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七話 淫魔の国

淫魔って文字列にはすげえパワーがあると思います。スケベだし。

「よし! そうと決まったら、早速行動に移そう。イズモちゃん。ロゼ行きの船は、次はいつ出るの?」

「むっ、ロゼ? あー、ちょっと待ってくれ。この辺に確か渡航の一覧表が……」


 ごそごそと机の中を漁り始めるイズモちゃん。それを尻目に、脇に立っていたユエが口を開く。


「ソワレ様。なぜロゼなのです?」

「あそこは私の地元なんだ。二人旅になるし、一回家に戻って旅の支度がしたくてさ」

「まあ、ロゼの……それでは、ソワレ様は淫魔なのですか?」


 いつもの顔に無理やり貼り付けたような不気味な笑みが珍しく揺るぎ、少し驚いたような表情だ。


「いや、違うよ。前に私と一緒にいたヤツがロゼの淫魔だっただけ。ソイツの家を、今は私が使ってるんだ」

「ソワレさん。淫魔ってなんですか?」

「んー? 淫魔っていうのは、ロゼっていう国を支配してる種族でね……」


 ……種族で、なんて言ったらいいんだろう。あいつらの存在はどこをどうぼかして控えめな表現にするにしても、とにかく不適切っていうか、いかがわしいっていうか……こんないたいけな少女に、なんて伝えたものか。


「ええっと、魔法が得意で、そのぉ……」


 だ、ダメだ。私の語彙力ではこれ以上包んで話せない。適当にぼんやりごまかして……。


「シャリテ様。少しお耳を」

「んぇ?」


 そこへ、ずずいと歩み出てシャリテの耳に口を近づけ、何事か囁きはじめた。


「良いですか、シャリテ様。淫魔というのは……」

 

「——で……アレに——をして……ソレを——したりする——ですわ」

「わぁ……! へぇ……ひゃあ……!」

 

 耳の前で唇が言葉を紡ぐ度、シャリテの顔がまるで夜から朝へと移りゆく空の如くその色を変えていく。


 やがてユエが話し終え、耳から口を離した頃には耳の先まで赤く染まっていた。


「ひゃあ……! なんていうか、すごく、凄いです……!」

「それだけではありませんわよ? ソワレ様はそのロゼで育ったとの事。一緒に旅をしたら、とても刺激的かもしれませんよ? ウフフ」

「し、刺激的……ソワレさんと……!」

 

 ここからじゃよく聞こえない。けれど、ろくでもないことをしゃべっているに違いない。雰囲気でわかる。この女、一体何を吹き込んだのよ……。

 

「ちょっと。ウチの新人にヘンな事吹き込まないでよね」

 

 このままでは大切な新人が毒される。そう思い、シャリテを魔の手から救い出して胸に抱きとめる。

 

「わぷっ」

「ウフフ。だって、こんなにウブな子を見るのは久し振りなんですもの。からかい甲斐があって楽しかったですわ」

 

 意味ありげにくつくつと喉の奥で笑う。いちいち教育によろしくない人だな……。シャリテが変な事覚えたらどうすんのよ。

 

「あ、あった!」

 

 不意に、脇から声が上がった。見ると、片手に表が羅列された紙を誇らしげに掲げている。今の今まで探してくれてたのか……すっかり忘れてた。

 

「どれどれ……うん、ロゼ行きの便は明後日が最速だな」

 

 明後日か……そこそこ時間があるなぁ。それまで何してよっかな? ただボケっとして過ごすのも非常にもったいない。何か買いたかった物はなかったかな……。

 

考えていると、ふと思い出したことが一つ。そうだ、人形! イズモちゃんをモチーフにした人形をまだ作っていないことに気づいた。

  

 人形を作るという事は、劇の幅が広がると同時に私の戦力の増強にもつながる。イズモちゃんのイメージを人形に取り込めば、戦いにも劇にも更なる幅が生まれるかもしれない。

  

……よし、決めた。残りの二日間は久しぶりに人形を作って過ごそう。そうと決まれば……。

  

「ねえ、シャリテ。今からもう一回街でお買い物しない?」

  

 私の胸に抱かれているシャリテに声をかける。すると、胸の間から私を見上げる二つの夕暮れが現れた。

 

「はい! 今度は、何を買うんですか?」


 小気味よく返される、元気のいい返事。今までは一人だったから、人形の素材の調達に誰かを誘うなんて、なんだか新鮮だなぁ。

 

「うーんと……まず、木材かな。何をするにも人形の体がないと始まらないからね」 

  

 木材といっても色々あるけれど、どんなのを買おうか。考え出したらきりがない。考えれば考えるだけほしい物が浮かんでくる。

 幸い、今の私には手あたり次第買いまくっても許されるほどの財産があるんだ。この際、目に付いたのを買いまくっちゃってもいいかも。

 

「考えるのは後! 早速、しゅっぱーつ!」

「あ! ま、待ってくださいーっ!」

  

 人形作りとなると、わくわくとした体の疼きが止まらない。これは昔からの悪い癖だ。

 いてもたってもいられず、私はシャリテの手を取って部屋を飛び出し、街へと繰り出した。

 

 二人で街に行くのは二度目だけれど、今の私には一度目にはなかった不思議な充実感に満ちている。

 これの正体も分からないまま、私達はただ笑い合いながら街へと続く道を歩いて行った。

読んでくださっている皆さん、有難うございます。

感想、レビューなどいつでもお待ちしております。

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