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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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間章 とある朝食の風景





「ふぉぉぉ……」

「ヒビはもう入ったから、そーっと、そのままゆっくり開いて……」

 私は両腕で抱えたソレを、ゆっくりと胸で押し上げるように開いた。

 ソレはぱきりと小さな音を立てて開き、その中身が容器へと零れ落ちた。


「やりました……!」

 コトナ式人形術、難度Sランクとされる技を私は今!

 成功させたのだ!


「シャオ! やりました!」

「うん! やったね!」


「私! タマゴが割れました!」





 突然だが私は人形である。

 名をコトナ、愛すべきご主人様から頂いた名前だ。


 私はご主人様であるシャオによって行使されている魔法である。

 それなのに私ときたら、未だにできる事がとても少ない。

 シャオの料理すら指をくわえて見ている事しかできない有様だ。


 これはよくない。

 シャオは気にしてないだろうが、私が気になるのだ。

 人形たる物、主人の世話くらいはできねばならぬ。

 その第一段階として、シャオの朝食作りを手伝っていたのだが……。


「思えば長い道のりでした」

そもそもこの体では手伝いすらキツかった。

 持てる重さはフライパンまで、全身を駆使してなおできる事が片手作業、それを眺めるシャオは気が気ではなかっただろう。

 手伝うどころか邪魔をしている気がするが、それは仕方ない。誰だって練習は必要なのだ、最初は大目に見て欲しい。


「初めは服が卵まみれになっちゃったもんね」

 ああ、あれはトラウマものだった。

 力加減に失敗して両腕で卵を砕いてしまったのだ。その結果卵は私の全身に降りかかった。    

 私には痛覚と言った触った物を感じ取る器官はない。しかし、だからこそだろうか、ねばねばと全身に纏わりつく液体というのは本当に気持ち悪かった。

 しかも本当に問題なのはその後である、今でこそ私の服は少しづつ増え初めているものの、あの頃私の服は当時着ていた一着のみだったのだ。


 一張羅、だったのだ。

 おかげで私はその服が乾くまで裸で過ごす事になった。

 服と同時に私自身も乾かさねばならないため、私には布一枚纏うことすら許されなかった。

 あれほど惨めだった時間はない。


「そういえばコトナが服に執着するようになったのもアレからだっけ……」

 シャオの目が薄く遠くなる。

 シャオは私に激甘なので、私の希望や願いは多少無理な事でも基本的に叶えてくれる。

 おかげでシャオは夜な夜な裁縫を勉強をするようになった。

 それから私の服は少しづつ増え初めてきている。


「更にもう直ぐ新しい服も手に入りそうで嬉しいです」

「前の依頼の報酬だっけ、それにしても驚いたね、あの魔導具」

「私も驚きました。触って気付いたのですが、あまりに要求魔力が少なかったので武器ではないとは思いましたけども、まさか玩具とは」

 そして起動の条件は《二人で起動する事》、これは一人で鑑定作業を行なう鑑定屋ではまず気付けないだろう。


「正直悩んだよね、これ本当に伝えていいのかって」

このままでは結局家宝がゴミから玩具に変わっただけ、それはそれでどうなのという話である。だから私は一度帰してシャオと相談する事にした。


「意図的に謎の魔導具としてた可能性が高かったですからね。で、悩んだ結果が丸投げと」

 これにはシャオも困った。ただ玩具の魔導具というのはとても珍しいので、これはこれでいいんじゃないかと、シャオは当事者だけの場で起動してもらう事で強制的に判断を委ねた。


「人聞きの悪い、本人達に判断を委ねただけだよ」

「だったら研究室で起動して見せても良かったでしょうに」

「いや、だって、これは何かの間違いだ! とか言われたら、困るじゃん」

「確かに」

 あれから結局どうなったのだろう? たとえ悪い結果になったとしても、依頼をそのまま叶えた私達に怒鳴り込んでくるような事はないだろう。良い結果になったのなら、次会う時は服のデザインでも持ってきてくれるだろうか。

 あんまり期待してないけど。



「何度も言ってるけど、無理に朝食作るの手伝ってくれなくてもいいんだよ?」

 朝食を頬張りながらシャオは言う。


「私がそうしたいからしているだけです、シャオのためじゃないです」

 私はテーブルの空きスペースに適当に座りながら答えた。

 私は主の世話くらいできる人形になりたいだけです。出来ないのと出来るのにやらないとは天と地程の差がある。


 それにこの子はなまじなんでも出来る癖に、自分のための事をサボりがちである。この朝食だって、私が手伝うと言わなかったら抜いていた可能性まである。

 この子には両親がいないため、それを叱ってくれる人はいない。


『――私の、家族になってほしい』

「…………」


「どうしたの?」

「いえ、ちょっと昔を思い出してただけです」

「昔の事? 少しでも記憶戻ったの?」


 私にはこの人形になる前の記憶が無い。

 この私にかかった魔法は、既に死亡した生物の魂を無作為に選び、対象に定着させる魔法だ。

 定着段階で既に会話が成立しているのならば高い確率で人間……らしいが、私にはその記憶が無いため真相は定かではない。

 記憶が無いのは今に限った話ではなく今後永遠にだそうだ、そもそも過去の肉体が存在しないため記憶が存在しないらしい。


「いいえ、ただこの前あった事を思い出してただけですよ」

 ついこの前の、私の、一番最初の記憶である。


「ほら、もうあまり時間ないんですから、早く食べて下さい」

「本当だ、なんでだろ」

「起こす私を捕獲してそのまま寝るからですよ」

 



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