第1話 出会い
俺がいつものように部屋の隅でまどろんでいると、聞き慣れない音が聞こえた。
金属を擦るような音だ。
扉のない部屋なのに、まるで鍵を開けるかの様な音が聞こえてくる。
驚いた俺は、慌てて体を起こした。
「入れ!」
誰かが扉から入ってきた。
普段は何もない石の壁に突然扉があらわれ、その扉から人が入ってきた。
俺がその光景に驚いていると、続けてもう一人、人が引きずられるように入ってきた。
部屋は暗いので入ってきた人の姿がはっきりとは見えない。
「ちょっと!離してよ!」
入ってきた人影の小さな方が暴れながら喋った。
可愛らしい声がする……女の子だろうか?
ドサリと女の子が倒れ込んだ。女の子を連れてきた人……兵士だろうか?鎧を着た人に突き飛ばされたようだ。
「痛ったー……何するのよ!」
女の子が振り向いた頃には、入ってきた扉は消えていて、ただの石の壁になっていた。
「何これ……入口が消えた?」
ペタペタと壁を触りながら、不思議そうに首を傾げている。
女の子にこの部屋の事を教えてあげたくて、声を掛けようと思ったけれど、何て話しかけていいのか分からなかった。
俺は何年もここに閉じ込められていて、誰かと会うのが久しぶりだったのだ。
「私を閉じ込めようなんていい度胸だわ……」
女の子はふふっと小さく笑うと右手を前に掲げて小さく呪文を唱え出した。
『礎は熾烈を 兼ねるは浄火を 熱き腕で すべてを滅し 命を導く火の精霊よ 我に力を与え給え…ファイアーボール!』
…………
何も起こらなかった。
「あれ…?もう1回…」
女の子は不思議そうに首を傾げながら、また同じ呪文を唱えた。しかし何も起こらなかった。
俺は思い切って声を掛ける事にした。
「ここでは魔法が使えないよ」
「きゃっ!!?」
女の子は驚いて飛び上がった。
急に声を掛けたせいで女の子を驚かせてしまったようだ。
「……誰か居るの?」
女の子は暗い部屋の壁際で、じっと座り込んでいる俺の事には、やはり気づいていなかったようだ。
少し怯えながらも、ゆっくりと俺の方へ近づいて来た。
女の子が部屋の中心部辺りに来ると、天窓から差し込んでいる光に当たって、俺から女の子の姿が見えた。
(可愛い……)
女の子は10代半ばくらいだろうか。人を見るのが久しぶりすぎて判断に迷う。
腰の辺りまである艶やかな赤い髪を高い所で一つに束ね、ショートパンツにブーツ、袖の短いジャケットを着ている。腰には短めの剣を帯びていた。
大きなくりっとした緑の瞳の可愛い女の子だ。
降り注ぐ光の下で、まるで輝いている様に見え、俺は思わず見惚れてしまった。
「……誰なの?」
誰なのかと聞かれ、俺は咄嗟に答えることができなかった。
俺はいったい誰なのだろう……。
困った俺が黙っていると、俺の姿が見えたのか、少し手前で女の子は足を止めた。
「……人なの?あなた人間?」
壁際に座り込んだまま反応のない俺に、再び女の子は聞いてきた。
俺はこの質問にも困った。俺の外見のせいでこんな質問をしてきたのだろうけど、俺も正確には自分のことが分からない。
小さな頃から伸ばしたままの白金の髪は膝の辺りまであって、手入れもしてないので顔も半分くらい覆ってしまっている。
首と手足に枷はあるし、ずっと着ている白い服はボロボロだし……。
「……多分人間だよ……ゴメン、驚かせるつもりは無かったんだけど……」
「あ〜良かった、幻聴かと思ったわ」
俺が恐る恐る声を掛けると、女の子は安心したように息を吐いた後に、にこっと笑って言った。
「色々と聞きたい事があるんだけど、取り敢えず自己紹介をしておくわ。私の名前はリーナ。16歳。冒険者をしているわ」
