46・揺らぐ正義、沈まない友情
「はあ……」
「ちょっと、一香!しっかりなさい」
「綾は強いな」
私達は明日の対イレナ戦の為に、他の陰陽師達と共にノアの箱舟へ派遣させられた。
だが、一香の溜息はそれではない――
「私達は国を守るために陰陽師になったの、仲良しごっこがしたくてなったわけじゃない」
そう、あの新菜が原因だった。
このイレナ戦に乗じて、きっと神人武装主義はこのノアの箱舟に乗り込むことだろう。そう、あらかじめ説明されていた。
それと共に、新菜がその一員である翠とどこかへ向かう写真が何枚か出されて、アカデミーの裏切り者として警戒するようと全員に明かされたのだった。
「ランクAでノアの箱舟に入る為のキーカードを持っている。そうなると新菜と戦うのは必然だろうな」
「ふん!あんなすっとこどっこい、知りませんわ」
正直言って、私も自信がなかった。
友人を前にして札を抜けるのか。戦えず逃げるのではないかと。
「新菜はこの為に、異界探索に行ってランクAになったんだ。きっと平気で札を抜き取るだろうな」
「バカなことを言わないで頂戴!」
「馬鹿な事じゃねえ!」
声を荒げる私達に、ほかのアカデミー生が「二人とも」と気の毒そうな目で落ち着かせた。
「陰陽師内で裏切りが起こるのは珍しい事じゃないわ、アカデミーでもしかり。
昔っからノアの箱舟を巡って、反陰陽師派の陰陽師が入学してきてた。一香さんも綾さんも、気持ちは分かるけれど、今は陰陽師として動きなさい」
陰陽師。その言葉に、一香の眉が少し跳ねる。
彼女の妹がレプリカチャイルドだからだろう、私達が囲む円柱状の水槽を見るたび、彼女は「私達は間違っていないんだよな」と呟いていた。
きっと葛藤をしているのだろう。彼女の中にも反陰陽師派と同じ気持ちがあってもおかしくない。
いや、自分の妹として接してきた子がどんな生い立ちなのか知っているのなきゃ、むしろなきゃ人ではない。
「正義の定義は時代によって変わる物。一香、明日もしかしたら正義が変わるかもしてない。だからこそ、生き残りなさい」
私は陰陽師の御三家の娘。
陰陽師が絶対に正しいとは思わないけど、陰陽師が敵視する者の気持ちを知りたいとも思わなかった。
陰陽師として育てられたから。
二人して、重い沈黙にため息を吐いた時だった。
《結界内に、車が一台侵入。中にはレプリカチャイルドである斉藤 和美も乗車しています。近くにいる部隊Eは迎え》
その無線は、一香をさらに戦えなくさせた。
「嘘……」
膝から崩れ落ちた彼女に、私は「一香、しっかりなさい。大丈夫、きっと殺されないから」と震える肩を掴んで落ち着かせた。
「なんで。なんでそんな事が分かるんだよ……」
私も身内に——一香みたいにレプリカチャイルドが。新菜みたいに家族が反転生派だったら。その気持ちが分かるのだろうか。
「選びなさい、終わるまで気絶して現実から目を背けるか。
友人をその手で葬る為に、苦しい現実を直視して戦うか」
差し伸べる手に、彼女は涙を流して戸惑ったが、決意が固まったのか。ゆっくりと握った。
が、その瞳に私は嫌な予感がするのだった。
《車を見失った。けど、陰の力を確認したから姿を消しただけかもしれない。
和逗地区に居る部隊DとGも探すように》
その時の無線に、一香の口角が上がった気がした。
彼女の心は反陰陽師派に傾いた。安心したように光を取り戻す瞳が多くを語り、私は止めることができず、ただただ。その時の為に覚悟を決めるのだった。




