21・冥界の王ダークビショップ
あれから三日が経った。
冷たい石の床に踵を打ちつける音が、神殿の研究室に鈍く響き渡る。私はペンを握り潰しそうなくらい力を込めて、バルトロさんが渡してきた紙を睨みつけた。そこには乱雑に走り書きされた数式と薬品の配合表。鼻腔を刺す薬草と酸の混じった臭いが、頭を締め付ける。
「ここ、計算間違ってるよ。これじゃあ別の薬ができちゃう」
バルトロさんは私の横に立って、ひび割れた木製の机に寄りかかった。彼が差し出したのは研究資料なんかじゃない。埃を被った古い実験器具——ガラス管にこびりついた緑色の残渣が光に映える——と、黄ばんだ革の表紙の本だ。
「バルトロの書はどこですか?」
そう尋ねると、彼は目を細めて笑い、指先で自分のこめかみをトントンと叩いた。
「とっくの昔に研究所と共に焼き払ったよ」
その声は軽やかで、どこか遠くを懐かしむ響きを帯びていた。
「全部ここにしまってあるさ」
得意げに頭を指す仕草に、私は呆れ半分、恐怖半分で息を吐いた。彼の脳内にしかない知識を、私に叩き込むつもりらしい。
食事と風呂以外、私はこの薄暗い研究室に閉じ込められている。天井から滴る水が石床に落ちる「ポタン、ポタン」という音が、時を刻む唯一のメトロノームだ。いや、食事すらスライムのアヌトリュースに運ばせて、缶詰状態にさせられることもある。
スライムがトレイを揺らすたび、カタカタとスプーンが鳴るのが妙に耳に残る。
「バルトロさんもこんな感じでいつも研究漬けだったんですか?」
私はペンを置いて、彼の顔を見上げた。
「そうだよ~、あの頃は楽しかったなぁ」
彼の声は柔らかく、目尻に皺が寄る。でも、その瞳の奥には何か狂気じみた光が宿っていて、私は思わず背筋を伸ばした。この人は研究狂いだ。薄暗い部屋の隅で揺れる燭台の炎が、彼の顔に深い影を落とす。
湿った空気が肺にまとわりつき、薬品の臭いが鼻の奥に染み込んで離れない。どんなに美味しそうなスープを出されても、その臭いが味を台無しにする。私は匙を置いて「いらない」と呟いた。
すると、バルトロさんは優しい口調で目を細める。
「新人の科学者はそうやって食べなくなって死んでいくんだ。科学者の死因の7割は、食欲がなくなって弱っていくことなんだよ」
その言葉が、柔らかな声とは裏腹に、鋭い刃のように胸に突き刺さった。サイコパスって、こういう人を言うのかもしれない。私は唇を噛んで俯き、ため息を押し殺した。
そんな時だった。扉が勢いよく開き、けたたましい音が石壁に反響する。アヌトリュースがゴツゴツした地面に足を取られ、コロコロと転がり込んできた。水色のスライムボディが床に弾むたび、「プニッ、プニッ」と粘っこい音が響く。バルトロさんは驚いた顔で屈み込み、「そんな急いでどうしたの?」と彼の頬を軽く叩いた。目を回したアヌトリュースの「ふええ……」という唸りが、妙に頼りなく聞こえた。
「大変だよ!あの洞窟に、あの洞窟に冒険者が入って行ったんだ!今中腹辺りにいるってゴブリン達が言ってた!」
アヌトリュースの声は震え、甲高く研究室に響き渡る。その瞬間、私の心臓がドクンと跳ねた。
バルトロさんの顔が一瞬血相を変えるが、すぐに安堵の色が浮かぶ。彼は額に浮かんだ汗を袖で拭いて、深く息を吸い込んだ。
「中腹でだいたいの冒険者が力尽きる。あの洞窟は万を超える抜け殻人が徘徊してるから、数人で挑むのは無理に近い」
彼はアヌトリュースを抱き上げ、ギシリと軋む椅子に腰を下ろした。だが、アヌトリュースが続ける。「僕、その二人の冒険者がお昼に入っていくのを見たんだ。」その言葉に、バルトロさんは「ガタッ」と立ち上がり、顔を歪めて叫んだ。
