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妖精ミース

喋り過ぎな気がしますが、説明なので大目にみてください。

「「ただいまー」」


 二人揃って言うと奥から。


「お帰りなさい」


「おかえり二人共」


 白髪の綺麗な母と、大人しそうな青髪の父が出迎えてくれた。


「洗礼は無事にできたようだね」


 笑みを浮かべた父さんが聞いてきた。


「まあね。特に問題はなかったよ」


「そう、それは良かったわ。それで? 朝食を待てないほどに楽しみだった洗礼の結果はどうだった?」


 皮肉かな? 母さん。待てなかったけれども。


「とりあえず内緒にすることにした」


 嫌味を少し含みつつ、司祭さんの忠告通りにした。


「そう、それが賢明ね。自分のためにも、相手のためにもね」


 なら何故聞いたし。


「ここでさらっと言うようなら、殴ってやろ––––いえ、教育しようかと思ってたんだけどね」


 怖! 司祭さん、心からありがとう。


「ミリア、君の拳だと冗談でもライクが死んでしまいかねないからやめような」


「そんなことする筈ないでしょ、心配性ねラフは。殴っていたとしても精々骨が折れる程度の痛みに留めていたわよ」


 骨が折れる痛みは結構重傷だとおもうのだが……まあ、俺達の親は基本こんな感じだ。どちらも冒険者をしていて、冒険者をする時は破壊しながら突き進む武道で言う剛の人で、叱る時は静かに怒り殴るタイプだ。父のラフはそれを抑える柔といった感じで、怒らず優しい人で、戦いも繊細というか技術で戦うタイプだ。ちなみに、家が無駄に大きいのは冒険者として有名な母さん達が功績を残したらしく、イザの父さんであるリウム伯爵がくれたらしい。


 そして、二人の仲睦まじい? 様子の中アリスが言い出した。


「それよりお父さん、お母さん。私、兄さんの旅について行きたい」


「いいわよ」


 即答だった。

 いや、ちょっとは考えようよ。母さんらしいけど。


「え、ミリアそんな簡単に決めなくても」


「じゃあ、反対するの?」


「いや、反対はしないけど」


「ならいいじゃない」


「いいの?」


「問題ないわよ。ライクもアリスも十分鍛えたし、外でもやっていけるはずよ」


「まあ、そうだね。そもそもライクが出て行くと言っていた時点で、一緒に行くものと思っていたしね」


 あれ? 父さんまで当然のように言うとは意外だ。


「あら、なら何故考える必要があるの?」


「確信があったわけじゃないからね。改めて言われて考えてみようと思っただけだよ。それに、考えようとしただけで反対しようとは思ってなかったよ」


「無駄な手順をとるのね、反対しないなら即決でいいじゃない」


「大切な家族に関することは慎重になるものだと思うけどね。ミリアが特別なんだよ」


 なんかちょっと不穏な気配が……


「お母さん、お父さん。信頼も心配も嬉しいよ、ありがとう」


「……まあ、楽しんできなさい」


「……色々気をつけるようにね」


 アリスがうまく逸らしてくれた。

 ふう、仲良いんだけど喧嘩も結構するから子供からしたら困ったもんだ。


「じゃあ、アリス。そろそろ才能の確認しよう」


 俺はいい加減早く知りたい一心で、ウズウズしていたので、自分の部屋の二階に向かおうとしたら。


「待ちなさい」


 母さんに止められた。

 嫌がらせかな?


