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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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ゴミの価値

 



「ここよね……アイツの研究室って……」

 この学校には成績上位者のみに与えられる研究室というものがある。

 この国は魔導大国と呼ばれているが、それでも私達は魔法に関して一割すら理解できていないという有様だ。

 故に研究しなければならない、故に優れた魔法の才能を持つ学生はまさに金の卵と呼んでも差し支えない程の価値があった。

 学校はその才能を十二分に生かせる環境を用意し、その研究のためなら支援を惜しまない。

 その結果与えられるのが研究室だ。


「でもやっぱりこれは異質過ぎるでしょ……」

 現在研究科の研究室持ちは六人。

 私は今その内の一人に会いに向かっていた。

 研究室持ちはどれも個性的で取っ付きにくい人間が多いが、今回会いに向かっている一人は六人の中でもずば抜けて異質。


 禁術使いのシャオ。


 他の五人は正当な評価の上で研究室を与えられたのに対して、そのシャオという少女は禁断の方法で研究室を得た。

 それまでは才能の無かったただの女の子が、だ。

 その女の子は禁術と呼ばれる危険性の高い魔法を成功させ、一瞬にして成績上位者に返り咲いた。

 とんでもない話である。マネする気にはなれないが。


 禁術とは何か、辞書には極めて危険度の高い魔法とあるが、そもそも魔法はどれも危険性が高い。中級の魔法に至ってはその殆どに殺傷性がある。

 にも関わらずそれらは禁じられるまでには至っていない、つまり禁術はそれ以上の危険性があるという事だ。

 禁断症状を起こすもの、謎の中毒性をもたらすもの、不可解な死を遂げるもの。禁術にも色々あるが、そのシャオが使ったのは、発動時に危険性のあるタイプ。

 失敗すればほぼ死ぬだろうと呼ばれている魔法。しかもその魔法の恐ろしい所は術者の腕を問わない所だ。

 どんなに腕の良い魔法使いだろうが、天才だろうが全く関係なく、必要なのは運。

 運が悪ければ死ぬ、そういう魔法だ。

 しかも下手をすれば死ぬのは本人だけに留まらない、周りにも被害を及ぼす可能性があった。

 故に、禁術である。


 そしてその禁術を成功させれば多大な恩恵が……なんて思うかもしれないが、そんな事はない。

 もちろんその危険に見合ったメリットがあるのが禁術の殆どなのだが、今回シャオが使用した禁術はその限りではなかった。

 むしろデメリットの方が多いだろう。しかも魔法使いとしては致命的なデメリットだ。

 禁術で、危険で、しかもデメリットしかない。いや、使ったのだから本人には何かしらのメリットがあったのだろうが、それでも普通の魔法使いならば絶対に使わない魔法だった。