「冒険者……?」
「えぇ。……もしかして冒険者が何か分からない?」
俺が頷くとリーナは驚いた顔をしながらも、冒険者のことを説明してくれた。
「簡単に言うとね、困っている人から依頼を受けて、報酬をもらうお仕事よ。魔物を倒したり、探し物をしたり、珍しい草花を森に採取しに行ったり……」
「へぇ……困っている人を助ける仕事……?」
「まぁ……そういう仕事ばっかりじゃ無いけど……役に立てると嬉しいわね」
「……今も仕事中?」
「えぇそうよ。ここへは依頼で来ているの。探さなきゃいけない物があるから、こんな所で捕まっている場合じゃないんだけど……もしかしてこの牢屋には封印の術式がかかっているのかしら?」
そう言って上を見上げるリーナの視線を追って、俺も天井を見上げる。
そこには、毎日眺めている天窓と、天井に描かれている大きな魔法陣があった。
「……うん、俺の魔力を封じる為の、封印の術式の魔法陣が天井に描かれてるんだ」
「あなたを封じる為の……?」
「たぶんね。その証拠にここでは魔法が使えないだろ?」
彼女は考え込むように手を顎に当てて、また天井を見上げた。
「自分で言うのもなんだけど、私そこそこ強い魔法剣士なのよ……でもこの部屋の封印は私なんかじゃ、とても壊せそうに無いわ……あなた一体何者なの?」
「……俺にもわからない、自分が何者かなんて…」
話していて、情けなくなってきた。
幼い頃に訳も分からずこの部屋に入れられているから、自分が何の為にここに捕らえられているのか理由すら知らないのだ。
「……あなた名前は?」
そんな簡単な質問にさえ俺は答えることができない。
幼い頃は母親から名前で呼ばれていたはずだ、けれど何年も名前を呼ばれてなかったせいか、俺は自分の名前を憶えていない。
「……わからないの?」
俯いた俺を、リーナが心配そうに覗き込んできた。
こくりと頷くと、リーナがため息を吐いた。
呆れられただろうかと顔を上げてみると、リーナは何かを悩んでいる様な顔で俺を見ていた。
「んー……そうね……暗くてよく見えないけど、白金の髪に空色の瞳なんて珍しくって、とっても綺麗だわ……年は私と同じくらいかしら…………ねぇ、あなたの名前ノエルってどう?冬を司る女神様の名前なんだけど、綺麗で厳格な女神様だから男女どちらの名前にもよく使われるのよ」
リーナがにっこりと笑いかけてきた。
俺は言われた意味が一瞬分からず、反応できずにいた。
「………俺の……名前?」
「そうよ、どうかな?その白金の髪がキラキラ光って雪みたいで綺麗だったから」
「……ノエル」
嬉しかった。
ぼんやりとしていた意識が、急に晴れるようにハッキリとした。
胸の辺りも温かくなり、俺は手を当てた。
「ありがとうリーナ、嬉しいよ」
「ふふ、気に入ってくれたようで良かったわ。それでねノエル、あなたはどうしてこの牢屋に閉じ込められているの?」
「分からない……子どもの頃に連れて来られたままで、理由を知らないんだ……」
「そうなの……」
リーナは悲しそうな顔で俺を見た。
なぜだろう、リーナの悲しそうな顔を見て、胸の辺りがギュッとした。
俺はリーナに手を伸ばそうとしたが、金属の擦れるような不快な音を立てて俺の腕は止まってしまった。
手足の枷が鎖で壁に繋がっている為、リーナのところまでは鎖の長さが足りず手が届かない。
「決めたわ!ノエル一緒にここを出ましょう!そして私と一緒に冒険しましょう!私が何処にでも連れて行ってあげるから!」
リーナはもう悲しそうな顔をしていなかった。満面の笑みでこちらを見ていた。
外に出られる……?
