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邪神教

切りどころがなくて遅くなりました……ちょっと長く感じるかもしれません。


技や概念のことを言っているところでは「」で囲うことにしました。

「瞬」で突撃し「発」を打つ。

「〇〇に近付く」ことはできる。

このように書くことがあります。

「」で、会話中の時は別の[]を使うようにします。全てを囲うわけではなく、分かりにくいところに目立つように書くようにします。


 急いで街から離れた後に、ミースを通した神眼でアリスが見て「森の近く」まで概念で飛ぶ。

 神眼で見た物も、ありすの視界として判断されることもわかっていたので、俺たちで出来うる限りの最速の方法をとった。


「この森のどこかの筈だが、神眼だと詳しく分からないな……」


「森に着けばもっと騒がしくて、すぐに分かるかと思ったのにね」


 森は随分静かだった。

 この森で間違いない筈なんだが……


「(……ライクさん、あっちの方向に妙な気配を感じます)」


 ミースがある方向を示す。

 そっちに集中すると、何かの気配も感じた。が、なぜかハッキリせず、居ると思うという曖昧な気配だった。


「(2人とも気を付けろよ)」


 2人が頷くのを確認して、気配のする方向に向かう。近付いて行くと気配は強くなっていると思う……そして、ある場所まで近付いた途端、突然景色が変わった……多くの血と、人と、魔物の死体という景色に……


「……なんだこれは」


「……突然現れた感じだね」


 この辺りだけ、木々が倒され無茶苦茶の状態だった。どんな手段か知らないが、神眼でも遠くからはこの惨状を視認できなかったようだ……


「(ライクさん、まだ戦っているようです)」


 確かに、奥から悲鳴やらが聞こえるな。

 俺たちは音がする方に向かう。


「「「ガウゥ!」」」


「くるなあぁー! ぐぇっ!」


「前衛はあれを抑ろ!」


「無茶言うな!」


「もっと火力がある奴はいないのか!」


 冒険者たちが、ヴォルフ? と言うやつなのか、頭が3つもある魔物と対峙していた。


「……デカイな」


 その魔物は、高さだけでも大人の3倍はあろうかという大きさだった。


「これがヴォルフってやつなのかな? ランクCから迫力が違いすぎる気がするけど」


「(変ですね、少なくとも私はこんな魔物は見たことありません。頭が1つで、もう少し小さいものなら知ってますが)」


 ミナネさんは十分な戦力を送ったと言ってたし、こいつが異常ってことなんだろうな。でないと、冒険者たちにこれほど被害は出ないだろう。

 それに、指揮する人間がいないのか、やられたのか知らないが、こちらでの戦いがなっていないのも理由だろうな。前衛、後衛でハッキリ分かれていないことから、冒険者のチーム別に行動しているって感じか。あれだと1チームで闘ってるのと変わらないな。


「あれだと、フォローする人数が足りなくて各チーム別にで殺されるね」


 チームは多くて4、5人だしな。実際あちこちに瀕死の奴やら、全く動いていない奴が倒れている。軍で動く訓練なんかしてないだろうし、様々な冒険者の集まりだからある程度は仕方ないとは思うが……まあ、それはいいか。魔物の実力がわからない以上、ラン達を助けるのが先決だ。

 ちなみに、俺たちが落ち着いているのは、神眼で死んだ人間を思い浮かべた場合、反応することはないことが分かっていたからだ。そして、今もラン達の反応をしていることから生きている筈だ。


