一話、マジカル誕生!
「いや〜かなり怒られたね〜…」
「そうだな…」
職員室の前で俺たちはげっそりとした表情で労いあった。
しかし、少し授業に遅れたぐらいで五分も怒らなくてもいいじゃないか…休み時間があと半分ぐらいしかないぞ。
「ま、とにかく教室に戻るか…」
「うん、二回も授業に遅れたら今度は凄そう…」
俺たちは教室に急いで戻ろうとする。
すると、かなこがいきなり立ち止まった。
「どうした?」
「綺麗な人……」
かなこの目線に目を向けると、凛とした佇まいでこちらに歩いてくる女子生徒の姿が見えた。
光の影響か、長い黒髪が青くキラキラと光っておりとても綺麗だ。
確か、隣のクラスの人だと思う。
名前は斗宿あおば、クラス委員をしている優等生だと聞いたことがある。
「おはようございます」
俺らを通り過ぎる時に挨拶をしてくれた。
「あ、おはようございます」
取り敢えず俺も挨拶を返すことにした。
そしたら斗宿はニコリと微笑みかけて去っていった。
「ほー、噂どおりの優等生みたいだな」
「…………」
「どうした?かなこ」
かなこは俺に顔を向けてきて、興奮したような口調で俺にこう叫んだ。
「すっごく綺麗な人!!!」
「いや、分かったから…」
◇◇◇
「ああ……あああ!」
校舎の屋根に色白の素肌、そしてむき出しの牙をさらけ出し、黒いマントを羽織った怪人が興奮したようににやけた顔を見せる。
「匂うぞ……匂う……」
怪人は鼻をしきりに動かし、その度に牙を出す。
それはまるで吸血鬼のような風貌だ。
「ここに…伝説の戦士…マジカルが…」
怪人は一拍おいて叫ぶ。
「居るッッッッ!!!」
怪人はマントを翻し、地面に降り立った。
そして、通りすがりの女生徒に近づきこう囁く。
「お前の心の闇を見せてみろ」
「!?誰ッ?」
「怖がらなくていい…貴様の心を我が眷属にするだけだ…」
怪人は女生徒の背中に手を突き刺す。
それは狂いなく女生徒の心臓を掴み取った。
「ああーーーッ!」
女生徒は気絶したかのように前のめりに倒れこむ。
怪人の手には、未だに脈打つ女生徒の心臓が掴まれていた。
「さあ……出でよ!ジャ・アーク!この闇に染まった心臓を供物に捧げようぞ!」
心臓が黒く変色し、霧が黒く変色した心臓を覆い隠す。
すると、霧の中から黒く、四角い風貌はまるで妖怪のぬりかべを連想させる、目が鋭い大きな怪物が生み出された。
『ジャ・アーク!』
怪物は大きな声で咆哮する。
その声は純一たちに聞こえていた。
◇◇◇
「くそう!遅かったか!」
ピンク色の鳥が青い亀と、黄色いウサギを乗せて叫ぶ。
「どうする姉さん!?」
ウサギが鳥に向かって叫ぶ。
「どうもこうもあるか!こうなりゃマジカルを早く探さねぇと…!」
「そうじゃな……伝説の戦士マジカルを見つけ出すぞ!」
「「おお!」」
亀の言うことに二匹は返事をする。
そして鳥はスピードを上げて、純一たちのいる校舎へと急ぐのであった。
◇◇◇
「ーーーっ!なんだ今の声!?」
鼓膜の奥がまだ痙攣しているかのように、耳がキーンと言っている。
咄嗟に、かなこの耳を塞いだが大丈夫だろうか?
「かなこ、大丈夫か!?」
「う、うん……でも今のは…?」
「おや、こんなところに居たか」
いきなり声のした方へ首を向ける。
そこには校舎の窓にひとりの人間が立っていた。
いやーーコイツは本当に人間か!?
「…………そこの女からマジカルの匂いがする……」
コイツは一体何を言ってるんだ?
…しかしこれだけは分かる…これ以上ここに居てはいけない!
