第2話 魔物と魔法
「誰か!助けてくれ!」
怪我人を治療しているリーナとエレナを眺めていたら、森の方から男の叫び声が聞こえて来た。
キアラと一緒に声のした方へ駆け付けると、そこには、出血が酷く青い顔でぐったりとした男が、仲間と思われる鎧を着た男に支えられていた。
怪我をした男は意識があるのかも分からない。
助けを呼んだのも、手を貸している男の方だろう。
「古城襲撃の森の魔物殲滅部隊になった者だ!森の魔物を狩っていたら、オーガが出たんだ!何とか逃げて来たんだが、仲間が重症で…頼む!助けてくれ!!」
キアラが重症の男を受け取り、担ぎ上げてリーナ達が治療している場所へ素早く運んでいった。
怪我人を運んできた鎧の男はキアラに仲間を預けると、安心したのか倒れ込んでしまった。
運んできた男の方は怪我も軽いようだが、呼吸が荒く、汗がひどいので俺が肩を貸し、リーナ達の所へ連れて行く。
俺の姿に驚いているようだったが、自分一人では歩けないと思ったのか素直に手を取ってくれた。
リーナとエレナが二人がかりで重症の男に回復魔法をかけているが、腹部からの出血は止まる気配も無く、よく見ると右手は肘から先が無くなっていた。そこからの出血も酷い。
呼吸も浅く、生きているのが不思議なくらいの状態だ。
「…こ、こんな酷い傷、私達では無理です…」
エレナが悔しそうに歯を食いしばりながら言った。
リーナとエレナの二人でヒールをかけているが出血が止まらない。
リーナの顔が悲しそうに歪む。
召喚されたシルフが悲しそうに俺を見た。
シルフは俺に話しかけているのか、口を懸命に動かしているが、残念ながら俺にはその声が聞こえない。
俺が首を傾げていると、聞こえていない事が分かったのか、次は身振り手振りで必死に伝えてくれた。
俺を指差し、リーナを指差し、両手を合わせ祈るように男を見る。
なんとなく言いたいことは分かったが……。
「………リーナ、もう一度ヒールをかけてみて」
俺はリーナのそばにしゃがみながら言った。
「ノエル……でも私の魔法じゃ……」
リーナは大きな瞳に涙をためて、今にも泣き出しそうに言った。
「大丈夫、俺が力を貸すから。シルフを……リーナが呼べるよりも上位のシルフを沢山呼べば、もっと強い魔法が使えるんじゃない?」
こういう事?とシルフを見ると、俺に伝わったのが嬉しかったのかニコニコしながら頷いている。
「無理よ……たとえ上位の精霊を呼べたとしても、精霊は術者の魔力に見合った分しか力を貸してはくれないの!使える魔法は変わらないのよ……」
リーナは瞳に溜めた涙をポロポロと零しながら、泣き叫ぶ様に言った。
周りの人達も何を言ってるんだと言いたげに、目を見張って俺を見ている。
「そんな事にはならないよ、俺が力を貸すから。さっき俺の傷を治してくれた時みたいに、俺の魔力を貸してあげる、だからもう一度、今度はもっと強い回復魔法を使ってみて?……呪文は分かる?」
俺はリーナを落ち着かせようと穏やかに答えた。
「……えぇ、分かるわ……でもそんな事、本当にできるの?」
リーナは信じられないと言うかのように、目をパチパチさせた。
