第4話 冒険者ギルドと精霊使い
リーナ達に案内されて、冒険者ギルドの中を見て回る。
ギルドの中は広く、依頼受付用のカウンターや、魔物などの素材買取用のカウンターの他に、冒険者が座って食事をする、酒場兼食堂が併設されていて、とても賑わっていた。
受付カウンターの中には三人の女の人が座っていた。
カウンターに近づいて行くと、リーナ達の顔見知りなのか、ひとりの女の子が立ち上がり、手を振った。
「こんにちはリーナさん、キアラさん、エレナさん。依頼お疲れ様でした!バルテロさん達から報告は受けていますので、報酬はすぐにお渡し出来ますよ!」
笑顔で手を振って対応してくれたのは、リーナと同じくらいの歳の女の子で、耳の下で切りそろえた茶色の髪に、青い瞳の可愛い女の子だ。
「こんにちは、メル。依頼について聞きたい事があるから、ギルドマスターを呼んでもらえるかしら?」
「はい、呼んできますね!…ちなみに、そこのイケメンさんが昨日の報告にあった方でしょうか?」
バルテロ達が昨日、依頼の報告をしてくれたらしいけど、俺の事も言ってあったようだ。
メルが俺をジーと見ながら言った。
「えぇそうよ、彼はノエル。彼の事も詳しく聞きたいの」
「わかりました、少々お待ちくださいね」
そう言ってメルはカウンターの横にある階段を上って行った。
しばらく待っていると、メルと共にしっかりとした体格の五十代くらいの男が降りてきた。
彼がギルドマスターだろうか。
「おぅ!リーナ達!昨日は依頼ご苦労さんだったな。で、そいつが例の男か」
ギルドマスターは俺を頭の先からつま先まで観察すると、
「ここじゃ詳しく話せねぇから、俺の部屋に行くぞ」
と言って、俺たちを部屋に案内してくれた。
ギルドマスターについて行くと、二階の一番奥の部屋に案内された。
中には二、三人が座れそうなソファーがテーブルを挟んで対面で置いてあり、その奥に一人用のゆったりした椅子が置いてあった。
マスターがその一人用の椅子に座ったので、俺たちは二人ずつ別れてソファーに座った。
「まずは昨日の依頼の報酬を渡しておこうか、一人5万ルブ、合計15万ルブだ」
マスターがお金の入った袋をリーナ達の前に置くと、すかさずエレナが中を確かめ、にこやかに袋をしまった。
「それで、昨日の依頼で出会ったノエルの事を依頼者に聞きたいのだけど、会えるかしら?」
「あぁ、依頼を発注してからずっとこの街に留まっているし、何より依頼者からもこの兄ちゃんがギルドに来たら呼ぶように言われているから、宿に連絡すればすぐに来ると思うぜ」
マスターが依頼者宛の手紙を書き、テーブルの上に置いてあった呼び鈴を鳴らすと、先ほどカウンターで話したメルが部屋に入ってきて、マスターの書いた手紙を持って行った。
メルが宿に直接届けてくれるらしい。
「しかし、信じられんな、その綺麗な顔した兄ちゃんが、欠損を治しちまうような回復魔法を使えるようにしたとか、魔物の大部隊を吹き飛ばすほどの大魔法を使ったとか…」
俺を観察しながらマスターが呟いた。
何と答えていいか分からず、俺が困って頭を掻いていると、となりに座っているリーナが、優しく俺の手を握ってくれた。
「ノエルの事は依頼人が来たら詳しく聞くわ、とりあえずノエルの冒険者登録をしたいんだけど、出来るかしら?」
「あぁいいぜ、実力は昨日の奴らからしっかり聞いてるからよ、お前達と一緒にパーティーを組むっていうなら試験もいらねぇよ。ステータスを測る石版を持ってくるから、ちょっと待ってろ」
マスターは部屋の奥にある棚から、大きな板のような物を持って来た。
「マスターそれは…」
エレナが呟くと、ギルドマスターはニカッと笑って石版をテーブルの上に置いた
「あぁ、受付に置いてある、登録用の鑑定の石版よりも高性能な石版だ。俺も兄ちゃんのステータスをしっかり見ておきたいからな」
その石版は全体が黒く、表面はツルツルして何も無いが、周りは綺麗な金細工で飾られていて、いかにも高級そうな感じがした。
「兄ちゃんこれに魔力を流してみな、それでお前の現在のレベル、使える魔法やスキルが分かるはずだ」
俺は頷くと、石版に手をかざし、魔力を流してみた。
すると石版は光だし、ツルツルした表面に文字が浮かび上がって来た。
【名前】ノエル
【性別】男
【年齢】246才
【種族】精霊(王)/人間
【職業】精霊王
【レベル】計測不能
【体力】359
【魔力】計測不能
【魔法属性】全属性
【契約者】リディアナ・アーネスト・マーシャルディア
【状態】神の拘束具「魔封じの首輪」…身体と魔力の制限
「「「「は?」」」」
俺のステータスを見て、四人が固まってしまった。
俺も自分のステータスを見て固まる。
え…俺人間じゃなかったの?
