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女神

ちょっと喋り過ぎかも

 祈り始めて少しすると、突然地面がなくなり、体が浮いているような感覚がきた。目を開けても真っ暗で何も見えずに戸惑っていると、どこからか声が聞こえてきた。


「はあ……こんな所でこんなことしてる場合じゃないんだけどなぁ」


 だれだろ、声だけ聞こえてくる。姿を見ることはできないけど、ここにいると感じることはできるみたいだ。でも、あっちは全然気付いてない、強く念じれば気付くかな?


「(洗礼を行いに来たんですけどー!)」


「へ!? な、なに!?」


 こんなことでそんなに驚かなくても……

 おそらく女神様だと思うけど、神様が驚いたような声を聞くことができるとは思わなかった。


「……なんだ、最近多い洗礼か。突然強い気配がしてびっくりしたー」


 軽いな……神様なのか疑わしくなってきた。


「最近は私の所まで届く洗礼多いなー。良いことでもあり、悪いことでもあるから複雑。それに増えても今の状態じゃ……ん? 一人懐かしい気配がする……こういうことがあると寂しさを感じるなー」


 何かよくわからないことを言ってるが、こっちには喋ってくれないみたいだ。なら、ここでどうなりたいか強く祈ればいいのか? とりあえずやってみるか。


「(妹、家族を守るために必要な力を……)」


 これで伝わるといいけど。


「……純粋な祈りだなー。こっちの気分が良くなるよ」


 正確に伝わってるかな? ちょっと不安だ。


「でも、気配が近すぎるような……もしかして私の声が聞こえてる?」


 聞こえているの気付いてなかったんだ……神様がそんなことで大丈夫かな、凄く不安を抱いてきた。女神様だよね?


「そんなに不安な気持ちにならなくても、女神だから安心していいよ。初めてのことだから、ちょっと気付かなかったくらいは許してほしいな」


 き、聞こえてる? まあ、親しみは持ちやすいんだけどなぁ。この様子を見ていると、もしかして他の教会での洗礼は女神様が面倒だったから、だけなんじゃないだろうか。でも、優しさでもある気がするな。


「でも、聞こえているのは妙だなー。あの子達がいるのかな?」


 あの子達?


「まあいっか、とりあえず早く見るとしようかな。えーと、人柄は……二人共なにも問題ないね。あとは傷も見ようかな……っ!!?」


 っ! この感じ……神様にはわかるのかな。


「…………これほど傷を受けてこの……どんなことがあればこんな……」


 やっぱり……昔の傷のことかな。体には残ってなかったはずだけど、神様には見えたみたいで、憂えてくれているようだ。でもやっぱり、人が俺の傷を知った時の声にならない心の悲鳴には慣れないな……


「……あなた達は復讐などは考えないの?」


 え!? ふ、雰囲気が変わった……だけだよな? 別人じゃないよな? 急に慈愛に満ちた感じが、そんなに衝撃だったのかな。まあ、それですべてを失ったわけじゃないし、そんな人間のことを考えるよりも、身近の良くしてくれた家族のことを、考えるべきだと思っているだけなんだけど。


「微塵も考えていないのね……その傷でそれは少し異常だけど、私の恩恵を与えるわ。願わくばその力で守りたい人を、力のない人を救って」


異常かな? 見てくれる人がいれば案外冷静になれるもんだけどな。

とにかく恩恵に感謝します。家族が優先ではあるけど、女神様の願いにできる限り添うようにします。


「ありがとう」


 でも、さっきから雰囲気が変わり過ぎて違和感がひどいです。


「……口調が不満なのかな? 折角女神らしくしたのに失礼な子達だね」


 ……もうこれ聞こえてるんじゃないだろうか。


「あと、人を救うことはできる限りで大丈夫だよ、無理はしてほしくないからね。でも、そうか……君達のような境遇の人達も今を必死に生きているんだよね。もっと私に何かできれば……そうだ! 今ならあの子達に言葉を届けられる」


 なんの話だろ。


「あのね、そっちに守護者やってる子達がいると思うんだけど、その子達にね…………? …………!!?」


 守護者? 人、かな? 知ってる前提で話されても困るんだけどなぁ。しかも、途中から声が聞こえなくなったし。


「どうして邪魔するの!!」


 え!?


「ちょっとした言葉を伝えて貰うだけなのに!! ……約束? この程度ならいいじゃない!」


 誰かと会話してる? びっくりしたぁ……俺が何かしてしまったのかと思った。


「ケチ! そんなだから嫌われるんだよ!」


 言い合いが続いている。巻き込まれそうでちょっと怖いんだが……なんとか抑えようと思い「言葉が無くても多少は思いで伝わりますよ」と祈ってみる。


「……はぁ、わかった。諦めるからもういいでしょ…………お願いね」


 ……う〜ん、ちょっとハッキリしない思いがあるけど、仕方ないかな。会話している神様? にバレるかもだし。しかし、守護者って何かわからないのが大問題だけど……まあ、いいや。巻き込まれるの御免だし。


「(守護者の方に会ったら伝えておきます。力を与えてくれてありがとうございました)」


 俺は逃げるように、祈りの姿勢をやめて土下座のような形で頭を下げると、突然浮いている感覚がなくなり、地面に立っていた。




「……行っちゃったか。力をうまく使ってくれるといいけど」


 横からうるさい奴に悟られないように、そんなことを言いながらさっきの子達のことを思う。

 伝える思いと、お礼の思いを強く返してくれたから、ある程度は伝わったと思う。でも、あの子達、守護者で伝わってないように感じたけど……あ、守護者って一般的には伝えてなかったかも……いや、あの子達を信じよう! そして、守護者の子達を信じよう! 私もしてもらうばかりじゃなく、なんとかする方法を考えないとね……それにしてもうるさい。