「神眼は便利なんだが、大雑把にしかわからないから、結局は自分の目で探さないといけないんだよな」


「(便利には違いないじゃないですか)」


 そうなんだけどな。急いでる時だと正確に場所が分かればな、とは考えるよな。


「兄さん、あれじゃない?」


 アリスが見つめる方向を確認すると、ランとサーリアが2人揃って最前線にいた。ゲオルが見当たらないが、幸い2人は魔物の標的にはなっていないようだった。


「なんで、あんな前にいるんだ……アリスはサーリアのことを頼む、俺はランの方を」


 そう発して、急いでラン達の方に向かう。


「ところで、兄さんはランさんを運べるの?」


「……魔法の強化も洗練されてる筈だから、女性1人くらいなら大丈夫だ……多分」


「不安になるようなこと言わないでよ……」


「(まあ、無理そうなら私がフォローします)」


 こんなところで力の無さが露呈するとは……

 走りながらそんなことを話し、魔物に気付かれない距離までラン達に近付く。


「同時に行くぞ。他の冒険者は無視していい」


 2人が同意したのを確認すると、俺は「瞬」を使いアリスのスピードに合わせ突撃する。


「な、なんだ!」


「敵か!?」


 周りが若干驚いていたが無視する。冒険者たちの中に、最前線にいるチームを盾や囮にするつもりの奴がいるかもしれないからだ。助ける邪魔をされたらたまったもんじゃない。

 驚く冒険者をすり抜けながら、アリスとほぼ同時にラン達の元に到着する。


「下がるぞ」


「へ? ラ、ライク君!?」


「驚き……」


「失礼しますね」


 驚いているラン達を尻目に2人を肩に担ぎ上げて、魔物から距離をとりながら話を聞く。


「色々聞きたいが、まずゲオルは一緒じゃないのか?」


(はぐ)れちゃってわからないんだよ」


「ゲオルのくせに先走るから……それよりも、この運び方はどうかと思う」


「はは、これこそ正にお荷物だね」


 から元気っぽいな……神眼でも見る限りゲオルの反応はない。この辺に居るのか、何らかの魔法や手段で見えないか、それとも手遅れか……

 とりあえず、安全な所まで離れて隠れると、ゲオルと逸れる経緯や、この状況の流れを確認する。


 まず、ヴォルフの痕跡を追ってこの森に着き、冒険者全体を3チームに分けて捜索していたら、1チームがあの魔物に襲われたらしい。ゲオルはその悲鳴を聞いて、その場に向かって行き逸れたそうだ。ラン達もその場に向かうとチームは全滅しており、ゲオルは見当たらなかったらしい。残った2チームは魔物を確認しようとする者、逃げようとする者に分かれた。


「それからが酷かった……」


「それから?」


 今までの話でも結構な惨状だと思うが。


「人の醜さを見せつけられたみたいだったよ」


 簡単に言うと、そんな状況でチーム同士で殺し合いが起こったそうだ。

 その2チームの意見が割れている時に、3つ頭の魔物に襲われ、その時に逃げたがっていたチームが、もう一方の前衛チームを囮、もしくは盾に使いチームの大半を死亡させた。その後の魔物は前衛を全滅させることはせず、突然後方にいた逃げるチームを襲いだし、後方の大半を瀕死に追いやると、攻撃をやめてチームから距離をとったそうだ。


「やっぱりそういう連中はいたのか……しかし、行動の意図が判らん魔物だな」


「でも、そんな行動から生き残った前衛チームの何人かは、仲間の仇に後方チームを選んだみたいで……」


 ああ……


「瀕死の人間にトドメを刺して周ってた……」


「それは……酷い、ですね」


 人間の汚い部分が連鎖的にでたな……

 ラン達は前衛側にいたが、そのドロ沼状態から何とか生き残ったようだ。


「……話を聞いてさっきから気になっていたが、冒険者の団体を瞬時に壊滅できる魔物を相手にして、現状戦えていることに違和感があるんだが」


「それはね……多分あの魔物に知能があって遊んでるんだと思うよ」


 遊んでる?


「後衛を殺し始めた話にまだ続きがある」


 何でも、後衛を殺し始めた人間は狂っていたようで、味方殺しに加担していない後衛まで殺しに掛かり始めた。最初は正常な人達で取り押さえようとしたが、そのせいか今度は無差別に襲うようになり、止む終えず最終手段をとったそうだ。


「で、その間に魔物は何してたと思う?」


 なに?


「何もせず、ただ距離をとって私達が仲間を殺すのを待ってた」


 なるほど、それで現状を維持できているのは殺さないように遊んでるからか……知能があるとしたらかなり性格悪いな。


「そんな状況で、ここに残った奴らはよく逃げ出さないな」


「みんな一度は逃げたよ。でも無理だったの」


「まあ、あの巨体なら仕方ないでしょうね」


「そうじゃない、そもそもこの森から出られない」


「え?」


 何でも、森から出ようとして一直線に逃げてもこの辺りに戻ってしまうらしい。そういえば、俺たちも森に入って少し進んでから、突然景色が変わる妙な現象があったな……それでも、多分アリスの概念なら出られると思うが、「街の近く」まで飛ばすことになるから、ラン達に特殊だと気付かれるよな……概念を知られるよりも、ちょっと強いくらいに思われる方がマシか。