「なに? 早く確認したいんだけど」


「昼飯も抜くつもり?」


 あ……


「あなたのことだから、才能やらのことで考え込むでしょ。あなたが昼飯抜くのは勝手だけどアリスを巻き込まないの」


「お母さん、私なら別に––––」


「ああ! そうだった。まずは飯食べないとな」


 危ない、アリスに気を使わせるところだった……こういう気遣いは俺からしないとアリスは際限なくやろうとするからな。

 これは後で––––


「教育ね」


「……はい」


 俺は母さんの教育を受け入れる覚悟を固めていた。




「兄さん、顔どうしたの?」


 俺は昼食を食べて母さんの教育(鉄拳)を受け、才能を確認するためにアリスを連れて自分の部屋にやってきたところで、俺の少し腫れた顔についてアリスに聞かれた。


「いや、軽く鍛練をな」


 母さんの鉄拳を受けたなんて言うと無駄に心配させるので軽く誤魔化しておく。


「ああ、お母さんと一緒に庭に行ったのはそのためだったんだ。避けきれなかったの? 兄さん軽く当たるだけでもそれくらい傷付くもんね」


 アリスは、俺が母さん達の鍛練で傷付くことはそれほど心配していない。例え母さん達でも、俺にまともに攻撃を当てることはできないし、手加減もしてくれるからだ。

 イザの時はアリスもビックリしただろうなぁ、とは思っている。攻撃を当てられたこともそうだが、俺がまともにくらったことによる怪我は重傷ばかりだったので、大怪我をしたかもしれない! という思いから衝撃を受けたんだろう。結果、冷静さを失ったんだと思う。


「そうなんだよな、才能次第で何とかしたいところだ」


 アリスの心配事を減らすためにもこれは切実だ。

 そして、部屋に入りお互い座ったところで早速切り出した。


「確認するか」


「あ、兄さん。特殊な能力がないかは女神様に祈って、確認する必要があるって言ってたよ」


 え? 女神様に教えてもらうのか、いけるか?


「教会から離れて大丈夫なんだろうか」


「女神様に何かして貰うわけじゃないから、大丈夫って司祭様が言ってたよ」


「そうなのか。とりあえずやってみるか」


 また誰かが話してくるのかな? などと考えながら、座って目を瞑り軽く祈ってみた。


 ……すると突然、能力を扱うための知識を理解させられた。何を貰ったのか、何ができるようになったのかを。概念魔法? と言うらしい、少し複雑な内容だった。


「え!?」


 アリスが何か驚いているが、情報が多かったのか少し疲れたので、目を瞑ったまま床に寝転び、目を開け天井を見ると––––


「……?」


 人? がいた。俺の目の前にフワフワと浮きながら、俺を上から眺めていた。

 突然、人? が現れた驚きよりも、俺はこの角度だと見えちゃうなー、気にしないのかなー? などと考えていた。

 と言うのも相手がスカートだったからだ。だとするなら見えてしまうのは決まっている。なので、とりあえず提案してみた。


「見えてるが、隠さないのか?」


「? ……っ!?」


 首を傾げたらと思ったら、顔が真っ赤になってベッドの下に隠れてしまった。

 すると、座り直した俺にアリスから軽くチョップを受けた。


「兄さん……デリカシーなさ過ぎ、あんな小さくても女の子だよ」


 その言葉に対して俺は、何も言うことはできなかった。

 そして、アリスが小さいと言ったがそれは小さい子供と言う意味ではない。おとぎ話に出て来るような、手のひら程の小人と同じくらいの大きさだったのだ。そして、羽根があり飛んでることから、妖精と言った方がしっくりきた。


「それよりアリスは驚かないのか? あんなの見たこと無いぞ?」


「最初は驚いたけど、兄さんが平然としてるから今は冷静なだけ。あと、あんなのとか言わない、あんなに可愛いのに」


 そんなもんか?

