序章
プロローグなので短いです。
船の甲板を背負い、純白の帆をはためかせて大空を泳ぐ船、飛鯨船。その帆の下には今日も今日とて沢山の乗客で賑わっている。
この船は、レジネッタ王国が統治する大陸で最も商業が盛んな貿易都市ビスクへ向かう、所謂商船だ。子連れの旅行客も少なくはないが、ほとんどがビスクへ商品の買い付けに向かう商人である。
従って乗客の間を飛び交う会話は、どこそこの国が大量の兵器を買い漁っているだの、何とかいう魔物から取れる素材が高騰しているだの、生々しい金と打算の気配に飲み込まれていた。
そんな中、ある小さな一角はそんな気配を切り取る様に、子供達の楽しげな声が響いていた。子供達は一様に目を輝かせ、輪になり円の中心を向いて座っている。
子供達の視線の先には一人の若い女が立っていた。その足元には小さな可愛らしい人形が踊っている。どうやら人形劇のようだ。
丁度今始まるようで、中心の女性がプロローグを語り出した。
「ようこそ、ソワレの劇場へ」
「これより始まりますは、奇妙奇天烈、摩訶不思議。とある記憶喪失の少女と一人の魔女が繰り広げる、不思議な冒険譚」
「彼女達の行く末に待ち受けるのは、果たして希望か絶望か、生か死か。それは見てからのお楽しみ」
「それでは、特等席にお越しの小さな観客の皆様方も」
「マストの見張り台でタダ見をなさっているお嬢様も」
「何卒最後までお付き合いくださいますよう。それでは、始まり始まり……」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。よろしければ、感想など頂けると幸いです。