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救出

また少し長いです。

技名や術名は漢字そのままで読んでくださればいいはずです。

残酷な描写はなるべく避けてますが、実際は色々とかなり酷い状況です。こんなにも酷い連中になるとは自分でも思ってませんでした……平和な奴も書きますが、こいつらのせいで平和に見え難くなる気がします。

「静かに……」


 あ……

 私は急いで口を塞ぐ……幸いおじさんには聞こえなかったみたいだった。


「どうしてヤイお姉ちゃんがここに?」


「そのことは後です、イアさんはコッソリ逃げてください。上にいた2人の男の子には逃げてもらって、助けを呼ぶように言ってます」


「で、でもマザーや他の人も助けないと」


「それは私がやるので大丈夫です」


「私も手伝う」


 わたしは真剣な目でうったえる。


「しかし…………わかりました。捕まっている冒険者の人が危ないので急ぎます。見張りは何とか引き付けるので、イアさんは奥にいる子供たちの先導をお願いします」


「うん。ラール、起きて」


 私はラールを大きく揺するけど、起きそうになかったので叩き起こす。


「いたぁい…………へ? ヤイお姉ちゃん?」


 ラールに簡単に説明して逃げるように言う。


「私も手伝うの」


「ダメ、ラールにはライクお兄ちゃんにこの場所を伝えてもらう大事な役目があるから」


「で、でも……」


「大丈夫、ラール自身が今の私は頼りになるって言ってたでしょ? ヤイお姉ちゃんもいるし任せて」


「……わかったの。2人ともお兄ちゃんを連れてくるまで死んじゃダメなの」


 私とヤイお姉ちゃんは深く頷き、おじさんが見ていないのを確認して、ラールをコッソリと送り出した。


「優しいですね。ライク君は上にいた2人に任せていたのに」


「3人いたらきっとお兄ちゃんに伝わるから」


「信頼しているんですね」


 それもあるけど、やっぱり一番は無事に助かってほしいから。

 警戒しながらもラールを見送り、ヤイお姉ちゃんとどう助けるのかを確認し始めた。


「どっちから遊んでやろうか」


「クズ、あの時ライクの打撃で死んでいればよかったのに」


「ハハハ! 何とでも言え、お前に抗う術なんてないんだからな!」


「くっ! 触れるな!」


「身体つきはお前の方が良い感じだな〜、お前から遊ぶか?」


 ヤイお姉ちゃんと手順を確認している間に、何かよくわからないことを言っていた。その言葉はなぜか気持ち悪く感じて、良くないことだという予感がした。


「……急ぎましょう」


 確認が終わり、ヤイお姉ちゃんの言葉で私は急いで魔道士の人やマザーのいる牢屋の前を通り、子供たちの牢屋の前にたどり着き、仲間たちに逃げることと、約束ごとをする。

 気付かれなかったのは、前にヤイお姉ちゃんに食べ物を隠す時の方法で姿を消してもらったから。子供たち全員にそれができたら良かったけど、それは流石に魔力が足りないらしく、隙をついて逃げるしかないみたい。


 そして、ヤイお姉ちゃんがマザーたちのいる牢屋に近付いて姿を隠すと、おじさんが牢屋に背を向けたタイミングで、仲間たちが音をたてないように急いで牢屋の前を通っていく。


「……ところで、ギルドで突っかかって来たのはやっぱり」


「当然このためだ。お前らの他にも新人を何人かやったしな」


「何のために?」


「金と女だ。冒険者の男や女を連れて来たら金が貰え、しかも好きにして良かったからな。楽しかったぜ〜」


 魔道士の人が会話で気を引いてくれていたので、より急いで前を通っていく。


「見事にクズ。ところで、私達の男仲間をどうしたの?」


「そいつなら、あそこの死体を並べている所にいるぜ、後で見せてやるよ」


 おじさんの動きで、バレる! と焦ったけど、おじさんは背を向けながら反対側の牢屋を指していてこちらを見ていなかった。ホッとしたかと思ったら……


「あうっ」


 おじさんの動きに焦ったのか仲間が1人転んでしまった。


「あ?」


 おじさんがこちらを向く。私は後ろにいる子たちを止めて牢屋に戻し、その子たちは年上の男の子に任せる。


「前にいる子は走って階段まで逃げて!」


「な!? てめえらいつの間に!」


 おじさんはすぐに牢屋から出て来るけど……


「ふっ!」


「がっ!」


 出て来た所を姿を隠したヤイお姉ちゃんが襲う。


「風刃!」


「な、何だ今のっ、ぐあ!」


 突風でおじさんは奥まで吹っ飛んでいった。私はその隙に、渡されていたナイフで中にいる魔道士の人達を助ける。


「助かった。ありがと」


「うん、それよりお姉ちゃんは魔法って使えそう? 使えそうなら手伝ってほしいって、ヤイお姉ちゃんが言ってたけど」


「ヤイ? 多分牢屋から出たらいけるけど……意外な助っ人」


 ヤイお姉ちゃんが言った通り知り合いみたい。


「ラミナお姉ちゃん! マザー! 起きて!」


 私はマザー達を起こそうとするけど、いくら揺すっても目を覚まさない。


「ううぅぅ……頭が……でも、これはうそ……絶対うそに決まってる……」


 魔道士の人とほぼ同時に来た人にも声を掛けたり、肩を揺らしてもこちらを見ずに頭を抱え続けていた。


「……多分3人とも魔法か、特殊な何かをされたんだと思う。自力では動けそうにないから大人達は私たちに任せて、貴方は隙をみて他の子と逃げた方がいい」


 そう言うと、魔導士の人は牢屋から出て、手のひらから炎を出したり消したりしていた。


「いけそう。ヤイー?」


「階段の方にいますよ」


「へー、不思議な感じ、見えないけど声は聞こえる。基礎魔法とは違う……よかったの?」


「緊急事態ですから。サーリアさんが無事で何よりです」


「ありがと。でも、ハッキリ無事とはいえない、あんなクズに触れられたことが屈辱」


「すみません。子供たちがいたので少し時間を掛けることになってしまいまして」


「そのことは責めてない、その責任はあのクズと私が弱かったから。あと、ライクの助けが遅いから」


「ライク君? この場所に向かってるんですか?」


「……場所はわかってないと思う。というか、さっき攫われたばっかり」


「それで責任を向けるのはあまりに酷では……」


「くそがあぁぁ!」


 奥に飛んでから静かだったおじさんが、突然叫び出して階段の方に向かっていった。けど、その時には先に逃げるように言った子達はみんな階段を上がっていて、人がいる牢屋以外は周りを気にする必要がなくなり、お姉ちゃん達は手のひらで魔法の準備をしていた。