「逃げるぞ!かなこ!」
「え!?ええええ!?」
俺はかなこの手を取り、一階に降りる階段に向かった。
あいつはまずい、早くかなこを安全な場所へ移動させなければ。
「ねぇ!純一!」
「な、なんだ!?」
「私って…匂う?」
「匂ってねぇよ!!」
そんなこと、今はどうでもいいだろー!
と、言いたいがそんなことを言ったらめんどくさい事になるので、匂わないと肯定する。
めんどくさい事は基本避ける、それが俺のスタンスなのだが……この事態は避けられねぇ!
『ジャ・アーク!!!』
目の前が真っ暗に染まったと思ったら、怪物がいきなり上から現れた。
怪物も、大きな目をこちらに向けており、ここを通す気は無いようだ。
俺はすぐに、校舎に戻ろうとしたが、さっきの男がこちらをニヤニヤしながら見ていた。
クソ、挟まれた!
俺は咄嗟にかなこを抱き寄せる。
なぜだが知らんが狙いはかなこらしい、だったら絶対に守ってみせる!そうしないと、俺の好きな女児向けアニメのキャラ達に顔向けができないからな!
「さあ、その女をこちらに渡してもらおうか」
「断っ!?」
断ると言おうとした瞬間、体が動かなくなった。
なんだこれは!?
「お前は黙っていろ」
「……純一!」
「さあ、こちらに来てもらおうか少女よ…」
「………ッ」
「お前がこちらに来れば、その少年は見逃してやろう…どうだ?」
「…………分かった」
!?ダメだ、かなこ!絶対に罠だ!行くな!と言いたいが、口も動きやしない。
「本当に純一には何もしないんだよね」
「ああ…」
「……絶対に家族を傷つけさせるもんか…」
俺の手から離れ、どんどんとかなこは奴に向かっていく。
「純一は私の家族だから……」
険しい表情で、奴に向かう。
「絶対に守る…!」
怖いだろうに、いきなりこんな事に巻き込まれて、訳のわからない奴に連れていかれそうになる。
普通の中学生なら発狂して気絶するところだ。
でも、かなこは目の前の恐怖を乗り越えようとしている。
こんなの…まるで…女児向けアニメの主人公みたいな…。
「ふむ……聞き分けのいい子は好きだ…よしジャ・アーク!彼を潰してあげたまえ!」
「!!純一には何もしないって!」
「私はな」
「ッ!」
『ジャ・アーク!!』
怪物は大きな足を上げ、俺の上まで持ち上げた。
死ぬ、そう思ったら急に景色がゆっくりと流れ始めた。
ああ…これが走馬灯という奴だろう。
最後に…………かなこに…………救ってくれてありがとうって言いたかったなぁ。
そう思った時、かなこからまばゆい光が溢れ出る。
「純一をぉぉぉぉ…………いじめるなあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
怪物は光に圧倒され、即座に距離を取り、俺は間一髪助かった。
しかし、あの光は!?
「ぐうう!眩しいっ!」
「私の家族に傷をつける奴は、この!一条かなこが許さないっ!」
男にも向かって堂々と言い放つ。
それは、まさに、俺が毎週日曜日に見ている女児向けアニメの主人公に相応しい姿だった。
そして、奇跡はそれに呼応するかのように上から声が聞こえた。
「うおおおお!!そこの女っっ!私を使え!」
「と、鳥が喋りながら急降下してる!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでこう叫べ!マジカルチェンジ!アルス・ノヴァだ!」
「わ、分かった!」
『マジカルチェンジ!アルス・ノヴァ!』
鳥がいきなり変身してコンパクトな機械になる。
それを使いなれたかのように、かなこが操作をした。
すると、光が急速にかなこの周りを囲む。
そして、光はすぐに弾け飛び、中から美少女戦士が現れた。
ピンク色を基調とした服装。
しかし、所々に猛々しく燃えるような炎の装飾がキラリと輝く。
髪は薄い桃色になりセミロングに髪が伸びていた。
耳にハートのイヤリングをしており、腰にさっきの鳥が変身した端末が下げられている。
『おい!女!名前は!』
「へ!?かなこです!」
『ちげーよ!この変身した姿になんの名前をつけるかって聞いてんだよ!』
「え!?えーと……マジカルピンク…?」
端末と、かなこが喋ってる…。
というか、これ完全にアレだよな。
キュアキュアなプリティだよな!?