「ライク? 助けに来たの後悔した?」


「そんなわけないだろ。とにかく、あの魔物を倒したら手っ取り早いってことだな」


「「え……」」


「助けはいらないと思うけど、手伝うよ」


「(岩石を吹き飛ばしたあの無慈悲な技を出す時がきましたね)」


 アリス達は何の心配も無い表情で、ラン達は呆気にとられた顔で見事に反応が分かれた。


「ちょ、ちょっと待って! あの巨体だよ!? 冒険者の多くがやられたんだよ!?」


「危険過ぎる。オーク達とはわけが違う、やめるべき」


 ランは必死に、サーリアは冷静に言っているが、顔と俺を掴む手が必死さを表していた。


「大丈夫ですよ。言ってしまえばあの魔物は油断してるわけですから」


「つまり、慢心していて隙だらけなわけだ」


「そうだけど……」


「……」


 ランは心配そうに、サーリアも俺を掴む手を離そうとしない。ゲオルがいないこともあってか、思っていたほど余裕はなかったみたいだ。


「……あんなのがいるとゲオルを探せないだろ? 安心してくれ。慢心と油断をする生き物に未来なんてあるわけがないんだからな」


「そうですよ、2人とも。ああ言った輩には兄さん珍しく強気になりますから。それだけ簡単ということですよ」


「(そういえば、今回は大胆ですね。オーク達の時はかなり慎重でしたけど」


 慢心してる奴には負ける気しないからな。正直、オーク達の方がまだ厄介に感じるな。


「……わかった。危険だと思ったら逃げてよ?」


「出来る限り注意を引く」


 2人はようやく送り出そうとしてくれる。

 だけど、その心配はいらないと思うんだよな。命のやり取りは終わる時は一瞬で1撃だし。その命を守らず、投げ捨てているも同然の輩には、命がどれだけ貴重だったか教えてやる。


「じゃあ、行かせてもらうか」


 俺は隠れていた場所から出て、アリスと一緒に魔物の元に向かう。


「おい!? 危ないぞ!」


「誰の連れだ! 連れ戻せ!」


 流石に狂うこともなく、ドロ沼の戦場を生き残った連中は、まともで優秀な人達のようだ。

 言葉では伝わらないと思ったので、俺は行動で示すため「瞬」で魔物に突撃する。


「「「ガウ!」」」


 魔物の前足からの爪が飛んできた。俺はそれを避けながら少し痛めつけるかと考え、前足がまた飛んできた時に、股を抜けるように前進して避け、両後ろ足に攻撃を加える。


「烈」


 その後、俺はすぐに距離を取る。


「「「グガアァァー!?」」」


 魔物は絶叫した。そして、あまりの痛さからか後ろ足が使い物にならなくなり、前足だけで体を支える状態になる。俺はその前足に、また「烈」を繰り出す。


「「「グゥオォォー!」」」


 魔物は叫び声をあげながら、前足、後ろ足を広げるようにして倒れこむ。

 本当に簡単だったな、距離を取られたりすると面倒だったんだが。


「やっぱり何もすることがなかった」


 アリスは、一応フォローのため後ろで控えてくれていた。言った通り出番は無かったが。


「(攻撃に概念を使うまでもなかったんですね)」


 無力化するなら必要ないな。その程度の奴だったし。


「……何者だあいつ」


 冒険者一同は突然のことに固まっていた。あの人達には後で説明するとして。


「「「グルルゥ」」」


「まだ睨み付けるだけの元気はあるんだな、サッサとやるか」


 俺は魔物に近付き、殺気を出すのではなく、殺気が出る。


「「「っガウゥ!?」」」


 殺気から実力差を感じとったのか、魔物は慌てふためき始める。


「お前にとっては想定外かもしれないが、その想定外に注意せず、命を投げ出した自分を悔やむんだな」


 俺は立ち上がろうと、もがく魔物にゼロ距離で広範囲の「圧」をぶつける。


「「「ッグ! ガアア……」」」


 魔物は目を見開いた後、力なく3つの頭が崩れ落ち、口から得体の知れない液体を出しながらしばらく苦しむと、動きを止めた。


「終わりか」


「こんな巨体でも一瞬だったね」


 少し離れた所から見ていたラン達に、魔物が動かないのを確認してから大丈夫と合図を出す。


「凄い……」


「……強すぎ」


 こいつが油断していたのもあるんだけどな。まあ、技は巨体にも問題無く通用するみたいだな。


「(ちなみに何をしたんですか? 「烈」という技については聞いてませんし、「圧」というのもこれほど威力があるとは思いませんでした)」


「(そうだな「圧」も「烈」も体の内側から攻撃してる面では同じだな。ただ「圧」は加減しだいで内側を壊す、潰す技で「烈」は内側を刃で傷付けることに留めて動きを制限する。簡単に言うとそんな感じだ)」


 ただ「烈」は強弱が出来ない上に、技の中で痛みは最大級だから人に使うとショック死しかねないので、あまり使うことはない。わざわざゼロ距離まで接近して、魔物相手に動きを制限する必要性は殆ど無いしな。