「うん、大丈夫……リーナが俺を信じてくれるなら、絶対大丈夫だよ」
俺が手を差し出すと、リーナは俺の手をしっかり握って頷いた。
「……そうね、やってみるわ……どちらにしても、このままじゃこの人は死んでしまう……だったらノエルを信じてみる」
リーナは涙を拭い、真剣な眼差しで俺を見た。
リーナが信じてくれて俺は嬉しくなった。
「じゃあリーナ、風の精霊をいつもより沢山呼んでみて?」
「分かったわ」
リーナは頷くと、集中し魔力を高めていった。
『礎は疾風を 望むは抱擁を 天を駆け 命脈を運びし 優しき風の精霊よ 数多あまねくその力で 傷ついた者に癒しの風を届け給え… 中回復 』
(精霊…力を貸してくれ…)
俺もリーナと共にシルフに語りかけた。
リーナが呪文を唱えると暖かい風が辺りを包み、5人のシルフが現れた。
先程までリーナのそばに居た、手のひらサイズの小さなシルフが二人と、そのシルフよりも大きな、子供サイズのシルフが二人、大人くらいの大きさで美しい女性の姿をしたシルフが一人いた。
五人のシルフは俺たちの周りを囲み、力を貸してくれている様だ。
「くっ…」
力を使っているリーナは苦しそうに顔を歪ませていて、額には汗が滲んでいる。
俺からも大量の魔力がリーナに流れ込んでいるのが分かるが、俺は体に変化も感じないし、苦しさもない。
その分リーナに負担がかかっているようで心配になるが……。
けれど重症の男の体が輝き出し、傷が見る間に塞がっていく。
右腕も無かったところが再生して、元通りになった。
しばらくして光が消えると同時に、男が目を覚ました。
「うぅ……ここは?傷が……治ってる!俺の腕が!!」
男は目をさまし、起き上がって自分の体を確かめると、涙を流しながら喜んだ。
周りからは歓声が上がり、リーナは呆然とその光景を眺めていた。
怪我をした男の仲間達も抱き合って喜んでいて、中には泣き出した人もいる。
助かって本当に良かった、そう思っていると、俺の前に美しい女性の姿をしたシルフがやってきた。
悲しそうに俺に笑いかけ、俺の首の枷に触る。
そして自分の口元を指差し、首を振った。
なんとなくだけど、この枷が有ると俺は精霊と話すことが出来ない……という事だろうか?
シルフはそのまま、悲しそうな笑顔で消えていった。
「ノエル!ありがとう!あなたって凄いのね!」
リーナが笑顔で俺に飛びついてきた。
リーナはかなりの魔力を消費した様で、顔色が悪く、呼吸も荒い。
けれど嬉しくて興奮しているのか、体調を気にする様子は無い。
「リーナが頑張ったからだよ」
俺は飛びついて来たリーナを抱きしめながら言った。
「……私だけじゃ無理よ……ノエルが居たから助けられたのよ、ノエル本当にありがとう!」
「凄いなんてものじゃありません……こんな傷、王都の宮廷治癒士にだって治せるかどうか……だって使ったの中級魔法のハイヒールですよ……?」
エレナが額に手を当てながら、呆然と呟いた。
「全くだぜ、あんな傷が治るなんて……何が起きたんだ……」
バルテロも呆然とした顔で呟いている。
まぁ驚くよね、無くなった腕が生えてくるなんて……俺も驚いたし!