「それを早く言いなさいよ~このスットコドッコイさんが~!」
彼は勢いよく薬品棚を横に押し、「ギギギッ」と軋む音と共に動き出した。そこから取り出したのは、長い年月で煤けた一本の大杖。柄の部分にはひびが入り、先端の緑色の宝玉が鈍く光っていた。
「リコリスちゃん、僕が戻ってくるまで絶対に外に出ないでね。アヌトリュースを任せたよ」
彼が扉に向かおうとするその背中に、私は思わず叫んでいた。
「待って!私が行きます!」
口が勝手に動いた瞬間、心臓が喉に詰まるような感覚がした。
バルトロさんは振り返り、私をじっと見つめる。彼の瞳に、私の過去を知る光が宿っていた。
「流石はオストラン帝国の軍人さんだ」
苦笑いを浮かべ、彼は大杖を私に差し出した。指が触れた瞬間、冷たい木の感触が掌に広がる。
「お願い、最下層の花畑を守ってくれ」
彼の声が低く震えた。
「どういうことなんですか?」
私は杖を握り締め、彼の顔を見上げた。バルトロさんは唇を噛み、下を向く。沈黙が重く部屋を包む。彼の指が杖の表面をそっと撫で、迷いを振り切るように息を吐いた。
「手短に話すよ、そしたら急いで洞窟に向かってくれるかい?」
決意を込めた瞳が、私を貫く。
「分かりました」
私の声は小さく、だが確かに響いた。
「なら話そう。ダータ島の秘密を――」
〇
「ハー!なんなんだこの洞窟!」
私の叫びが岩壁に反響し、耳をつんざく。
足元の石が「ガリッ」と砕け、靴底に冷たい感触が伝わる。目の前では無数の人影が地面から這い出し、「ゾゾゾ…」と不気味な息遣いが空気を震わせる。
「無限に人間が地面から湧いてくるね、しかも変わった魔法を使ってくるし……」
イルマの声は疲れ切っていて、隣で肩を落とす彼女の息が荒い。
やっと見つけた一室に逃げ込み、私は「ドサッ」と地面に腰を落とした。膝がガクガク震え、汗が額を伝って目に入る。チリチリとした痛みに目を擦ると、視界に広がるのは苔むした岩壁と、隙間から漏れる薄い光。部屋は湿気でじっとりと重く、鼻に土とカビの臭いがまとわりつく。ここなら、しばらく人型の化け物が現れる気配はない。
「敵も怖いけど、誘惑に飲み込まれないようにしないとね」
私は息を整えながら呟いた。視線を横にやると、イルマがいない。
「お宝だー!」
彼女の甲高い声が響き、振り返れば宝箱に顔を突っ込んだ姿が目に飛び込む。風呂敷を広げ、キラキラ光る魔石を詰め込むその手つきは、まるで子供のようだ。
「まさか今まで戦ってなかった?」
私は立ち上がり、彼女に近づきながら声を荒げた。
「当たり前だろ?」
イルマは顔を上げ、白い歯を見せてニヤリと笑う。その無邪気さに、私のこめかみがピクピクと跳ねた。
「魔法を唱えても、この島を覆う結界のせいか真っ直ぐ飛ばないんだよ。だから私を守ってね★」
彼女はウインクを決め、宝箱に再び顔を突っ込む。私は拳を握り、ため息を押し殺した。
確かに、賢者の石のおかげで疲れは感じない。だが、彼女の「一生遊んで暮らせるぞ!」という叫びに、私は目を細めた。
もう最下層のことなんて頭にないらしい。
だが、ふと彼女が口を開く。
「あのヒトガタの化け物、アンデットとは違うよな」
その言葉に、私の背筋がピンと伸びた。
「そういえば……確かに、アンデットは寄生虫が動かす魔物の死骸、あれは魔法を使い目が見えていた……一体何なんだろう」
私の声が低くなり、考え込む。頭の中で記憶が渦を巻くが、答えは見つからない。
「ニュークリアスでも分からないか?」
イルマが顔を上げ、口角を上げて鼻で笑った。私は彼女を睨みつけたが、確かに何かがおかしい。あの化け物の動きは、プログラムのバグのようだった。だが、そんなことが突然起こるのか?
