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少女と少女は鏡面世界をさまよう  作者: 江戸前餡子
第三章•少女の解放
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28・白と黒の指針

(あれ?アイツがいない)


 リコリスは、隣にいたはずの少女の気配が消えていることに気づいた。ふと視線を動かすと、新に招かれた部屋の片隅に目を奪われる。そこに描かれたものに、胸の奥で小さなざわめきが広がった。


 新菜もまた、壁に貼られた数枚の紙を見つめ、眉を寄せて呟いた。


「あの……どこで見たんですか?」


 その声は、驚きと好奇心が混じり合った震えを帯びていた。


 驚くべきことに、その紙には、オストラン帝国軍の城や国旗、城から見下ろすした風景が鉛筆で描かれていた。線は粗々しく、まるで勢いだけでザクザクと刻まれたような筆跡だったが、細部まで異様なほどにリアルだ。まるでその場に立って見つめてきたかのような描写に、リコリスと新菜は思わず息を呑んだ。二人の視線は紙に吸い寄せられ、時間が止まったかのように感じられた。


「ああ、それ?よく夢に出てくるんだ」

「夢?」

「そうだよ。毎晩、思い出して欲しいとでも言うようにね。向こうで聞こえる言葉は分からないんだけど――」


 その瞬間、新が言葉を切った。硬直した彼の目が大きく見開かれ、リコリスを指差す手が微かに震えていた。


「そうだ、ちょうどキミと同じ言語を話してた」


 描かれた数枚の絵は、どれも城内にいる者でなければ見られない風景だった。リコリスは中年男性・新に強い興味を抱きつつも、心のどこかで静かに警戒心が芽生えていた。


「どんな夢を見る?」


 新菜に通訳を頼み、リコリスが尋ねると、新は少し間を置いて答えた。「ストーリー性はないんだ。ただ、写真みたいにパッパッパって場面が切り替わるだけ。僕はそれを見てるだけ。でも、どうしてか……ある人物を見ると嫌な気持ちになったり、別の誰かを見ると会いたいって気持ちになるんだ」そう言って、彼は引き出しをガサリと開け、「まだ書き途中だけど」と呟きながらスケッチブックを取り出した。そこには、紛れもなくリコリスの横顔が描かれていた。鉛筆の柔らかな線が、彼女の鋭い瞳と繊細な輪郭を捉えていた。


「名前は思い出せないし、どんな関係だったかも分からない。でも、この子とは会わなきゃいけない気がするんだ。そう約束した気がして……」


 彼はふと我に返り、照れ隠しに「こんな歳にもなって恥ずかしいな」と笑った。だが、その笑顔にはどこか切なさが滲んでいた。


「迎えに来てくれるのを待ってるの?だそうです」

「まあね。風の導きか、前世の記憶ってやつか……いつか来てくれると思ってね」


 新はニコリと微笑み、リコリスの前に立ち、柔らかく彼女の頭を撫でた。その手は温かく、どこか懐かしい感触だった。彼はリコリスを椅子に座らせると、部屋に漂うココアの甘い香りが一層濃くなった。


 そこから本格的な診断が始まった。新菜がリコリスの代わりに彼女の過去や症状が出るタイミングを話し、新は時折頷きながらメモを取った。ココアの湯気が消え、ぬるくなった頃、ようやく質問が終わり、新が説明を始めた。


「リコリスちゃんは昔から指示を受けて動いてたから、今その指針がなくなって、どう動けばいいか分からなくなってるのかもね。優秀な陰陽師の家庭で育った子によく見られるもので、珍しいことじゃないよ。時間が経てば治るだろう――」


 だが、新はそこで言葉を止め、難しい顔をした。目の前で揺れる新菜の不安げな視線に、彼は言おうか迷っているようだった。


「あの、どうしたんですか?」


 新菜の声に、新はため息をつき、「落ち着いて聞いて欲しい」と慎重に話し始めた。


「新菜ちゃんは、蘭夢捻ラムネを知ってるかな?」

「ラムネって……今、陰陽師の中で問題になってるあれですか?」

「そう。そのラムネ、一粒食べると幸せな夢が見れる代わりに、効果が切れた時に陰陽術が使えなくなってるんだ」


 新菜の中で、ずっと抱えていた疑問が動き出した。それは、リコリスと小太郎がなぜ一緒にいたのかということだ。小太郎は子供に好かれる性格とはいえ、職業柄目立つ行動は避けるはず。それなのに、なぜ? その答えが、ラムネという単語で一気に繋がった。新菜の眉がピクリと跳ね、声の代わりに息が漏れた。