「風刃」


「炎矢」


「ぐあぁぁ!」


 さっきよりも強力な風がおじさんを正面から襲い傷付けられ、背中からは炎の矢を受けて火の玉のように燃えながら、また奥まで飛んでいった。


「何も考えずに突っ込んで来てくれると、飛ばせばいいだけですから楽ですね」


「風は相手との距離がとりやすくて便利そう」


「見方によってはそうかもしれませんね。しかし、そのぶん威力は火に負けますよ。それよりも、あの魔物のような腕はなんでしょうか? あの人、人間ですよね?」


「さあ? 少なくとも最初はあんな腕はなかった。ま、人間をやめたと考えればいい」


 この隙に、まだ奥の牢屋に残っていた仲間たちが私がいる牢屋の中に移動してきて、おじさんの様子を伺う。


「逃げれそうかな?」「どうだろ?」「次におっさんが吹っ飛んだ時に階段まで逃げよう」「マザー達も一緒に逃げないと」「でも、僕たちには運べないよ」


 仲間たち全員には、バレた時の行動を話していなかったから、バラバラになりそうだったけど……


「全員落ち着け。まず、ここにいる大人は動けそうにないし、俺たちだと運べないから、あそこで戦ってくれている2人に任せよう。先に逃げた仲間が助けを呼んでくれる筈だから、俺たちは無理をせずに隙が出来たら逃げよう」


 先導を任せた男の子がまとめてくれて、確認するように私を見てきたので私は頷いた。

 そして、私は逃げられそうなら合図を出そうと思い、炎で悶えてあるおじさんの様子を確認し続けた。


「しかし、サーリアさんとランさんがどうしてこんな所に捕まっているんですか?」


「あのクズとは別の2人組に攫われた。不思議な能力を持っているみたいで、街の外の森にいた筈なのに気付いたらここにいた。そういえば、ここどこ?」


「……確かに不思議ですね。ここはコワの街の市民街で、貴族街への門が近くにある主に貴族の子息なんかがいる屋敷の1つですよ」


「そんな所まで……ゲートのようなことを個人が……」


「ゲート、ですか?」


「大陸移動の門のこと。使う人達は基本ゲートって呼んでる」


「なるほど……お二人を攫った人達はそれを個人で使えると」


 2人がおじさんに対して注意を向けながら喋っていると、(もだ)えているうちに炎が消えて、グッタリしていたおじさんが立ち上がる。見たところ、軽いとは言えない傷や火傷はしているようだけど、変化している魔物のような腕だけは、傷も火傷も問題ないように見える。


「ちくしょうがぁ……」


「……変化している手は随分頑丈ですね、あれで少し傷付いた程度ですか」


「炎も普通の人なら死ぬレベルのものを撃った筈、体も頑丈、追撃をするべきだった……ヤイ、ちょっと確認と作戦」


 魔道士の人が何か喋ってる、ヤイお姉ちゃんと話してるのかな?

 そして、少しすると魔法を撃つ準備なのか、魔道士の人が少し身構えた。


「くそが、傷付いていない状態で遊びたかったが仕方ねえ……」


 おじさんも少し身構えるような体勢をとる。この時、私はおじさんが凄いスピードで魔道士の人に突っ込んで来る予感? イメージ? のようなものを感じて咄嗟(とっさ)に体が動いた。


「殺さないように気を付けるか––––」


 おじさんがそう言うと、片足も魔物の足のように変化して、予感の通り魔道士の人に突っ込んで来たと同時に、私は魔道士の人を体当たりで押し飛ばす。


「––––っっ!?」


「なっ!?」


 どうなったのか分からないけど、言葉が出ないほどの痛みがきた。私は痛みに耐えながら痛みの元を確認すると、片方の足が変な曲がり方をしていて、折れているようだった。でも、エルフの人に変な物を飲まされた時の、時間で苦しみが増してくる抑えようのない苦しみに比べたら、大したことのない気がした。


「クソが、邪魔しやがって」


 おじさんは奥から階段の方の壁まで一気に飛んで来て、もう階段の近くに立っていた。


「まあいい、まずは逃げた連中を……」


 そして、そのまま逃げた仲間たちを追おうとしたけど。


「風刃!」


「ぐぅっ!! ちっ、隠れてる野郎はまだ残ってやがるのか。サッサと逃げればいいのによ!」


 ヤイお姉ちゃんが階段から遠ざけようとして、さっきのように風を起こして飛ばすけど、変化した足で地面の石を削るようにして耐えられてそれほど飛ばず、変化した腕で防いだのか風の刃などで傷付いた様子もなかった。


「また助けられた、ありがと」


「う、ううん、私は……大丈夫。お姉ちゃんはおじさんを」


「大丈夫、次は確実にやるつもりでいく。貴方はそのまま私の後ろにいて、その足じゃ動けないだろうし」


「あ、うん」


 私は頷く。


「ははは! 俺の動きに驚いて反応できなかったお前がどうするつもりなんだ? 当たらなければなんの意味もないぞ」


「ヤイ、準備よろしく」


「了解です」


「あ?」


 魔道士の人はおじさんを無視してヤイお姉ちゃんに何かを伝え、少し間が空く。

 何をするんだろう?


