第3話 鬼との遭遇
リセマラ大好きAIさん誕生。
「落ち着け。実際に遭遇したら事だが、ルートを選んでいけば戦闘する必要はないはずだ」
しかし、この鬼畜AIが仮に鬼とやらに出会うようにルート案内する可能性もある...。
「この拳銃の弾数と有効射程距離は?」
一応、用心のために武器のスペックくらいは把握すべきだろう。
『弾数は17発、有効射程は約50メートルです。素人が撃った場合、20メートル以内に接近する必要があるでしょう』
「鬼を倒すのには、どれぐらい当てればいい?」
『個体にもよりますが、小型ならば、急所の頭部に5発、胴体なら15発という記録があります』
「意外と硬いな。ヒグマと同じと考えても20メートルも近づいたらヤバいな」
『身体能力は人間を越えていますから、近接戦闘はおすすめしません。鬼を発見した場合、即座に逃げましょう』
こちらとしても訳もわからない状態で戦闘はしたくない。
というより戦うために呼び出されたといっても戦うことを拒否したらどうなるのだろうか。
「とりあえず、大通りは避けて、路地を急いで駅に向かおう」
『かしこまりました。ナビゲートを開始します』
スマートフォンにジグザグに表示された道が出ている。
注文どおり、大通りは避けたルートだ。
出来るだけ走って路地を抜けていく。
5分以上走っても息切れはしないところから、身体能力が向上されているのは間違いなさそうだ。
この分ならあと5分もしないで駅に到着するだろう。
駅前に到着すると、人気はなく、空のタクシーやバスが停車していた。
ロータリーには1台の軽トラが大きなクラクションを鳴らしていた。
「何だ...ってあれが!」
軽トラの正面には、異形とも言える鬼が確かにいた。
その姿形は、妖怪の鬼にどことなく似ているが、やや猫背の小型の二足歩行のとかげやワニと言える。
両手、両足には異様に発達した爪があり、硬そうな鱗が全身をまとい、外見からは発達した筋肉が見受けられる。
「とても生身の人間が倒せるとは思えんな...。あの軽トラは人がいるのか?」
『私にはカメラがありませんので、正確にはわかりませんが、近くの防犯カメラから見たところそのようです』
こいつ、俺も監視しているのだろうか。
さて、軽トラには中年の男性が恐怖にかられて、クラクションを連打している。鬼は威嚇しながら軽トラを注視している。
今は自分の身の方が危うい。正直、助けたくないところだ。
「おっさんには悪いが、ここは見捨てよう。どうせ助けられない」
おっさんには気の毒だが、縁もゆかりもないこの世界の他人を助ける道理なし。
せっかく拾った命は有効に使わせてもらいたい。
『それがいいでしょう。現在の装備で、五十六様があの鬼を倒すのは困難です。直に警備ドローンが来ます』
「そうだな...あのおっさんが注意を引いている今のうちに...」
音を立てずに素早く異動し、手近なエスカレーターに乗り身をかがめる。
「誰か助けてくれぇー!!」
金属がひしゃげ、窓ガラスが砕ける音と男の悲鳴がロータリーに響いた。
多少、気の毒に思うがどうすることもできない。
『訂正。男性の救助に向かいましょう』
「はぁ!?さっきと言っていることが違うぞ!それにこの装備では無理だ!」
何を思ったかアイリスは助けに行こうなどと言いはじめ、小声で抗議する。
『軽トラのナンバーを照会したところ、あの男は中々使えます。ここで助けるべきでしょう』
「いや、俺は逃げるね。お前の指示には従わない」
誰が好き好んで危険を冒すものか。
『利己的な人ですね。言い忘れていましたが、このスマートウォッチには、ある特殊な機能がついていまして』
嫌な予感がする。
「聞きたくはないが言ってみろ...」
『私の指示に従わないと、装着者を感電死させます。いわゆるリセット機能ですね』
「なっ...何でそういうことを先に言わない!」
やはりこのAIは鬼畜だ。人を実験体として扱っているのだろう。
『聞かれませんでしたから。私の言うことが聞けない個体はリセットに限りますからね。過去にもそういう人がいましたが、ちゃんとリセット機能は働いていましたよ』
よもやここまでか。
戦死のほとんどはこのAIに殺されたのではなかろうか。