「何か知ってるのかい?心当たりとか」


 だが、新菜は口を閉ざした。小太郎がラムネを知らない人間――ましてや子供に渡して巻き込んだと知られたら、組でどうなるか分かっていたからだ。きっと小太郎は、リコリスがラムネを食べたことを知りつつ、古い付き合いの自分を信じて預けたのだろう。そう思うと、心のどこかで小さな喜びが灯った。


「分からないか……」

「あの、使用した人は治るんですか?」

「治るよ。患者によっては一週間後にまた陰陽師として復帰してる」


 新菜はホッとして笑顔を取り戻したが、新が「ただ」と続ける言葉に、再び不安が顔を曇らせた。


「ただ、そういう短期復帰した人たちは特別な施設に行ってるんだ。僕はただの精神科医だから、治し方は噂程度にしか聞いてないけど、どうも洗脳してるみたいでね。その施設の関係者が必ず言うのは、『ここに来るのは本当に最終手段にした方がいい』って言葉だよ」

「じゃあ、どうすれば?」


 新は「僕も方法が分かっていれば教えてるよ」と微笑んだが、その顔には影が落ちていた。


「でも、新菜ちゃんは風詠み師だったよね?」


 風詠み師――それは風の囁きを読み、未来を予言する者。ゼロやエルシリアのいた惑星ハールスでは、星詠み師がそれに近い存在だった。


 新菜は確かに風詠み師だ。だが、彼女は自信がなかった。風詠み師にはタイプがある。病を治す手段を予言する者、あらゆる成功を予言する者、安全な道を示す者。新菜は「成功を予言する」風詠み師だった。エルシリアに予言できたのも、そのためだ。だから――


「病気は占ったことがないんです」


 申し訳なさそうに俯く新菜に、新は優しく言った。


「風の語るままに動いてみな。きっと良い方向に向かうよ」そして、「とはいえ本当に治らなかったら、ここに行って僕の紹介状を渡しなさい」と茶封筒を差し出した。


 その施設は誰でも入れる場所ではなく、名高い陰陽師の家系か、施設の関係者の知り合い、高ランクの陰陽師にしか入れなかった。


 診断は終わり、新菜とリコリスは学校を出た。門の裏でうずくまる人影を見つけ、リコリスは「帰るぞ」と声をかけた。少女が立ち上がると、安心したような顔でトテトテと近づいてきた。



「ねえ、今の貴女は誰なの?」


 突然の問いに、少女は言葉が詰まった。自分が何者なのか分からず、後ろに立つリコリスを見ると、彼女は眠たそうに大あくびをして、自分の顔を指差していた。


「わっ、わたしは…わたしは…」


 泳ぐ視線が必死に名前を探し、新菜の静かな瞳と沈黙に、過去がフラッシュバックした。「りこ……りす」と弱々しい声が漏れた。


「確かに、その身体はリコリスね。でも、アイツはリコリスでも、リコリス・シーラなの。貴女はオストラン帝国の王女でしょ?」


新菜が両肩を強く掴み、目を見据えた瞬間、心臓が跳ねた。


「貴女は名前がなくても、オストランという苗字がある」


 何を言われているのか分からなかった。私がオストラン?王女? 「オストラン」という言葉が響くたび、記憶の断片が洪水のように流れ込み、額から脂汗が噴き出し、呼吸は乱れ、足元の感覚が無くなる。