ワオォォォーン
突然オオカミの遠吠えの様なものが聞こえてきた。
「魔物……」
リーナが呟き、腰の剣に手を掛けている。
「ちっ、森の魔物たちが血の匂いに引き寄せられたか……全員戦闘準備だ!怪我人は後方へ下がれ!魔導士達も後方で詠唱の準備に入れ!他にも魔物殲滅部隊の奴らが森に残っているようなら招集をかけろ!」
バルテロが指示を出すと、周りは慌ただしく準備を始めた。
「ノエルは後方にいた方がいいわ、武器を持っていないから、ここにいるのは危険よ」
周りを見ると、武器を携えた人は二十人くらいいた。
確かに俺は武器を持っていないし、戦闘に関しては足手まといかもしれない。
「リーナも下がった方がいい……魔力の使い過ぎで顔色が悪い」
キアラがリーナの上着の裾を掴みながら言った。
あんな魔法を使った後だ、体も辛いのではないだろうか。
「大丈夫よ、魔法は使えそうにないけど、私は剣でも戦えるもの」
リーナは気丈にもにっこりと笑って言ったが、顔色は悪いままだ。
「エレナ、ノエルをお願いね、私はキアラと一緒に前へ出るわ」
「そんな状態のリーナ様を前線へ出すわけには行きません!私とキアラが出ますから、リーナ様がノエルさんと後方へお下がりください」
「私は大丈夫よ。魔力回復薬もまだ一本残っているもの。いざとなったらこれを使うわ」
リーナは笑って、腰のベルトに付いているポーチをポンと叩いた。
「……でも俺はリーナと一緒にいたい。さっきは置いていかれちゃったけど、リーナは俺とずっと一緒に居てくれるって言ったじゃないか。俺、武器は使えないけど、魔法は使えるから」
体調の悪いリーナを残して、俺だけ後方へ下がるなんて出来ない。
俺はリーナに伝わる様に真剣に言った。
「ノ、ノエル!?今はそんな事を言っている場合じゃないのよ!?」
リーナは何故か慌てた様子で顔を真っ赤にさせている。
「……リーナはノエルにプロポーズしたの?」
キアラは驚いた顔で目を瞬かせている。
「キアラ!?ち、違うわよ!?変な事言わないで!」
リーナはますます赤くなっているが、その間にもどんどん魔物の気配が強くなっている気がする。
「リーナ来たよ!!」
魔物の気配が強くなり、俺が警告をすると、その場にいた全員が剣を抜いた。
「あんなに大量の魔物がこの森にいたのか……」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
森の中から五十体以上の魔物の群れが現れた。
俺には魔物の種類は分からないけど、かなり大群な気がする。大型の魔物も結構多い。
「フォレストウルフにゴブリン……トロールやオーガなどの上位種も少しいるわね……ちょっと厳しいかしら……」
リーナが剣を構え、前方を見据えたまま呟いた。
見るからに、こちらよりも魔物の方が頭数が多い。
「ちょっと数が多い、怪我人が多くて戦える人数が少ないのに……」
キアラも少し不安そうにしている。
「ねえ、俺が魔法を使おうか?少しは魔物の数を減らせるかもしれないし」
「……そうね、ノエルの魔法見てみたいし、お願いできる?」
「うん!任せて!」
魔法を使うのは久しぶりだから、ちょっと加減が心配だ。
リーナ達を巻き込んだら困るので、俺はみんなのいる所から少し前に歩き出した。
逆にみんなは少し後ろに下がっている。
(精霊…力を貸して)
俺は歩きながら精霊に呼びかけた。
すると子供の頃に様に、すぐに精霊が俺のそばに来てくれた。
淡く赤い光に包まれた、逞しい男の姿をした精霊が現れた。
リーナの言うところの炎の精霊サラマンダーだ。
精霊は俺に嬉しそうに笑いかけてきた。
「炎よ…」
俺が呟くと、手のひらに拳大の炎が現れた。
どうせなら魔物を全部焼き払えたらいいのにな……そうしたらリーナが傷つかずに済む。
そんな事を考えながら、魔物の方に炎を思いっきり投げた。
すると炎が着弾した所から、とてつもない大爆発が起こった。
「うわっ!」
俺は自分の放った魔法の威力に吹き飛ばされた。
ものすごい熱風で、俺も肌を焼かれている気がする。少し体がピリピリする。