外に出られるのは一体何年ぶりの事なのか分からないが、リーナにそう言ってもらえたのがとても嬉しかった。
「うん!よろしくリーナ!」
俺がそう言うとリーナは嬉しそうに笑い、「とりあえず、ここを出る方法を考えなきゃね!」と拳を握り意気込んでいた。
「……ノエル聞きたい事があるんだけど、この古城に精霊に関するものってあるかしら?」
脱出方法を考える為か、リーナが牢屋の壁を探りながら俺に質問をしてきた。
「精霊?」
「そうよ、私『精霊に関するものを探す』って依頼を受けてここに来たの。私だけじゃなくて沢山の冒険者が依頼を受けて来ているわ。私は調査のために潜入したんだけど、この城には思ったより強固な魔法障壁が張ってあって、あっさり捕まってしまったの。このまま待っていても冒険者たちが突入してくるでしょうから、出られるとは思うんだけど……その前に精霊の事を調べないといけないの……ノエルは何か知らない?」
精霊……この世界にある全ての属性を司る存在で、水には水の精霊、風には風の精霊、という様に多種多様な精霊が存在している。
魔法を使う為には欠かせない者達で、魔法を使う時には使用者の魔力と引き換えに、与えられた魔力に見合った力を貸してくれる。
俺は精霊に関して多少の知識は有るけれど、この牢屋のある古城?のことはよく知らない。
「ごめん……俺にはわからない……」
「いいの!私こそごめんなさい!分からないって言っていたのに……でもそうね、私が捕まる前に調べた感じでも、精霊の研究施設とかが有るわけじゃないようだし……いったい何があるのかしら……」
「俺もこの場所では精霊の気配を感じた事が無いんだ、きっと魔力障壁で精霊も遮断されちゃっているんじゃないかな?」
「え!?ノエル精霊の気配がわかるの!?」
「え?うん、子どもの頃はいつも見えてたよ。今はこの部屋の封印と城の魔力障壁の所為で見ることが出来ないけど……見れると思う」
「す……姿まで見えるの?」
リーナが驚いた顔で俺を見るので、不思議に思い首を傾げた。
精霊の姿をリーナは見ることが出来ないのだろうか?さっきの言い方だと気配すら感じない様だ。
でも、さっき魔法を使おうとした時、リーナは炎の精霊を呼ぶ呪文を唱えていたのに……。
精霊の姿が見えなくても魔法が使えるのだろうか?
「……もしかして精霊に関する『もの』ってノエルの事?確かに『物』とは言われてないけど……」
ドォン!!
リーナがブツブツ呟きながら考え込んでいると突然爆発音が聞こえて来た。
建物が揺れ、天井から砂埃がパラパラと降って来た。
外が見えないので正確には分からないが、リーナの言っていた冒険者達だろうか?
「来たわ!とにかくここを出る準備をしましょう!」
そう言ってリーナは俺の枷や、枷に繋がっている鎖を調べ始めた。
「……手足に繋がっている鎖はただの鎖みたいだけど、この首の枷、魔道具だわ……この文字私じゃ読めないところがあって、全部は分からないけど、魔封じ……かしら……こんな魔道具見た事ないわ、この結界といい、この枷といい……ノエルはとんでもない魔力を持っていそうね……」
魔道具とは作るときに古代語を使った魔法陣を彫り込み、魔石と組み合わせることで魔力を持たせ、通常の道具よりも便利に使えるように作られた物で、一般市民の生活にも広く浸透している。
俺が知っている物だと、灯を一瞬で着ける事ができるランプなどが有る。
リーナが言うには俺の首の枷には、仄かに光る古代語が通常の魔導具よりも沢山彫られているらしい。
「さぁ……俺にもよく分からないけど、この枷あると力が入らないんだよね」
俺は首にはまっている枷を触りながら苦笑いで答えた。
外ではもう何度目かの爆発音がして、その度部屋の中が振動で揺れていた。
崩れたりしたら嫌だなと、天井を見上げていたら、突然天井が吹き飛んだ。
「リーナ!」
「きゃあ!!」