 しかし、可愛いとか言ってる割には警戒はしているみたいだな、正体不明の生物だし当然か。

 とりあえず害をなす気は無さそうなので、意思疎通ができるか試してみるか。流石にスカートの一件だけではわからないし。


「あー、すまん。悪気はなかったんだ、言葉が理解できるなら出てきてほしいんだが」


 少しするとベッドの下から顔を出して、こちらの様子を見てから、少し顔を赤くしてスカートを抑えながら俺の目の高さまで飛んで来た。

 やっぱりあの反応はスカートの中を気にしての反応だったのか……

 しかし、改めて見ると、見た目は羽根が生えていることと、小さいこと以外は普通の人間と同じ姿だった。

 見た目は子供以上、大人未満と言ったところで、髪はロングの淡い紫色で、容姿もかなり良く、大抵の男は目を惹くだろうと思った。


「えーと、出て来てくれてありがとう。改めてすまなかった」


 俺が座ったまま頭を下げると、妖精っ子が突然慌て出した。そんなことしなくてもいい! とでも言っているようだった。

 それでも声などは聞こえないことから、こちらの言葉はわかるが喋れない? と考えた。


「うーん、何とか正確に意思疎通ができないかなぁ」


「兄さん、文字はどう?」


「可能性は低そうだが、試してみるか」


 可能性が低いと言うのは、文字を覚えるためには基本的には親に教えてもらう必要があるからだ。この妖精っ子が人間に育ててもらったとは思えなかった。

 俺は簡単な文字を書いて、理解できる? と聞いて見たが、妖精っ子は首を横に振った。


「やっぱり無理か、どうしたもんかなぁ」


 俺が頭を悩ませていると、妖精っ子が俺に近づいて俺の腕を指差してから、腕を出す動作をしてきた。


「俺の腕を出せってことか?」


 妖精っ子は頷いた。

 このタイミングで言って来るってことは、意思疎通のための手段か? 言う通りにしてみようとすると––––


「兄さん、大丈夫なの?」


 アリスが心配そうに言ってきた。

 まだ、警戒しているようだ。まあ、可愛い見た目をしていても正体不明だからなぁ、俺の判断基準は直感だから不安に思うのも当然か。でも、外れたこと無いしな、外れていたら経験として次から気を付けるつもりだ。


「大丈夫だ、信用していい。だけど万が一があったら助けてくれ」


 俺も直感が絶対だなんて思ってない。情けないが、もしもの時はアリスに何とかしてもらおう。


「わかった」


 アリスは深刻な顔つきになっていたが、嬉々とした気持ちがダダ漏れだった。

 頼られただけで喜び過ぎだろ……大丈夫だと信頼しているが、別の意味で不安になってくる。


 そんな心配をしていると、妖精っ子が俺をつついてきて「終わった? やっていい?」とでも言いたげに首を傾げていた。


「ああ、すまん。よろしく頼む」


 俺は妖精っ子に右腕を差し出した。妖精っ子もそれに続いて自分の手を出すと、妖精っ子の手が光を纏い始めた。そして、その手で俺の手の甲に何かを書き始めた。

 そして、妖精っ子が書き終わると、光で魔法陣のようなものが描かれていた。


 その魔法陣に何か見覚えがあるような? と思っていたら、洗礼の時に見たのと似てると思った。

 神様と心で喋っていたように心で話すつもりなのかな? と、考えていたら。


「(聞こえていますか?)」


 おお、やっぱり心で会話する感じか。


「(ああ、聞こえてる)」


「(あれ? この会話方法に驚かないんですね)」


「(まあ、経験があるから)」


「(そうですか、なら話が早いですね。今、会話できているのは最終確認のようなもので、一時的なものです。その間に契約を終えないと会話はまたできなくなります)」


 契約ってのはよくわからんが、まあいいか。


「(そうか、じゃあ頼む)」


「(え?)」


「(だから、契約してもいい)」


 何故か疑問に思われたので二度言う。

 会話するために必要なんだから当然だろう、と俺は思っていたのだが。


「(ええぇぇぇ!? 早くないですか!? 普通もっと疑いませんか!? デメリットとかメリットとか聞きません!?)」


 相手は何か不満なようだ。


「(うーん、意味ないし。後でいいかと思って)」


「(意味ありますよ! 自分の命の危険があるような契約だったらどうすんですか!)」


 そういったことを注意してくれる子は、少なくとも命をすぐ奪うとは思えないが。


「(その時は、頼りになる人に助けてもらえばいいかなって)」


「(それでも! 気を付けるべきです! と言うか、さっきから子供っぽくなってません?)」


 失敬な、俺はまだまだ子供だ。さっきまでのは同じ年くらいだと思って喋っていただけだ。しかし、急に大人な気配になったぞ? アイツと同じような気配を感じるから口調がパニック状態になる。