爆風を避けるため、伏せたままの状態で森の方を見るが、燃え盛る炎と煙でよく見えない。
俺の魔法は魔物どころか、森まで吹き飛ばしてしまったようだ。
炎が収まるまでしばらく時間が掛かった。
体を起こし、周りを観察する。
辺り一面焼け野原にしてしまったようだ…。
「やりすぎた…?」
俺がそっと後ろの方を振り返ると、リーナ達前線のメンバーは、俺と同じ様にみんな吹き飛んで、かなり後方の地面に倒れていた。
「リーナ!!」
俺は急いで駆け寄る。服は砂埃で汚れてしまっているが、特に怪我は無いようだ。
他の人たちも大丈夫かと見回してみると、口が開いたままになっている人が居たりと、ちょっと間抜けな感じになっているが、みんな怪我は無いようだ。
ホッとため息を吐いているとリーナが、
「ノエル……今、詠唱した?詠唱が聞こえてこなかったし、あんな短時間であんな高威力の魔法の詠唱が済むはずないわよ……ね……?」
と、呆然とした様子でこちらを見ながら言った。
「あぁ、俺は昔から精霊に呼びかけるだけで魔法が使えるんだ。威力は予想以上になっちゃっててビックリしたけど……」
「……………本当にあなたは何者なの……」
と、リーナに呆れ気味に聞かれたが、俺には分からない。
「さぁ……ただの人間のつもりなんだけど」
俺が笑ってそう答えると、リーナは額に手を当てて、ため息を吐いた。
「まぁいいわ……これはちょっと依頼主に詳しく聞いてみないといけないわね……」
爆風に倒されたまま、座り込んでいるリーナに手を貸し立たせると、リーナは俺が焼き払ってしまった森を見た。
「……とりあえず、魔物も森も跡形が無い焼け野原になっちゃったけど、魔石が落ちているかもしれないから探しましょうか」
「魔石が?」
「ええ、そうよ。魔石はね魔力が石のように固まった物で、魔物の核になっている物の事なのよ、人で言う心臓ってところかしら……魔物は大抵持っているわ。魔道具とかの魔石製品には必需品だから、ギルドに持って行くと結構いい値段で買い取ってくれるのよ」
俺たちが森だったところに向かって歩き出すと、他の冒険者達も手伝ってくれると言って着いて来てくれた。
周りを見ると魔石らしき物が結構落ちていて、親指の爪くらいの小さな物から、人の手のひらくらいの大きさの物まで、様々な形の物が落ちていた。
色はみんな同じで、水色のような青色のような綺麗な色をしていて、あんな凶悪な魔物の中にこんな綺麗な物が入っているのが不思議で、俺は魔石を眺めていた。
俺が拾った魔石を眺めていると、他の冒険者達が魔石を拾っては俺の所に集めてくれた。若干顔色の悪い人もいる。具合が悪いなら休んでいればいいのに……。
魔石や魔物の落とした物は基本的には倒した人の物になるらしい。
俺はお金なんて持ってないから、これがお金になるならありがたい。
遠慮なく貰っておいた。
「これで全部拾えたかしら」
リーナが辺りを見回しながら言った。
冒険者達が一緒に拾ってくれたので、沢山の魔石がリーナのくれた袋に入っている。
魔石を拾い終わった頃、バルテロがやってきた。
「古城の方も一段落したようだぜ、騎士団の奴らは徹底的に古城を調べる様だが、俺たちは先に街に帰っていいそうだ。他のパーティーの奴らにも伝えるから、帰る用意をしてくれ」
そう言うとバルテロは手を振りながら去って行った。
「とりあえず、伯爵の古城の件は、私たちと一緒に来ている騎士団に任せておいて、私たちはカレナの街に帰って休みましょうか。帰る頃には夕方になってしまうから、とりあえず今日は休んで明日にでも依頼主に詳しい話を聞くことにしましょう」
俺が焼き払ってしまった森とは反対の場所に、馬車が何台か停めてあった。来る時もそれに乗って来たらしい。
乗り込んでみると荷台は結構広くて、一台に冒険者達が十人程乗っている。
馬車はガタゴト揺れるし、堅い板の上に直接座っているので尻が痛い。慣れない乗り物で最初は不安だったが、リーナが隣にいるので安心できた。
道中リーナ達が今回の依頼のことを教えてくれた。