 しかしシャオという女の子はその魔法を使い、しかも成功させた。

 世間は禁術を使った事を強く糾弾し、罰するべきだという声も多かった。

 しかし魔法の研究家達はそれに頷くことはできなかった、むしろそれを強く止めた。

 シャオが禁術を成功させて得た物は確かに実用的なものではなかったが、魔法の研究対象としてだけなら恐ろしく価値の高い物だったのだ。

 これはその後発覚した事だが、その物は並の魔法使いでは使用する事はおろか、維持することすら困難である事も分かった。


 禁術で、危険で、デメリットが多く、しかも成功しても維持できるか分からない。

 こんな希少な魔法を破棄するだなんて、とんでもない! と研究家達は憤った。

 やがてそれは一騒ぎとなり、その騒ぎはこの国の王の耳にも入った。

 この国の王は他国との差をつけるため、科学や産業よりも魔法の研究に一番の力を入れている。故に魔導大国だ。

 そんな王が、そんな希少な魔法を破棄する許可など出せる筈がなかった。

 故に王は救済案を出した。


 己の命よりも価値のある研究成果を出せば、無罪放免とする。

 期間は学生である間のみ。


 これが《シャオ・テイルニール》という一人の女の子に与えられた試練だ。

 彼女は現在中等部の二年だから、そこに中等部の三年目と高等部の三年間を足して、残りの期間は四年と数ヶ月。

 これを長いと見るか、短いと見るか。

 私だったら短いと見る、人の命は儚いが、高いのだ。五年程度で買えるものだろうか。


「なんでこんな辺鄙な所に……」

 世界の研究家達が涎を垂らして欲しがるほどの研究対象を得た彼女に、学校は即座に研究室を与えた。

 しかし、彼女はまだ罪人だ。そんな彼女に他の成績優秀者同様の扱いをするのはいかがなものか。そういう声も上がった。


「その結果が、これですか……」

 私は寂れた木造の階段を一歩づつ上がっていく。

 私は現在、この学校の廃校舎にいた。

 老朽化した木造の校舎の階段は、一歩上がるたびにキィキィと嫌な音を立てて軋む。

 その後に出来た校舎の影響だろうか、日が差しにくく、昼間だというのにどこか薄暗い。


「床抜けたりしないよね……?」

 ここは廃校舎だ、何が起きてもおかしくはない。

 そもそも廃校舎は当然廃棄されるだけの理由があっての廃校舎なのだ。新しい校舎造りたいなー今の校舎捨てちゃえー、なーんて短絡的な思考で校舎が捨てられるはずがないのだ。

 そもそもこの学校は、元々有った普通の学校の土地を広げ、そこに新しい学校を建てて魔法学校としたと聞く。つまりはここはその元々の学校だろう。最新の技術で作られた若干の高級感のある本校舎とは違い、ここはよくある普通の木造の校舎である。昔はここも利用されていたらしいが、今は一切使われずずっと放置されている。その使われなくなった理由とはなにか?

 考えられる理由の中で最も有力なのが老朽化である。廃棄され、それから取り壊されるでもなく放置を続けられているこの校舎は正に、いつ床が抜け落ちてもおかしくない状態なのである。


「ひぃ!?」

 何か横で物音がしたような気がした。

 しかしそこには何もない、気のせいだった。

 何故昼間からこんな肝試し染みた事をしなければならないのか、それは当然この場所に用があるからである。

 私は彼女に用があるからだ、この廃校舎の二階に研究室を持つ、彼女に。

 禁術使いのシャオに。


 彼女を成績上位者と一緒の扱いをするのはいかがなものか、お偉いさんが悩んだ結果がこれである。

 彼女には廃校舎の二階の一室が宛がわれたのだ。

 既に寂れて誰も使わなくなった部屋を持つくらいならば、誰も文句はないだろうと。この廃校舎に白羽の矢が立ったのである。


「ひぃ! もう、何かいる気がするよぉ……」

 また物音がした、気がした。

 いや、実際にしたのだろうか。何分この校舎は古い。強風でも吹けばたちまち何処かが軋むだろう。その音かもしれない。


「実際いますけどね」

「きゃぁあああああ!!」

 耳元で誰かに囁かれた!?

 私は愚かにも悲鳴を上げてしまう。


「あらあらあらすいません、驚かせてしまいました。キシシ、キシシ、キシシシシ」

 何かいた、よく分からない物がいた。

 空にふわふわと、人形が浮いていた。

 謎の笑い声を呟きながら、人形が浮いていた。

 口では笑い声を上げているが、顔はまるで笑ってなどいない。むしろ表情一つ変えていない。


「でも謝りません、もとよりこちらは歓迎などしてないのですから。ここまで来る人の理由はほぼ一つ、私に用があるのでしょう?」

 人形は空中で横にくるくると回りながら私に問い掛ける。

 そう、実はそうなのだ。

 正しくは私は禁術使いのシャオには用はない。その禁術そのものに用があるのである。

 禁術、エリスグリヴァーゼによって生み出された魔法によって動く魔法の生命体。

 現在この世界でただ一つ、世界の魔法研究家達が喉から手が出るほど欲しがる程の希少な存在。

 魔導生命体《魔導人形》に用があるのだ。


「今の叫び声なに!?」

 その後二階の一室から一人の女の子が飛び出した。 





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