俺は咄嗟に近くにいたリーナを抱え込み、落ちてくる瓦礫から守った。
壁際にいた俺達には、幸い大きな瓦礫は直撃しなかったが、いくつかの小さな瓦礫が俺を直撃した。
「くっ……」
「ノエル大丈夫!?」
辺りが静かになった頃、俺はリーナを離した。
リーナが心配そうに俺の怪我を見てくれた。
「ありがとうノエル。おかげで助かったわ……でもあなたが怪我を……」
「このぐらい大丈夫だよ、たいした傷じゃない」
「ダメよ!出血が多いわ!早く治療しなきゃ!」
確かに頭の傷は出血が多いようで、触るとべっとりと血が付いた。
「天井壊れたし、魔法使えるかしら……『礎は疾風を 望むは抱擁を 天を駆け 命脈を運びし 優しき風の精霊よ 傷ついた者に癒しの風を届け給え……回復』」
リーナが俺の頭に手をかざしながら呪文を唱えると、俺の体が暖かい風に包まれ、痛みが引いていった。
そしてリーナの呪文と共に風の精霊が姿を見せた。
淡い緑の光に包まれた、手のひらサイズの小さな女の子の姿をした精霊だ。
精霊はニコリと俺に笑いかけた。
俺たちの周りをクルクルと飛び回り、傷が治る頃に消えていった。
「風の精霊……」
「えっ!?シルフがそこにいるの!?」
リーナが辺りを見回しているが、残念ながら精霊はもう消えた後だ。
リーナは本当に精霊の姿が見えない様だ。
「シルフって風の精霊の事だよね?」
「そうよ、有名なのは風のシルフ、炎のサラマンダー、水のウンディーネ、土のノーム、光のレム、闇のシャドウ辺りかな?」
「へー……リーナは物知りだね」
「魔法を使うには精霊の力を借りないと使えないから、名前はもちろん覚えているわ。それよりも傷はどう?」
リーナは俺の頭の傷があった辺りを覗き込んだ。
俺の髪をかき分け、リーナは訝しげに何度も傷を見ている。
「もう全然痛くないよ、リーナの回復魔法は凄いね」
「……私が使える回復魔法は初級の魔法だけなの……血を止めるくらいしか効果は無いわ、だからこんなに綺麗に治ったりしないの……どういうことなの?私の魔力が強くなっている様な……」
リーナは不思議そうに自分の手を眺めていたが、その時、穴の開いた天井から人が二人降って来た。
「リーナ様!探しましたよー!!」
「やっと見つけた……」
一人は金色の長い髪を背中の中程まで緩く編んだ女の子で、年齢はリーナよりも少し上に見える、手には長い魔導士用の杖を持っている。
もう一人は銀色の髪で、頭に犬のような耳がついた少女だ。
かなり小柄だが本人並みに大きな剣を背中に背負っている。
「エレナ!キアラ!」
リーナは嬉しそうに二人に手を振っている。
「お怪我は無いですか?心配しましたよ」
エレナと呼ばれた女の子がほっと息を吐きながら、リーナに話しかけた。
「……リーナ、伯爵は捕らえられた。無事なら早く脱出しないとここも崩れる」
キアラと呼ばれた獣人の少女が、崩れた天井を見上げながら言った。
「怪我はないわ、ありがとうエレナ、キアラ。でもこの部屋には扉が無いのよ……壁に穴を空けて出るしかないかしら……」
リーナが壊れた部屋を見回した。
天井が壊れて封印の魔法陣も壊れたようだが、相変わらず扉は現れていない。
天井に穴は開いているが、登るには少し高そうだ。
「……キアラに任せて」
キアラがそう言って背中の剣に手を掛ける。
俺の目では見ることが出来ないくらいの速さで剣を振り、壁を切りつけた。
轟音と共に、人が通れそうな大きな穴が開いた。
とても重そうな剣を軽々と扱うキアラに、俺は驚きを隠せない。
「さすがねキアラ、助かったわ!ノエルここから出られるわ!一緒に行きましょう!」
「……リーナ様、さっきから気にはなっていたのですが、そちらの男性はどなたですか?」
エレナが俺の方を見て言った。キアラも気になるようで無言で俺を見つめている。