「うるさいなぁ、なに? 最後のお願い? 多くの人を救ってほしいってことだよ」


 それにしても心配だなぁ、あんな目に合っている子がほかにもいるかと思うと、何とかあっちに戻れないかなぁ。


「……わかってる。私からはあっちには行けないし、行かない。行けたとしても、あっちの問題は今の私にはどうすることもできない……」


 私はどうにもできない自分が情けなかった。




「おや、ようやく帰ってきましたね」


 目を開けて祈りをやめると司祭さんがそう言ってきた。


「ようやく?」


「私達の祈り時間が長かったみたい。私も少し長かったみたいだけど、兄さんもかなり長かったよ」


 え? そうなのか。

 俺は司祭さんに目を向けた。


「そうですね、アリスさんは10分ほどで、ライク君は30分くらいですね。一般的に比べるとかなり違いますね、何かありましたか?」


「何かと言われても、女神様の声が聞こえてきたので心で会話のようなことをしたり、強く思って祈っていただけなんですけど」


「声? 会話? どのようなことを言ってたんですか?」


 平静を装っているけど、司祭さんの様子が慌てている? 急いている? ような感じだ。

 俺は女神様との会話を司祭さんに伝えた。


「司祭さんは守護者って何か知ってますか?」


「いえ、残念ながら……」


 今度は考え込んでいる、司祭さんの中では女神様の会話は思うところがあるようだ。ん? そう言えば何で俺に聞くんだ? アリスに聞けばいいのでは。


「なあ、アリスも女神様の声を聞いてたんじゃないのか?」


「え、聞いてないよ。私は力を貰う感覚が来るまで祈り続けてただけだよ」


 あれ? 女神様二人とか二人共とかって言ってたはずなのに変だな、思いは届いたけどアリスには女神様の声が届かなかったのか? いや、それにしては変なところがあるし、うーん……答えがでそうにないからまあいっか。それよりも能力のことだ。


「ところで、アリスはどんな才能やらを貰ったんだ? わかってるんだろ?」


「うん。私は––––」


「はい、そこまでです」


「え?」


 アリスが才能や能力のことを喋ろうとしたら、いつの間にか調子をとり戻していた司祭さんに止められた。


「そのことはあまり知られない方がいいですよ。それぞれ弱点などもありますし、もし能力持ちだった場合、国から目を付けられることなどもありえますから」


「でもここには俺たちと司祭さんしか居ませんよ?」


「信頼してくれるのは嬉しいですが、何があるかわからないですから、秘密などは知っている人が少なければ少ないほどいいのです。能力は総じて世界の常識よりも、能力の力が優先されることが多々あります。ゆえに使う人によっては危険で強力です。自分が持った場合も、相手が持っている場合も十分気を付けてください」


 そんなに危険な力だったのか、だったらそんな強引に知ろうとする場合もあり得るか、国に知れるのは面倒なことになりそうだから、この街でも気を付けないと。


「わかりました」


「助言ありがとうございます」


「よろしい。ま、そうそう危険なことはないと思いますが、このコワの街でも十分気を付けて下さいね。そうそう、女神様と会話したというのは珍しいことなので人には言わないように。珍しいというだけで色々引き寄せてしまいますからね」


「わかりました。旅をする時も気を付けます」


「ああ、そう言えばライク君は世界が広いことを知ってから旅をしてみたいと言ってましたね。近いうちにこの街を出るのですか?」


「出るつもりではありますけど、そんなにすぐではないですね。ギルドなどでお金を貯めるなり、魔物の戦いになれるなりしつつ、貰った才能を鍛えてから出ようと思ってます」


「そうですか、すぐではないにしても寂しくなりますね。アリスさんはどうするのですか?」


「兄さんについて行きます」


「なるほど、ライク君が出るなら当然でしたね」


 司祭さんが苦笑しながら言った。

 俺たちをよく知る人は大体こう返して来る。俺たちのことをあまり知らない人達は、アリスが強いために妹に守ってもらってる兄という目で見られ、よく知る人達はアリスが俺に甘えているようなものだと思っているのでこうなる。


「じゃあ、そろそろ失礼します。才能も気になりますし」


「わかりました。最後にライク君、女神様からどんな思いを預かったんですか?」


「ハッキリとはわからなかったんですが、自分は無事ということ、あとは守護者に何かしてほしいみたいです。してほしい思いがいくつかあるみたいで、助けてあげてほしい、ということ以外はハッキリしませんでした」


「そうですか。守護者の方々に伝わると良いですね」


「はい。失礼します、司祭さん」


「失礼します、司祭様」


 司祭さんに挨拶して俺たちは教会を出た。




 ライク君達が出て行ってから私はさっきのことを考える。


「やはり主はどこか遠くにいるようですね。ハッキリ無事と確認が取れたのは良いのですが、何をしてほしいのかが曖昧でしたね。誰かに邪魔を受けているようでもありましたし」


 ライク君にもう一度やって貰う手もありますが、洗礼は初めてが最も主に近付けますし、邪魔してる存在がいる以上無駄でしょう。


「とりあえず、伝えておきますか」


 その後の判断は任せて、私は頼まれていることを今まで通り遂行しますか。

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