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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
孤独の果てに
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第九十三話『帰着』

 



 ――ゼントは少女の正面に抱えられながら移動していた。

 森はやっと抜けて、朝通った道筋を通っていく。



 明快な答えが返ってこないことに対し、感情的になりすぎた結果、

 自分を何もないここへ放置して、一人で町まで帰ってしまう可能性もあった。

 もしそうなれば這って戻るなり、嘲笑したことを全力で謝罪するなり、選択を迫られるだろう。


 しかし実際はそんなことにはならず、嫌な顔もせず抱き運んでくれることになった。

 まだ休んだ方が良いとゼントが伝えるも、余計意固地になって取り合わない。

 それからお互い何も話すことなく、気まずい沈黙の時間が流れたが何とか今に至る。


 あれからずっと考え込んでいるようで、顔は正面ではなく常に天へと向いていた。

 安否を問うも大丈夫の一点張り。わがままとすら思える。

 前を見ていないのでぶつかりそうだが、不思議としっかりと道の中央を歩けていた。



「そろそろか。もう俺を抱えなくていいぞ。痛みもとれてきたし、ここからは自分で歩く」


 町が目前に差し迫った場所で、ゼントはこう切り出した。

 理由は明白、無様な失敗で抱えられた姿を見られたくなかったからだ。

 ライラもその訳を分かっている。見上げていた顔が戻ってきた。



「そんなに他の人間に見られたくないの?」


「当たり前だ」



「なんで?恥かしくする理由が分からない」


「だったら、さっきお前が泣いた理由とだいだい同じだな」


 ゼントはもはや確信めいた思考を持っていた。この少女には人間の感情がまだ伝わらないのだと。

 感情があったとしても普段から垣間見えるわけでは無い。掴みにくい性格という点では変わらなかった。


 高次の情緒を理解してくれるにはまだ時間がかかる。意味ではなく本質を。

 しかし前例はある。隙間をつつくように説明をした。

 ライラにはそれが嫌味か、弱みを握られたように感じたようだ。



「私が取り乱したことは忘れて。あの時は絶対私じゃなかった。そうでなくても、目から水が出てきただけ」


「別にそんな頑固になる必要ないだろ。お前が望むならそういう事にしておくよ。理由を聞く気にもなれないからな」


 分からなくても納得はしてくれたのだろう。

 しゃがんでゼントを降ろして、再び立ち上がった。


「足は痛くないの?」


「見たけど血は出てないから、挫いたか、打撲だろう。少しくらいなら歩ける」



「ごめんなさい。私がもっとうまくやっていれば……」


「どう考えても下手な指示を出して、そしてあいつに対応できなかった俺の失態だろ」


 彼は少女の謝罪の意図を履き違えている。

 違う意味でライラは自分自身を責めていた。

 指摘が無かったら本人以外は気が付かないだろう。



 ゼントは手を借りずに独りで歩き出す。しかし正直言うと片側の足首がかなり痛い。

 一時的なら我慢できないほどでもないが、町の手前まではももちそうもない。


 そんな時、一瞬足が軽くなる。

 気が付くとライラが隣まで来て、肩を持ってくれていた。

 相変わらずゼントに視線を向けず無表情で正面だけを見ている

 何故だか痛みも少しは和らいだ気がした。


 いつもの彼であれば、嫌がっただろう。

 でも、これは不器用な彼女なりのやさしさなのかもしれない。

 不満一つを見せること無く、宙に放り捨てるようにぽつりと一言、



「――町の入り口までで頼む」




 ――しばらく歩くとすぐに町の小さな入り口が見えた。


 ゼントたちが通ってきた道はほとんど大洞窟への一本道だ。

 人通りは皆無で、故に門ともいえるほど大きな入り口は用意されていない。



「ここまでくれば安心安全だ。後は一人でやるからお前はもう帰って休め」


「体は本当に大丈夫?」


 今日はやけに体の心配をする。当然と言われればそうなのかもしれないが。

 竜にやられた日には、ここまで気遣う様子は見られなかった。

 単に親しくなっただけとでもいうのだろうか。



「お前こそ日頃の疲れが溜まってるんじゃないか?俺は肩を貸してもらったから大分楽になった。これなら一人で歩ける」


「……分かった。そうさせてもらう」


 ゼントは先程の泣いている姿を見て、これ以上は自分だけでいいと判断した。

 しかし……どう見てもゼントの方が重症に近い。

 自身でも、分かってはいたが服を含めて全身擦り傷だらけだったのだが。


 対してライラは妙とも思えるほど、素直に指示に従った。

 てっきり付いていく、と頑なな態度で要求してくるかと思っていたが。




 思わぬ悶着があったが、何とか無事に帰ってこられた。

 まさかここまで大きい怪我をするとは、思わなんだ。

 危険はほとんどないはずだ、と僅かばかりの油断があったのだろう。



 まずは協会に報告しに行かねばならない。赤い化け物がまた現れたと。

 あれは、もはや化け物ではない。人の心を誑かし、あざ笑う悪魔だ。


 明らかに意図して、人を馬鹿にするように動いている。今日のあれは特にそうだった。

 ゼントが怯えているのを分かった上で、恐怖を与えるようにじりじりと詰め寄ってきていた。


 とにかく普通の魔獣よりもたちが悪い。放っておくと大きな被害が出かねない。

 対応策が見つかっているわけでは無いが、何かしら手立てを打たないと安心できなかった。


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