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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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「で、なんでうちに来たの? 流石にここに迷い込んだなんて言わないよね」

 あれから私は彼女の研究室に通された。

 部屋の中央に大きなテーブルが一つ、それを囲むように椅子が五つ。私と彼女はその内の二つに座っている。

 そしてこの部屋の壁には、窓側以外本棚が壁を埋めるように置いてあった。

 その本棚の全ての棚に本が敷き詰めてあり、よほど本への思い入れが強いようにも感じる。


 そして彼女から発せられた一言はいきなり高圧的だ。

 それもまぁ当然かもしれない。私は彼女に面倒事を持ってきたのだから。


「キシシ、私はとっても万能ですが、私にしかできない事なんてあんまり無いんですよ」

 テーブルの上に座った人形が表情一つ変えないまま胡散臭い笑い声を呟く。

心を落ち着けてじっくりと観察してみるが、やはり、動いている。

 そこにタネや仕掛けはなく、手の平サイズの人間が正に息をしているかの様だ。

 見慣れない物を見て気負いしている私をどこか嘲笑っているかのようにも見える。


「コトナはコトナで何で変な笑い方してるの?」

「いやぁ、望まぬ客人とはいえ客人など珍しいですからね。人形たる物、私も人形らしさを出した方がいいかと」

 この人形の名前はコトナと言うのか。

 人形らしさ、とはなんだろう。浮くし喋るし、何処も人形らしくなどない気がするのだが。


「可愛いけど微妙に合ってない、却下」

「むう、難しい」

 この二人だけで会話が進んでしまっている、これはいけない。本題に入らねば。


「突然押しかけてしまってすまない、今日はコレの検証を頼みに来たんだ」

 私は鞄から一つの包みを取り出す。

 そしてそれをテーブルの中央に置き、包みを解いた。

 包みの中から無機質な楕円状の物体が現れる。

 それには大きな宝石の様な石が中央に一つ、楕円の端に小さい石が二つ埋め込まれていた。


「……依頼人ですか」

 シャオは私の置いた物を一瞥し、高圧的な態度を止め姿勢を正した。

 話を聞く気になってくれたのだろう。


「それで、これは?」

 シャオが私に問い掛けてくる。


「魔導具……である筈だ」

 私は答えた。


「であるはず、とは?」

 今度は人形の方が問い掛けてくる。


「コレの使い方が全く分からないからだ、故にコレを魔導具であるという証明ができない」

 魔導具、それは昔突如として現れた魔法道具である。

 人類は昔、戦争をしていた。

 敵は異形の生物、当時魔族と呼ばれていた存在だ。

 彼らはこの世界の中心に突如現れ、瞬く間に周囲を支配していった。

 人類は戦ったが、敵の謎の技にとても苦しめられた。


 それが現在で言う《魔法》である。

 人類はその技を模倣する事に成功し、科学と魔法を駆使して戦い、見事魔族に勝利した。

 しかし魔法を使う事はできても、その仕組みについてはさっぱりだった。

 それは現在に至るまでずっと研究されてきたが、未だに解明できたとは言いがたい状況だ。

 そして戦争があった地域には、その魔族が戦争で使用していたと思われる道具が極稀に落ちている。

 それが魔導具だ。


 それは魔法の先にある技術で造られており、未だ魔法の殆どを解析できていない人類には手に余る代物だった。

 魔族はそれを巧みに使い戦っていたらしいが、人間にはその使い方すら分からない有様である。おかげで起動方法が分からず、魔法を使って起動するまで色々虱潰しに試すしかない。

 用途が分からない物は大体均一の値段で、用途や使用法が判明したものはその効果にもよるが、とても高く取引される。


「魔導具の基本的な使い方はもう試した、鑑定屋にも行った、だがコレは起動しなかったんだ」

 魔導具を起動する方法は様々だ。

 ただ魔力を通せば起動する物、火、水、風、土など必要な属性がある物。

 環境下によって使える物、つまりは日中、夜、水の中、土の中、空中など。

 一番最悪なのが呪文によって起動する物である、こればっかりはどうしようもない。


「だから、魔導具っぽい私の所に持ってきてみたと」

 人形が私の気持ちを汲み取り、代弁してくれる。

 表情一つ変えず己を皮肉るその姿はどことなく怖い。


「コトナ」

 そのシャオの一言に人形……コトナは驚いたように体を震わせた。

「怒るよ?」

「ごめんなさい」

 一言、シャオがそう言った瞬間コトナは即座に謝罪した。

 一体何なのだろうか、どこに謝罪する要素が、どこに怒るような要素があったのだろうか。


「言っておきますけど、うちでは鑑定屋以上の鑑定はできませんよ?」

「分かっている、元より藁にも縋る思いでここまで来た。その人形に少しでもコレに何かを感じてくれればそれだけで十分だ」

 鑑定してくれ、なんて贅沢は言わない。せめてヒントがあればいいのだ。そこから先は私が頑張ってみせる。


「ふむ、そこまでしてこの魔導具に拘る理由はなんですか?」

 確かに言うとおりだ、確かに鑑定できればその効果によって魔導具の価値は跳ね上がるが、私の持って来た物の様に鑑定不能の魔導具は世界に数多くある。

 それらは適当な市にでも行けばとても安価で取引されている、魔導具は珍しいが、効果が分からなければただのゴミだ。

 だが私はこの魔導具をゴミにしたくない理由があった。


「これは、家の家宝なんだ」

 私は正直に言った。


「鑑定不能なのにですか?」

「こら」

 人形は言いにくい事をはっきりと言う。

 そう、我が家の家宝は家宝でありながら鑑定不能、つまり現状ただのゴミなのである。


「これは特別な魔導具で、昔祖父が命懸けで得た物なんだ」

 祖父は名高い備兵だった、今でこそ魔族との戦争は勝利し平和になったが、祖父が若かった頃はまだ魔族の残党が各地に残っていた。


「祖父が現役の頃の話だ、森の中で魔物を狩っていた祖父は偶然森の中に小さな小屋を発見したんだ。身を隠して木窓から中を覗くと、中に二人の魔族がいたらしい。祖父はその魔族二人に奇襲をかけ二人を一刀両断にした……らしい。この魔導具はその時の二人が持っていた物らしいんだ」

「それは……凄いお祖父さんだったんだね……」

 シャオが半信半疑な表情で答える。


 気持ちは分かる、正直私も信じられない。魔物ですら人間が一人で戦うには手に余る相手なのだ、その格上である魔族は言うまでもない。

 その魔族相手に奇襲とはいえ二対一で勝利したなどと妄言としか取られないだろう。

 私も初めは信じられなかったのだが、こうして魔導具を持ち帰り、家宝にまですると言い出しているのだ。ならば信じてやるのが家族というものだろう。


 しかし、しかしだ。

 それが現状ゴミであるというのは、とても容認できない。


「このままでは我が家の家宝がただのゴミになってしまう。しかも他の魔導具ではなく、祖父が勝ち取ったこの魔導具でなければダメなんだ。だから頼む、この魔導具の鑑定をお願いしたい」

 できれば祖父が生きているうちに、と心の中で付け足した。







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