 とりあえず、アイツに喋るようにして俺の考えを伝えて、妖精っ子を落ち着かせよう。


「(えー、まず俺は君が悪い存在にはとても思えないし、感じない)」


「(そう見せてるだけの可能性もあります)」


「(次に、俺は契約をまったく知らない。君がデメリット、メリットを説明しても、俺には本当なのか試してみないとわからない)」


「(え? 知らないんですか? ならなおのこと知ってそうな人に聞くなり、試さないといった危険を避ける選択肢もあります)」


「(でも、君は間違いなく希少な存在だろ? 下手に知られると困る可能性があるだろうし。君から危険がないと感じる直感を、正しいのか試しているのもあるし。何より、知りたいと思ったら飛び込むことが一番確実で早い)」


「(……それは危険ですよ。でも、貴方の優しさは嬉しいです)」


 優しさ? そっちの感想が強く出るとは思わなかった。


「(知識の欲深さには反応しないの?)」


「(人間はそういうものだと教わっていますから。それよりも、直感のことや、考え方のほうが気になりますし、異常だと思います)」


「(そう? まあ、色々あったんだよ)」


「(そうですか……それより、そろそろその微妙な距離感やめませんか?)」


 いやいや、君の雰囲気というか気配のせいだからね!?


「(うん、あ……わ、わかった)」


 調子が狂うなぁ。


「(とにかく、貴方は私を守るためと、知識欲のためにその選択をしたのはわかりました。直感という危なっかしい話と考え方については置いておきます。希望通りに契約してから説明しますがいいですか?)」


 少し呆れながら妖精っ子が言った。

 守ることも、俺がこうしたいって思っているから欲には違いないと思うが。まあ、いいか。


「(ああ、問題ない)」


 そして、妖精っ子が魔法陣の描いてある俺の手に近づき、手の甲にキスをした。すると、魔法陣は少し輝いた後に消えた。


 これで終わりか? 特に変わった感じはないが。

 とにかく、問題なさそうなのでアリスに無事なのを伝えようとしたら。


「えっと、兄さん。まさか、兄さんがさせたんじゃないよね?」


 ……はい?


「何のことだ?」


「手の甲のキス」


 何でそんな想像が出来上がってしまったんだ……


「……何でそう思った?」


「だって妖精の子が何か怒りだした後、真剣な表情をして、最後には諦めたような顔でしてたから。キスのことで怒らせて、それを説得して、嫌々させたようにも見えたから」


 そんなバカな……


「違うから! そんなことさせてないから!」


 ちょっとしたイタズラは確かにすることもあるけど、そんなたちの悪いことしないから!

 俺は妖精っ子との心の会話をしっかりと説明した。


「そ、そうだよね、兄さんがそんなことさせるわけないよね」


「誤解が解けて何よりだ……」


 俺は安心してほっと息を吐いた。

 危うく、とんだ変態野郎になるところだった。


「それで、会話はできるようになったの?」


「多分な、そうだよな?」


 そう言って妖精っ子を見ると、空を飛びながら土下座の姿勢という光景が飛び込んできた。

 そして、その光景に可笑しいやら、これは土下座か? 飛びながらとか器用だな、などと色々な考えが同時に浮かんで、混ざり合って頭が一瞬硬直した。が、なんとか頭を働かせて、一番に聞くべきことを聞いた。


