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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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地獄の船




 とある休日の出来事である。

「やだー! ばかー! あほー!」

 私は自宅で暴れていた。

 勿論何の理由もなく暴れているわけではない。

 それだけの、出来事が、あったのだ。

 話は数分前に遡る。



 ――☆――



「ふんふふーん」

 シャオが鼻歌を歌いながら部屋の掃除をしている。

 今日の朝、部屋の外の天気を見るや否やシャオが突然言い出したのだ。

 部屋の掃除をしよう! と。

 少々驚いたが、家事をサボりがちなシャオが自分から掃除を言い出した事はとても喜ばしい。是非ともそうしましょうと賛成した。


「随分とご機嫌ですね」

 そして家事全般を面倒くさがるシャオが、家事中にご機嫌なのは珍しい。

 何か良い事でもあったのだろうか?


「ちょっとねー、今日は天気もいいしー」

 確かに、今日は日差しが強く暖かい。良い天気だと言える。

 だがそれだけだ、ただ天気が良いだけでシャオの機嫌が良くなるとは考えにくいが……。

 ……なにやら違和感を感じる。


「ふふーん、あ、コトナ、そっちの高い所お願い」

 シャオから小さなハタキを渡される。小さいハタキと言っても私よりも全長が長いので両手を使って全身で持たないと上手く扱えない。

 身長こそシャオの方が圧倒的に高いが、私は3mまでなら自由に、壁伝いならどこまでも体を浮かす事ができる。シャオの手の届かない所も私なら手が届くのだ。

 私は言われた通りシャオの届かない棚の上をはたいていく。


 んん、これにも違和感を感じるな……。

 シャオが私にも仕事を割り振る事自体は問題はない、しかしシャオは掃除など普段は目に見える範囲しかやらない。いつものシャオなら棚の裏や、ましてこんな高い棚の上には手を出さないのだ。

 おかしい、絶対にどこかおかしい。

 シャオは見たところ元気だが、一応熱でも測っておこうか……?


 私は高い所をはたき終え、普段の高さまで移動する。

 するとベランダからの強い日差しが当たり、一瞬目が眩んだ。

 ホントに今日は日差しが強いなぁ……ん?

 ちょっと待て、おかしいぞ!?

 何故何も日差しを遮っていない?

 これはカーテンの事ではない、日差しが強いと言ってもまだ午前だ、当然カーテンは開けてある。

 おかしいのは、何故洗濯物が出ていないのか、だ!

 今日は掃除日和などではない、絶好の洗濯日和なのだ! 最近は連日雨続きで洗濯物が溜まっている。そんな日に洗濯物を干さず、掃除を優先しているのはおかしい!


 私はハタキをテーブルの上に放り投げ、洗濯機のある洗面所に急いだ。

 するとそこには詰まれた洗濯物、しかしそれらは洗い終わった様子はなく、そして洗濯機は稼動すらしていない。

 だが私の目にそれは入らなかった、もっと衝撃的な物を見てしまったからだ。

 それはその洗面所の先、モザイク模様の擦りガラスの付いたドアの先の異変。



 朝から、風呂が、沸いている……ッッ!!



 シャオは別にお風呂好きというわけでもない、入るのは毎日夜寝る前だけだ。そのシャオがわざわざ朝にお風呂を沸かすなんてなんらかの意図があるに違いない。

 呆然とする私に、背後から一つの影が忍び寄る。


「……ッ!」

 その影は背後から私に鋭い突きを放って来た。

 私は即座に身を反転させつつ、その一撃を回避する。


「気付いてしまったようだね?」

 当然、その影の人物はシャオだった。その突きはシャオの手刀による突きであった。

 危なかった、あの一撃を受けたら私は即座にシャオによって捕獲されていただろう。

 何故シャオが私に攻撃を仕掛けて来るのか? 単純な理由だ。

 シャオは変態なのである!


「出たな変態! あっちいけ!」

 私はシャオに罵声を浴びせる。


「変態じゃないもん! 普通だもん!」

 ハッ! 変態は皆そう言うわ!



「普通だよ! 家族とお風呂に入るくらい!」

 コレがシャオの言い分である。



 事の発端は私の構造にあった。

 私は動く人形だ、普通の人形とはわけが違う。

 当然普通の人形とは違い、色々動いたりするので汚れ等も出てくる。

 しかし私の体は魔法の木材というよく分からない物と、頭だけ陶器でできているらしい。

 最近の人形は全身が陶器だったり、なんかよく分からない物でできてたりするが、私はシャオが子供の頃に買われた物で、この国にあまり人形文化がなかった頃の話である。今となっては私のようなタイプは珍しいのかもしれない。


 そしてこの魔法の木材と魔法の陶器というのがまた便利で、本来曲げられない部分にまで関節を曲げられるようになったり、本来顔は動かせないであろう私が、口を開けたり目線を動かせたりする。

 そしてあくまで体感的にだが、汚れにも強い気がする。


 だから私はシャオに私を洗う必要は無いと主張した。

 だがシャオはそれは流石に良くない、女の子なのだから清潔には気を使うべきだと反論。

 私は自分の性別を知らない。しかし今私は女性ベースの人形に宿っている。ならば確かにシャオの言い分も理解できると、しぶしぶ私の体の洗浄を了承した。


 しかし、それは間違いだった。絶対に了承してはならなかったのだ。

 初めは私の体を洗うだけなのに何故お風呂が沸いているのだろう? と、その程度の疑問しか抱かなかった。故にシャオに、私も洗ったほうが一石二鳥でしょ? と、適当な理由にあっさりと納得してしまった。

 もっと疑問を持つべきだったのだ、そこで逃げ出すべきだったのだ。


 その後私はシャオによって湯船に沈められたり、泡まみれにされたりおもちゃのアヒルの上に乗せられたりと散々な目に遭った。

 私と風呂に入れることがそんなに嬉しかったのか、その時のシャオは恐ろしくハイテンションで、シャオがはしゃぐたび私は酷い目に遭った。


 以来、私にお風呂は禁止ワードとなった。


 二度と風呂など見たくない、そう思っていた私になんとシャオは悪びれる様子無くあろうことか次の日も私をお風呂にと誘ってきた。

 私は断固拒否した、全力で拒絶した。あの日私は痛感したのだ、私は水に弱い、と。

 体に水が沁みると体を満足に動かせなくなる。当然だ、水が沁みた私の体は普段の倍近く重くなるのだ。

 挙句、その体が乾くまで私は日向でずっと裸でいなくてはならない、何時間も、だ。


 ふざけるな。


 私はこの身を以て実感したのだ、水が染みきった木はとても乾きにくい、と。

 百歩譲って、私の体が汚れた状態であるならば仕方ないと思う。

 しかし、ただシャオを満足させるためだけにお風呂に同席するなどありえない。論外だ。


 私は逃げ回った、一日中ずっとシャオから逃げ続けた。

 私は信じていた。これだけ嫌がりを見せれば、シャオも考え直してくれると。

 私に激甘なシャオならば、なにか別の方法で私を洗ってくれるだろうと。

 その結果。




 シャオは何故か知恵をつけて帰ってきた。



「私に掃除をさせて私を汚しにきましたね!」





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