年齢にも驚いてしまう…俺は子どもの頃にあの牢屋に閉じ込められたはずだ。
200年以上もあの牢屋に閉じ込められていたのだろうか…。
四人が固まったまま動かない。
しばらく待ってみたが固まったままなので、顔の前で手を振ってみたけど反応がない。
「リーナ!?」
心配になって肩を揺さぶってみると、リーナは気がついたようで俺を見た。
「あ…ごめんなさい…あまりの衝撃に放心しちゃってたわ…ノエルには何かあるとは思っていたんだけど、まさか精霊王だったなんて…」
「うん…俺、人間じゃなかったんだね」
「…精霊王は精霊だものね…でもこの表示には人間って書いてもあるわよ?」
「…この表記、気になりますね」
エレナは石板の俺の種族が表示してあるところを指差した。
「ノエルさん、もしかしてお母様かお父様が人間なのではありませんか?」
「うん、俺の母さんは人間だよ、多分…でも、父さんについてはちょっとよく覚えてないんだ…あんまり会った事がないんだと思う」
「そうですか…ではお父様が精霊王だったという事なのでしょうか…。しかし人間と子を成せる精霊など聞いたこともありません…精霊王は神にも匹敵する力を持つと聞いていますから、精霊王の力で人間であるお母様と子供を作ったという事なのでしょうが……私は以前ハーフエルフのステータスを見た事があるのですが、その時種族はハーフエルフと表示されていました。エルフ/人間なんて表示ではありませんでした。なので、この表示を見るとノエルさんは精霊であり、人間でもある、そんな存在なのではないでしょうか?」
「へ〜…」
「へーってノエル…自分の事なのに…」
リーナが呆れた顔で俺を見た。
「いやー、実感わかなくてさ、よく分かんなくなってきたし。それより俺の契約者の所って誰の名前?」
エレナがガクッと肩を落としながら教えてくれた。
「これはリーナ様の本名です。普段は愛称で呼んでいるのです…」
「あっ本当だわ!私の名前になってる…どういう事?契約なんてした覚えないわよ…?」
「その質問には私がお答えいたしましょう!」
バァン!!
大きな音を立てながら、誰かがギルドマスターの部屋のドアを開けた。
「ヤナティーア殿!」
さっきまで魂が抜けたようになっていたギルドマスターが、入ってきた人に驚いて声をあげた。
「誰…?」
突然人が入ってきたのに驚いて俺が呟くと、ヤナティーアと呼ばれた人物は、ニヤッと笑い、俺たちの座っているソファーに向かって歩いてきた。
紫の髪は腰の辺りまで長く、切れ長の青い瞳は楽しそうに弧を描いていた。
年はリーナやエレナより少し年上に見える。
露出の激しい格好をしているが、かなりの美女だ。
「そう、私がかの依頼を出した精霊使いサーシャル・ヤナティーアだ!精霊王陛下、君が来ていると聞いて、大急ぎで参上したのさ!そして、リーナ様、お久しぶりです」
そう言うとヤナティーアはリーナに向かって膝を着いて挨拶をした。
知り合いなのだろうか?それにしても、この挨拶はなんだか目上の人にする挨拶に見える。
「久しぶりね、シャル」
「リーナの知り合い?」
「…えっと…」
俺が聞くと、リーナは少し考え込んでしまい、俺の質問に答えたのはリーナではなかった。
「…精霊王陛下はリーナ様がこの国の王女様なのをご存知か?私は王城勤務の治癒魔導士。精霊使いでもあるが、本職は宮廷治癒魔導士だ」
「シャル!!」
「…王女?」
俺は呆然と呟いた。
リーナは俺を見ると、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
「ごめんなさいノエル…隠しておくつもりだった訳じゃないんだけど、言い出しにくくて…」
「別にリーナが誰でも関係ないよ、ちょっと驚いたけど俺はリーナが王女だからついてきた訳じゃ無いし、俺を助けてくれたのは冒険者のリーナでしょ?」
「ノエル…ありがとう」
俺がそう言うと、リーナは安心したように微笑んでくれた。
それでヤナティーアは部屋に入ってきた時、膝をついて挨拶したのか。
「…なら、エレナとキアラも城の人なのか?」
ふと疑問に思ったので聞いてみた。
そういえばエレナはリーナの事を様付きで呼んでいる。
「そうですよ、私は宮廷魔導士団、第一部隊所属、リーナ様専属の護衛です」
「私は、近衛騎士団、第一部隊所属…でも私はリーナの幼馴染だから、護衛だけど様とかつけてない」
エレナとキアラはリーナの護衛だったのか…!