「し、死んだのか?」


「……動かないぞ」


 冒険者たちがどよめき、魔物の動きが止まっている時間が経てば経つほど、喜びの声が聞こえ始め、そろそろ歓声が上がりそうなそんな時に……


「凄いな。あれをあんな簡単に倒すとは」


 突然気配が現れ、見知った声が聞こえてきた。


「……ゲオル?」


「よう」


 ゲオルがこちらに向かってる片手を上げる。


「あ! ゲオル!?」


「私たちの盾がどこで何してた」


 ラン達はゲオルに駆け寄る。

 俺はそれを止めようかと思ったが、ゲオルから感じるものから目が離せなかった。


「(……ライクさん、ギルドで見た時よりかなり嫌な気配を感じます……)」


 ギルドで感じた違和感をもっと気にするべきだったか……俺はこの場にいるゲオルを疑いの目で凝視すると、途端に霧が掛かってハッキリしなかった感じが、鮮明に見え、鮮明に感じた……こいつはゲオルじゃないと。


「2人とも! そのゲオルに近付くな!」


「「え?」」


「残念、ちょっと遅いかな〜」


 ゲオルに化けている奴が、大きな音を立てて片腕ずつでラン達を地面に抑え込む。


「「っく!?」」


「今度はなんだ!?」


「あの男が美人を押さえ込んでるぞ!」


「また狂ったやつか!?」


 冒険者が騒ぎ始めると。


「うるさいなー」


 ゲオルに化けている奴がそう言うと、3つ頭の魔物が2体出現した。


「騒がずに離れといて、騒ぐと死ぬから」


 冒険者は一斉に黙り、少し距離をとるだけで逃げようとすらしない。この場を生き残っただけあって流石に冷静だな。ここで騒ぐ冒険者はみんな既に死んでるか。

 ラン達は、その間に抜け出そうとしていたが、凄い力なのか、2人はもがくことしか出来ないでいた。


「さて、とりあえずこの2人だけでいいかな。でも、やっぱりバレるの早いな〜。ギルドでも危なかったしバレるだろうとは思ったけど」


 何事もなく1人で喋りだしたな……


「お前、何者だ?」


 魔物やさっきの言動もあり、俺は目の前の人物に対し警戒レベルを上げる。

 俺の様子にアリス達も相手を見つめ注意する。


「あれ? 知らない? ランクが低い人には伝えてないのかな〜。とりあえず、勿体無いし姿は晒しもいいかな」


 そう言うと、俺の目にはゲオルと被って見えていた人物が表に現れた。

 ……やはり見た目は俺たちとさほど変わらないように見える。


「どうも、邪神教のベリアです。どうぞお見知り置きを」


 ベリアと名乗ったそいつは、一方の魔物にラン達を押さえ込ませ、軽く礼をする。


「邪神教?」


 聞いたことがないが。


「その辺はギルドにでも聞けば分かるんじゃないかな?」


「まあ、それはいい。それより、ゲオルをどうしたんだ?」


「ゲオル?」


「私たちの仲間だよ! ここにいっしょに来た!」


「お前が化けていた人物」


「ああ、あれね。ここにはいないよ、そもそもここに来てないし」


 やっぱりか……


「ど、どういうこと?」


「だって、ここに一緒に来たの僕だし」


「……なら、ここで襲われたのは」


「そう、僕が誘導して襲わせたんだよ。中々面白かったよ、あんなにドロ沼化するなんて思わなかったからね。人は多く集めてパニックにさせると、何人かはあんな感じになるから面白いよね。裏切りや瀕死にトドメは笑えたよ」