「……で? 何かしたのか?」


「さあ? というか律儀に待つとか……バカ?」


「っ! クソが!」


 怒り狂ったおじさんは正面からは来ずに、横に並んでいる牢屋の鉄格子を中継して、真横から襲って来るのがわかった。と同時に、私と魔道士の人が風に運ばれ階段のある後方にバックし、おじさんの攻撃が外れる。すると、私たちがいた地面から上空に向かって風が吹き出した。


「うおおー!? 何だこれはあぁぁ!」


 その風を受けておじさんは巻き上がり、天井に派手にぶつかる。


「ぐっ! やりやがったな! だが、この程度で何が変わる!」


 おじさんは元気そうに言いながら、まだ上空への風が少し続いている影響で、少しずつ下りて来る。


「クズは頭もクズ。何のために上空に飛ばしたと思う?」


 そう言うと、魔道士の人は手のひらをおじさんに向ける。


「なっ!?」


「見ていた限り魔法の使えないお前は空中だと良い的。一応、天井を蹴って戻っくる可能性も、魔法を使ってくることも考えてたけど、必要なかった」


「くっそ!! この!」


 おじさんは必死に足で天井を蹴ろうとするけど、もう届かない所まで下りている。


「今度は手加減しない……ヤイ、爆炎」


「わかってます……突風刃!」


 大きな火の玉が飛び、それを追うように生まれた竜巻が横向きになり、何かを貫くような尖った形が先頭になって火の玉に向かい、火の玉にぶつかる。


「は? なんのつもっ!?」


 そして、それが炎の竜巻のようになり、おじさんを襲う。


「なんだとおぉぉ!? あぢぃ! いでぇ! クソ野郎がああぁぁぁ!!」


 おじさんは吹っ飛びながら、変化している手で受けていたけど、本来の竜巻のように回転しながら手を少しずつ傷付け、炎で焼いてくることに苦しんでいた。


「本当に頑丈ですね、あの腕」


「燃えにくくて、傷付けにくいとか……」


 おじさんは奥まで飛んでいき、変化した腕が徐々に貫かれつつあった。


「くっそー! 仕方ねえ!! こうなったら!」


 おじさんがそう言うと、変化していなかった片方の腕までもが変化し始めた。


「やっぱり変化できるみたいですね……この地下は()つでしょうか」


「多分、大丈夫……爆散」


 魔道士の人が言うと、炎の竜巻が爆発した。


「グアアああ! あヂィ! 腕がアアァ! 足がアアァ!」


 魔物の腕は吹き飛び、おじさん自身も爆発を至近距離で受けて燃えながら悶え、奥も爆発の影響で全体的に激しく燃え始めた。


「自業自得」


「ですね……サーリアさん今のうちに行きましょう。あれ以上の攻撃手段は思い浮かびませんし、もし今以上の変化があるとすると恐らく打つ手がありません」


「わかってる。風で大人3人は運べそう?」


「出口まで保つかどうかは……分かりませんね」


「なら、行ける所まで。私はこの子を運びながら、歩けるぐらいまで治療した後に手伝う」


 魔道士の人が私を抱き上げる。


「ごめんなさい、面倒をかけて」


「貴方は自分のしたことを忘れてる。貴方のおかげで私は助かってみんなで逃げられる。それに、それを言われたら、私こそ助ける手間をかけさせてごめんってなる」


「あ……いや、そんな謝らせるつもりはなくて」


「わかってる。謝罪も大事だけど、私としてはこういう時は感謝で終わらせてほしい」


「あ、うん。ありがとうございます」


「それで良い」


 魔道士の人は少し微笑みながら頷く。

 その間に、ヤイお姉ちゃんは仲間たちに呼びかけながら、マザー達を風の魔法で運び始めていた。


「2人とも、行きましょう」


 私たちは頷いて行こうとすると……


「グゾガアアァ」


 もう人とは言えないおじさんが、燃えながら炎の中から出てきた。


「しつこい……ヤイこの子をお願い」


 魔道士の人は私をヤイお姉ちゃんに預けて、手のひらをおじさんに向ける。


「オマエダケデモォォ!」


「爆炎」


 燃えながら向かってくるおじさんにまた火の玉が飛んだ。けれど、ぶつかる直前に人が現れたのが見えた……


「っグあぁ!」


 すると、なぜかおじさんが吹っ飛び、それと同時に火の玉や奥の燃えていた場所を含めた火が風で消え去っていた。


「……消された?」


「くっ、風が思うようにいきません」


 魔道士の人は火の玉が消されたことに驚き、ヤイお姉ちゃんは何かあったのか、浮かしていたマザー達をゆっくりと降ろす。


「何ごと? 燃えながら向かってくるから殴っちゃったけど」


「見る限り……捕まえてる連中にやられた、といったところですわね。とりあえず、これ以上は逃さないようにしておきますわ」


 突然現れたのは、私たちを連れて来たエルフの人と、見慣れない男の人だった……


「あのエルフの人がいると、どうにも魔法が上手くいきませんね……」


「あれ!? 壁がある!?」「どうなってるの!?」「何もないのに何かに弾かれるよ!?」「くっそ! なんだこれ!」


 言った通り、逃げられないように何かされたみたいで、ヤイお姉ちゃんは魔法が解けて姿が見え、みんなは階段の前で通れないと騒いでいた。


「最悪……クズに時間取られすぎた」


「サーリアさん、この人達が?」


「そう、あれを簡単に消し去られたし勝ち目はないと思う。逃げられるといいけど……多分無理っぽい」


「参りましたね……」


 お姉ちゃん達も流石にあの2人相手は厳しいと思ったのか、お手上げみたいだった。


「しかし意外だな〜、Bくらいなら何とかなると思ってたのに、まさか負けるとはね」


「所詮力だけならこんなものですわね。大方その体を過信したのでしょう。まあ、それをそれだけ燃やし、傷付けたのも大したものですけど」


 そう言い、エルフの人はお姉ちゃん達を見る。


「タ、たすけデクレ……」


 おじさんは変化していなかった部分が酷い火傷で、息も絶え絶えの状態だった。


「やだよ、意味ないし。むしろジワジワ殺す方が役に立つし、アスロトにお願いしようかな」


「なっ……」


「邪教として使える器ではありませんし、混ぜた彼らを有効活用するにはそれが一番ですわね。1人は捕まってしまいましたけど」


「所詮、実験体だからね、別にどうでもいいよ。体の強化、痛みの耐性、普通の人は半分以上変化すると戻れないとか、大体知りたいことは知れたし」


 ……仲間じゃないの?