俺は騎士とか王族とか見た事なくてよく知らないけど、二人はあんまり騎士っぽくなくて、全然分からなかった。
二人にそう言ったら、分からないようにしてるんだから、分かったら逆に困ると言って、笑っていた。
「それで?教えてくれるんでしょう?精霊との契約のこと…」
「はい、勿論。方法は簡単です。精霊と契約するには精霊に気に入られ、名前をつける許可を貰えばいいだけです」
「…だけって、それが普通は難しいと思うのですが、精霊の姿は普通の人間には見えませんし、声も聞こえません…」
エレナが呆れた声で呟いた。
「そっか…私、ノエルに名前をあげたわ…それが契約だったのね…知らなかったとはいえ、ごめんなさいノエル…勝手に私の使役精霊になってしまっているなんて…」
リーナが俺を申し訳なさそうに見つめるので、俺は慌てた。
「謝らないでリーナ!俺を助けてくれたのはリーナじゃないか!俺は契約者がリーナで嬉しいよ?」
「ノエル…」
俺がそう言うとリーナが微笑んでくれたので安心した。
リーナは俺を助けてくれた。感謝こそすれ、恨んだり、後悔なんて絶対にするわけが無い。
「…使役精霊の契約の解除などは出来ないのですか?」
「出来るとも!契約者が死ねば、精霊は解放される」
エレナの問いに、ヤナティーアはニヤリと笑って答えた。
「…そうですか…では契約解除は絶対にあり得ませんね…」
「エレナくん、君が何を心配しているのか分からないが、精霊と契約すると魔力も上がり、今まで使えなかったような魔法も使えるようになる。リーナ様も強くなる!しかもそれが、ただの精霊ではなく精霊王だよ!素晴らしいじゃないか!精霊王と契約したこのある人間なんて、歴史上初めてのことさ!」
エレナは何やら怖い顔をしているが、そんな事にも気付かず、ヤナティーアは目を輝かせている。
「………で、ヤナティーアは俺がなんであんなところにいたのか知っているのか?」
俺は一番疑問に思っている事を聞いてみた。
「精霊王が何故あんなところに封印されていたのかと、古城の持ち主の伯爵に聞いたのだが、あなたの存在自体を知らないと言い張っていてな…あの館から押収された過去の文献も調べてみたが、詳しく書かれたもが無かったのだ…いつ頃からあそこにいるのか、あなたはご存知か?」
「…俺は子どもの頃にあそこに捕らえられたと思うから…多分240年くらいあそこにいたと思う…さっきステータスの年齢を見て、それだけ長い時間あそこにいたのかって思ったから…」
俺はステータスが表示されている石板を見た。
そんなに長い間あそこにいた実感は無いが、母さんと一緒に生活をしていたのは子どもの時だったはず…。
「ノエル…」
俺が暗い顔をしたからだろうか、リーナが心配そうに顔を覗き込んできた。
大丈夫だと分かるように俺は笑顔を見せた。
「ふむ、それだけ昔のことになると、伯爵も本当に知らなかったのかもしれない…古い文献となると、王都の王立図書館にしか無いかもしれんな、私も王都に戻ったら調べてみよう」
ヤナティーアは顎に手を当てながら言った。
「あの…ヤナティーア様?ノエルさんがあそこにいるのが分かってて、依頼を出されたのでは無かったのですか?」
「いや、あの場所をたまたま通りかかった時に、私の使役精霊が何かいると騒ぎ出したのだ、あんまり騒ぐから気になって国王に進言したのだが…まさか精霊王が封印されているなんて思わなかったよ」
エレナが聞くと、ヤナティーアは首を横に振りながら答えた。
「そういえば、今は使役精霊は連れてないのか?姿は見えないけど、近くにいるのか気配がする…」
俺が周りをキョロキョロ見渡すと、ヤナティーアは驚いた顔で俺を見た。
「…やはり精霊王には気配も分かるのか…。私の使役精霊は私が呼ぶまで、このリングの中で眠っているのだよ」
ヤナティーアは俺たちに大きな赤い宝石のついた指輪を見せた。
ヤナティーアがその指輪に向かって何か呟くと、指輪が光り、中から光り輝く精霊が現れた。
「この子が私の使役精霊、光の精霊レムで名前はサラームと言う」
子どものくらいの背丈の光り輝く精霊は、男の子の姿をしていた。
にこりと俺に笑いかけると、俺のそばまでやってきた。
「やはり精霊王は精霊に好かれているな」
サーシャルはニコニコと笑って見ている。
「私には姿も見えないわ…エレナとキアラは見える?」
「私にも全く…」
「うん、全然見えない…」
三人とも残念そうだ。
