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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
孤独の果てに
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第九十四話『仕入』

 



 ――二人は別れた後、一方のゼントは予定通り協会へ向かう。もちろん人目は避けて、

 協会の建物に入り、すぐ目的の人物に視線で合図をした。



「おい、どうしたんだ?全身汚れと傷だらけじゃないか」


「カイロス、それよりも報告したいことがあるんだ」


 全身の痛みはまだあるものの、短時間の割にはかなり良くなった。

 つい先程まで歯を食いしばるほどだったのに、

 まるで竜に遭遇した日のように、問題なく動けている。


 建物の内部まで人目を避けることは不可能だ。

 当然のように視線が黒い人物に集まるのが、精神的につらい。

 ゼントは人が居ない所で話したいと告げると、カウンターの裏まで来るように手招きされる。


 一先ず先に今日の依頼の報告書を渡して、次が最も重要な事だった。

 赤い化け物、もとい赤い悪魔と出会ったこと。

 そして、予期せず負傷してしまったことを伝えた。



「……分かった。他の連中には十分に忠告しておく。討伐依頼の方も十分視野に入れておく。で、体の方は大丈夫なのか?」


「直後はとてつもなく痛かったけど、出血も腫れも無いようだし何とかはなっている。けどすぐに新しい依頼を受けることは難しいかもしれない」



「把握した。それにしても、近頃優先度の高い仕事が多すぎるな……」


 カイロスは深く頷くと共にため息を吐き、後ろの事務机が並べられて部屋に消えていった。

 ゼントもやることは済んだので早く家に帰ろうといた時、後ろから服の袖を手で引っ張られた。

 ここは受付のすぐ後ろだ。だったら居るのはこの手は彼女しかいない。


 振り向くと案の定、美しい銀髪が見られた。

 椅子に座ったまま笑みをつくり、セイラが無言で見つめ返している。

 端正な顔立ちと紺の制服との兼ね合いからか、近づきがたい気品が感じられた。



「今日は大変だったみたいね。はいこれ。家まで取りに来てもらおうと思ったけど、あんまり余裕がないみたいだからここで渡してしまおうと持ってきたの」


 笑顔は絶やさぬまま、こぶし大の小さな麻袋を丁寧に手渡してきた。

 何のことかと疑問に思いつつ、袋の中身を見ると、

 中には貨幣、言うところの金貨が大量に入っている。


 そう言えば、お金を預かってほしいという約束を忘れかけていた。

 しかし、中に入っていたのはあまりに大きな額で、ゼントが数年は職なしで暮らしていけるほど。

 想定外の金額にゼントは顔面蒼白になり、思わずセイラの顔を見る。



「ちょっと……これは流石に多すぎないか?これでは他の人間から狙われる……」


「周りに気づかれるから狼狽えないで。黙っていれば何も問題ないわ」



「……確認したいんだが、本当に大丈夫なのか?その……面倒事に巻き込まれたりはしないよな?」


「変なことは無いから安心して、絶対に。もし使いにくいなら、あなたの家に居るあの()の為に使ってあげて」


 言われて白昼堂々、ゼントは平常心を徹底して保ち、恐る恐るそして静かに袋を懐にしまった。

 この金に手を出す気はないが、どうしても必要なときは……ユーラの為に使ってしまうかもしれない。



「もっと話したかったけど、今日は引き留めないわ。最近本部からまた面倒な指令書が来ててね。近いうちに支部長から冒険者全体に話があると思うから」


「あ、ああ……」


 彼女はひらひらと手を振り、受付の業務に戻っていった。

 確かにカイロスもすぐ消えてしまい忙しそうだ。



 ユーラが心配だ、早く家に戻ろう。

 しかし、そのような場合に限って足止めを食うことが多い。

 足早に協会から去ろうとしていた時、別の人物に呼び止められた。


 聞きなれた声、顔を見ずとも誰だか分かる。

 初めての時から何度も世話になっている相手だ。無下にするわけにはいかない。

 妖艶な服装で周囲の注目を集める彼女から声をかけられたとあっては、少なからず羨望の眼差しを受けるだろう。



「呼び止めてごめんなさい。でもゼントの今後に関わることだし、すぐ終わるから聞いてほしいの」


「……どうした、んだ?」


 公の場で一瞬、何気なくあと一歩のところで敬語が出そうになる。

 目上の人間に対する最低限の礼儀で、親しすぎると周りから奇異な目で見られる。

 それ以上に本人にいやな顔をされるので、仕方なく友達口調で接する


 いつも通り赤髪を艶やかに揺らして、腕と脚を組み、サラはそこに佇んでいた。

 いつもと違うことがあるとすれば、彼女と一緒に依頼を受けている三人組が後ろで静かに控えていることだ。


 三人とも気が大きく性格は大きな身体の割には温厚。サラほど仲がいいわけでは無いが、何度も話したことがある。

 彼らがこの場に居ることは何ら不思議なことではないが、少し様子がおかしあった。


 構わずサラは、ゼントの反応に一方的に笑みを零しつつ、比較的真剣に語り掛ける。



「そっちの事情は大体分かってるつもり。仕事がしたいんでしょ?もしあの黒い髪の娘と上手くいってないなら、私たちとパーティーを組まない?」


 そう艶めかしく言うと、後ろの三人の目が深く見据えるものになった。

 それだけ、この話は彼らにとって重要な意味を持つのだろう。

 しかし干渉はしてこない。じっと耐え忍んでいるようにも見える。


 サラは後ろの反応が見えていて、分かり切っているかのように取り合わない。

 たった一人の一存で、内容は勝手に煮詰まり始めた。


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