表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

エピローグ

「いや〜、もうすっかり誤解が解けちゃったみたいだね。つまんないなー」


 部屋に入ってくるなり、盛大なため息を吐いたマッカイをじとりと睨む。

 三人が余裕で座れるソファーの上で、ユナはトルドレイクの膝の上で拘束されている。


 誤解が解け、ユナの中でトルドレイクの認識が性格の悪い奴から人付き合いの下手くそコミュ症という扱いになった。

 前提条件を踏まえて彼を観察すれば、庇護欲が刺激され、兄しかいないユナにとって弟的存在に格上げされた事で「トルドレイク」と名前を呼び、接する態度は自然に軟化していった。


 それがきっかけで、著しくトルドレイクの性格が崩壊し、常にユナにくっついてくるという事態に陥ってしまった事で、後先考えずに起こした行動を少し後悔していたりする。


「初めからトルドレイクが何に怒ってるか知ってましたね?何で教えてくれなかったんですか」


 向かい側のソファーに座ったマッカイに抗議すると、彼はそれはそれは楽しそうに笑う。


「他人に興味ないトルドレイクが、初めて人間みたいにユナを意識してさ、独占欲丸出しなのに本人には伝わってないとか、そのままにしてた方が断然面白いでしょ?」

「その結果出来上がったのがこちらです」


 遠い目をしたユナの肩口に、額をぐりぐりと押しつけてくるトルドレイクを見て、マッカイがゲラゲラと笑う。

 本当に兄みたいに、いい性格をしている。

しかしもうマッカイを間違って兄と呼ぶ事は無い。

 初めて頭を撫でられた日に、あぁ、これは違う人の手だ。と認識してしまった。似ているとは思うが、もう間違わない。

 異世界に来て兄離れ出来たと思えば、来た意味があるかもしれない。ついでに甘ったれで面倒な弟分が早く姉離れ出来る事を願う。


「それよりユナ、元の世界に帰るのかい?」

「私は一度帰りたいと思ってるんですけど…」


 ユナが池に落ちた日、雨が降っていたのだ。本人は何もしていないし、お礼を言われても困ってしまうが一応役目は果たせた。トルドレイク曰く、ユナの力のお陰らしい。

 王城の庭の池の水がいっぱいになるくらい雨が降り続けたのだが、城や街が洪水に見舞われる事は無くて安心した。おっさん魚も元気に泳いでいる。


 そして一番衝撃的だったのは、砂漠のオアシス消失事件の犯人がトルドレイクだった事だ。

 トルドレイクの眷属である毛玉達が暴走して入水した結果、オアシスが干上がってしまったらしい。おっさん魚の件で毛玉の入水をトルドレイクに問いただした結果すぐに吐いた。


 更に、マッカイは犯人を最初から知っていた。原因不明とは何だったのだ。いやまぁ、毛玉ちゃんが見えないマッカイにはそうなのだろうが。

 責任を取って雨を降らせられる精霊を呼べとトルドレイクに訴えた。

 責任を取る気はさらさらなかったとは本人談だが、マッカイの発言で、自分の側にいてくれる人物を召喚すればいいのだという考えに行き着いた。

 これが、ユナの召喚に繋がった。単なる巻き込まれ事故である。


 思い出してムカムカしてきたユナは、腹に巻きつくトルドレイクの腕をぐいぐい引っ張ってみるが離れない。


「水の精霊の力も見れたし、砂漠のオアシス復旧案件は、別に急いでないから私は構わないよ」


 精霊じゃないという反論も面倒で今は否定するのを諦めている。

 雨が降った後、勇気を出して「元の世界に帰れる方法はあるの?」と聞いてみたところ、トルドレイクは「ある」と言った。

 しかし聞いたタイミングが、既にユナの中でトルドレイクが弟となってしまっていたが為に、全力で引き留められると無理にでも帰ろうとは思わない。

 いつでも帰れるのなら、もう少しだけこの異世界にいてもいいかなと考えてしまう。


「帰らないでくれユナ。側にいてくれ、寂しい」


 弟に教育的指導を行った際、「表情が分かりにくいから言葉で言って」と伝えた結果、素直なトルドレイクが出来上がって、ユナの羞恥心が死んだ。

 惜しげもなく降り注ぐ愛情表現に悪い気はしない。自分より背も高く体も大きいというのに、何だか可愛く見えてくるかれ不思議だ。


「おーよしよし、いい子でちゅねー」

「ユナ、それは何か違う気がするよ…」


 いつでも帰れるという余裕からか、もう少し、もう少しだけこの世界にいてもいいかなとユナは思う。


 それが、トルドレイクに対して少なからず好意から来る感情がある事には本人は未だ気づいていない。

 しょうがないな、と笑うユナの隣で彼は口元を緩ませた。



これにて本編は完結です。読んで頂きありがとうございました。

後に、あと一話だけ投稿予定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