「中々の人達ですね……」


「使い捨ての道具みたいな扱い。まあ、クズがどうなろうと知ったことじゃないけど」


「ま、マッテくれ……」


「では、早速やりますわ。彼らが来ると面倒そうですし」


「そうだね、あの掌底は痛かったな〜」


 連れの男の人とエルフの人がそう言うと、おじさんを風で運び奥の壁に、はりつけの形で固定する。この時、奥は大きな鉄格子で仕切られていたことだけは見えていたけど、暗くて見えなかった……ううん、見ようとしなかった鉄格子の奥を初めてハッキリと見た。

 そこは、やはり血だらけだった……けど、人の一部などはなくて少し冷静を保てた。そして、壁にはいくつもの魔方陣のような物が描かれていて、その地面にも大きな魔方陣が1つ描かれていた。


「どうしてやりましょうか……やっぱり痛めつけて毒が1番でしょうか?」


「や、ヤメろ……」


「……何かの儀式でしょうか?」


「さあ、わからない。そういえば、そこのベリアとか呼ばれてた奴」


「ベリアでいいよ〜」


「……私達の仲間のゲオルはどこ?」


「もうちょっと反応が欲しかったよ……えっと、それならあそこで死体を並べてる、牢屋の一番手前の奴がそうじゃないかな? ちなみに、死体でも使い道があるから渡せないよ?」


「そう……あと、あの魔法陣はなに? それに、服がボロボロだけどやっぱりライクにやられた?」


「魔法陣は内緒かな。服は確かにライク君だね。強かったよ〜、あれで本気じゃない感じがさらにビックリだよ」


「あっそ、いい気味」


「酷!?」


 ……この人もエルフの人みたいによく分からない感じがした。とても恐ろしいことをする人とは思えない感じがしてしまう。でも、私はもうこんな人達に希望なんて持ってはいけないと知っていた。


「サーリアさん、本当にそんなに危険な人達なんですか? 普通に会話してますし、ちょっと変わった悪人くらいにしか見えませんが……」


「ヤイ、こいつらにそんな先入観は捨てた方がいい。あのクズが受ける仕打ちを見ればわかる」


「?」


 ヤイお姉ちゃんが首を傾げた時……


「よ、ヨセえぇぇぇ! っっ!!? グボオオォ……」


「やっぱり、体の中からやるのは良いみたいですわね」


「中から傷付けられることはあんまりないからね〜、みんな慣れてないんだよ」


 ……おじさんの中で何かが蠢いて見え、吐きそうになり私は目をそらす。


「な、何を……したんですか?」


「ん? あれは風だよ。アスロトは小さな竜巻を体の中に送り込んだだけ。中に入れれば後は勝手に暴れるから」


「……才能の無駄遣い、あんなことが出来るならもっと有意義な使い方ができる筈」


「アスロトにとっては有意義な使い方だよ? 楽しそうにしてるし」


「ふふふ、中々頑丈でいいですわ〜。もう片方からも送りましょうか」


「や、ヤメてくっ!? がアアァァァ!!? グぶ……がぁぁ……」


「狂ってる……」


「なんのためにこんなことを……」


 狂ってる……魔道士のお姉ちゃんのその言葉がしっくりきた。おじさんの方は確かに悪い人ではあったけど、なんというか理解できる普通の悪い人だった。でも、この人達は理解ができなかった。目的はあるのかもしれない、でも興味も恨みもない人を痛めつけ、殺すことに無関心もしくは楽しそうにする神経がまるで理解できなかった。


「あ、あぁ……」


「傷口や口からこれだけ出血しても死なないとは、大したものですわ」


「まあ、魔物と混ぜてるしね。でも、痛みの耐性があるからなのか、魔物が混ざってるからなのか分からないけど、そんなに集まらないみたいだね」


 ……何かを集めてる? でも、人を苦しめて何が集まるのかな。


「そうですか、結局なに1つ役に立たない連中でしたわね。いえ、実験体という役目は果たしましたか、なら最後は毒の実験体で役目を終えてもらいましょうか」


「や……っ! ゲホ! げほっ! やめ……」


「ふふふ、生きたまま人を腐らせるとどうなるのかしら、楽しみですわ……そして、その懇願するような顔も笑えますわ」


「ヒィっ!」


 もう聞いていられなかった……

 私は事が終わるまで耳を塞ぎ続けた。


「っっっ!!?」


 それでも、しばらくした後に、私は声なき声を聞いてしまったような気がした……


「あまり使い勝手は良くありませんね。腐るまで時間が掛かりますし、臭いですし、簡単にショック死しましたわ」


「多分、精神的に限界だったんじゃない? 自分の体が腐っていくのを見るのって普通の人には辛いだろうし」


「またそれですか……精神的なことは理解が難しいですわ。とにかく臭いですから、燃やして匂いも消しておきますわ。入れ物としては使えませんし」


 耳を塞ぐ事をやめた私にそんな言葉が聞こえ、どんな状態なのか気になって見てしまいそうだったけど、必死に堪えた。

 けれど、何かが燃えるような音と妙な匂いで、少し想像してしまい気分が悪くなった。


「大丈夫ですか?」


 私は、ヤイお姉ちゃんの心配そうな言葉に頷きで返すことしかできなかった。


「ヤイ、ヤバい奴らってことがよくわかった?」


「ええ、それに正直言うと吐きたいほどに気持ち悪いです」


「大丈夫、それが正常。私も気持ち悪いし」


 お姉ちゃん達はある程度見てしまったのか、気持ち悪そうだった。仲間の子供たちは大丈夫だったかと、後ろを確認すると……みんな集まって目を閉じ、耳を塞いでいた。みんなを任せた男の子がそうさせたみたいだけど、男の子は見てしまったのか気分を悪そうにしていた。


「さて、あと数人分ぐらいかな? あとは、そっちの子達で集めようか」


「そうですわね」


 2人がこちらに向かいながら言ってくる。怖かった、殺されるかもしれないこともそうだけど、何をされるか分からない……そのことが……


「(サーリアさん、どうしましょうか)」


「(ハッキリ言ってどうしようもない。力で勝てないし、魔法もエルフが何かしてて使えない……やっぱり、あの2人と戦えるライク達が来るまで時間を稼ぐのが1番良い)」


「(確かに逃げた子達が何人かいますが、あの2人がゲートなりで移動してきたなら、ライク君たちが足で戻る時間がどれほど掛かるか……)」


「(でも、それに賭けるしかない)」


 お姉ちゃん達の小声で真剣な顔での話しを聞いて、私は少し恐怖が和らいだ。あの2人相手だと、どうしようもないと感じていたけど、お兄ちゃんなら何とかしてくれる予感もしたから。


