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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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3





「しかしまぁ、実際話してみると普通ですね」

「何が?」

 シャオが問い掛ける。


「知ってます? 貴方に近付くと呪われるって噂もあるんですよ」

「へー」

 大層な噂である、なのに当の本人であるシャオは他人事の様に聞いていた。

 この噂も禁術が原因だろうか、それとも私かな?


「自分の噂とかにはあんまり興味無い感じです?」

「無いわけじゃないけど、今の話はわりとどうでもよかった。むしろ勝手に呪われてくれると嬉しい」

「でももし呪われるのだとしたら、呪う側はシャオじゃなくて私ですよね」

 シャオに近付くと呪われるのであれば、その原因は普通の人間であるシャオより得体の知れない魔法である私になるだろう。

 勿論私にそんな効果は無いのだが、私は今の所周囲からは得体の知れない禁術、程度にしか知られていない。それは何故か?

 シャオが私の存在を隠しているのだ。普段は鞄の中や机の下に入れられ、クラスメイトだろうと見せないようにしている。たまに聞かれる事もあるが、はぐらかす事が多い。

 きっとそういうのが怪しさを生んで、呪われそうに見えるのだろう。


「いやまぁ、実際に不幸に遭ったとかではなく。呪われるんじゃないかと思う程近付くのが怖いって意味合いですからね」

「私達そんなに怖いかな?」

「私達? 勝手に一緒にしないで下さい。私は怖くないです、シャオが怖いんですよ」

 シャオに隠されている私が人目に付く事はない。つまり恐れられているのはシャオだけということになる。正直その気持ちは分からないでもない。シャオはどこか他人を他人というだけで嫌う傾向にある。

 この記者に対し物腰が柔らかいのは一応客人だからだろう。


 シャオがそうなってしまった原因に心当たりはなくもない、シャオが罪人となってしまった瞬間から周囲の目は一気に変化した。そして研究室持ちという異例の扱いである。シャオは気にしていないが影から卑怯者と言われた事も少なくない。

 シャオは無意識の内に他人を完全に視線の外に置いてしまったのだろう。シャオにとって他人とは関わるべき存在ではないと決め付けてしまっているのだ。

 しかしそれでもシャオに友人がいないわけではない。私から見ても頼れる友人がいる。

 仮にもし友達が一人もいなかったとしても、私がいるからシャオは気にしないのだろうが。


「では次の質問です」

「まだあるの?」

「次コトナね」

「ええー」

 さっきの呪いのくだり、質問に入るの?


「なんか罰ゲームみたいになってませんか!?」

 実際迷惑である、依頼でもなし、報酬もなし、早く帰れ。


「私達も暇じゃないんです、次で最後にしてくださいね」

 私はシャオの膝から机に上がる。ここでは相手の顔が見えない。


「え、最後!? えっと、じゃあ、うーん……」

 客人は数秒間頭を悩ませる。



「じゃあずばり! 禁術の魔法はどこでお知りになられたのですか!」

「アウト」

「え?」

「アウトだね」

 私は両腕を前でクロスさせてバツ印を作る。


「禁術に関しては使い方を知ろうとするだけで犯罪ですよ」

「え、そうなんですか」

「私も知った後に知ったけどね」

 シャオは遠くを見ながら呟く。

 ああ、私も目が遠くを見てしまいそうだ。あの時の事は思い出したくもない。

 私もシャオも生きるか死ぬかの綱渡りだった。


「……とにかく、その事に関しては私達は話せないの。話したら捕まるし、話した相手の貴方も捕まっちゃう」

「凄い口止めもされましたしね」

 話したら今度こそ捕まえるからな、と。凄い剣幕で言われてましたね。


 私が出来たのはシャオがあの禁術の本を得た後なので、正直な所シャオがあの本を入手した経緯を見てはいない。しかしそれはとても信じられないような話だった。

 私は勿論信じてはいるのだけれど、それはあまりにも荒唐無稽な話であった。実際そうだとシャオは話すが何度も信じてもらえなかった記憶がある。

 何故ならシャオが貰ったという相手は、既に存在している筈のない相手だったからだ。

 だがそれくらいの相手でもなければそんな本を持っている筈がないというのもまた事実、シャオの必死な語りを何度か繰り返し、信じてはいないものの可能性の話として受け入れられたのである。



「てことで、最後の質問はこれにて終了ですね。お疲れ様でした」

「そんな!?」

「禁術に関しては調べてはいけないと書いておいて下さい。知らない人も多いみたいですので」

 事実としてシャオは知らなかったし、この客人も知らなかった。

 今後この客人のようにシャオに尋ねて来る輩がいないとも限らない、今後のためにもこういった情報を流しておいてもらえるのはとても助かる話なのである。これでようやくこの客人の相手をしたことでのメリットもできたというものだ。


「まぁ安心してください」

「おお?」

「お帰りのお見送りくらいはしますよ」

「そんな!?」



 ―☆―



 後日、校内の掲示板の隅に小さな記事が張り出される。


『接近! 禁術の謎に迫る!』


「大きく出ましたねぇ」

 そこには私達との会話がとてもとても大げさに書かれていた。


 魔法である人形は魔力の中を自由自在に移動する! 禁術はやはり禁術! 手を出せば心臓を食われる!

 合っているようで、合ってないようで。結果は合っているが過程が間違っている、全体的に見るとそんな記事だ。


「私の呪いの下り、訂正されてなくない?」

 見てみればシャオの呪いに関しては特に何も書かれていない。

 不思議な事もあるものだなぁ。


「やっぱり呪われるんじゃないですか?」

「どうでもいいけど、私だって傷つきもするんだよ?」

「うっそだぁ」

 シャオはここ最近の周囲の反応のせいでわりと図太くなっている。今更他人からどう思われようと顔色一つ変えないだろう。


「あ、どーもどーも! 記事はそこそこ好評ですよ!」

 記事を読んでいるとどこかで見たような顔が現れる。

 私とシャオは揃って首を傾げる。


「あれ? まさか忘れられてます? 嘘でしょ?」

「ところで、この記事私の呪いについて何も書かれてないんだけど」

 …………! それを聞くのはちょっとまずい。


「え? それに関しては帰り際に」

「ところで随分斬新なタイトルですね」

「でしょう!」

 その一言がきっかけとなり、どこかで見た顔の人は矢継ぎ早に語り出す。

 ふぅ、危なかった。


「コトナー?」

「ひぅ!?」

 危ないままだった。


「……黙秘します」

 私はシャオの鞄の中に引っ込む。

 もしかしたらばれてしまったかもしれない。私が客人の帰り際に、呪いに関しては触れるなと言った事が。


「あっ……もう、まぁいいけど」



 だって、シャオは怖がられてるくらいが私には都合が良いんだもの。





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