 その時、耳の奥でルイズの声が蘇った。


――キミはどう生きる?ゼロ、単純な人形になるか、複雑な人間になるか――


 こんな苦しみを味わうぐらいなら、なぜ人間でいようとするのか。人形やゴーレムだった頃は、こんな痛みはなかったのに。


「わたしは……私は人間とは違う」


 でも、感情を持つ人が羨ましかった。楽しそうで、生き生きしていて。


「私は、ただの女の子なの!王女とか、オストランとか、分からないよ!分からない!」


 溢れる涙と共に本音が迸った。抑え込んで忘れていた思いが込み上げ、初めてこんな大声を出した気がした。


 普通になりたかった。普通に暮らし、友達と遊び、家族と過ごす。それに憧れていた。アシュリーと過ごした日々のように。


 新菜は私のポケットから透明な袋を取り出し、「普通になりたいなら、これを服用するのはやめなさい」と冷たく言い放ち、背を向けた。


「何それ……私、知らないよ!勝手に入ってたの!」

「そう、なら要らないわね。」


 その冷たい声に、オストラン城の人々がフラッシュバックし、金縛りのように足が動かなくなった。


「普通に暮らしたいなら、陰陽師の私とは関わらない方がいい。普通の人に拾ってもらいなさい」


 急いで追いかけなきゃ。でも――


「アイツの言う通りだぜ。普通に暮らしたいなら一緒にいない方がいい」


 リコリスが私の腕を掴み、追いかけるのを止めた。


「これでいいじゃねえか。晴れて自由になれたんだから。ニュークリアスも、エルシリアも、誰も関わってこない。明日も明後日も戦わなくていい。そういう生活を望んでたんだろ?」


 その言葉に、恐怖の糸がプツンと切れた。ボロボロと落ちていた涙が止まり、前に出ていた足が後ろに下がった。


「そうか、これでいいのか」

「そーそー!ほら、せっかく異世界に来たんだ。新しい人生を歩もうぜ」


 リコリスはあの夜のように私の手を握り、走り出した。冷たい風が頬を切り、遠ざかる新菜の背中が闇に溶けていくのを見ながら、私は何かを失ったような感覚に襲われた。



 月がゆっくりと空に昇り、星々が輝く海に浸かり始めた頃。


 エルシリアことフランカは、湿った土の香りを肺いっぱいに吸い込み、木々を抜ける風の音に耳を傾けながら、森のベンチに腰掛けていた。彼女の瞳には不安の色が宿り、揺れる星空だけが、今の彼女を落ち着かせる唯一の拠り所だった。


 イレナに「伝えたいことがある」と通話で呼ばれ、人気のないこの森に来ていたが、なかなか現れない彼女に、フランカの心は揺れ動いていた。(ニュークリアスを神界に送るため、邪魔な私を暗殺するつもりでここに呼び出したのでは?)という疑念と、(イレナは転生派の味方だ。神界で反転生派が監視しているのを考慮して、オブジェクトの多いこの森を選んだんだ)という願望がせめぎ合い、汗ばむ手を握り締め、早く来てと祈るように時を待った。


「ごめんなさい、待たせちゃったわね」


 イレナが堂々と正面から現れた瞬間、周囲を見渡す彼女の鋭い視線に、フランカの心臓が跳ねた。「来て」と短く告げられ、足早に歩き出すイレナの背中を追いながら、彼女は小さく呟いた。


「ねえ、イレナは味方なの?それとも――」

「そのことで話したいことがあるの」


 イレナが肩越しに微笑んだ。味方だと示すような優しい表情だったが、フランカにはそれさえも信じられず、話を聞くまでは警戒心を解かなかった。幾度もの裏切りを経験した彼女にとって、笑顔はもはや危険の兆しでしかなかった。


しばらく歩くと、ゴツゴツした岩壁に辿り着いた。イレナが何かを確かめるように手を這わせると、低い声で呟いた。


「青いヒールを履いた女性の好物は、鉱物」


 瞬間、岩壁の一部がスッと消え、通路が現れた。耳に届くかすかな風の音と、岩が擦れる微かな軋みが、フランカの緊張を一層高めた。


「合言葉なのよ。反転生派が入ってこられないように」

「なら、この中には他の転生派も?」


 イレナが頷き、先を急ぐ姿に、フランカは一抹の安堵を感じつつも、どこか冷たい予感が拭えなかった。


 通路を抜けた先の一室には、転生派のナターシャが円卓の向こうに座っていた。フランカも知る神だったため、ひとまず胸を撫で下ろし、用意された椅子に腰を下ろした。視線を上げると、壁に飾られた日本地図と惑星ハールスの大陸地図が目に入り、彼女は静かに話のタイミングを待った。


