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黒幻白夢 ~異形とヤンデレと~  作者: AL Keltom
孤独の果てに
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第九十一話『択一』

 



「――私と一緒で良かったでしょ。ゼントだったら家に居るだけのあの女と私、どっちを選ぶ?」


「……それはどういう意味だ?」


 相変わらず、彼女からは脈や体温というものが感じられない。

 ひんやりと無機質に冷たく、岩のように牢固としていた。


 引き続き、町へ向かう途中、いや物のように運ばれている最中。

 周りに誰もいない状況であっても、女性に体を持たれるのはやはり恥ずかしい。

 この際、もう過去の失態と現在のこの状況に目を向けることはやめにした。


 そんな葛藤に苛まれながら、そしてこれからの事をどうしようかと悩む。

 ゼントがしばらく黙っていると、静寂に耐えかねたライラから質問が飛んでくる。



「そのままの意味だよ。家に入り浸っているユーラって娘と私、どっちが仲間として優秀?どっちと一緒にいたい?」


「……比べるだけなら誰でもできる。誰しもがお前の望む答えを返してくれるだろう」


 察しは付いていたが、何だその質問は……

 ゼントは明け透けた憤りを覚える。

 ユーラとライラ、どちらが優秀かだと?


 なぜ今、分かり切っていることを、わざわざ再確認するかのように聞いてしまうのか。

 常識がずれているだけで、本質は悪い奴ではないと少しは見直してきたところなのに、

 早とちりだったのか。一方的に少しでも期待した自分が良くなかったのか。

 自らの評価を打ち崩す態度は、とてもとても横暴で傲慢に思えた。



「そうだよね。一緒に居たいのは私のほうだよね」


「でも、俺だったら確実にユーラを選ぶな」


 ライラが言ってくることは全て真実だ。

 だからこそ、よりたちが悪い。


 対抗するために、ゼントも事実を返した。

 それは、彼女の持つ不遜で絶対的な自信を打ち崩す。



「……なんで?ゼントも私の方がいいって思ってるんでしょ?だったら――」


 意趣返しのつもりだった。しかし、それよりは本当のことを吐露しただけだ。

 分かりやすく、彼女の声が冷たくなっていくのが目に見て取れる。

 更に追い打ちをかけるようにゼントはこう続けた。



「そんなに自身があるんなら、頂上で俺のことを守れたんじゃないのか?」


「それは本当にごめんなさい。自分で何でもできるようにって言われて、帰ってからやらなきゃいけない次の事を考えていたら反応が遅れた」



 なんだ、結局は自分が言った指示のせいだったのか、

 よく考えもせず、口から出まかせのように。これでは八つ当たりだ。


 醜い言い訳が返って来るかと思いきや、意外と誠実に返された。

 これ以上の攻め手を失ったゼントは、またしばらく押し黙ってしまう。




「――ねえゼント。もしあなたに助けを求めたら、ユーラって娘にしてあげたように、私にも手を貸してくれる?」


 再び訳の分からない質問が飛んでくる。

 今度は憤りこそないが、未だ心は掴めぬまま。

 だからか、堪えではなく率直な意見を吐き捨てるようにいった。



「そんなこと心配する必要ない。強いお前が、弱い俺に助けを求める機会なんて――」


「――いいから答えてよ」


 顔を見るとライラは正面を見据えたまま、どこか不安そうな表情をしていた。

 突然、体の下にある二本の腕に力が入る。彼女の手の先が震えている気がした。


 目を見開き驚く。こんなことは今まで無かったから。

 そこまで来て、ようやく質問を茶化しているのは自分だという事に気が付いた。

 小さくため息を吐き、静かな空気の中ゆっくりと答える。



「……助けるか助けないかで言えば間違いなく助ける。これで満足か?」


「うん」


 恐る恐るライラの機嫌を窺うが、次の瞬間には僅かながらだが微笑みが戻っている。

 結局、何がしたいのかよく分からない。言葉が欲しかったのかもしれない。


 再会した後の彼女は、気のせいではなく明らかに感情の起伏が激しくなっていた。

 微笑んでばかりいるし、以前はなかった怒りのような感情が見られる。

 単に精神が未発達というだけだろうか。




「そ、そういえば、お前に貰ったこの剣と皮鎧、軽くて使いやすいのはいいんだが、どこで買った物なんだ?高価なものだったりすると、気分的に使いづらいというか」


「気にしなくていい。ゼントにあげたものなんだから、好きに使っていいよ」


 はっきり言って空気は最悪だった。気持ちはこの場から逃げたいが、物理的に動ける状況でもない。

 何とか脱却を図ろうと話題を無理やり変えようとするが、ライラが完結させてしまう。

 回りくどい方法ではだめだと直感的に悟った。



「ああっ!もう歯に衣着せるのはやめて、単刀直入に言う。お前が何を考えているのかがよく分からん。笑顔ばっかで感情も読めないし、頭の中なら尚更だ!」


「私は…………」


 しばらく静かに待っていても、途中でつっかえたように答えは返ってこなかった。

 痺れを切らしたゼントは顔を上に向けて強く問いかける。


「おい、聞いているのか?俺は思考が知りたいだけだ」



 見上げると同時に、抱えられているゼントの腕に何かが落ちてきた。

 不思議に思って凝視すると、ただの透明な液体。

 一瞬、雨が降って来たのかと思ったが、空は雲一つなく晴れ渡っている。


 もう一度、理由もなく見上げてみる。

 ある一点が視界に移った時、大きく口を開く。



 ライラはゼントを見つめるでもなく、ただ正面を見て歩き続けたまま、

 瞳からは大粒の水滴を垂らしていた。


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