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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
過去との出会い
14/309

???

 



 常日頃から考えていた。


 どうすれば生きるための糧を得られるのか。

 最善は何なのか。


 体を動かし、実践して検証し、合理的に判断していた。


 どうすれば彼から食べ物が得られるのか。



 とにかく生きることだけが全てだった。






 ある晩、彼以外の人物が部屋に現れた。


 彼は彼女に、色々なものを渡していた。

 そして囁いていた。


 “■■■■■”――と。



 当時、言葉の意味が分からなかった。


 でも、言う時の仕草、艶めかしさ――


 それらを見ていた。

 そして、言葉を聞いた瞬間、

 私は生きていくための食べ物の事なんかどうでもよくなっていた。



『その言葉が欲しい!』


 私の思いは、ただその一点になっていた。

 初めて聞いたときから、私の中に今もずっと留まっている言葉。


 誰でもない、他ならぬ彼からその言葉が聞きたかった。

 それもただ聞けたらいいのではない。

 私にだけ向けられた、その言葉が聞きたいのだ。



 いつからこんな感情を持つようになってしまったのだろうか。

 そして……何故……

 明らかに合理的じゃない。



 ――そうだ。これは生きるためなんだ。


 彼に囁かれていた人物――その人物はあれからも彼に色々な物を貰っていた。

 きっと生きるために必要なものに違いない。


 そして、いつもと同じ言葉を何度も囁いていた。



 それらは本来、私にこそ与えられるべきだ。

 彼の事を誰よりも好きな私にこそ。



 でも彼は食べ物以外何もくれない。

 実際生きるためにはそれだけで十分だった。


 だとしても彼から貰えるものには、それ以上の価値があるのかもしれない。

 そして、貰える何かを得るためにはあの言葉が必要不可欠なんだ。



 それからというもの、私は頭の中がいっぱいになっていた。

 あの言葉が、どうすれば聞けるのか。その一点で、

 私が行動を怠っても、彼は何も言わず食べ物をくれた。

 おそらく今までの行動は無意味だったのだろう。



 彼からは頻繁に言葉を語り掛けてくれた。

 もしかしたら中に、あの言葉があったのかも知れない。

 仮にもしそうだったとしよう。



 ――でも違う、そうじゃない。


 あの妖艶な声色で!仕草で!笑みで!

 私に言葉を語り掛けてほしいのだ………



 彼女には何度も言葉を語り掛けているのに、それが私には一切ない。

 彼女にあって、私には無いもの――それはなんだろう。

 何か条件があるのだろうか。



 それを探るために、彼女を模倣することにした。

 しかし、この体ではその人物の動きを再現することは不可能だった。

 あの人物どころか彼の動きの再現すらできない。


 私と彼は違う存在とでも言うのだろうか。

 いや、そんなはずはない。


 なぜその女なんだ。

 彼には他にもっといい人が居るはず。


 例えば……私のような……

 彼の事をこんなに想っているのに、そんな事があっていいはずがないだろう。



 これは、そう。

 まだ私が未熟だからに違いない。

 いずれ体が成長すれば、私も彼やあの女のように成長できるのだろう。

 そう思っていた。


 では、今の私が何を模倣できるのか。



 私はそれから時間を掛け、二人の会話を聴き続け、おぼろげながらも言語というものを習得していった。

 そして会話の中に、頻出する単語を見つけ出した。


 二人にまつわる固有名詞なのだろう。

 単語を言い合う度、互いに振り向き、笑顔を見せていた。


 彼の名前は分かった。

 そして、私が成り代わってやりたかった人物のも………



 その人物――彼女の名前はライラ――



 そしてそう、私の名前はライラ――




 過去のお前を含めて、全部私の物にしてやる…………


 いや、もう既に私の物だ。

 ただ、彼が知らないだけ……



 ◇◆◇◆






 ――あれから長い時間が経った気がする。



 かつてとは、何もかも違う。


 体の一部を振動させて、声を出せるようになった。

 容量や質量が増えて、思うがままに操れる。


 人間の暮らしを垣間見て、常識を学んだつもり。

 全部必要な事だと思った。


 大丈夫、記憶は全部、体に残っている。


 段々と自分が何者なのか分かってきた。

 だが何も問題は無い。





 当てもなく、世界を放浪していて、

 再び彼を見た。見つけた。



 彼はあの時からすべてが変わっていた。

 見た目も雰囲気も変わり、微かに顔に残る面影だけが、私のかつて記憶と一致した。



 でもまた、私を助けてくれた。


 間違いなく、彼はあの時のままだった。



 そして、彼は悲しそうだった。

 見た目には出していない。でも私にはわかる。


 誰が悲しませたんだ?

 あの女か?


 私なら彼を悲しませることは絶対しないのに……



 思わず後を付けた。


 記憶と一致しないものがもう一つ。

 女が彼の傍にいないのだ。


 彼の住居と思しき場所でも、監視した。

 辺りが暗くなってくるが、あの女はいつまで経っても現れない。



 やがて彼は固い地面で横になり、目を瞑る。

 そして異変はすぐに起こった。


 体も激しく動き、脈が速くなって、体中から汗が噴き出していた。

 うなされていたのだ。


 心配になり、彼の元へ近づく。


 彼は、うなされながらもあの女の名前を何度も呼んでいた。


 彼の体を揺すり、目を覚まさせた。



 私は完全にライラを模倣している。

 今なら彼を――あの女にとって代われるかもしれない。

 そんな安直な考えだった。



「――どうしたの?うなされてたみたいだけど大丈夫?」


 その喋り方は完全に、女そっくりに真似ていたものだった。



 しかし彼は私の姿を認めると――



「――その姿で!声で!俺に近づくな……!!」




 私は今まで聞いたことない彼の怒声に恐ろしくなり、刹那の内に暗闇を後ずさる。


 この姿では、何かがだめだったのだと、


 瞬時に悟った。




 私は見た目を変えた。

 伴って声も変わる。


 見た目はどうすればいいのかは私には分からない。

 だから私は、自分の直感を信じて体を変化させた。



 今まで聞いたところによると、

 体の表皮は白い方が男性は好きらしい。

 そして髪の毛は艶が出やすい黒が、


 瞳は彼が好きだった色の赤

 人間と同じように細くは再現できない。

 どうしても表皮と同じく、大雑把な色合いしか出せない。


 ……でも、できた。

 これなら彼は私を気に入ってくれるかな?


 ――ふふふっ




 翌朝、町の人間に聞くと、あの女が既に亡くなっていたと知った。

 これは千載一遇のチャンス。

 今なら、彼を私の物にできるはずだ。

 


 昨日の彼の様子、間違いない。

 理由は分からないが、あの女を嫌っていた。

 だから、あの女の姿じゃ駄目だったんだ。


 何か彼に近づく方法があればいいんだけど……

 それも、明日以降考えればいいか。


 しかし、この時の私は、なんて無知で、愚かだったのだろう。

 彼はライラの名を呼んだ。つまり、名前だけは変えなくても良いと思い込んでいた。

 彼相手に、姿かたちだけで良いと思い込んでいた。

 忘れていたならまだしも、あまりに滑稽だった。



 ――そしてそれは、私に残ったただ一つの過ちになった。


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