があったのか教えてくれないか!?」



「……ごめんなさい、さっきも言ったけど詳しい事情は伝えられないの。でもあいつのせいで私は町を離れざるを得なかった。これだけは確かに言える。見つけ出すのは大変だから強要はできないけど、もし遭遇したなら絶対逃さないで」


「その、えーっと、じゃあなんで向こうはそんなことしたんだ? 動機が分からない」



「魔術具を売ってお金が欲しかったんじゃないかしら。私も気を付けてはいたんだけど、完全に不意を突かれたわ」


「……あ、そうだ。これ、だったら今のサラには武器が必要だろ? その……あいつから取り返しておいたんだ。持っていってくれ」


 ゼントはサラの言っている言葉が右から左へと流れていき、よく理解できていなかった。

 でも何か勘違いがある。亜人たちへの偏見が強い誤解を生みだしているのではないかと予想した。

 何故ならジュリがこの町へ来て留まる理由が分からない。さっさと逃げればいいものを。



 一先ずサラの言葉を逸らして、ゼントは懐から例の魔術具を取り出した。

 しかしあたかもジュリのことを悪者のように扱う。実際取り返したというのは事実だが……

 サラと喧嘩別れなんかしたくない。今家にいるとは伝えられなかった。ましてや名前を付けて心の拠り所にしているだなんて、口が裂けても言えない。



「ああ、それはね、奪われた時に壊れてしまったの。もう力は使えないわ。まだ使えると嘘ついて商人に売ってしまって構わない」



「そんなことは……」


「まあ、どちらにせよ、それはあなたのものよ。私の方は何とかなっているから安心して」


 彼は魔術具を売るなんて考えは到底できない。そもそも悪意を持った嘘をつくなど無理だ。

 そして魔術具が壊れている? 告げられた内容にも違和感を持った。それはジュリの行動と話が食い違っている。

 考えれば考えるほど分からなくなってきた。もがけばもがくほどのめり込む泥沼に嵌ってしまった気がする。


 サラはこのまま勘違いさせたままでいいのか? そもそもジュリとどっちが正しいのか確信が持てない。

 二人の言っている内容の格差は顕著だ。もしかしたらジュリが嘘をついている可能性もある。これはあとで問い詰める必要があるが、判断のしようがない。

 普通ならばサラの方を信用すべきなのだが、感情が先に出て真実が見えていない可能性がある。




「じゃあゼント、言いたいことは終えたしそろそろ。これでいよいよ永遠にお別れね」


「――っ、そんなこと言わないでくれ!俺ももしかしたら数年後に旅に出るかもしれない。そしたら……!」


 思考も大して纏まり切らぬまま、話は終局へと向かう。もうサラとは会えない。

 しかしゼントは自身で残ると決めた選択故、引き止めたくてもできなかった。

 だからせめて、未来に希望を持たせる。



「いいえ、約束してあげる。二度と私には会えないわ。今ここで私に付いてこない限りはね」


「…………っ!!」


 根拠のない言葉だったにもかかわらず、至言にも思えてしまう信念に何も言い返せない。

 何ということだ、やはり運命は儚い。特に人の定めは儚く、脆く、残酷だと再認識した。


 サラと一緒に居たいと願ったのは自分のはずなのに、結局どちらかしか選べないというのだろうか。

 少しでも希望を抱いた己が愚かだったのであろうか。どちらを選んでいたにせよ罪悪は残るのだ。僅かにでも少ない方を選んで傲慢になってしまっていたのでは、と。




「それじゃあ……下手に長引かせても意味ないしね」


 サラと最後にまた篤い抱擁を交わす。そこに不要な会話はいらなかった。

 しかし辛い。自分の選択故の結果だから余計に心に来るものがある。

 本当に今生の別れとなるのか。そんなはずはないとは思いつつも、元々ある可能性など皆無に等しい。




「じゃあね。これから寂しくなるわ……」


 短くそう告げて踵を返し、町を後にする。その後ろ姿は寒空の下を弱々しく歩いていく、行き場のない人かのよう。

 ゼントはすかさず町に体を振り返った。耐えきれなくなって最後まで見送ることできなかったから。



 数秒が経って……これからの旅の無事を祈りつつ、少し気になって振り返るともう彼女の姿はなく。

 これで本当にお別れかと落胆したが、最後に一度会えただけでも感謝すべきだった。

 そしてゼントもユーラたちが待つ家へと帰る。二人だけの会合はどちらも喜べない結果となった。


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