「あ、そういえば、実験はそろそろ終わりそう? そんなにすぐ来ることはないと思うけど、何人か逃げてるし、アスロトが気にしてる通りライク君たちが来たら面倒、というか逃げたい」


「そうですわね……ゆっくりとやる実験はまだ少し時間が掛かりそうですわ」


「なら、素早く集める実験に変更して終わらしちゃって。ゆっくりやる方法は次の機会でいいし、今回はできるかどうかの実験が主だしね」


「わかりましたわ」


 そう言い、エルフの人がマザーを浮かせると、風を感じた途端にマザーの二の腕に親指ほどの穴が空いた。


「な、何を!?」


「え!? な、なにしてるの!?」


「何って、実験ですわ」


 私とヤイお姉ちゃんの疑問にエルフの人はそれだけ返すと、1箇所だけでなくもう片方の二の腕、両足の太ももにも痛々しい穴を空け、人が山積みになっている所とは別の、人が寝ているように並べられている牢屋にマザーを近付けて、なにか集中しているようだった。

 そして、そんな痛々しい状況でマザーは目を覚ますどころか、何の反応もしなかった。生きているのか不安になるくらいに……


「……集まりませんわね。やはり生きているとダメなのでしょうか?」


「うーん、アスロトができないなら、そう考えた方が良さそうだね。効率良く集められるかもと思ったんたけどな〜、残念だよ」


 傷から血がしたたり落ちている痛々しいマザーを見ながら2人が言う。そして、そんな2人の様子からか、私を抱えているヤイお姉ちゃんの腕が震えていた。


「……助けたい感情と、勝てないという理性の葛藤がこんなに辛いとは思いませんでした」


「気持ちは分かる。でも、ヤイだけじゃないから」


「はい、わかっています……」


 魔道士の人が落ち着くように声を掛けたけど、ヤイお姉ちゃんは辛そうな顔と怒りの顔が入り混じった複雑な表情をしていた。


「それで、この実験体はどうします? 入れ物として使えそうですの?」


「うーん、回復は早くても許容量がね〜、入れ物としてはいらないかな」


「それでは、処分ですわね」


「「えっ」」


 その言葉に私とヤイお姉ちゃんは思わず反応した。


「ま、待って! マザーは死ぬとしても1番最後だって言ってたよね!」


 手をマザーに向けようとしていたエルフの人が、私の言葉に動きを止めてこちらを見る。


「そう言えば、そんなことも言いましたわね。しかし、あの時とは状況が変わってますし、誰が先に死のうが関係ありませんわ」


 そ、そんな……


「アスロトって精神面は分からないとか言いつつ、無意識に心的な苦しみを与えるよね」


「そうですの? 自分ではよくわかりませんわ」


 私はどうにも出来ないことを感じとり、マザーが死ぬことを考え、一瞬だけ頭が真っ白になった……だけど、そんな状態からヤイお姉ちゃんが私の手を強く握って、私の意識を戻してから微笑んだかと思うと、抱いていた私をゆっくりと地面に降ろした。


