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二話 親切な男達

「はい切符見せてねー。はい、はーいどうぞー。走らないで下さーい。はーいどうぞー」


 出口の脇に立つ船員の雑な検問を抜けて船を降り、港に降り立った。


 上で見るのと間近に見るのとではやっぱり違う。街の外れにも関わらず軒を連ねる出店と、獲物を前に瞳をギラつかせる商人達から発せられる熱気に今にもむせ返りそうだ。


 何も予定がなければ買い物を楽しみたい所だが、生憎と持ち合わせがないし、人を探さなければいけない。買い物は仕事が終わったその後だ。


「さってと、まずは情報収集かな」


 何しろ手紙には依頼人の場所も何も書かれていない。まずは騎士団の詰所なりなんなりを知っている人間を見つけなければいけない。


 辺りを見回すと港の隅の、人気の無い場所に固まってクダを巻いている三人の男達が目に入った。この船の乗組員だろうか。もしそうなら何か知っているかもしれない。


 つかつかと近寄って見てみると、三人とも日に焼けた隆々とした筋肉を誇る大男だった。その体にはいくつもの生傷が刻まれている。


「あの、すみません」

 声をかけると、六つの険しい目が私を捉える。


「あぁ?」

 そのうちの一人が、虫の居所が悪そうなガラの悪い声を上げて私を睨め付けてきた。


「ええと、ドロワ・ルプスって知ってますか? この街に駐屯してる騎士団って話なんですけど」


 そう尋ねた瞬間、三人の空気がピンと張り詰める。獣の尾を踏んだ、そう直感した。


「ククッ……騎士団ね。ああ、知ってるぜ。知ってるともさ」 


 その言葉を皮切りに、めいめいゆらりと立ち上がる。いずれも私の頭を三つ乗せても届かない様な巨体だ。不意に私の正面の男が、タバコを加えながら苦々しげに口を開く。


「何しろ、俺たちゃァあそこの団長サマに随分とお世話になったからよぉ」

「あっ、そうなんですかー……」


 このお世話になったとは、一体どういう意味なのだろう。まあこの人達の顔を見る限りだと、ロクでもなさそうだ。


「よそ者のガキをちょっとシメただけで実力行使。挙げ句の果てに財産没収だ。お陰で俺たちゃ毎日腹に何かが収まるかすら怪しい。あんまりじゃねえか? ああ?」


 ぐいっと顔を私に近づけて凄む。文無しの割に息が酒臭い。手に入れたわずかな金を酒につぎ込んで、憂さを晴らしているのだろう。


「あ、あはは。この街に騎士団が間違いなく居るってだけ分かれば十分です。それじゃ……」


 男たちの目が殺気立って来ている。ここにいたら何をされるか分からない。さっさと引き上げよう。

 そう思ってくるりと踵を返し、歩き出す。すると私を引き止める様に肩に手を置かれた。猛烈にめんどくさい予感がする。


「待てや」

「……何でしょうか」

「よく見りゃネエちゃん。エラい美人じゃねえか。哀れな俺たちに、お恵みをくれねえか?」


 ほら来た。


「この街には、歓楽街があるらしいですよ。そちらに行かれては?」

「俺たちがそんな金持ってる風に見えんのか?」

「私ならタダで出来ると?」

「ああ、出来るさ。心を込めてお願いすりゃあ、きっと分かってくれる」


 首筋に、じゃりっと音を立てて錆びたナイフが突きつけられる。


「騎士団に怒られたばかりなんですよね? 二度目は財産没収では済みませんよ?」

「ネエちゃんが黙っててくれりゃあ良い話さ。まあ、人には言いたくねえだろうけどなあ?」


 男の言葉に同調する様に、周りの二人も下卑た笑いを口から垂れ流す。


「肩痛いんで、離していただけますか? 私、貴方達みたいな男に興味ないんです」

「自分の立場が分かってねえみてえだな? 命令するのは俺達だ! てめえは黙って——」

「ああ、しつこいッ!」


 振り返り、ベラベラとアホ面をブラ下げて喋る男の頰を拳を叩き込んだ。


「べぐッ!」


 後ろによろめき、うずくまる男の口から血が流れる。

 非力な私の拳では気絶などさせられる訳も無いが、喋っている途中に殴ったために思い切り口の中を切った様だ。

 周りの男達の顔からはにやけが消え、殺気を丸出しにした表情に変わる。


「て、てんめッ……!」

「どうやら騎士団っていうのは随分と手ぬるい連中みたいね。代わりに私が、アンタ達を教育してあげるよ」

「バカがッ! 女一人がイキがりやがって! テメエら、何ボサッとしてんだ!」


 男の檄と共に、残った二人が私に向かって身構えた。それに対し、私は左右の手を広げてそれぞれに向ける。


「ああ? 何の真似だ、そり——」


 ボケッと立ち止まる二人の顔面を、手から放った光弾が打ち据える。正確には手ではなくそのやや下……袖の中で寝そべって杖先を構えている、二体の人形が放った物だ。


 掌を上に向け、指を動かすと袖の中から糸をたなびかせ、のそりと這い出てくる二体の人形達。よちよちと掌に登ると、膝立ちになって杖先を呆然としている男に向ける。


「て、テメエ。そりゃあ一体なんだッ!」

「私の劇団員達だよ。可愛いでしょう?」

「クソッタレが! こけおどしだ、テメエら——」


 この期に及んで大きな口を叩く。その口元に揺れるタバコを、見せしめにしてやろう。


 指を動かし、人形の一人に射撃の命令を下す。命令を受け取った人形は男の足元に光弾を一つ放つ。

 石畳にぶつかって反射し、咥えられたタバコを下から撃ち抜いた。根元から貫かれ、くるくると宙を舞う。


 次いでもう片方の人形が、空中のそれに向けて光弾を乱射した。

 その全てがタバコを捉える。乱射が止む頃には、ひらひらと風に舞う葉っぱと焦げた紙だけになっていた。


「は、はああ……!」


 その哀れな末路を目の当たりにした男は、すっかり怯えきった様な表情になった。戦意を喪失した男に向けて、再度声をかける。


「自分の立場って奴は分かってくれた? アンタ達は私の聞いた事だけに答えて、後は黙ってれば良いんだよ」

「わ、分かった。もうアンタには何もしねえし、聞いたことには答えてやる! だから、許してくれッ!」

「ん、良い返事。それと最後に」

「な、何だ……?」


 さっき、間違った事を口走った。この際だから訂正しておこう。


「私はアンタ達みたいな男じゃなくて、男に興味が無いんだ。そこんトコ、よろしくね?」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

ソワレさんの言う通り、彼女はレズです。この作品は百合百合です。苦手な方は注意してください。

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