「……何してるんだ?」


「兄さんがやっぱり何かした?」


 いやいや! してない! はず……


「(……申し訳ありませんでした)」


 ……ああ、土下座であってたのか。疑問が一つ解決して、少し頭の混乱が解けた。


「なんで謝る?」


「謝ってるの?」


「ああ、けどアリスには聞こえないってことは、契約した人物だけみたいだな。アリス、悪いけどまた心で話すから少し待っててくれ、後でまとめて説明するから」


「うん、わかった」


 俺は謝っている理由を聞くと態度がダメだったらしい。契約してもらう立場の妖精っ子が、契約主である俺にあんな態度は許されないそうだ。してもらう立場ってのはよくわからないが、執事やメイドがとる態度ではなかったな。妖精っ子自身でも何故あんな態度を取ったのかわからない様子だった。


 してもらう立場について確認すると、妖精っ子は弱っていたらしく契約して回復しないと危険だったらしい。なので、俺は命の恩人だそうだ。

 まあ命の恩人だから、という気持ちはわからなくもないが、でもハッキリ言って口調や態度のことで謝られても困ってしまうだけだ。


「(とにかくわかった。謝罪は受け入れるから、土下座をやめてくれ)」


「(……はい)」


「(あと、態度や口調も気にしなくていい。敬語もやめてほしいが、無理っぽいし自分の好きなように喋ってくれ、その方が付き合いやすい)」


「(は、はい。わかりました)」


 少し戸惑っているが、いずれ慣れるだろう。


「(で、危険な状態と言っていたが、俺達と会う前に何かあったのか?)」


「(いえ、それが……記憶が無くてわからないのです)」


「(記憶がない?)」


「(はい。昔の記憶はありますが、ここ最近の記憶がありません。気付いたら力が弱った状態で教会にいました。私達は襲われることがあると聞いていたので、何者かに襲われたのだと思っています。撃退したかもわかりませんし、また襲われることを考え、弱った状態では危険だったのです)」


「(それは、最近の話なのか?)」


 最近だとしたら気を付けないとな。


「(そうですね。五年ほど前でしょうか)」


 ……はい?


「(今まで襲われることはなかったのですが、まだ五年ですし、心配ではあったのです。そして、五年間教会に来るご主人様を見てきて、この人なら大丈夫だと思い、旅に出ることも聞こえていたのでこのタイミングについて来たのです)」


 ……色々言いたいことはあるが、まず。


「(判断が遅い! 襲われる可能性を考えておいて、襲われたかもしれない場所で五年間同じ場所にいるなよ!)」


「(えぇぇ!? だ、だって教会は居心地いいですし、ご主人様を見極める時間も必要でしたし)」


「(見極めに時間かけすぎだろ! あと、五年間何もなかったら撃退してるか、逃げきれてるってことだろ!?)」


「(えぇぇ!? たった五年なのにですか!?)」


「(少なくとも、この街で襲われていたなら五年も相手が気付かないはずないだろ! お前は五年間も教会にいたんだからな。あと、たった五年ってお前の感覚はどうなってるんだ? 人の五年はそこそこ長いぞ)」


「(は!? そうでした。私の感覚では何千年の内のたった五年だったので、うっかりしていました)」


 な、何千年……

 想定の遥か上の答えが返ってきた。


「(そ、それは……仕方ないな。それほど生きていれば感覚も人とは違うよな。悪い、少し強く言い過ぎた)」


 そんなに生きているとは、考えもしなかった。


「(とんでもないです! 私もうっかりしていましたし)」


「(ちなみに回復手段は他になかったのか? 5年ここにいて、回復してないことから教会では回復できないみたいだが)」


「(そうですね。あとは、エルフがいれば回復できたんですけど、この街にはいないようでしたから)」


エルフか、確かにこの街では聞いたことないな。まあ、俺で回復できるみたいだし気にしなくていいか。


「(とりあえず、すぐにでも襲われることは無さそうでよかった。ただ、襲われることがある、ということは頭に刻んでおかないとな)」


「(お気遣いありがとうございます)」


 ミースが頭を下げる。

 契約主なんだから当然だ。そして、できればアリスとも会話ができると危険が察知しやすいか。


「(それで、危険察知のためにアリスとも会話がしたいんだが、契約主以外で心の会話はできるのか?)」


「(……えっとですね。できることはできます。私と契約主が触れている状態で、新しく繋ぐ人物も私に触れていたら、後は私の方で繋ぐだけです。繋げた後は離れても話すことができます)」


 ……簡単だが、何か隠してないか?