「できるだけ、そこにいてください」


 何かを決意したような顔でそんなことを言われた。

 え、まさか……


「すみません、ちょっといいですか?」


「何ですの?」


 ヤイお姉ちゃんがエルフの人に声をかけ、近付いて行く。


「……待って」


 でも、何かを察した様子の魔道士の人がヤイお姉ちゃんの腕を掴んでそれを止めた。


「勝てないし、逃げられない、死ぬだけで何の意味もない」


「わかってます、時間を稼ぐだけですよ。死ぬ順番を私からにしてもらうだけです。戦いで時間が稼げれば良し、それが出来なければ耐えて稼ぎます」


 そんなことしたら、あのおじさんみたいに……


「なんで、そこまで……」


「あの人は、命の恩人と言っていい人の1人ですので」


「……そう、わかった。なら、私はヤイの次に控えておく。2人ずつやられようとしても1組分は稼げるし」


「無理やり選択させたみたいで、すみません」


「私が決めたこと。でも、死ぬつもりはないから」


 そんな、このままじゃヤイお姉ちゃんと魔道士のお姉ちゃんが……あ、そうだ、同じことをすればいいんだ。


「……用件はまだですの?」


「ああ、すみません、お待たせしました。実は少々––––」


「––––私からにして!!」


 私は、ヤイお姉ちゃんが行動する前に大声で言った。


「イアさん?」


「なんの話ですの?」


 私の言葉に2人は疑問の表情を浮かべていた。


「殺す順番を私からにして!」


 そんな2人に改めてハッキリと言う。


「「っ!?」」


「へぇ〜」


「あら、珍しい」


 お姉ちゃん達は驚いた顔に、二人組の方は感心したような面持ちになっていた。


「何を言っているんですか!?」


「バカなこと言わない! それは私達の役目!」


 お姉ちゃん達は口調では怒っているようだったけど、心配してくれてることは強く感じた。


「で、でも、足を怪我した私にできることはこれくらいだし、誰にも死んでほしくないから」


「だからってイアさんがやる必要はありませんよ!」


「それに、その足は私のせい!」


 お姉ちゃん達が私に言い含めようとしたところで、連れの男の人が反応する。


「ハッハッハ! 面白い子だね〜。子供でそんなことが言えるなんて」


 そう言って笑いながら私に近付いてくる。


「そうですわね。子供がそんなことを言うなんて、昔を思い返してみても、そう無かったと記憶してますわ」


「だね。面白いから少しだけその子の希望に沿うかたちにしようか」


「「っ!」」


 希望に沿う、その言葉を聞いた途端にお姉ちゃん達が、連れの男の人に襲い掛かった。


「……危ないな〜、目を潰そうとしないでほしいよ」


「「くっ!?」」


 けど男の人は、その不意打ちを冷静に、焦ることなく防ぎ、目を狙った2人の手首を掴んでいた。


「ま、気持ちは分かるよ? 僕たちの目をこの子から君たち自身の方に向けさせたかったんだろうけど、君たちの希望には沿えないんだよねっ」


「「ぐっ!」」


 そして、2人を鉄格子の方に投げ飛ばした。


「今まで大人しかったですのに、突然の反抗ですわね」


「まあ、この子を守りたかったんだろうね。アスロト、あの2人が邪魔するようなら意識を奪わない程度に黙らせといて」


「はいはい、わかりましたわ。サッサとやってしまえばいいですのに、時間を掛けてあの子らが来ても知りませんわよ」


「大丈夫だよ。そんなに時間をかけるつもりはないし、流石にそれほど早くは来れないだろうから」


 そうエルフの人に言った後、何を考えてるか分からない目を向けられ、思わず体がビクッと反応した。


「さて、君の希望に少しだけ沿って、君に苦しんでもらうよ?」


 怖い気持ちはあったけど、覚悟はしていたので震えながら何とか頷くと。


「やめろ!」


 階段の方から叫ぶ声が聞こえ振り返ると、仲間達の先導を任せていた男の子だった。


「お前がやる必要ない!」


「そうだよ!」「手を出すなー!」「お前が死んじゃえ!」「お姉ちゃんから離れろー!」


 その男の子だけじゃなく、仲間たちみんなも叫びだした。


「そう、私達がやる……」


「そう、です……イアさんがやる必要はないです」


 お姉ちゃん達も立ち上がってそう言ってくれる。


「いや〜、この街は大人も子供もできた人が多いね〜。精神が強くて掛かりが悪かったりしたみたいだし。ま、結果は何も変わらないけどね。アスロト、子供たちと、そっちのシーフのランって子も眠らしちゃって」


「はいはい、面倒な手順が必要ですわね」


 エルフの人は手から紫色の霧を生み出して、それを仲間やシーフのお姉ちゃんに浴びせた。


「こんなのは、うそ…………」


「な、何だこ…………」


「「「なに…………」」」


 すると、みんなが不自然に倒れた。徐々に眠るとかじゃなくて、唐突に死んでしまったように倒れた……


「え……わ、私からやるって言ったよね!」


「そんなに慌てなくても、死んでないよ……だよね?」


「なぜベリアが疑問系ですの? 当然ですわ」


「いや〜、眠らすってことを勘違いさせたかと思ってね」


「そんな勘違いをするのはナームくらいですわ。あの子と一緒にしないでほしいですね」


「ごめんごめん」


「あの……ほ、本当に生きてるの?」


「もちろんですわ。動かないだけでちゃんと生きてますわ」


 なんでも、仮死状態という状態みたいで、動かないけど生きているみたい。信じるのもどうかと思うけど、この人達はそんな嘘をつかず、死んだなら死んだと言うと思った。


「さて、やっと静かになったし、始めようか」


 そう言って男の人がしゃがみ込み、足の怪我で立てない私に目線を合わせてくる。


「く、そ……やるなら私達にっ! ぐあ!」


「どうしてイアさんが、ぐっ!」


「順番にやりますから、大人しくしていなさい。貴方たちに選択権はありませんわ」


 お姉ちゃん達はあの霧を浴びてなかったようで、意識はあったみたいだけど、エルフの人から発生した凄い突風を受けて、鉄格子を壊しながら牢屋の奥の壁にぶつけられていた。

 私は真剣に自分を助けようと傷付くお姉ちゃん達を見て、辛くもあったけど嬉しくも感じた。だから、この選択は間違ってない、2人の助けになることは正しいと思うことができた。


「あの2人はアスロトに任せて、じゃあ選んでもらおうか」


「……選ぶ?」


「誰に死んでほしい?」


「…………へ?」


 私はその言葉を理解できなかった。


「な、にそれ? ど、どう言うこと?」


「どう言うことって、君が殺す人を選ぶんだよ。あ、殺すのはアスロトだから安心していいよ」


 ……何も安心できない。そして、説明を受けても私の頭は状況に追いついてこなかった。


「あと、自分を選ぶのは無しね。選ばない場合はマザーって呼ばれてるあの女性か、君を助けようとしてるあの2人を殺すね」


「え……」


 また頭が真っ白になりそうになったけど、最初に言っていたことの違いに気付いて何とか言葉を発した。


「ま、待って! 希望に沿うって! 私を苦しめるって言ってたよね!? なんでマザーとお姉ちゃん達が!」


「うん。だから君を傷付けて苦しめようとしてるでしょ?」


「へ? 何を言––––」


「––––君の心をさ」


「っっ!?」


 その言葉で察してしまった……そして、その言葉は私の決意や覚悟を台無しにする言葉でもあった……


「君は誰にも死んでほしくないんでしょ? そんで、誰かが死ぬなら自分がってことだよね? で、特に死んでほしくないのはマザーって人や、あそこの2人でしょ?」


 そこから先は聞きたくなかった。


「なら、君は死ねなくして、死んでほしくない人だけど選ばないと大切な人が死ぬ。そんな状況なら、君みたいな人には苦痛以外のなにものでもないよね?」


 言葉がでなかった……


「精神を追い詰めてるんでしょうが、相変わらず面倒で難しいことを考えてますのね。理解ができませんわ」


「時にはこっちの方が効果的だからね……で、君は大切な人のためにあの子供たちの中から誰を選ぶ?」


「そ、れは……」


「クズ! 子供あいてに!! っぐ!」


「うるさいですわ」


「イアさん! 子供たちを選ぶ必要はないです。私達を、っぐは!」


「ヤイお姉ちゃん!」


「必死ですわね」


「そうだね〜、それにあんな行動してたら、選び難くなるだけなのにね〜」


 え……


「そうなんですの?」


「だって子供たちの方を選んだら、大丈夫だと思っていても、助けた2人から仲間を見捨てたことを言われる可能性を考えて怖いだろうし。それに、あんなに自分を心配してくれてる人を選ぶのも辛いからね〜。あの2人は自分自身が望んでるから、選ぶこの子の精神的な負担が減るとでも思ってるんだろうね。この子が選んだことで人が死ぬってことは変わらないのに」