「まあ何にせよ、最下層だ。後で聞こう!テレスなら知ってるだろう」
イルマが丸くなった風呂敷を背負い、ヨタヨタと立ち上がる。
部屋を出て先へ進む。中層を過ぎた頃、岩肌に張り付いた螺旋階段が現れた。「ゴゴゴ…」と風が唸り、髪を乱暴に揺らす。階段に沿って立つ柱は苔一つなく、不自然に白く輝く。
上を見上げれば、ヒビ割れたドーム状の天井、下は目が眩むほど深い闇。松明の炎が「パチパチ」と鳴り、壁に揺らめく影を映す。この神殿、最近作られたものだ。柱に刻まれた魔法陣が、それを物語っている。
「ゴブリン族が使っていた魔法陣だ」
私は呟き、イルマが「よく知ってるな~!」と感心した声を出した。私はため息をつきつつ、階段を見下ろした。長い道のりだ。
その時、「ガシャーン!」と轟音が響き渡り、足元の階段が崩れ落ちる。「ズズズ…」と石が砕ける音が耳を劈く。私は柱にしがみつき、下を見た。闇が広がる中、崩落は遠くまで続いている。まるで「来るな」と拒むように。
「下に何があるか見てみよう、サンエクレール!」
私は柱に身を隠し、イルマが閃光を放つ。光が闇を切り裂き、私たちは目を凝らした。
「リコリス!?」
〇
私の声が震え、喉が締め付けられる。
リコリスがそこにいる。深い闇の底、花畑の中心で大杖を握り、その緑の宝玉をこちらに向ける彼女の姿が、光に照らされて浮かび上がる。私は柱に爪を立て、冷たい石の感触にしがみついた。心臓が「ドクン、ドクン」と胸を叩き、喉がカラカラに乾く。
「リコリスだろ、そこにいるのは!」
私の声が腹の底から絞り出され、螺旋階段の岩壁に反響して下へ落ちていく。風が「ゴォォ」と唸り、耳にまとわりつく。彼女の小さな声が、遠くから返ってきた。
「そう!でもこっちには来ちゃダメ!」
その言葉に、頭が一瞬真っ白になる。
「話をしよう!理由が分かったら何もしない!」
叫びながら、私は柱から身を乗り出した。もちろん嘘だ。だが、リコリスが私に杖を向けるなんて、ただ事じゃない。彼女の瞳に宿る決意を、この距離でも感じる。返事が来るまでの数秒が、永遠に感じられた。
「分かった」
彼女の声が低く響き、心臓が締め付けられる。
「ニュークリアス……ニュークリアス!」
私は隣に目をやり、強めに呼びかけた。彼女は「ビクッ」と肩を跳ね上げ、「なっ、なんなノ!」と目を丸くする。その反応に、胸の奥がざわついた。この神殿に入ってから、彼女の様子がおかしい。普段の冷静さが消え、どこか脆い影が揺れている。
「どうした?」
私は眉を寄せ、彼女の顔を覗き込んだ。汗が彼女の額を伝い、松明の光に鈍く光る。
「大した事ないよ。んで?何?」
ニュークリアスは無理やり普段の顔に戻し、唇の端を上げた。だが、その目が一瞬泳ぎ、何かを隠している気配がした。私は唇を噛み、嫌な予感に背筋が冷える。
「この神殿には部屋がない。だから一番下に降りて、私がリコリスと話してる隙に転置魂具を回収しろ」
私は声を低く抑え、彼女に指示を出した。
「ちょっと待って、なんで部屋が一つだけだと分かるの?」
イルマが首を傾げ、風呂敷を背負ったまま割り込んでくる。
「ゴブリン族が造った神殿だからだ。ドアがあれば松明が置かれてる。あいつらは部屋を覚えられないから、そうやって目印をつける習性がある」
私は下を覗きながら説明した。松明の「パチパチ」という音が、静寂を切り裂く。
ニュークリアスが下を見下ろし、「なるほどなぁ」と感心したように呟く。私は彼女の肩を軽く叩き、「頼んだぜ」と告げた。
「りょーかい」
彼女の声は軽いが、その瞳に何かが揺れている気がしてならなかった。