「でも、どうやって惑星チキュウに来れたの?転生する機械が生きてたとか?」

「治したのよ。監視室に転生ポットを移動させて、みんなで直したの。大変だったんだから」

「ですです!転生派の中に機械に詳しい方がいたので助かりました」


 ナターシャの「機械に詳しい方」という言葉に、フランカの眉がピクリと動いた。神界には元々機械など存在せず、惑星チキュウの技術を模倣し、人間上がりの神に作らせたのが始まりだった。だからこそ、現在でも人間上がりの神以外で機械に詳しい神など見たことがない。ならば――


「それって、反転生派が混ざってるってことじゃない?神界生まれの神も対応できるように機械をバージョンアップする話はあったけど、それも反乱が起こる前の話だし。ねえ、イレナなら何か知ってるんでしょ?」

「ニュークリアスの言った通りの人物ならね」

「違うの?」


 イレナは親指と人差し指を近づけて「少し」と呟き、二つの地図の前に立ち、ナターシャとフランカの顔を交互に見つめた後、口を開いた。


「改めて自己紹介させてもらうわ。私はイレナ・ザラ。ええ、惑星ハールスにある二つの宗教、イレナ教とザラ教に助言を与えていたのは私よ」


 フランカを見据え、「ここからが違うからよく聞いて」と優しく微笑んだ。その笑顔に、フランカの背筋に冷たいものが走った。


「私が二つの宗教を作り助言を与えていたのは、反転生派がニュークリアスを天界に運びやすくするためじゃなくて、私の助言で下界の人々を操り、運びにくくするため。そして、反転生派に仲間だと思わせて情報を集めるため。これを見て」


 円卓の中央に置かれた、ケーブルが刺さった四角い機械に、二人は首を傾げた。部屋の静寂を不気味に掻き立てた。


「これは反転生派がこの世界に来る前から用意していた機械で、ある場所に挿すと惑星ハールスと繋がるゲート……まあ、カッコよく言ったけど、実際はバグを起こすわけ」

「いろいろ聞きたいけど……どうしてハールスに戻るの?」

「オストラン城の最下階に、蒼い筋で包まれたオブジェクトがあるのは知ってるかしら?」

「もちろん。あれはオストラン帝国軍の騎士の自然治癒力を上げるための、マジカルコアじゃなかったの?」

「それは表の顔。命令型破壊プログラムKK-124・ニュークリアスの計画が正式に実行された時、当時惑星ハールスを開発していた反転生派が書き加えたの。奴らの計画はその時から練られていたってわけ」

「な、ならこの機械を壊せば――」

「これはスペアよ。量産されていくつもあるの。いい?今までも、そして今も、反転生派はニュークリアスを天界に送るために、ひそかに下界に降りてるの」


 ナターシャは二つの地図を見比べ、「もしかしてこの国を、ハールスを土台に作ったのは、計画のためにそうしたってことですか?」と、オストラン城の位置と今いる場所を指でなぞった。フランカもその動きに釣られ、地図を見つめ、固唾を飲んだ。


 ここまで計画されていたとは予想外だった。心のどこかで、勝ち目がないのではないかという絶望が芽生え始めていた。


 ナターシャは深く関わってはいなかったが、地球の設計に携わり、プロジェクトのメンバーも把握していた。だからこそ、彼女の鋭い推測にイレナの眉が微かに動いた。


「その通り。実は惑星ハールスは元々魔族だけだったのに、魔力を持たない人間族がいるでしょ?あれは、たまたまゲートを潜った日本人なのよ。運良く生き延びた彼らがどんどん増え続けたの。」


 プロジェクト時のナターシャの存在があまりに薄すぎて、イレナは完全に忘れていた。心の中で、(一緒に日本に降りる神を間違えた)と苦笑していた。


 一方、フランカはその説明を聞いた瞬間、脳裏にヤナガの姿が閃いた。彼が反転生派でありながら、何もできない人族を選んだ理由が今分かり、冷や汗が背中を伝った。


「ここまで考えていたなんて…」

「日本を創った時も、人間上がりの神がやたらプロジェクトに入れるように頼んできたけど、このためだったのね。そういえば、ニュークリアスが奪われて不正に使われないように半分に分解されていたから…」


