第十四話『問答』
今、ゼントの住処に来ている。
二人の格好は、剣も皮鎧も同じく、傍から見て、統一感を持った歴戦のパーティーかのように見える。
実際は出会って二日も経ってないペアなのだが……
「――うわぁ、随分と快適そうな場所ね」
壁も柱もボロボロで、屋根の一部が崩れた家を見てライラが言った。
「それは皮肉か?」
ゼントが自嘲するように言葉を返した。
だがライラは首を横に振り、否定する。
「ううん、私が外に居た時より、ずっと住み心地が良さそう」
「そりゃご期待に添えたようでなにより」
「決めた!私これからここに住むね!」
「はっ?!いきなり何を言い出すんだ!?ここは俺の家だ!……いや、元は誰かの家だけども……」
「私この町に来たばかりで、住む場所がないの。だからお願い?」
「そんなところまで面倒を見切れるか!」
「じゃあ、私がここに住んじゃダメな理由を教えて?具体的に、そして納得できるように」
またそれか……
ゼントは歯がゆい感情を抱いた。
彼はどちらかで言えば、感情で動く人間だ。
今まで生きていて選択を迫られた時、彼はいつも直観かなんとなくで選んできた。
頭の回転が遅いわけではないが、理性を持って物事を判断することがあまり得意ではない。
故に、なぜ?どうして?と理由を尋ねられると、うまく言葉にできない。
ゼントは現に、カイロスやライラ相手に何度も言いくるめられていた。
悪態を突きながらいつも渋々了承させられる。
そして、今度もまた同じような結果になる気がして、気が重くなっていた。
だが、そうであってはならない。
やっぱりこの家にもう一人、しかも女性が住むことは、直感的に許されない気がした。
その場しのぎでも構わない。
誰もが納得できるような理由を、どうにかして目の前の少女、ライラに突き付けてやらねばならない。
「……理由は全部で三つある!」
その三という数は、適当に頭に思いついた数字だ。
まだ理由とやらも思いついていない。
無理やりでも喋りながら考えればいいと思っていた。
数秒、間を取って言葉を続ける。
「一つは、ここよりも宿を取った方が安全だからだ。雨風はより凌げるし、町の治安は悪くないが犯罪に巻き込まれる可能性がある。
二つ目は、場所が無い。俺が今使っている部屋以外は、家具や崩れた壁の残骸が散らかっている。お前が泊まれるようなスペースは無い!
三つ目、婚姻を結んでもいない男と女が一つ屋根の下とか、絶対にありえない!
以上だ!」
――出まかせのつもりだったが、我ながらそれっぽく言えた気がする。
窮地を切り抜け、安堵の念を抱きかけるが、それも数舜だった。
ライラは、間髪入れずに言葉で反撃する。
時間を掛けるほどでもなく、論理の隙を見つけたらしい。
どちらが優れているのかは言うまでもない。
「一つ目、私はお金を持ってないので宿を取れない。他に空き家も見つからないし、人が住んでいる家に泊まっても、お互いに知らない人間同士で安心できない。
二つ目、散らかっているのなら、今から片付けて場所を作る。
三つ目、それがなぜ絶対ありえないのか納得できない。説明してくれる?」
「そ、それは……」
絶頂の瞬間から一気に地の底に叩きつけられたゼント。
一つ目、二つ目の理由は、反論の余地もなく返された。
一歩後ずさり口を噤みながらも、頭の中で三つ目の理由の先の言葉を考えている。
彼が精々できたことは、話の軸をずらす程度の事だった。
「じゃあ、昨日の夜はどこにいたんだよ?」
「その辺の家の軒下で横になってた」
「金とかは持ってないのか?」
「もってない」
言葉を聞くや、唖然とするしかなかった。
ゼントはライラを、どこか金持ちのお嬢様と認識している。
さすがに、数日暮らすためのお金くらいは持っていてるのだと思っていた。
「そんなことはいいから、一緒に住むのがダメな理由を早く教えて?」
話をうまく知らせたかのように思えたが、それも一時的なものだった。
ライラは、思考がブレることなく説明を催促してくる。
「それは………いいからダメなものはダメなんだ!!」
威圧するように声を荒げるが、根本的な説明には全くなっていない。
この世界の一般的な常識で考えるのならば、男女で住まいを共にすること自体に危惧すべき要素は無い。
あくまで、住んでいる場所が一緒なだけ、という考えができるからだ。
客観的に見て、住む場所も頼れる人もいないであろう少女を、野ざらしにさせるほうがむしろ道徳的に問題である。
ゼントは何故こうも拒絶するのだろうか。
しかし、ライラも大概だ。
意地でも指示に従わなかったり、かと思いきや言われるがまま大人しく従っていたり、その行動には一貫性が無い。
それとも彼女には何かしらの行動理念でも存在するのだろうか。
ゼントの感情的な態度を見て、ライラは正面から切り崩すことを止めた。
正面が無理なら別角度からとでも言うように、説得してみる。
「じゃあ、婚姻を結べばここに住んでもいいよね?」
「はっ?お前何を言って……いや、もういい。俺が金を渡すから、宿に泊まってこい!」
「でも、あなたに迷惑が掛かる。朝もお金ないって言ってた。ここに住んだ方がいい」
「だから!そっちの方がダメだって言ってんだよ!」
「どうしてだめなのか分からない。教えてよゼント」
話は平行線で、一向に進まない。
それも全て、ゼントが納得のいく説明をすれば何も問題が無いのだが、
そんな窮地の彼に、一筋の光がさした。
いや、それとも絶望の影が覆ったのか。
意識の外から声が聞こえた。
「楽しそうだけど、親し気に何を話しているの?」
ゼントは、その聞き覚えがある声の方向見る。
そこに居たのは……




