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人形たるモノ  作者: 未来遡行
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魔力は水よりも濃く





 人は繋がりを大事にすると言う。

 それは血の繋がりなど明確に分かるものから、友達同士の繋がりなどと曖昧なものまで含む。

 私にはまだ理解しきれてはいないが、それはとても尊い事で、人の美徳であるとも思う。

 私の主もまた、人との繋がりを大事にしている。むしろ人一倍大事にしているとも言えるだろう。やはり昔の事件が主な原因だろうか。

 かと言ってだ、これは少しやり過ぎというものではないだろうか?




 とある集合住宅の一室。一人暮らしには広すぎる、かといって家族で暮らすには狭い部屋。

 窓の外から小鳥の囀る音が聞こえる。

 それでパチリと、私が起動した。

 私の朝は大体早い、大体というのは起きる時間がいつも曖昧なためだ。

 私は僅かな物音で目が覚める。そういう風にしか、眠れない。

 私は周りを確認する。

 家の家具は質素な物で揃えられ、使い古されている。若干傾きのある家具や少し欠けた家具が目立つ中、最近流行の家具等は一つも見当たらない。つい数ヶ月前に壊れて買い直した家具ですら中古品で既に貫禄がある。

 これが女子中学生の一人暮らしの部屋とは、我が主とはいえ意識改革が必要だろうか?

 眠る……というよりは停止したのは久しぶりの事、今回は気持ちよく起動出来た。今回の様に鳥の囀りで目が覚めるのは気分が良い。

 酷い時は夜中に野犬の吠える音などでも起こされる。

 もっとも酷い時は……この主の寝言だろうか?

 私は今ベッドの横に置かれた棚の上いる。

 そしてそのベッドにはこの私を造った主が眠っていた。

 ああすまない、そういえば言い忘れていた。



 突然だが、私は人形である。



 私は主と違って目覚めがとても良い。というか寝ぼけるなんて事自体ありえない。

 冴えた頭で今日の予定を確認する。

 今日は学校は休み、ただ買出しがいくつかと、明日学校で提出するレポートがまだ終わっていない事ぐらいだろうか。

 これくらいの予定ならばまだ寝かせておいてもいいだろう、そう思った矢先だ。


 立ち上がろうとする、が上手く立ち上がれない。私の自慢の球体関節が曲がらなかった。

 私は自分の体を見て思い出す、ああ、そうだった。

 私の体は糸でぐるぐる巻きにされていた。


 この主こと、シャオは人との繋がりを人一倍大事にし。尚且つこの私に至っては人十倍近く大事にされる。

 その結果が、これである。


 昨日ちょっと喧嘩したらこんな風にされてしまった。

 そして私をこうした本人は謝罪はおろか悪びれる様子すらなく眠ってしまった。

 この主は私が離れる事を極端に嫌がるのだ。

シャオが眠るのを確認して、夜中一人で出掛けようとしていたら誤って起こしてしまった。そして外出を叱られ、ぐるぐる巻きの刑である。

 黙って出掛ける私も悪いのだが、どうせ告げてもシャオは許可してくれない。黙って出掛けるしかないのだ。

 なんでこんな人形を、なんて最初は言ったりもしたものだ。だがそれについてはかなり本気目に怒られたので二度と口にしないと決めている。


 だからと言って、これはやり過ぎだろう。

 ちなみにこの糸は、私専用の魔法で作られた糸である。

 私専用と言うよりは、私にかけられている魔法専用と言うべきか。

 禁術『エリスグリヴァーゼ』だったかな?

 この糸はその魔法の付属品……じゃなく付属魔法で、主が私に、私の動力源たる魔力を流すための糸だそうだ。

 私の体は人間とは違い、魔力を動力源とする。それも私に魔法をかけた本人である主の魔力に限られる。主からこの糸を経由して私にじわじわと魔力が充填されるのだ。

 私と主以外には触る事も出来ないし、何かに絡まる事も無い不思議な糸である。今はそれを逆手に取られて、私は絡まされている。

 この糸で魔力を補充しないと、私は大体二十四時間で停止する。

 私を維持するための魔力はとても膨大らしいが、私が魔力切れで停止した事は一度も無い。

 この身軽で小さいエコボディ故に消費魔力が少ないとみるか、それともこの不幸な天才少女の為せる技か。


「すやぁ……」

 お気付きだろうか? この少女は眠っているにも関わらず、私を魔法で縛っているのだ。

 あの魔法を成功させたシャオからすれば意識しなくても使えるような魔法だが、だからといって本当に意識無しで維持できるような魔法ではない筈だ。

 この少女は天才である。

 しかし、才能はない。

 悲しいかな。


「しかしまぁ今日もむかつく寝顔ですね」

 別に動けたからといってする事などあまり無いが、それでも動けないのはやはり不服である。

 即時待遇改善を要求する。

 と、いうことで。


「てりゃ」

 私は縛られたままシャオの布団へ飛び込んだ。

 投げ出された私の体は若干の放物線を描いて、落下による若干の加速を得てシャオの腹部付近に激突する。

 しかし悲しいかな、私は身軽で小さいエコボディ。身長はものさしくらい、体重はティーカップぐらいとか言われた。

 そんな私が身投げしてもシャオに衝撃を与える事はできず、ただ毛布の上にぽふりと埃を立てて沈むだけであった。


「むにゃむにゃ、まだまだ食べられるよ……」

 挙句余裕の寝言まで言われる始末。

 私の主は寝つきが悪いせいか、眠りが深く寝起きが悪い。

 やはりこの程度では起こすどころか睡眠妨害すら適わんか。


「まぁ私飛べるんですけどね」

 私は自身の体を天井近くまで高く浮かせ、そのままその浮力を反転させて、毛布目掛けて突っ込んだ。


「ごふゅ!?」

 突然だが、私は飛べる。というより浮ける。

 高さは地面から2mくらいまでだろうか、更に壁に沿って飛べばどこまでも浮いて行ける。

 これはとても便利な機能で、問題があるとすれば魔力の消費が若干増える点くらいだろうか。ただ今は現在進行形でシャオからの魔力供給を受けているので問題は無い。

 なんで浮けるの? と問われれば、未だ解明されていない、と答えるしかない。

 ただ、推測はされている。

 そもそもの話、私が浮けることなんかより他の普通の魔法の方がずっとずっと異常なのだ。

 最たる例で言えば、四属性の内の一つ、土属性だろう。

 アレなんて、私よりもずっとずっと大きく、ずっとずっと重い土の塊を浮かして操る事ができる。

 それに比べれば私が浮ける事なんて、とても些細な事だと思わないだろうか。

 私はそう思う、実際私にはどうでもいい。便利なのだから。


「ど、どうしたのコトナ?」

 やっと起きてくれた、我が主さま。


「おはようございます、シャオ」

 さぁ、糸を解け。





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