私の代わりに落ちて死んだ貴方へ
それは今でも覚えている。あれは雨が降り頻る夏の夜。私は貴方と共に軽井沢の別荘に居た。折角のバーベキューを中断し、部屋の中で続きをやったわね。焦げた野菜を貴方のお皿へと移しては、お互い笑い合って喜びを分かち合った。
夜が更けても私達はそばを離れなかった。お互いが触れ合うその時間は、とても長く、そしてとても短かった。私は私のまま、そして貴方もまた、貴方のまま。
貴方の体はとても強く、私は貴方が見せる強さに、とても惹かれていたわ。鉄のように硬く、水のように滑らかなその筋肉は、見る者全てを虜にする程……。だから私は、他の女が貴方を見て喜ぶ度に、少し顔を背けたわ。それでも、貴方は私だけを見てくれた。それがとても……嬉しかった。
二人で出掛けた山歩き。私は慣れぬ山道に苦戦した。けれども逞しい貴方は私の手を引いてくれた。私はただ、その手に導かれて先へと進んだの……でも、ある場所で私は足を滑らせた。貴方が咄嗟に庇ってくれたから、私は無傷で済んだけれども、貴方は私の身代わりとなって、崖の下へと落ちて…………死んでしまった。
嗚呼! 神様!
どうか! どうか!
あの人を蘇らせて下さいな!!
「お姉ちゃん、マリオ死ぬ度に訳の分からない小芝居打つの止めてよ。残機もしっかりあるじゃない。余裕で蘇るわよ、その男」
「……風情が無い妹ね」
「はいはい、どうせお姉ちゃんみたいに風情も色気も有りませんからね。だから私はさっさと結婚しましたよ」
「──クッ! 姉より速く結婚する妹なぞ存在せぬ!!」
「いるわよココに」
「うわーん!!!!」
コントローラーを投げ捨てベッドへ潜る姉を見て、誰かいい人居ないかなぁ……と心の底から姉を心配する妹なのであった。