第十三話『修復』
――見ると、入り口で待っていろと言い聞かせたはずのライラがいた。
外に居るのが退屈で待ちきれなかったのか。
じっとこちらを見つめた顔は、若干笑っているようにも、間の抜けたようにも見える。
カイロスが言っていたこと。
“少女は非力には思えない”
どこから手に入れたのか、ライラはゼントと全く同じ防具と剣を持っている。
故に重さも変わらない。だから知っていた。
どちらも重量はかなりあると言っていい。
剣は比較的長い部類の物、防具も強度を優先させた分重くなっている。
二つを軽々しく装備できている時点で、違和感に気づくべきだったんだ。
半年間、日課の鍛錬はついしていたが、俺の体はかなりなまってしまっている。
故に、俺がここに来るまでには、息切れが少なからずあった。
だというのに、少女は表情一つ変えずに横を歩いていた。
カイロスの言は正しい気がする。
「他にも、何か変わった動きを見せたとか無かったか?」
そう言われてゼントは思い出したことがあった。
悔しい事ではあるが嘘をついても仕方がないので、正直に言った。
「……後ろに付いていたのに巻かれた……」
それだけじゃない。
どこから聞こえるのか分からないように声を出す。
また、足跡を残さないなど、気配も消えていた。
初めから存在しなかったかのように、
考えれば普通の人間にできる芸当ではないのだ。
聞くや否やカイロスは笑顔になる。
「そうか、そうか!じゃあ技能があるのなら不合格に至る理由はまだないな!明日でいいから討伐依頼のコツもおしえて実践でやってくれ!じゃあな!」
そう言うと逃げるようにカウンターの後ろへ去って行った。
「おい!俺はそもそも採集のコツすらも教えられてないのに……!」
残されたゼントは弱音を吐くかのように、勢いを無くして言った。
やがて、こちらにしか視線を向けない少女に歩み寄って、やや気まずそうに言った。
「……本当は、お前を身勝手な奴だと思って不合格にしようとしていた。だから町に戻った。でも俺の視野が狭かったようだ……その、すまなかった」
「私は一切気にしてない。でも悪いと思ってくれてるんだったら、一つお願いをきいてくれる?私、丁寧な言葉で話すのが苦手だから、友達口調でしゃべらせてほしいの」
「ああ、まあ、それくらいなら、いいだろう」
てっきり、また今朝の質問について聞いてくるかと思っていた。
少し身構えたのだが、彼女の願いは少々拍子抜けするものだった。
二つ返事で了承してしまう。
「じゃあ、よろしくね、ゼント、私の名前も呼び捨てでいいよ」
ライラの声は、今までで一番感情が籠っていて、明るく思えた。
だが返す言葉は力無げだ。
「それは遠慮しておく……」
ゼントはやはり話題が気まずいのか、素早く次の話題へと切り替えた。
「まあ、あれだ。とりあえず実習教育は続行になったから、このあとは依頼の精算方法などを教える。明日にはまた別の場所で、討伐の依頼をこなしてもらう」
「うん分かった」
淡々と相槌をするライラ、やはり先程より声色が明るい。
――その後、受付にてライラに色々と説明した。
「……教えられることは以上だ。明日必要な物資はもうある。つまり今日はこれで解散する。……その、悪かったな……」
「もう気にしてないって言ったでしょ。それとも、もう一つお願いを聞いてくれる?」
「あまり調子に乗るな。俺はもう明日の準備のために帰るぞ」
「じゃあ、私も一緒に帰る」
ゼントの後ろを、ひょこひょこと付いて行く。
何かしらの関係を思わせる態度。
二人の雰囲気は朗らかに見える。
それはある意味、異様な光景と言えた。
ゼントはこの半年、いつも浮かない顔をしていたのだから。
それがどういうことか、一瞬、しかも少しだけだが口角が上がっていた。
後ろでこそこそ見ていたカイロスも、静かに拳を握りしめている。
しかし、ライラと会話をしながら、ゼントは一抹の不安が頭を過っていた。
結局、路地で会った少女は探せずにいる。
もう二日、再び出会えることはないかもしれない。
今後は積極的に探すことは控えるべきか?
……そういえば昨日からユーラもサラも見ていない。
この時間、いつもなら二人とも必ず見かけて、問答無用で突っかかってくるはずなのに、
まあ、そりゃ忙しい時もあるのだろう。
そう思って、心にとめることはしなかった。
「ねえ、あなたの家に行っていい?」
ゼントが自らの住処への帰路に就いた時、ライラは友達に話しかけるかのように軽く聞いてきた。
日が傾き始めた空の下で、ゼントは即答する。
「だめだ」
「どうして?」
「逆に行くが、どうして来たがるんだ?」
「朝にも言ったでしょ?あなたの事を知りたいから」
「そんなことでついてくるな、何もいいことなんて無い」
「拒絶する理由が無いなら、行くね」
それ以上に拒絶する理由が特に無く。
自嘲するように最後に言った。
「もう好きにしろ、どうせ勝手に幻滅するんだろ」
「しないよ。絶対に」
そう話しているライラは、どこか上目遣いで顔が赤い。
顔の血色が良くなっているのか、それとも、傾いた日の光のせいか。
互いに互いの存在を意識し過ぎていたのかもしれない。
彼らのあとをつける影に、二人は気づかない。




