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人形使いの百合色奇譚 〜糸繰りの魔女と骸の令嬢〜  作者: ことち
三章 魔女と少女と淫魔の国
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十七話 助けに来ました、お姉ちゃん!

無茶苦茶な事する女の子っていいですよね。破天荒な感じの。

 ぎらぎらと凶悪な輝きを瞳に宿し、私に殺意を向ける男。さっきと同じ様に手を伸ばすと、再び私の首を謎の力が締め上げる。


「ぐう……!」


 そしてさっきの女と同じように寝台に仰向けに乗せられる。眼前に、金色の光が煌めいた。ナイフの様に見えていたそれは、近くで見ると異様な形状をしていた。少なくとも普通の用途に用いる刃物ではない。何か呪具の様な——


「さっきの女はイマイチだった。さあ、お前は良い供物になるかな?」


 供物……? コイツは、コイツらは一体何を目的にして、こんな……?


「はな……ッ! はなぜッ! ぐ、おお……ッ!」

「無駄だ、逃れられん。大人しく——ん?」


 ふと男は刃を下げ、私の顔に寄ってまじまじと何かを観察し始めた。フードの奥に覗く双眸が、徐々に大きく見開かれている。


「この、魔力……! なんだ、これは! 貴様、まさか!」


 目が最大限に大きく見開かれて、大きく声を荒げる。今や男の顔は怒り、驚き、その他の感情がないまぜになった様な表情だ。


「——ふ」


 少しの間の沈黙の後、不意に男の口から失笑の様な吐息が漏れる。


「ふふはははははッ! なんだこの魔力は! 事もあろうに、人形術にしか適性がないだとッ! 欠陥品もいいところだッ!」

 

 ——は?

 

「こんなモノでは到底供物にはならん! 忌々しい、なぜ貴様の様な粗末な魔術師がここに居るのだッ!」

 

 こ、コイツ! 好き放題言いやがって……! クソが、絶対許さない!

 

「ぐ……! ふ、ふん。私が、人形術しか出来ないって……? それは、げほ、間違いだよ」

「フン、雑魚の割にはプライドだけは一丁前の様だな? だが私の鑑定眼に狂いはない。貴様に使える魔術は、児戯にも等しい人形遊びだけだッ!」

「へえ……そう? じゃあ、見せてあげるよ」


 コイツと私の体の位置関係は、今まさにその技を使うにもってこいの状態だ。おまけに今、コイツは私に気を取られて無防備だ。チャンスは、一度!

 ゆっくりと膝を立て、位置を調整。そして目標に高さを合わせて、一気に……! 

 

「ふんッ!」

 

 振り下ろす!

 

 私の右膝は、まるでそうなる様な運命だったかの様に一直線に吸い込まれる。直後に膝の骨に伝わる、柔らかい様な固い様な感触。

 

「ほおゔッ……!?」

「そんなモンぶら下げてるからだッ! ばあああかッ!」

 

 間の抜けた声を上げると共に、私の首を捉えていた力が消え去った。即座に寝台を飛び降り、うずくまり悶絶する男を尻目に一目散に出口へと走り出す。

 

 長く暗い回廊に、ぺたぺたと素足が石畳を叩く音が繰り返し響く。時折立ち止まって後ろを振り返って見るが、まだ奴の姿は見えない。息を整えて、また再び暗闇の中をただひたすらに駆ける。

 

 すると、長い回廊を渡りきり広い空間に出た。正面には、ろうそくの火に照らされた大きな扉。恐らく、ここは正面玄関だろう。


 その正面に駆け寄り、ガチャガチャとノブを捻る。しかし、いくら力を込めてもピクリとも動かない。


「クソ! 開け、このおッ!」


 助走をつけ、扉に向けて思い切り肩を叩きつける。すると、ぶつかったあたりからじりじりと鋭い音が鳴る。


「づうっ」


 鋭い痛みを感じて体を剥がすと、剥き出しの肩口が赤く腫れあがっていた。どうやら扉には、衝撃に対する防壁が備わっている様だ。


「ああ、もう! どこか他に出口は……!」


 苛立ちながら辺りを見回す。出入り口らしい物は近くにはこれだけしか見つからず、小さな天窓が一つあるくらいだった。それに、例えあったとしてもそこにも防壁は張られているだろう。つまり——


「出られない……!」

「その通りだ」


 背後の暗闇から、途轍も無い怒気を孕んだ声が聞こえてきた。それに振り返りもせずその場から走って離れると、私の体を凄まじい『重み』が襲った。


「うう、あああッ」


 堪らず膝をつき、なおも体を押し付ける力に抗い続ける。しかし、力は徐々に強度を増していく。まるで弱者をいたぶる様な、悪辣な精神性が透けて見える様だ。

 

「その扉は単純な力では決して開かない。逃げるのなら、魔術で強化された破城槌でも持って来るべきだったな」

 

 体を支える膝も限界を迎え、私の体はべしゃりとうつ伏せに押し付けられた。同時に、押し付ける力は更に強まっていく。

 

「ぐう……あああっ……」

 

 みしりみしりと床が音を立てる。その音に混じって、こつこつという靴音が一つ、こちらに近づいてきて私のすぐ近くで止まった。

 

「それにしても、よくもふざけた事をしてくれたものだ……!」

 

 怒りに震える声が頭上から響く。さっきの男が追いついてきてしまった様だ。

 

「はあっ……! ふ、ふん。気に入ったんなら、何発でもくれてやるけど……?」

「いいや、結構だ。今度は私からお返しをしてやらねばな?」

 

 その言葉と共に、更に強く体を押し付けられる。もはや潰されると言った方が正しい程の力だ。体の各所がみしみしと悲鳴をあげるのが聞こえる。

 

「……!」

 

 呼吸もままならず、口も動かず声も出せない。そんな私に、頭上から嘲笑が浴びせられる。


「くはははッ! 声も出まいよ! 貴様など何の足しにもならん。せめて邪魔にはならん様に、粉々に押し潰して床のシミにでもしてやろうッ!」 

 

 ……意識が遠のいてきた。どうやら本当に私を潰してしまう気らしい。私が死んだら、シャリテは……イズモちゃん達が面倒を見てくれるかな。ああ、でも、シャリテ泣くだろうなあ。


 お店の名前とかもまだ、考えてないのに。もっと色んな所に連れ回して、遊びたかったのに。こんな所で……。

 

 床から伝わってくる音も、だんだん変わった物になっていく。地鳴りの様な音……本気を出しているのだろう。


 薄れていく意識の中、その地鳴りの様な音がどんどん強くなってきているのを感じる。まるで私に近づいてきているかの様な……。

 

「お姉ちゃんッ!」

 

 どこか遠くの方で、シャリテの声が聞こえた様な気がした、次の瞬間。

 

 壮絶な破壊音が暗闇に響き、馬の蹄が地を叩く音と、車輪が回る音が聞こえてきた。

 

「お姉ちゃん! 大丈夫ですか、お姉ちゃん!」

 

 次いで耳を騒がせる、聞き慣れた鈴の鳴る様な声。いつのまにか自由になった体を起こしてそちらを見ると、私の人形馬車が扉を突き破って室内に突っ込まれている。


 その御者台に座るのは、紛れもなくシャリテだった。

 

「助けに来ました、お姉ちゃん!」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

レビュー、評価などあれば、是非どうぞ。

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