第十二話『証明』
「ねえ、もう終わりってことは、私が有能だって証明できたんだよね?」
「…………」
「よかった。ゼントを見つけるのに思ったより時間がかかったから、心配してたの」
町に帰還する道中、少女はひっきりなしにゼントに言葉を掛ける。
一方、ゼントは全ての言葉を無視し、無言を貫いている。
だが少女は気にすることなく、話を続けている。
「ここまで道のりは長かったけど、私もやっと…………」
何度も話しかけられて、嫌気がさしたのだろうか。
しまいには、ゼントから心が澄んだ様子で話しかけた。
「もう二度と関わることは無いだろうから、お前の名前を聞いといてやる。慰めにでもなればいいがな」
ゼントは少女の処遇を知っていた。
だから、彼女を憐れんで、せめてもの救いを与えたかったのだろう。
「なにをいってるの?そういえば名前を言ってなかったっけ?」
少女は首を傾げ、よく分からないといった反応を見せた。
しかし、次の瞬間には、何かを閃いたかのように、そしてにやついた笑みを浮かべて言った。
「私の名前は『ライラ』っていうの。間違いなく覚えてね」
その名前を聞いたゼントは、心の奥底では動揺していた。
だが、何を想ってか、表面上には出さない。
何故困難にも落ち着いていられるのか、彼自身にも分からなかった。
まさか、予想できていた?
いや、そんなはずはない。
でも、この目の前の不思議な少女は、何かを想わせる。
特に、馴れ馴れしい口調の時。
「ああ、そうかい」
刹那のうちに様々な事が頭の中を通り抜けるが、軽々しい喋りを返した。
「随分と淡泊な反応だね」
少女は、いや「ライラ」は顔を覗き込むように、こちらを見る。
その発言と言い、表情と言い、全てを見透かされているかのようだ。
「もっと感動した方がよかったか?」
「いいえ、聞いてくるくらいだから、もっと驚いてくれると思ったんだけど……」
ゼントの中で恐怖心が芽生えるが、じっと抑える。
ライラの瞳はまるで光を通さず、感情が目から読み取れない。
考えてみれば、この声もまるで感情が籠ってない。
「なぜ、俺が驚くと思ったんだ?」
「知りたい?だったら…」
「……俺からの話は終わりだ。後はあのでっかい支部長から話を聞くんだな……」
どうせ、その先の言葉は分かり切っていた。
今朝ライラが俺に質問してきたことだろう。
なぜ、こうも拘る?
どうにもいけ好かない。
ライラは、うん、と答えるだけでこれ以上は追及してこなかった。
◇◆◇◆
「ここで待ってろ」
町に着いた二人は今、協会前に居る。
ゼントはライラを入り口前に留まらせ中に入って報告しにいく。
建物の中に入ったゼントは、カイロスを見つけると、一目散に詰め寄って言った。
黒い怒りを込めて。
「おい、カイロス!お前、分かってたんだろ!?これは何の嫌がらせだ!?」
いきなり胸倉をつかまれたカイロスは、状況が呑み込めずに、なされるままだった。
「おい!待て!いきなり何のことだか…………あっ…」
ここまで来て、ようやく彼は思い出した。
一昨日にセイラと話していたことを、
昨日は話している余裕が無かったのだ。
ゼントが怒鳴りたてて別の話をしてきて、勝手にどこかへ消えてしまったから。
カイロスの思い出す様子を見て、ゼントは更に怒る。
「やっぱり知ってたんじゃねえか!わざとか!?わざとだよな!!?」
「ちょ、ちょっと待て!俺もあとから気づいたんだよ!じゃなかったら、もう少し気を使ってたさ!!どうか許してくれ!」
いくらか吐き出して、収まったのかゼントの怒りはやや薄れる。
しかし、いまだに冷静の二文字は現れない。
「ふん、どうだかね!とにかく依頼は終わりだ!俺は帰る!」
「あのー、その、報告をしてくれないと……今後の判断が差し支えるんですけど……」
誰がどう見ても、口調がいつもとは違った。
ゼントはあまりの不甲斐なさに呆れながら、手短に語った。
「不合格だ。お前からお前にそう伝えといてくれ」
「その理由は?」
急に真面目な表情と声色になった。
なぜなら、協会の実習教育で不合格になることなど、極めてまれだからだ。
怒りで冷静さを失い、故に判断ができなくなってしまったのではと、懸念していた。
つい今まで感情を露わにしていたゼントも、ようやく落ち着いてきたようだ。
表情も硬いものとなり、そのまま伝える。
「あいつは人の指示を聞かなすぎる。全部一人で背負いたがる性質なのかもしれないが、はっきり言って迷惑でしかない。あれでは仲間も彼女自身も危険にさらす」
「討伐依頼の方はどうだったんだ?」
「してない。必要以上に時間がかかったし、これ以上は無駄だと思った」
「じゃあ、不合格にする理由は以上か?」
「そうだ」
そう言うとカイロスは腕を組み、どこか遠くを眺めた。
次に目を瞑り、難しいそうな表情をしながら言った。
「だったら、討伐依頼の方を見てからでも遅くはない。冒険者は元来自分勝手な奴が多いし、それで中型の魔物を倒せる実力でもあれば、何も問題はないだろう?」
「本気で言ってんのか?体つきを見れば分かる。あれは非力な温室育ちだ」
実際少女の服の隙間から見える腕と足はとても細い。
肩を掴んだ時も、柔らかく筋肉があるようには思えなかった。
「そうかねー?俺はあの少女が非力とは思えないんだがね。あの装備のまま、森までの道のりを往復できる時点で、見込みがあると思うけどな。しかも一切へばっている様子もない」
カイロスは後ろを見た。
視線の先を見ると、入り口で待っていろと言い聞かせたはずのライラがいた。




