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少女と少女は鏡面世界をさまよう  作者: 江戸前餡子
最終章•そして鏡面世界は崩れる

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45・車検切れの車で走り切れ、封域結界《バインド・ゾーン》

「修行どころじゃなくない?キミ、てか俺もか?」


 卵を無事に持って帰ってきたのは良いものの。

 フランカさんが来て、そしてニュークリアスが現れ、流れは最悪な方へ変わっていく。

 しかも、私だけならともかく、皆を巻き込む形で。

 虚無楼(こむろ)さんは、私の卵を奪おうとしたネズミ達の目を借りて状況を見てはいたらしい。


「虚無楼落ち着いて」


 立ったまま未だに状況が呑み込めない虚無楼さんに、ヨーグさんは袖を引っ張って座らせた。

 ヨーグさんは、表情が動かない人だから、落ち着いているのか分からなかった。


「とりあえず、ニュークリアスさんが安全だというところへ行くしかないでしょう。

 ここも対イレナ戦の火の海に巻き込まれますし、私とヨーグさんは逃げなきゃ、きっと捕まります」


 フランカさんと関わりがあると知られている今、彼女とイレナさんとニュークリアスさんの三人が共闘を組んだのを見たら、見逃さないはずだ。


「だが——

舞台は(ふる)走水(はしりみず)の地だろう?

神戸市に在るアカデミーから、

入江市(いりえし)の入江海浜公園へ至る道は、

今この刻、すでに封域結界(ミスト・バリア)が展開されている。

 ゆえに……

 この時間帯にその境界を越えるという行為は——

 自ら魔族の領域へ挑発の火を投げ込む、無謀なる“宣戦の儀”に等しい。」

「まだ夕方ですよ?」


 私の呑気な言葉に、二人はため息を吐いて、虚無楼さんは「これだから鈍感ちゃんは……」なんて呆れて、ヨーグさんに説明させた。


「陰陽師は、敵の現れる場所を知ったら、大抵一週間前から、平気でその場で身を潜めて居続ける。

 そういう組織なの」


 でも、そこを通らなきゃかなり遠回りになるだろう。

 言っていた場所は、旧走水の大砲跡。

 そこは、300年前に起こった百鬼夜行で生き残ったランクの高い魑魅(すだま)の住処になっていた。  

 手に負えなくなった陰陽師達は、臭いものには蓋をしろと言わんばかりに、結界を張って地図から消されたのだ。


「杉山市から遠回りして……」


 私の呟く言葉に、虚無楼さんは「何百ものレプリカチャイルドが、善悪の理すら捨て去り、ただ本能と暴走因子(バーサーカーコード)に従って荒れ狂うだろう。ゆえに……動くなら“今宵”が最適だ」なんて格好つけていた

 何かいい案があるのだろうか?

 私は「と、言いますと?」そう目を細める。


「本心では避けたい——

 だが、運命の歯車はすでに噛み合ってしまった。

 選択肢(ルート)は潰えた。

 残されたのは、この忌まわしき一手(ワンムーブ)のみ……。

 やるしかない。

 たとえそれが、己を深淵へと引きずり込む道だとしても——」


 ため息混じりに立ち上がり、後ろの机の引き出しからカギを取り出す。


「それは秘密の道に繋がる鍵とかですか?」

「どう視ようとも——紛れもなく車鍵(カー・レリック)だろう?」


 なんだ。

 鼻から息を吐く私だが、ヨーグさんは「死にたくない」そう呟いて、虚無楼さんを止める様に、服の裾をキュッと握った。


「死にたくない?運転が下手とかですか?」

黄金免許(ゴールドライセンス)だが?

 凡俗の違反歴が積み上がる中、

 ただ一人、法と規律の頂を踏み続けた者のみが手にする

 無垢なる勲章(ピュア・シグナル)!」

「ずっと運転してないからでしょ」


 必死に止めるヨーグさんを「……操縦(ドライブ)など、走りながら思い出すものだ」なんて虚無楼さんは傍に担ぐ。


「放してぇ」

「こらこらジタバタするな!」


 彼は物干し竿代わりの妖刀を取り私に手招きした。

 さっきまで夕陽が差していたはずだったのに、もうすっかり辺りは暗くなり、ポツリポツリとある街灯が光っていた。

 だが、ドアを開けて、「さっむ!車動くかなぁ……」なんて素で呟く虚無楼さんに不安を感じた。


「え?そんな長く運転してないんですか?」

「……手にしてから、一度たりとも操ってはいないな。」

「いつ貰ったんですか?」


 そのセリフに彼は目を見開いて口に手を当てた。


「10年前だ……やべ、車検切れてるかも」


 怖くなってきたんだが……


「……まあ、封域結界(バインド・ゾーン)が張られた領域に、

 律法の番犬(ポリス)が踏み入ることはあるまいな。」

「死ぬ、逃げたい」

「ハッハッハ!静寂ノ(サイレンス)終焉者(リベリオン)心配するな」


 電車はきっと、陰陽師協会によって境界内に入らないように調整されているだろう。

 最寄りの駅で降りて境界内に入る手もあるが、まあ境界の外に、アカデミー生を立たせているだろうな。

 いろいろ考えた末に、私はあきらめて後ろをついて行った。


「行くぞ。この街の運命を、今から俺のハンドルで軋ませる」

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