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三話 私の妹ですが

 四方八方に爛々と瞳を輝かせるシャリテを連れ、今いる商店街を抜けて服飾、宝飾品を取り扱う店が立ち並ぶ区画へと移動する。


  さっきの活気溢れる街並みとはガラッと雰囲気が変わり、見るからに金持ちっぽい連中がお上品に道を歩いている。


「ふわぁ……」


  店のガラスの向こうに広がる洋服の海に、幼い瞳は更に輝きを強めた。ちっちゃくてもちゃんと女の子だ。


「さ、シャリテちゃん。どのお店がいい?」

「んぇ?」

「んぇ、じゃなくて、どこのお店で服買いたい?」

「服って、私の、ですか?」

「うん」


  首を縦に振ると、ぽかんとした表情がみるみるうちに顔が綻んでいく。


「ほ、本当に、いいんですか?」

「うん。シャリテちゃん可愛いから、もっと似合う服、一緒に探そうと思ってさ」


  そう言うと、途端にぼっ、と真っ赤になった顔を手で覆い、恥ずかしそうにもじもじし始めた。ああ、可愛いなぁ。


「え、えへへ……嬉しいです。本当に好きなお店選んでも、いいんですか?」

「ん、どれでもどんと来い!」

「わああ……じゃあじゃあ、えっとえっと……」


  あちらこちらへと遊び回る視線。それはやがて、一軒の店に目が止まったようだ。


「ここ! ここがいいです!」

「どれどれ……」


  指し示す先を見ると、ひらひらふりふりとした服がショーウィンドウの先にずらりと並ぶ一軒の店があった。ああいうのが趣味なのかな?


「ははーん、ああいうふりふりしてるのが好きなんだね。じゃあ、このお店にしよう」


  からころと鈴を鳴らす扉を開けると、店内には店先で見たような可愛らしい服がひしめいていた。


「ふわぁ……」


  まさに夢見心地といった感じだ。その様子を見守っていると、奥から店員さんが歩いてきた。


「いらっしゃいませ。本日は、どの様なご用件で?」


  出て来たのは女性の店員。着ている服はこの店の商品なのだろうか、見事に着こなしている。


「ええ。今日はこの……」


  シャリテを示そうとしたところで、ふと思った。何と呼ぶのが一番自然だろうか。娘……という程の年ではない。そもそも私だってまだそんな年じゃない。友達……にしても、少し歳が離れすぎ。


ならば、ここは……。


「妹です。妹に服を、と思いまして。ね、シャリテ?」

「んぇ? 妹?」


  今日何度目かのぽかん。


  合わせて、合わせて! と、口の動きだけで合図する。やがて意味を理解したのか、とびきりの笑みを顔に浮かべた。それも熱に浮かされた様に顔を赤らめるという、迫真の演技付きで。役者の素質があるかも。


「……うん! お姉ちゃん!」

「まあ、仲が良くて羨ましいですわ。では、最高の品でその想いに応えなくてはいけませんわね」


  そういうとシャリテの体を一瞥し、踵を返して店の奥へと引っ込んでいった。


「お、お姉ちゃん……」

「あはは、なかなかの演技だったよ。でも、今は別におねえちゃんって呼ばなくてもいいんじゃない?」

「だ、だめですよ! 私たちは今、姉妹なんです!」


  ん、それもそうか。この店を出るまで私とこの子は姉妹。この年にしては、なかなか細かい所まで気を配れる子みたい。記憶を失う前は劇団にでもいたのかな?


「お待たせ致しました」


  声に振り向くと、一着の服を持った店員さんが後ろに立っていた。


  黒と白を基調としたエプロンドレス。生地を指で撫でると、滑らかな感触が先端に伝わる。使われているモノは上等な様だ。


「お気に召しましたか?」

「ええ、可愛いです。どう? シャリテ」

「わあ……」

 

 服を見るその目は燃え上がるような輝きを放っている。答えは聞くまでも無さそうだ。

 

「良かった。では、早速……」


  そう言うと、店員はシャリテの手を掴んで奥のカーテンの奥、試着室へと連れて行った。


「ひゃあああ……」


  カーテンに次々着ていた服が引っ掛けられていく。ワンピースに、靴下。果ては下着まで。


「ちょ、ちょっと待って……ひゃああ!」


 身ぐるみを剥がされ、着ていたものが全て引っ掛けられた後に、カーテンが開かれた。中から現れたのは、新しい服に身を包んだシャリテ。


 黒主体の服から覗く白い肌と、もこもこの金髪が良く映えているし、おまけに付いてきた黒い靴下も相まって、さっきよりもかなり大人びた印象を受ける。


  もじもじと恥ずかしがっているけれど、お世辞抜きにとてもよく似合っている。そして、その頭には頼んだ覚えのない帽子が乗せられている。


「この帽子は?」

「私からのサービスです。ちょうど同じものがございましたので。姉妹でお揃いの帽子なんて、素敵でしょう?」


  お揃い……? そういえば、私の帽子と色違いだ。


「お気遣いありがとうございます。そろそろお会計を……」


  すかさず差し出される、品物と金額の書かれた紙。あっ、結構高いこれ……ま、いいか。


「じゃあ、これで」


  懐から金貨を取り出し、清算を済ませる。


「じゃ、いこっか。シャリテ」

「うん! お姉ちゃん!」


 そう言いつつ手を取り、踵を返して出口へと向かう。


「またのお越しを」


  見送る店員の声を背に、来た時よりも少し温かい様な気のする白い手を引いて、私達は店を後にした。

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