階段は崩れていたが、柱に沿って慎重に降りていく。足が「ガリッ」と石を踏むたび、小さな砂粒が闇に落ちていく。最下層に近づくにつれ、空気が甘く、濃厚な花の香りに変わる。私は息を吸い込み、目を細めた。
驚くべきことに、最下層は一面の花畑だった。赤、青、紫——色とりどりの花弁が風に揺れ、「サワサワ」と葉擦れの音が響く。だが、宝箱は見当たらない。視線を移すと、ど真ん中に立つリコリスが目に飛び込む。大杖を握り、動かず、何かを守るように佇む彼女。その足元に、虹色に発光するガラスのバラが咲いている。私は息を呑んだ。
「まさか転置魂具がこんな形だったなんて…」
私の呟きに、ニュークリアスが小さく頷く。彼女も気づいたようで、目を見開いていた。
リコリスが私たちの視線に気づき、杖を構えたまま口を開く。
「この花を取った瞬間、この島の結界が解けて、地に眠る抜け殻人が世界を襲う。バルトロさんも抜け殻人になっちゃう」
彼女の声は真剣で、震えが混じる。私は眉をひそめた。
「抜け殻人って、この洞窟にいたヒトガタのことか?」
私は一歩踏み出し、彼女に詰め寄った。
「そう。普通の人が噛まれたら、その人も抜け殻人になる。世界が滅ぶ可能性があるの」
リコリスの瞳が鋭くなり、緑の宝玉が鈍く光る。私は鼻で笑った。
「そんな馬鹿な話…」
だがその瞬間、ニュークリアスが私の耳元で囁き、言葉が途切れる。「リコリスを……」
彼女の手が私の背中を強く押した。私は「グッ」と前に飛び出し、振り返る。ニュークリアスの顔が歪み、苦しそうに眉を寄せていた。何かに抗うような表情。私は目を丸くした。
背後で「ゴォォ!」と轟く魔力が空気を震わせる。私は舌打ちし、「ッチ」と呟いた。杖を抜く余裕はない。感覚が叫ぶ——速すぎる。私は無意識に人差し指を伸ばし、「バン!」と地面に魔弾を撃ち込んだ。爆風が「ドォン!」と響き、土煙が舞う。リコリスの放った巨大な火球が風に煽られ、上空で「ボッ」と消えた。
「さすが師匠……か」リコリスの呟きが聞こえ、降り注ぐ瓦礫を彼女が杖一振りで「ガシャン!」と粉砕する。破片が花畑に散らばり、花弁が舞い上がる。私は目を細めた。
「今は中断だ!ニュークリアスの様子が変だ!ここから出るぞ!」
私は叫び、リコリスに手を伸ばした。
「そう言って第一王女が花を盗むつもりでしょ!」
彼女が杖を振り上げる。その瞬間、「シュッ!」と鋭い風が頬を切り裂き、熱い痛みが走る。私は顔を押さえ、リコリスも驚いたように頬に手を当てた。
「に゛……げるな゛、ろす、わたし……は、どうぐ……じゃな、い」
ニュークリアスの声が歪み、低く唸る。彼女の手の平がこちらを向く。私は息を呑んだ。彼女の瞳が赤く光り、何かに乗っ取られている。その異様な気配に、全身が凍りつく。
転置魂具に共鳴し、第一王女の魂が彼女を引きずり出そうとしているのだ。私は歯を食いしばり、理解した。
「わたしは…私から早く逃げ、にがさない、おなじくるしみを、あじあわせてやる」
ニュークリアスの声が途切れ、震える。私はリコリスと目を合わせた。彼女は杖をニュークリアスに向け直し、だが逃げようとはしない。
「死ぬぞ、そんなにこの世界が大切なのか?」私は肩を並べ、彼女を説得した。リコリスは首を振る。
「ここで花が地から離れたら、バルトロさんがあんな姿になる。しかも、オストラン軍の欲しがってた研究はまだ7割しか覚えてない。」彼女の声が切実だ。
「なんだ、資料じゃないのか?」私は眉を上げた。
