五話 路地裏の終幕
モブ君とキャラ君はきっと今後も出るかもしれませんね
「こんなオモチャで俺らを相手しようってのか! 上等だッ!」
大きい方が激昂して叫び、手斧を振り上げて突撃してくる。見た目通り、頭に血が上りやすいタチな様だ。
「チンピラの一人が、野蛮な声を上げながら騎士達に襲いかかります。しかし、そんな事で怯む彼らではありません」
突撃に合わせて、突っ込んできた頭に向けて盾を構えた騎士を飛ばす。
ごしゃっ。
「おぉっ……!? ごぁ……」
路地裏に鈍い打撃音と、頭部を強打した男の呻き声が響く。
「哀れなチンピラは、騎士の盾に打ち据えられて、ずずぅん、と冷たい石畳にその巨体を沈めるのでした」
「モラッ! ふざけやがって、よくもモラをッ!」
次いで小さい方が剣を構えて、もう片方の手から火球を生み出した。あんなんでも魔術は使えるのか。マジで免許制にしたほうがいいんじゃないかな?
「消し炭になりやがれッ!」
怒号とともに放たれた火球が、唸りを上げて私に向かってくる。
「ソワレさんッ!」
私の腰を、ぎゅうっと更に強く抱きしめる感触。
「大丈夫。安心して劇をお楽しみください、お嬢様?」
糸を揺らすと、即座に騎士達が集まって各々持った盾を構える。
束ねられた盾の中心から広がる、青い光の幕。生半可な攻撃は毛ほども通さない防御壁だ。強度は魔術師型の防壁とは比較にならない。
火球と幕が激しく衝突し、爆発音と黒煙が立ち上る。
「やったか!?」
……『やったか!?』って、側から聞くとこんなに間抜けなんだ。今度から気を付けよう。
後ろに控えていた魔術師型に号令を送り、黒煙を吹き飛ばすように攻撃を放つ。
「モーターッ!」
ぽんぽんという小気味良い音に続いて鳴り響く爆撃。奴だって撃ってきたんだから、こっちも好き勝手やってやる。
「騎士達の放つ正義の炎。ごうごうと燃え盛るそれは、容赦なく悪人達を追い詰めました」
しばらくの間鳴っていた轟音が止み、風が吹いて黒煙を散らしていく。煙が晴れたそこには、ぷすぷすと焦げ臭い煙を上げて倒れ伏す男が一人。
もう一人のデカいのもノビてるし、これで終わりかな。
「さあ。とっくに終幕ですよ」
私の体にしがみついて震えているシャリテに声をかけると、恐る恐る目を開いて辺りを見回し始めた。
「わぁ……! 一人でやっつけちゃったんですか? 凄い凄い!」
「ふふん、まあね」
うーん……この純粋な、手放しの褒め言葉。久し振りに聞いたなぁ。ちょっとカッコつけて良かった。
「さ、コイツらが起きる前に行こ行こ」
くるりと踵を返して、路地裏を抜けようと足早に歩き出そうとした、その時。
「ま、待てやぁッ……!」
後ろから息も絶え絶えの男がのそのそと立ち上がり、声を荒げる。
「きゃあっ!」
それと同時に響く叫び声と、私に落ちる影。振り向くと、頭から血を流すもう一人の男がシャリテを奪い取り、喉元に手斧の刃先を突きつけていた。
「へ、へへ……動くんじゃねぇッ!」
「……呆れた。有名なのはチンケな悪党っていう汚名な訳?」
「黙れッ! キャブ! このアマを締め上げろッ!」
「おうッ!」
小さい方の両掌から木の蔦が飛び出して、私の体を絡め取った。ご丁寧に両腕を後ろ手に縛り上げている。
「……せっかくその程度で済ませてあげてたのに、アンコールのつもり?」
「ぎゃははッ! 次の演目は俺たちのお楽しみだがなッ!」
「……かしこまりました。それではそのアンコールにお応え致しましょう」
「ハッ! テメエのその腕で一体何ができるって……!」
「私を止めたかったら腕を落としておくべきだったな……!」
指先が動けば人形達は自由に踊る。もっと過激なショーを見せて欲しいというのなら、是非もない!
「かかれッ!」
号令と共に舞い上がった騎士達が、盾を構えて全速力で突進を開始した。
「うおッ……!」
四方八方を乱舞する鉄塊が、慌てふためく二人の周りを飛び回り、蔦をバラバラに千切りつつすれ違いざまに盾で殴り付ける。
「ぐえぇッ!」
「がぶぅ……ッ!」
衝撃で手が離れ、自由になったシャリテを再び抱きとめる。
肉を叩く音が響く度、男達の膝ががたがたと笑う。両手で数えるのも億劫になるくらいの音が鳴った時、ぐにゃりと膝が折れ曲がった。
後は地面に叩きつけられるだけ。でも、それじゃあ盛り上がりに欠けるというもの。
ふいっ、と指で天を指す。それに合わせて、騎士達は一斉に下から上へ、男達をカチ上げる。
天高く舞い上がった大小二つの影。地上では、魔術師型達がそれにぴたりと杖の先端を合わせている。アンコールは終わり、カーテンコールの時間だ。
ぱちん。
指先を弾くと、天を衝く杖先が一斉に火を吹いた。五つの火球がぽんぽんと間の抜けた音を放ち、空を舞う二人へと殺到する。そして——
路地裏の薄闇を切り裂く、眩い閃光と轟音。それはさながら、劇の終わりを知らせる盛大な花火だ。やっぱり終幕はこういう派手なクライマックスじゃないと。
不意に、どしゃりと地面にへばりつく二つの焦げ臭い何か。遠目に見ると、もぞもぞと蠢いている。かろうじて息はあるらしいし、ほっとけば誰かがなんとかしてくれるだろう。
「こうして悪は潰え、少女は無事に救い出されたのでした。めでたし、めでたし」
「そ、そのう……やり過ぎじゃないですか?」
おずおずと口を開くシャリテ。まあ確かにやり過ぎっちゃやり過ぎかもしれないけど……。
「子供を人質に取るような奴らなんて、これくらいしないと懲りないよ。それよりも大丈夫? 怪我とかない?」
「あっ……はい、大丈夫です」
「ん、良かった……それにしても、なんかくたびれちゃった。今日はもう帰ろっか」
「はい……あの、ありがとうございました」
「ん。もう一人でどっか行っちゃ駄目だからね。こういうとこふらふらするのも駄目! ほら、手ェ出して」
ひっそりと差し出された手を、離さないようにしっかりと握る。そして今度こそ踵を返して、焦げ臭い路地裏を後にした。
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