 妖精っ子が少し考えている時に、様子が少しおかしいように思った。


「(それだけか? ほかに何かあるんじゃないのか?)」


「(え!? あ、すみません……儀式としてはそれで全てですが、私に問題がありまして。パスを繋ぐというのは心を繋ぐことでもあるので、相手が怖いという思いがあると繋がり難く、私の精神に問題をきたす場合はあります)」


 最初出てきた時にアリスには警戒されていたから、今はアリスが少し怖いといった感じか。しかし、俺を見極めるために教会で見ていたなら、アリスも見ていると思うんだが。


「(教会でアリスを見る機会もそれなりにあったと思うが、それでもなのか?)」


「(基本的にご主人様しか見ていませんでした。それに、先ほどのアリスさんの視線はかなり緊張しまして、少し怖いと思ってしまっているようで……でも、大丈夫です。ご主人様の願いならこの程度なんてことあり––––)」


「(却下! 無理する必要なんかない。ゆっくりアリスを知ってからでいい。あと、ご主人様はやめてくれ。ライクでいい)」


 ご主人様とか気持ち悪い。


「(やっぱり優しいですね。わかりました、ライクさん)」


 妖精っ子は嬉しそうに頬笑みながら言った。

 様付けじゃない、この分だといい感じに気安くなれそうだな。

 あ、呼び方と言えば……


「(そういえば名前はあるのか?)」


「(……聞くの遅くないですか?)」


「(お、いい感じに気安い返しだな。頑張りが伝わってくるぞ)」


「(わかっているならいちいち言わなくていいじゃないですか! あと、名前はミースです!)」


「(そうか、これからよろしく頼む。ミース)」


「(何か納得いきませんけど、よろしくお願いします。ライクさん)」


 だいぶ自然になったな。この調子で不満があった時、素直に言ってくれるといいんだが。

 しかし、アリスが心の会話ができないのは残念だな。でもまあ、アリスならすぐにミースの信頼は得られるだろうから問題ないか。


「(って肝心なことを聞いてなかった。契約のデメリットとメリットって何だったんだ?)」


「(ああ、そうでした。メリットは簡単に言うと訓練が必要ですが魔法を強力にすること。デメリットは心、魂に近いので、思っている色々なことが私に知られることがあることと、生命力を疲れるくらいには貰うはずだったんですけど)」


 生命力を貰うってなんか危険そうに聞こえるんだが……


「(……だった?)」


「(貰うことは貰うんですけど、ライクさんは疲れないと思うのでデメリットにならないと思います。つまりデメリットほとんどないですね)」


「(なんで疲れないってわかるんだ? そもそも生命力って何をさしてるんだ?)」


「(えっとですね。まず、人間など命あるものには魔力、生命力、魂があります。魔力は主に精霊と交流するためのもので、生命力は主に体を動かすこと、子供を作るために必要なものです。そして、魂は生命力の塊です。同じ魂は無く唯一無二のもので、自分という存在を他人と自分が認識するためのものです。記憶のようなものでもあります)」


「(それは……大丈夫なのか? 生命力を与えるのは生命力の塊である魂に影響はないのか?)」


「(それは大丈夫です。一度形作られた魂は例外を除けば変化することはないですし、魂に影響を与える存在はいないと考えていいです。あくまで魂と生命力は性質が一緒なだけで用途は違います)」