「この人はノエル、この牢屋に捕えられていたの……たぶん今回の依頼の『精霊に関するもの』はノエルの事だと思うわ」
「えっ……本当ですか?」
「確証は無いけど、たぶんそうよ。彼は精霊の姿が見えるらしいわ」
「……!!精霊の姿が!?」
驚いた顔でエレナが俺を眺めてくるが、キアラがエレナの袖を引っ張りそれを遮る。
「とにかく脱出が先、急ごう」
全員が頷くと、キアラは俺の枷と壁に繋がっている鎖を、剣で断ち切ってくれた。
何年も繋がれていた鎖がこんなに簡単に切れるなんて……。
切れた鎖を眺めていると、リーナが俺の肩を軽く叩いた。
「ノエル行きましょう、ここは危ないわ」
俺が頷くとキアラを先頭に、俺、リーナ、エレナの順で牢屋を出た。
牢屋を出た先は庭で、外から見る城はかなり崩れていた。何年も居たはずの城は、やはり見覚えは無く、こんなところにいたのかと呆然と眺めるばかりだった。
広い空に、暖かい日差し、久しぶりの外の世界に俺は嬉しくなり辺りを見回すが、戦闘がかなり激しかったようで、兵士の格好をした人達が何人も倒れていた。
「リーナ!無事だったか!」
城を眺めていたら後ろから声を掛けられた。
振り向くと、剣と盾を持った20代後半くらいの男が駆け寄ってくる所だった。
「バルテロ!良かった、あなたも無事だったのね」
「あぁ、エレナとキアラが助けに行ったから大丈夫だとは思っていたが心配したぜ……。で、こいつは誰なんだ?……囚人か?」
バルテロと呼ばれた男が俺を見た。
枷が気になるようで、枷をジッと見られた。
「彼はノエル、この古城に捕らわれていたから助けたの」
「そうか……そいつは災難だったな」
「で、彼はバルテロ、古城を襲撃する冒険者達の隊長を務めているわ」
「よろしくなっ!」
「……よろしく」
バルテロはニカッと笑うと俺の頭をポンポンと軽く叩いた。
子供扱いをされている気がする……。
「そういえば、他のパーティーの奴らに結構怪我人が出ているんだ。エレナとリーナは回復魔法が使えるだろ?手伝ってくれないか」
「もちろんよ。キアラ、ノエルをお願いね」
「わかった」
キアラが頷くと、リーナとエレナがバルテロを先導に走り出した。
走り去るのを眺めていたが、リーナの姿が見えなくなると、俺はなんだか落ち着かなくなり、不安になって来た。
俺も付いて行こうかと、少し迷いながら歩き出すと、キアラも俺に付いて歩いてきた。
「ねぇ、ノエルは戦える?」
キアラは俺を覗き込むようにして言った。
小柄で、俺の胸の辺りまでしか身長が無いので、自然とそうなる。
こうして見ていると、その背中の大きな剣で戦うのが不思議なくらい可愛い女の子だ。
「んー……戦った事は無いから武器は使えないし、回復魔法も使えないけど、攻撃魔法は使えると思う」
子どもの頃、母さんと暮らしていた時、母さんは俺に魔法の使い方を教えてくれた。
魔法には初級、中級、上級、超級と、さらに上の神級魔法が存在する。
俺が練習したのは初級程度の魔法だったけれど、魔法は素質が無いと全く使えないものらしく、使える人がそう多く無いと聞いた。
その為、初級魔法でも充分戦力にはなるらしい。
俺の場合、習った当時子どもだったせいか、あまり制御は上手くなかったが……。
「……そう」
キアラは一言そう言うと、前を向いて歩き出した。
その後は特に話す事もなく二人で歩いて行く。
古城は森の中にあり、敷地の外は木が鬱蒼と茂っている。
しばらく歩くとリーナ達の姿が見えてきた。
古城の庭の敷地の端に、冒険者達が何人か寝かされている。
怪我人は多いようだが、みんな話したり、笑ったりしているので、命に関わるような重症の人はいないようだ。
リーナとエレナはそこで怪我人に回復魔法をかけていて、リーナの横には風の精霊が、エレナの横には水の精霊の姿が見える。
二人の使う回復魔法は属性が違うようだ。
「誰か!!助けてくれ!!」
突然森の方から大きな声が聞こえて来た。