そして、この精霊も何か話しかけてくるが、俺には声が聞こえなかった。
聞こえないと分かると、悲しそうに俺の首輪を触った。
「そういえば、風の精霊も気にしてたんだけど、俺に精霊の声が聞こえないのって、この首輪のせい?」
「そのようだな、その子は『精霊王様会えて嬉しい』『その首輪が無かったらいいのに』って言っているよ」
「そうか…俺も会えて嬉しいよ」
俺が精霊に笑いかけ、頭を撫でると光の精霊は嬉しそうに飛び回った。
「ねぇ、シャルはこの首輪の外し方とか分からない?」
「…申し訳ありませんリーナ様、私は魔道具は専門外です。専門は治癒の魔法ですから…」
「そっか…石版に表示されてる神の拘束具ってのも気になるけど、それを取るためにも、ノエルのことを調べるためにも、やっぱり一度王都に行かないといけないわね…」
「その方がよろしいかと思いますよ、あと陛下がとても心配していらっしゃいましたので、是非お顔を見せて差し上げてください」
ヤナティーアはにっこり笑って言っているが、リーナは嫌そうに、「気が向いたらね…」と、答えていた。
「そうだ、リーナ様王都に向かわれるのでしたら、一つお願いをしてもよろしいですか?」
ヤナティーアはにこやかな顔を崩さぬまま言った。
「…聞けそうな内容ならいいわ」
「では一つ、王都に向かう途中にある、鉱山の街ロウブルグにて、依頼を受けて頂きたいのです」
「依頼?」
リーナは怪訝そうに聞いた。
ヤナティーアは一つ頷くと、そのまま話し始めた。
「はい、最近世界各地で精霊の暴走ではないかと思われる事件が多発しているのです。突然湖があふれたり、砂漠に雪が降ったり、大地が割れたり…ロウブルグでも落盤が相次ぎ、鉱夫達が困っていると聞きました、私の使役精霊が精霊の仕業だと言っているのですが、わたしには契約している精霊の声しか聞こえません。姿はぼんやりと見えるのですが、契約した子のようには、はっきりと見ることはできないのです。サラームに通訳をさせてみたのですが、わたしの言うことには耳を傾けては貰えませんでした…なのでこの事象は私には解決が難しいのです」
ヤナティーアはため息をつきながら、肩をすくめて言った。
「そうなのね…私達で助けられるのなら、助けたいと思うんだけど…どうするノエル?」
リーナは少し困った顔をしながら俺に聞いてきた。
「俺は…リーナが行くなら、どこでもついて行くよ」
「ノエル……ありがとう」
俺が笑顔を見せると、リーナは安心したように微笑んだ。
リーナがエレナとキアラを見ると、二人とも無言で頷いた。
俺も首輪のせいで精霊の声が聞こえないから、精霊の所に行っても、本当に解決できるか疑問ではあるけど…。
「受けて頂けるようで何よりです。正直私もついていきたいのですが、私は治癒魔導師ですから戦闘には向きませんし…治癒魔法は精霊王がいれば十分でしょうしね。それよりも先に王都に向かって精霊王の文献を調べておきます」
ヤナティーアはそう言うと、俺にひっついていた光の精霊に向かって呪文を唱え、指輪に戻した。
精霊は名残惜しそうに指輪の中に帰って行った。
その後、放心したままのギルドマスターに俺の冒険者証を発行してもらった。
ギルドマスターが俺にくれたのは、首から下げる紐のついた、銅でできた小さなプレートだった。
そこには俺の名前と、現在のランクと職業、ギルドの会員番号らしき数字が並んでいた。
この数字は冒険者に何かあった時、このプレートをギルドに持っていけば、誰の物かすぐに分かるようにする為のものらしく、冒険者の身元の照会にも使われるらしい。
職業の所には魔導士と書かれている。
精霊王なんて書くわけにはいかないし、当たり前か。
あと、冒険者にはランクがあって、このプレートの材質でランクが表されているらしい。
俺のものは最低ランクの銅。その次が青銅、鉄、銀、金、白金、神銀、神金と続くらしく、リーナ達は金級の冒険者だと教えてくれた。
地方の街には最高でも金級冒険者しかいないようで、リーナ達もこの街では最高ランクだ。
ランクは上に行けば行くほど、当然なれる冒険者も少なく、最高ランクのオリハルコン級は世界でも数人しかいないのだとか。
銅級は駆け出し冒険者のランクで、その間は依頼を受けずにいると、一年ほどで冒険者資格を剥奪されてしまうと言われた。
要は見習いの期間の為、そのような措置が取られているらしい。
リーナ達と一緒に旅をするなら、俺もまずは金級を目指したいと思った。