「あの人の頭の中だよ。」リコリスが呟く。その言葉を、ニュークリアスがギリギリの意識で聞いていたのだろう。彼女は指から賢者の指輪を外し、「カラン」と地面に落とした。そして、私に投げつける。
「逃げろ。そして…助けにこい。」彼女の声が掠れ、決意に満ちていた。私はその意図を悟り、第一王女が再び魔法を放つ前に、リコリスを掴んで洞窟を飛び出した。
〇
「凄い風…」
私は岩壁にしがみつき、髪が乱暴に舞う。激流のような魔力が「ゴォォォ!」と唸り、身体と魂をつなぐ細い糸を揺さぶる。私はその糸を掴み、腕が「プルプル」と震える。限界が近い。
「私はただ、平穏に過ごしたいだけだった、なのにお前が!」
足元でゼロが叫び、這い上がってくる。彼女の爪が私の足に食い込み、冷たい痛みが走る。私は歯を食いしばり、彼女を睨んだ。
「このままだと二人とも転置魂具に閉じ込められて、一生ここで過ごすことになる!」
私は叫び、風に声が掻き消されそうになる。
「お前をこの肉体から引きずり下ろせばいいだけの話」
ゼロの目が濁り、疲れ切った色を帯びる。私は唇を噛んだ。
「ならこの肉体を手に入れてどうするつもりナノ?また誰かの人形になるノ?」
私の言葉に、彼女の手が「ピタッ」と止まる。
「私はもう誰にも従わない。普通に過ごしたいから、普通に人に愛されたいから」
ゼロの声が震え、涙が滲む。私は目を細めた。
「欲しがって何が悪いの」
彼女の瞳が私を刺す。躊躇なく自殺しそうな危うさがあった。
「悪くないナノ、なら行動しなよ。椅子に座って待ってたって、料理は出てこないよ?」
私は声を落ち着かせ、彼女を諭した。
「私をあの花に閉じ込めようとしてるくせによく言う」
ゼロが鼻で笑う。
「誤解してるノ、あの花は転置魂具だ。魂を他の肉体に移す道具で、私はリコリスの肉体に移すつもりだった」
私は静かに説明した。
「移してどうするつもりだったの」
彼女の声が低くなる。
「別に、ゼロを兵士にしようとか考えてないノ。自由に生きればいい。本当の敵、この世界を知った時、きっと貴女なら私の元に戻ってくるから」
私は微笑み、彼女を見つめた。
「そんなの……」
ゼロの腕の力が緩む。私はすかさず脚を抜き、「私を信じろ。私とお前は二人で一つなのだから」と告げ、彼女をドン!と蹴り落とした。激流に飲み込まれる彼女の姿が、闇に消える。
「は〜手こずらせてくれたノ」
私は首を回し、自由を感じた。足元に転がるガラスのバラを拾い上げる。茎が折れ、花弁が虹色に光る。
「さぁてと、どう時間を潰そうかな——」
言葉が途切れた。
突然、花びらがシュルシュルと渦を巻きながら舞い上がる。魔力が空気を震わせ、背筋が凍りつく。
「何が起こってる」
私は呟き、足が硬直した。
規格外の魔力だ。逃げなければ——反応が警告の鐘を鳴らす。指輪のない今、魔法は数回しか使えない。だが、好奇心が足を止めた。渦から現れる姿を見たい。
地面が揺れ、黒くボロボロのローブが風にバサバサと靡く。錆びついた王冠を乗せたガイコツが現れ、漆黒のタクトを握る。その赤い目が私を捉え、息が止まった。
「ダークビショップ」
プログラムのバグがチラつき、私は呟いた。この世界に存在しないはずの魔物だ。
「転生派が無理やり送り込んだんだ。ボツになったオブジェクトを、私を倒すために……」
私は目を細め、背筋が冷える。
「残念だが、お前を殺すのは私じゃない」
私は岩に身を隠し、唇の端を上げた。イルマ達がどう攻略するか、楽しみだ。
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