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少女と少女は鏡面世界をさまよう  作者: 江戸前餡子
第零章・プロローグ
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プロローグ・終わりが産まれる


~ 神世歴523年。

神界は人類創造のコストを抑えるため、死んだ人間の魂を再利用する「転生・転移」制度を導入した。だが、元人間上がりの神々は、命を道具のように扱う神界に反発し、ついに反乱を起こした ~


「音が凄いけど、そっち大丈夫か?」


 パソコンのディスプレイに立てかけられたスピーカーから、けたたましい鐘の音、爆発の轟音、神々の怒号が響き渡る。砂嵐のようなノイズ混じりに、《肝が据わってるな~大丈夫?じゃねえよ! 足音が近づいてきてる、かなりヤバいんだよ! 皆、緊張でガチガチだぜ!》と呆れと焦りが入り混じった声が返ってきた。


 こっちだって何人の神が入ってきたか分からない。白かった部屋は戦闘の爪痕で焦げ、壁が崩れて外の荒れ果てた景色が丸見えだ。もう部屋とは呼べない――まるで広すぎるベランダだ。


「良し、ブリスマルシェのベースになるニュークリアスのデータの解凍が終わった。アップデートのパッチをくれ!」

《了解だ、ヤナガ!》

「いや~しかし、神が人間に教わってパソコン作ったなんてな。神もまだまだってのが分かるぜ」

《その神のおかげで転移から帰還した俺らが神になったんだが……っと、送ったぞ》


 誰かが使ったコーヒーカップに水を注ぎ、一気に飲み干して席に戻る。アップデートを始めると、時間がかかりそうな表示に思わずあくびが漏れた。疲れと緊張が全身を蝕んでいる。


「そういや、キーオブジェクトのアシュリー・バレッタ、ベティ・ロージャス、ビビ・ニスカヴァーラ、グレゴリー・フォメンコ、武田翠、リコリス・シーラ、イルマ・アクロイド、ドメ・ハーカナのデータ書き換えは終わったか?」

《今頑張ってるところだ。てか、エルシリア・オストランが書き換え不能になってるぞ。何だこれ?》

「あ、そうだった! すまん! 俺がこの部屋に来る前、転生派の女神が勝手にパソコンをいじって転生ポットに飛び込むのを見た。きっとエルシリアに転生したんだ!」


 魂の安全のため、転生派が導入した機能だ。オブジェクトを書き換えると中身に影響が出る可能性があるため、転生中のオブジェクトは改変できないようプログラムされている。

 

 案の定、スピーカーから予想通りの反応が飛び出す。


《どーすんだよどーすんだよ! オイオイオイ、エルシリア・オストランはブリスマルシェがインポートされるオブジェクトの母親だぞ! 産まれたら即殺されるだろ! 終わりじゃねえか! はぁ~やってくれたな、アツシ・ヤナガ。反転生派が全員お前を火炙りにしに来るぞ!》


  焦りと怒りでトランシーバーを落としたらしい音が響き、呆れた顔が目に浮かんだ。


「俺は魔女か何かか? 話は最後まで聞けよ!」


 舌打ち混じりの《何か策があるとでも?》に、俺は「とっておきのな」と答えた。本当はまだ何も考えてなかったが、彼の苛立ちを抑えるためだ。心臓がドクドクと脈打つ。


「いいか? 俺が向こうの世界に行って、反エルシリアの組織に潜入する。奴らも第一王女を狙うだろう。ブリスマルシェを城から回収して、成長するまで守る。俺は剣術を異世界で極めたから、力になれるはずだ」

《とはいえ、そんな上手くいくのか?》

「いくかいかないかじゃない。もうやるしかないんだよ!」


 その瞬間、背後に気配を感じた。いつからそこにいたのか、首元に冷たい杖の先が突きつけられる。ディスプレイに映る相手は、人形のように整った顔の女性。服には転生派を示すワッペン。彼女はトランシーバーを後ろに放り投げ、顔を近づけてきた。甘い香りがふわりと漂うが、首元の鋭い感覚が「そんな場合じゃない」と全身を緊張させた。


「そのパソコン、貸してもらえるかしら?」

「悪いな。このパソコンは今日一日俺が貸し切ってる。ゲームばっかりやってないで、外で野球でもしてこい」

「あら~球技は苦手なの。それよりあなたとゲームする方が楽しいかも」


 はしたないことをさらりと言うこの女。前世でモテなかった俺なら興奮で気絶するかもしれないが、今はそんな余裕はない。


「ヤナガもハールスに行くんでしょ? なら手を組まない? ゲームをしましょ」

「何で俺の名前を?」

「会話を聞いてたから」


 あっそ。


「で、ゲームの内容は?」

「ブリスマルシェ……言いづらいわね。ニュークリアスが成長して、この世界にしっかり戻ってこられるか、私たちが無事に生きて帰還できるかのゲーム。楽しいと思わない?」

「アンタの狙いは何だ? ゲームのために異世界に行くわけじゃないだろ?」

「もちろん。私は自分が創った世界が壊れていくのを、この目で、文字列じゃなく現実で見たいの。熱を肌で感じて、焦げ臭さや砂ぼこりを吸って、体験したい。ただそれだけよ」


 控えめに言って狂ってる。心の中でそう呟くと、「気が狂ってるって思ったでしょ? さっき来た女神にも言われたわ」と彼女はクスクス笑った。


「さっき?」

「あら、知らないの? エルシリアに入った子よ。私の唯一の友達、フランカ・レーベルって名前なの」

「なるほど。名前を聞いて、やっとエルシリアを選んだ理由が納得できた」

「でしょ?」

「アンタの名前は?」

「パソコン貸してくれたら教えてあげる~」

「子供かよ」


 椅子から立ち上がり、彼女を座らせた。後ろにいたから気づかなかったが、ウェーブのかかった金髪、透き通る白い肌、抜群のスタイル――俺の中の全米がその美しさに号泣した。だが、この性格はピエロのような殺人鬼並みにまともじゃない。


「んで? 名前は?」


 彼女は立ち上がり、転生ポットに入ると、「イレナ」とだけ呟いて消えた。


「イレナって、苗字はなんだよ!」


 ため息をついた瞬間、《アップデート完了しました。命令型破壊プログラムKK-124・ニュークリアスは、バージョンアップされ、人工知能型破壊プログラムBM-124・ブリスマルシェニュークリアスに規格変更します》と無機質な声がスピーカーから響いた。


「まあいいか。キーオブジェクトは全てインポートされたし、俺もそろそろ行くか」


―― 一つの惑星に、一つの命が生まれた。

そして数十年後、その惑星から全ての命が消えた。 ――


《難易度SS級、惑星ハールスに、人工知能型破壊プログラムBM-124・ブリスマルシェニュークリアスがインポートされました。

人工知能型破壊プログラムBM-124・ブリスマルシェニュークリアスは、オブジェクト01とのシンクロ率90%。100%になるまで起動を停止します》


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