「……」


 正直、もう泣きたかった。お前が殺すんだと言われ、実際に殺してしまう事と同じ事のように感じたから。でも、私は無駄な足掻(あが)きとは思いつつも、私が殺す人を指差した。


「ん? なんで僕を指差してるの?」


「貴方が死ねばいいじゃない!」


「…………」


「イ、アさん?」


「予想外……」


「……確かに私達を選べないとは言ってませんでしたわ」


 男の人は驚いたと言うより、顔が無表情のまま固まっていた。


「……ぶ、あははは! そうか、それはそうだ。君が殺す人を選ぶとしたらこの中じゃ僕達しかいないね。でも、まさかこの状況でそんな選択をするとは思いもしなかったよ。あははは!」


 かと思ったら突然笑い出した。

 ……エルフの人も、この人も、人を貶めて苦しめる時にハッキリと感情を出して楽しそうに笑う。そんな、分かりたくもないことがわかった……


「あ〜おかしかった。これは僕のミスだね、ちゃんとルールを決めてなかった報いは受けるよ」


「え?」


「アスロト、僕を少し殺しちゃって」


「また、理解のできないことを言いますわね。まあいいですが、今までで一番面倒ですわ……」


「まあまあ、そう言わずに。力はちゃんと抜くからさ」


 男の人がエルフの人に言いながら私から少し離れる。


「はいはい、流石に強くいきますよ……瞬風」


「ちょっ!!」


 エルフの人が何かを呟いたかと思ったら、突然男の人が奥まで吹っ飛んだかと思うと、その反対の階段方向にいた筈の私にも凄い突風が来て、吹き飛びそうになった。

 そして、その突風に耐えた後に男の人を見ると、元気そうに立っていたけど、胸の辺りに穴が空いていた。でも、その傷は凄いスピードで治りつつあった……


「なん、なんでしょう、あの人達」


「理解しようとしない方がいい。あれは常識の外の連中」


「アスロト、突然な上にやり過ぎ。2つ分は無くなったよ」


「そうですの? 申し訳ないですわ。しかし、手加減なんて経験ありませんし、半端な攻撃ではダメージないでしょう?」


「それはそうなんだけどね〜」


「なに、してるの? 何が、したいの?」


 理解できないし、するつもりもないけど、自然とその言葉が出てしまった。


「うん? だって君が僕を選んだからルールに則って僕を殺してもらっただけだよ」


「まあ、私達は命が1つではありませんから、本当の意味で死んだわけではありませんが」


 何、それ……


「でも、1つの命、いや2つ分の命が無くなったのは間違いないよ。でもまあ、そんなことよりも続きをやらないと」


 続き?


「でも、ルールは変えようか。時間をかけ過ぎな気がしてきたし、君は選ばなくていいよ。死んでもいいと思っている人を僕が察するから。僕達は除外するけどね」


 察するって……


「さて、あの仲間の子供たちの誰なのかな……うーん、あの子かな」


 え?

 私の頭が追いついて来ない中どんどんと、男の人が話を進め、仲間たちの元に近付く。


「……この子でいいよね?」


 そう言って男の人は眠っているような状態の仲間たちの中から、孤児院にはいなかった子を連れてきた。


「な、何が?」


 私の考えている事とは違うと思いたくて、確認をする。


「だから、君が死んでもいいと思っている子」


「ち、違う! そんなこと思ってない!」


「ええ〜、そんなはずないんだけどな。僕達を抜いたら君が死んでもいいと思ってる子はこの子のはずだよ? 知り合いじゃないでしょ?」


「そ、それは……」


 確かに、この地下で初めてあった子ではあるけど、どうしてそんなことが……


「ちなみに、僕は魂が見えるから君が思っているより正確なはずだよ? ハッキリと見えるわけじゃないけど魂って記憶みたいなものだし、考えてることや思い出なんかも色々見えるんだよね」


 そ、んな……私はこの子の命を一番下にみたってこと?


「そいつの言葉は無視っ、ぐっ!」


「お姉ちゃん……」


「一々吹き飛ばすのも面倒になってきましたわ。ベリア、了承の必要はないでしょう。貴方が見て選んだ者がそれなのですから」


「まあ、そうだね。でも、ちゃんと起こしてから殺してよ」


「わかってますわ」


 男の人の手からその子が浮かび上がり、さっき浴びた紫色の霧が、体からこぼれ落ちているように見えた。


「う、うーん…………え!?」


 体からの霧が見えなくなると、その子が目を覚ました。


「やあ、お目覚め? 早速で悪いけど君が死ぬことになったから」


「……え?」


「あの子に死んでもいい人を決めてもらったんだよ。で、一番最初が君になった。つまり、一番どうでもいい子が君ってことだね」


「……」


「そんなこと言ってない!!」


「酷い話だよね。でも、人間ってこういうことがあるもんだよ。好きに恨んでいいからね? 僕でも、あっちのエルフでも、君を選んだあの子でも」


「っ!」


 そ、んな……わた、しはあの人達と、同類に、なるの?

 意図せずに人から恨まれる……そのことは、私の心に大きな傷ができると、心が訴えている気がした。だから今、私はその子を見ることが出来ないでいた。恨みの目で見られていたら、と考えると見れるわけがなかった……けれど。


「ううん、恨まないよ」


「え……」


 私は思わずその子を見ると、微笑んでいた。


「へぇ〜、どうしてかな?」


「だって、僕は元々1人だったから。待ってる人もいないし仲間もいないんだ。孤児院にいた子たち以外は大体そういう子ばかりだよ」


「ふ〜ん、でも君自身が死んでいい理由にはならないんじゃない?」


「そうだけど、ここで仲間ができたから、その仲間の助けになれるならいいんだ。それに、僕を選んだって言うけど、お姉ちゃんは仲間を助けて自分が傷付いたり、自ら犠牲になるようなことを言ったりしたんだ。だから、自分のためにそんなことをする人じゃないよ」


「っっ!」


 恨まれる覚悟をしていた分、嬉しさが込み上げてきて涙が出そうに……ううん、やっぱり少し涙が溢れた。でも、泣くことは色々と気持ち的にマズイから、そこから涙が溢れないようになんとか耐えた。


「うんうん、見事だね。本当に出来た子だったよ。アスロト、殺していいよ」


 え?