俺が捕らわれていたのは、この辺りの領主の隠れ家のように使われていた古城で、城の主の伯爵には以前から良くない噂があったらしい。
違法な商売をしているとか、闇組織と関わりがあるとか……でも決定的な証拠が中々見つからず、国は頭を痛めていたらしい。
そんな時、国お抱えの精霊使い(珍しい職業らしく、世界でも数人しかいないとエレナが目を輝かせて言っていた)の使役精霊が、伯爵の古城付近で騒ぎ出したらしい。そしてその精霊使いが、伯爵は屋敷に精霊に関する、何か重要なものを隠しているから捜索して欲しいと国王に訴え出たらしい。
国は世界の根源を司る精霊達を重要視しているので、精霊の言葉には逆らえないらしく、ついに伯爵の捜査に本腰を入れた。
そして証拠を集め、今回の襲撃を可能にしたらしい。
国の騎士団の大部隊を使うと、国外に内情を察知されてしまうため、騎士団の精鋭を少数派遣することになった。
そして近くの街の冒険者達にも依頼を出し、騎士団が伯爵の私兵と戦っている間に付近の警備と、精霊の調査を依頼されたようだ。
「へ〜……」
難しい話が多く、だんだん眠くなってきた俺は話半分に聞いていた。
ウトウトしだすと、リーナがクスッと笑い、
「ノエル、街に着いたら起こしてあげるから、寝てていいわよ」
と、言ってくれたので、遠慮なく寝ることにした。
ノエルが寝息をたて始めると、周りの冒険者達はホッとしたように大きく息を吐いた。
「はぁ〜怖かったぜ……」
「全くだ……あんな大魔法を使う、化け物のような男と同じ馬車に乗るなんて、正気じゃあいられねえよ」
「あぁ、いつ暴れ出すかとヒヤヒヤしちまうぜ、寝てくれて一安心だ」
見た目だけならば、ノエルには全く勝ち目の無いような屈強な男達が、眠るノエルを見て怯えた様な顔をしている。
「ノエルはそんな事しないわよ、あの魔法だって私達を助けてくれたのよ?彼は優しいひとよ」
リーナが男達に反論すると、男達は呆れた様な顔をした。
「あんたこそ何言ってんだ、そいつはあの城に捕らえられていて、今日初めて会ったんだろう?何を根拠にそんな自信満々に言えるんだ、あんた達も気をつけたほうがいいぜ?どんなに綺麗な姿をしていようと、あんな人間離れの大魔法が使えるんだ、そいつは魔族に違いないぜ」
男はそう言うと関わりたくないと言わんばかりに、リーナ達に背を向け、自分の仲間達と話し始めた。
「リーナ様……」
エレナが俯いたリーナの肩に手を置くと、リーナは不安そうな顔でエレナを見た。
「エレナも心配してる?」
「え?」
「ノエルが化け物かどうかって……」
リーナにそう聞かれたエレナは苦笑いしつつ、答えた。
「……さすがに化け物とまでは思っていませんが……正直に言いますと信用してもいいのか迷っています。 リーナ様はどうして会ったばかりの彼をそんなに信用できるのですか?」
エレナに問われ、リーナは少し困った様に笑った。
「そうね……どうしてかしら……」
「リーナ様……」
エレナがガクッと肩を落とす。
「ごめんなさい……私が他人を簡単に信用してはいけない立場なのは分かっているわ。でもノエルはね、今まで会った人の中で一番綺麗な目をしているの……」
「目……ですか?」
「そう、まるで子供の様な純粋で綺麗な瞳……だから信じてみたいの、彼の心を……」
リーナは微笑みながら、眠るノエルの髪を撫でた。
長年牢屋に入っていたと言う割に、少しの汚れもない白金の髪はサラサラと手触りがいい。
「でも、私達冒険者はそんな理想論だけで動くわけにはいかない事も分かってる、だから他の冒険者達の言動も仕方がないと思っているわ……だからねエレナとキアラで彼を見極めて欲しいの、私はもうノエルの綺麗な瞳に惑わされているかもしれないでしょう?」
最後にそう言いながらリーナは悪戯っぽく片目をつむり、再び眠るノエルの髪を撫でた。
その顔はとても穏やかで、心からノエルを信用している様に見えた。
エレナはそんなリーナを見つめたまま、他の冒険者に聞こえないくらい小さな声で「御意」と言って頭を下げた。