「(なるほどな。それで、それが俺が疲れないと言ったことと何の関係があるんだ?)」


「(まず、人は動くために生命力を使いますので、必要以上に生命力を失うと動くことが困難になる可能性があります。なので、生命力を分けて貰った後に身体が思うように動かせない、ということがデメリットだったはずなんですが……ライクさんは生命力が溢れ出てます)」


「(それは、良いことなのか?)」


「(いえ、普通ならベッドで寝たきりになります。人は食事で得た生命力を回復としてだけではなく、増やすことができるんです。例えば、1の生命力を取り込むと同時に、2に増やしているんです。増える量は人それぞれで、1日に増える量の限界もそれぞれありますが、ライクさんはその増える量と、1日の限界量が多すぎて溢れています。なおかつ、人は子供を産むために男女とも増やした生命力を身体に溜め込みますが、ライクさんは一切溜めておらず、溜めないぶん余計に多く生命力が溢れ出てます。なので、溢れ出ているのを貰うだけで事足りています)」


 マジかぁ、そんな特殊な身体だったのか。というか人間ってそういう生態だったのか、魂とか生命力とか大人は知っているんだろうか。

 あれ? そういえば、生命力を溜めてないってことは……


「(おれは子供が作れない?)」


 今はいいが将来はちょっと困––––


「(いえ、私が手伝えば作ることはできると思います)」


 こんな小さな存在に……いや、考えるのはやめておこう。


「(まあ、それはいいか。あとは……そういえばミースの種族は何になるんだ? 精霊か?)」


「(ライクさんは物事の聞く順番がどうにもおかしい気がします。えっとですね、私は妖精という種族になります。精霊の上位の存在といったところです)」


「(ん? エルフも妖精と言われたりしているが、関係があるのか?)」


「(それは、エルフは私達に近い種族なのでそう言われているんでしょう。小妖精といった感じでしょうか)」


「(へぇ〜、おとぎ話なんかで出てくる妖精はミース達の方がモデルだったのか。現実だと見たことも聞いたこともないけど、仲間は少ないのか?)」


「(そうですね……今ではざっと探って世界全体で千人ほどでしょうか)」


「(なんでそんなに少ないんだ?)」


「(私達は余程のことがない限り死ぬことはないですが、天災がおきまして……それを鎮めるために大半が死んでしまったと聞いています。その上、私たちは新たに生まれることが難しく、襲われることもあり、減り続けた結果今の数に……)」


 ミースは少し辛そうに言った。


「(そうか……悪いことを聞いたな。すまん)」


「(いえ、これくらい何でもありません)」


 まだ聞きたいことは色々あるが、これ以上はアリスと能力の確認が先かな、アリスをだいぶ待たせてるしな。


「兄さん、終わった?」


 何故わかった……まあ、いいけど。


「ああ、一応な」


 俺はミースから聞いたこと、アリスが少し怖くてまだ会話はできないことを伝えた。


「そっか、ちょっと残念」


「一体どんな目で睨んでたんだ?」


「睨んでないよ! 注意深く見てただけだよ」


「そうなのか? まあでも、一緒に入ればすぐにでも信頼してくれるだろ」


「そうだといいな。取り敢えずアリスよ、よろしくねミース」


 アリスが言うとミースは頭を下げた。


「(よろくしお願いします)」


「だってさ」


「礼儀正しい子なんだね。ところで兄さん、ミースは外でどうやって人に見られずに移動するの?」


「あ……(どうするんだ?)」


「(……ライクさんは人の生命力を溜める場所が空っぽなので、普通の人より比較的簡単に一体化するようにして隠れられます。私達は魔力、魂、生命力で作られていて身体はないので)」


「だそうだ」


「「兄さん……(ライクさん……)」」


 何故か二人して呆れた表情をしていた。

 変な空気になったので紛らわすために、二人に早くも息ピッタリだな! と言ったら二人に「もう仲良くなれそう」と言われた。よくわからんが仲良くなれるなら良いことだな。

 ミースの言葉を繰り返しアリスに伝えるのも面倒だからな、早く仲良くなってもらいたい。



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