「ようやくですか。では……」


「っっっ!!」


「っ! やめてぇぇ!!」


 選んだ子が風で傷付けられるのが見えた。手や足を切断まではしない深い傷を付けられていた。


「くっっ! つぅぅぅ」


「あら」


「へぇ〜、声を出さないんだ? 君を選んだあの子のためかな? 悲しいね、こんなに仲間と思っていたのに死んでいい者として選ばれるなんて」


「やめてよっ!!」


「逆に君の選んだ子は良い子だよね。君のことを信用してるのは分かったから、あの子の口から教えてあげたんだ。心がグッときたでしょ?」


「っ! まさか、私を傷付けるために……」


「そう! よくわかってるね! これから順番に親しい人になってきてもっと辛くなるよ、きっとね」


「っっ!」


 楽しそうに言う男の人を見て。もう、無理だった……色々な感情が涙から溢れて止まらなくなっていた。


「ゲスが!! 炎矢!」


「貴方達の方が死ぬべきです! 風刃!」


「おお、魔力が歪められる中でよく発動できたね〜。黙って魔法を出そうとしてた成果かな? でも、その程度じゃ無理だよ」


 ……お姉ちゃん達が私を気にして怒ってくれていた。けど、男の人も魔法が使えたみたいで、より強力な風の魔法で消し飛ばし、お姉ちゃん達も一緒に吹き飛ばした。


「「ぐっ!!」」


「アスロトの邪魔をしないでよ。まだまだこれからなんだから」


「っづうう!!」


「あははは! なかなか良い表情ですわ」


「や、めてよ!! な、んでこんなことを……わ、わたしで、やればいいじゃない!!」


「ダメだよ。君が人を気遣う人間だからこうしてるんだから。君が自己中心的な人間なら、真っ先に殺してあげたんだけどね〜。ま、君の性格のせいだよ」


「っ!!」


 そん、な……人を気遣うのがダメだったの? 自分が助かりたいって言えば良かったの? 私の性格のせいで人が死ぬの?


「聞くな! 全部そいつのせいっ、ぐ!! 貴方は何も悪くっ! がっ!! …………」


「もうそろそろ黙ってもらうよ」


「お姉ちゃん!」


「そうです! イアさんの優しさはなにもっ、く!! 間違ってないっ、ぐはっ!! …………」


「ヤイお姉ちゃん!」


「うーん、2人は最初から黙らしといた方が良かったかな? まいっか、お互いにあんな様を見せられるのも辛いだろうし」


 ……私だけじゃなく、お姉ちゃん達をも苦しめる。そんな意味も含んだような言い方をする男の人を、私は泣きながらも睨みつける。


「おお、怖い怖い。何に怒ったのかは分からないけど、ようやく君の怒りを買ったみたいだね〜。それはそれで悪くないね」


 この人は!!


「ぐっっ! ああ!!」


「うふふふ! いいですわ〜、久々に楽しい人間ですわ〜」


「はっ、やめて! その子が、死んじゃう!!」


「アスロトは楽しくなっちゃうとなにも聞こえなくなるから無駄だよ。君が止めてみれば? その足じゃ動くのも難しいだろうけど」


 その言葉で私は足を引きずり、這うように近付いて行き。思わず動かそうとしてしまう折れた足の痛みに耐えながら、無事な方の片足で立ち上がり、ヤイお姉ちゃんから預かったナイフを向ける。


「僕にそんなもの向けてどうするの?」


「エルフの人を、止めて!!」


「嫌だよ、止める理由がないし。そもそも、そんなナイフでどうにかなる僕じゃないよ?」


 そう返してくるとは思っていた。だから、その言葉と同時に、片足で一歩、二歩と進み、倒れこむように突き刺そうとした。けど、男の人は避けようとはしなかった、結果……キンッと音がした後、私はうつ伏せに倒れ込んだ。


「ほらね?」


 音はナイフが折れた音だった。


「僕は色々あって体は頑丈なんだよ。君なら無駄とは分かってたと思うから、最後の足掻きってことかな?」


 ……そう、私なりの最後の抵抗だった。そして、ナイフの折れる音で私の心も殆ど折れていた。


「うぅぅ……ぐあああぁぁ!!」


「あはははは! もう限界ですか〜? 貴方は毒を使っても頑張りそうですね〜、うふふふふ」


「あの子はもう限界だね。アスロトがあんなテンションで使う毒はヤバイからな〜。出来れば心を強くもってね、まだまだ君が選ぶ子はいるんだからさ」


 私はうつ伏せから頭だけを上げて、その子を見た。手足が血だらけで酷い有り様だった。そして、その子にエルフの人が指先から、私の時より濃い紫色の玉を作り出して飲ませようとしていた。


「うふふ、流石に死ぬでしょうが、頑張って生きて長く苦しんでくださいね。あはは!」


「もうやめでよおおぉぉぉ!!」


 私がそう叫んだ瞬間––––


「「––––っっ!!?」」


「え……」


 突然、男の人、エルフの人が奥まで吹っ飛んでいき、大きな音を立てながら鉄格子を破壊し、壁に激突していた。

 私は少し唖然とした後、改めて2人をぶっ飛ばした2人を見上げた。


「まさか、こんな所にいるとはな」


「兄さん、ベリアって奴は私がぶっ飛ばしたかったんだけど?」


「いや、悪い。叫んでたし、イアがあいつの近くにいたから危ないと思ってついな」


 ……その2人を見て、私は今まで以上に号泣していた。この涙は複雑な感情なんてなく、ただ1つの感情で涙が溢れて止まらなかった。


「お、おいそんなに泣くなよイア。やっぱりあいつらに……イア、その足」


「兄さん、ミラニールさんや血だらけのこの子もかなり危ない」


「そうみたいだな……イア、遅くなったみたいで悪いな。もう大丈夫だからな」


 私は何か言いたかったけど、ライクお兄ちゃん達が来てくれた、その安心感から出てくる涙で何も言えず、只々(ただただ)頷きだけを返した。

イア視点はこれで終わりです。

次は……なるべく早く出します。

次のライク視点はイアを助けたところから始めます。助けに向かう話はそんなに大した話はないのでカットです。

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