 その瞬間、背筋が凍りついた。ナターシャの視線が自然とイレナに引き寄せられ、彼女の笑顔の裏に潜む殺気を感じ、息を呑んだ。


 深読みしすぎたのか?穏やかだった空気が一変し、ナターシャの心に(イレナは敵なのでは?)という疑念が芽生えた。静まり返る部屋で、フランカもその緊張を察していた。だから――


「そうね。この大陸にはラプラスという、ニュークリアスの姉妹プログラムが存在するわ。反転生派がニュークリアスを手にした今、こっちはラプラスを仲間に引き入れるのがいいかもしれない。」


 イレナの提案に、二人は違和感を覚えた。


「ナターシャは独り身OLの坂口由花として、どこかにいるニュークリアスの器と同居すること。フランカは陰陽師アカデミーの武田新に接触して、もし彼が何か気になることを言ったら何度も会うこと。私はこの機械の繋げられる場所を探してみるわ。まずは仲間を増やしましょう。特に器がこちら側についてくれれば、ニュークリアスとラプラスが交わることはないから一安心できる。」


 その完璧すぎる指示に、フランカとナターシャは眉をひそめた。悩まずにスラスラと指示を出せる姿は、まるで台本でも用意して二人を騙そうとしているかのようだった。彼女への信頼に、ノイズが走り始めた。


「武田新って誰なの?」

「ハールスの記憶を、しかもオストラン帝国の記憶だけを何故か持っている人。気になるから会ってほしいの。」


 「何故か持っている人」という曖昧な言い方に、フランカは目を細めた。今まで詳細に情報を教えてくれたイレナが、この時だけ適当だった。考えられる可能性は二つ。


 一つ、新に会わせて時間稼ぎをさせるつもりか。

 一つ、新が反転生派にとって都合の悪い人物か。だが後者には矛盾がある。都合が悪いなら、なぜわざわざ教えたのか。


もし、イレナが本当に新を知らないとしたら?その可能性もあるのだ。


《とりあえず会ってみたらどうですか?》


ナターシャの脳に直接響く声に、フランカは頷いた。


「分かったわ」

「ならそう動きましょう。ナターシャもフランカも、どこに反転生派がいるか分からないから注意してね」


 話は終わり、ナターシャとフランカはイレナと別れた。


「フランカさん、もし良かったら番号を交換しませんか?」

「番号?ああ、視界に映ってる電話のアイコンのこと?」

「そうです。もしものことがあったら……その……」


 ナターシャの脳裏にはイレナがいた。彼女が反転生派なら、転生派に勝ち目はない。


「いいよ。そっちの方が心強いもんね。」


 優しく微笑むフランカに、ナターシャの強張った表情が緩んだ。


「あっ!あれ見て」

「青い星、周りの星よりも眩しいですね。」



 一方、同じ夜空を見上げるイレナは、背後の闇に「ナターシャは早めに消したほうがいいわね」と呟いた。


「どうするつもりだ?」


 闇の中からの問いに、イレナは何を今更と笑い、ナイフを後ろに放った。軽い鉄の音が響き、ヤナガが姿を現した。


「普通の人間にはこれで充分よ」

「身体は一般人でも、中身は神だぜ?冗談じゃねえよ。神技を使わせてもらうからな」

「別に貴方にやれとは言ってないのよ」


 クスクス笑う彼女に、ヤナガは怒る気力もなくため息をつき、「こっちは情報がない。やっぱり場所を移動されてる」とイレナの隣に立った。


「ただ、和宮市の探偵がこの写真を持ってたから、何か知ってるかもな」


 差し出された写真には、ネオンが彩る夜の街並みが一部不自然に歪んで写っていた。


「何かしらこれ」


 ヤナガが携帯のライトで照らすと、大樹のシルエットが浮かび上がり、イレナは珍しく涼しげな表情を崩して驚いた。


「この大樹…確かに転移の木だわ」

「だろ?俺はこの町から離れられないから、行ってみな」


 イレナは彼の背中を叩き、「優秀ね」と振り返らず手を振って去った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

もし宜しければ、

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あと、私自身の勉強の為にアドバイスなど頂けるのと幸いです。


皆様の応援が、本作の連載を続ける原動力になります!

どうか応援をよろしくお願いします!

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