『だっせぇ!どうせならマジカル殺戮の龍王とかにしとけ』
いや、それもどうかと思う。
「でも…」
「何をごちゃごちゃ言っている!!やれ!ジャ・アーク!」
『ジャーーー!!』
怪物がかなこに向かって突進する。
それを、かなこは重心を低く落とし、怪物の足を蹴り上げた。
「はあああ!」
『おい!初めてでやるじゃねーか!』
「……そういえばあなたの名前は?」
『ピンバーだ!さあ、また来るぞ!』
『ジャ・アーク!!』
今度は空にジャンプして重力に従い落ちてくる。
これをかなこが両手で受け止めた。
「ぐうううううう!!だああああ!」
目一杯、バンザイをして怪物を押し返す。
困惑した怪物は空で無防備な姿を晒した。
そこをかなこが見逃すはずがない。
「ファミリマジカル!アイビーストリーム!!」
かなこは両手の手のひらを怪物に向け叫ぶ。
すると、ピンク色のビームに混じり、緑の綺麗なアイビーが怪人に向かって放たれる。
そして、微笑ましい笑顔を浮かべて怪人がこう言った。
『アリガトウ』
そう言い残し怪物は消えた。
これはどうやら、浄化されたということで良いのだろうか。
そして俺の体もそれと同時に動くようになった。
俺がかなこと言おうとした瞬間、男が俺のクビに鋭い爪を食い込ませる。
「純一!」
「ククク……ジャ・アークはやられたがコイツ一人だけでも殺させてもらう…さらばだ少年!」
「おさらばすんのはテメェの方だ!」
俺は肘で男の腹を突き、体制が崩れた瞬間体を押し返す。
その時に爪が俺のクビを引っ掻いてしまって血が出てしまったが問題はない傷だ。
俺はそのまま、男の顔面をぶん殴った。
「ぐほああ!」
「ふん」
「貴様ぁ!貴様ぁ!私の高貴なる顔に傷をおおお!許さんっ!細切れにしてくれるわ!」
「させんよ」
男がこちらに向かってくるのを、青い髪の初老の男性が刀で止める。
その後に続いて、黄色い髪の男の子が俺を奴から引き離し、かなこの元へ連れて行ってくれた。
「純一!大丈夫!?」
「ああ…なんとかな」
『カカッ、なかなか根性あるじゃねぇか、ガキ』
「訳のわからんやつにガキとか言われたくないな」
俺はそう言って、目の前の敵に集中した。
すると、初老の男性も苦戦しているらしく、若干押され気味である。
こうなると…
「行けるか、かなこ?」
「……いや、ダメみたい…ちょっと頭が痛いかも…」
『無理もねぇ、初戦闘であそこまでやったんだ…しかしあのままじゃ…』
再度前を見ると、初老の男性が追い込まれる状況まで来ていた。
クソ、どうこう話してる場合じゃねぇ!
俺はそう思うと勝手に足が動いた、狙うはあいつの顔のど真ん中、鼻だ。
初老の男性もこちらに気づいたようで、俺が殴りかかるタイミングで体を半歩横にずらす。
男は、それに対応出来ずに俺の拳に顔を差し出した。
俺はそのまま、思いっきり振り抜く。
「がはぁ!」
「やるではないか」
男は鼻血を出しながら、体をよろめかせる。
かなりのダメージを負っているようだ。
「さあ、まだやるか」
俺は男に向かって、言う。
男は屈辱的な顔をして、俺にこう言った。
「貴様、名は」
「……東雲純一だ」
「……我が名はヴァンプ、覚えていろ、東雲…貴様を必ず殺しに来よう」
そう言って、ヴァンプと名乗った男はいきなり姿を消した。
どうやら逃げたようだ。
体から力が一気に抜け、その場にへたり込む。
かなこも同じみたいで、変身を解き、俺と同じようにへたり込んだ。
「はあ……生き延びた…」
「うん……うん……ありがとね純一」
「何言ってんだ、俺の方こそ助けてくれてありがとう」
お互いハハハと笑う。
取り敢えず一件落着ということでいいのかな…。
こうして俺たちは二人して意識を手放した。