 ベリアは心底おかしそうに笑っていた。それを共有できる人間がここにいるわけもなく、みんな引いていた。


「(あれにはゲスという言葉すら生温いね……)」


「(どうすればあんな人が生まれるんでしょうか……)」


 知らなくていいことだろう。それよりも、こんなのでも会話が出来ているのがな……冷静にそんな行動をしていることの異常性が表れてるな。


「な、ならゲオルはどこにいるの! いつ入れ代わったの!?」


 ランが必死でゲオルの居場所を聞こうとする。


「んーとね、いつって言われたら3人だけで様子を見に来てた時だね。居場所は知ってるけど、見ない方がいいんじゃないかな〜。それに、君と僕の秘密もあるわけだし?」


「何それ……君と接点なんてなかった筈だけど」


「何ってそれは、君は僕をゲオルって人だと思っていて、ゲオルって人が好きで、告白をして、一緒の宿で泊まって、あとは……ねぇ?」


 ベリアが気持ちの悪い笑みを浮かべていた……


「な、に……それ……」


「いや〜悪いとは思ったんだよ? だから記憶を消して上げたんだし。あ、でも思い出しちゃったね」


「うそ、うそうそうそ! そんなことしてない! 」


 ランは自分に言い聞かすようにして叫ぶ。


「(兄さん、この人すぐに殺した方が世のためじゃないかな?)」


「(そうですよ。死んでなおかつ、彼が2度と生命として生きない、生きられない方法があればいいんですけどね)」


「(まあ、ちょっと落ち着け)」


 確かに、死んでほしいのも、触れたくない、生きる糧にすらならないでほしい気持ちはわかるが、ラン達もいるし、何してくるかわからない以上慎重にならないとな……


「ゲオルとは別々の部屋だからありえない」


 サーリアがランを落ち着けるためか、ベリアのそんな言葉を否定した。


「彼女が僕の部屋に来たんだよ」


「隣だったけど、そんな音や声は聞こえなかった」


 ……さっきはベリアの言葉を事実と疑わなかったが、サーリアの言葉を聞いてると、ベリアの言葉が嘘に聞こえ始める。


「聞こえたから君も僕の部屋に来たのかな?」


「何それ」


「この子といる時に君も来たんだよ。悪いと思って記憶を消しておいたけどね」


「(何でしょう。なんか、急に嘘っぽく聞こえますね)」


「(うん。あと、なんか会話が変じゃない? この人、今から事実を作ってるみたい……)」


 ……確かにな。嘘かもしれないが、記憶に関することも言ってるし、もしかして孤児院の子供らを操ったのってこいつか?


「それが事実だとしても、お前が記憶を消す理由がない。私がそれを見たとしても何とも思わないはず」


「そう言われてもね〜。あ、なら君にはゲオルって人じゃなくて、別の想い人に見えたんじゃないかな? そういうこともあるんだよね」


「え……」


「その反応だと、それならショックを受ける可能性があるみたいだね〜じゃあ、そういうことじゃないかな」


「そ、んな……はず……」


 ……可能性は高いな。ランもサーリアもあいつの言葉を鵜呑みにしすぎだし、俺たちも最初は鵜呑みにしたからな。なぜか俺たちには効果が薄いみたいで、すぐに気付けたみたいだが。


「ラン! サーリア! そいつの言葉を聞くな! 言葉で人を操る能力があるぞ。そいつが今言ってることは全部デタラメだ!」


 実際にあるかは知らないが、人を騙すような能力なら、断言した方が目を覚ますキッカケになりやすいだろ。疑われるようになれば騙しにくいだろうし、俺たちも疑いだしてから気付いたような気がするしな。


「うそうそうそ、ありえないありえない……」


「ライク……そうだ。あんなのと一緒にいた夜なんてない、記憶の欠落もない。全部デタラメ……」


 サーリアは大丈夫みたいだが、ランはダメっぽいか……アリスなら「正常に近付けて」治せる可能性があるから後で試すか。


「あれ〜、本当に効き目が悪いな〜。君たちの影響かな?」


 ベリアは俺たちを見ながら言う。

 詳しくはわからないが、惑わす系の能力なのは間違いないみたいだな。


「まあいいや〜、サーリアはライクから離せばやりやすくなるでしょ」


「「気安く呼ぶな」」


「あ〜ごめんごめん。あれでいた時はそう呼んでたから、ついね」


「(ワザと、ですね……)」


「(人を惑わす能力を持ってる人だからね。常にあんな感じなんだろうね)」


 面倒な奴が、面倒な能力を持ったもんだな……


「で、お前は何が目的なんだ? ラン達をどうするつもりなんだ?」


「う〜ん、簡単に言うと人を痛めつけて殺すことが目的かな〜。で、この2人にはそんな目にあってもらう。根性ありそうだったからね、ランは物理的に、サーリアは精神的がいいかな、と思ってるよ」


 挑発でもしてるのか、サーリアの呼び名を変えるつもりはない上に、ゲスなことを楽しそうに語りやがる……


「……ふざけてるの?」


「ん〜? 何が?」


「……」


 サーリアは、ランの仕打ちや呼び捨てが気に入らないのか、どうにもイライラしているようだった。


「サーリア、ランもこいつも俺が何とかするから落ち着け、サーリアらしくないぞ」


 俺のそんな言葉を聞いて、サーリアはちょっと驚いた顔した後、ほんの少し笑った。


「……ふふ、年下のライクにそんなことを言われるとは思わなかった。そんなに私のこと知らないくせに。でも、わかった。ライクに全部任せる」


 そう言うと、俺の知っている余裕の無表情よりも少し笑みが見える顔になった。


「へぇ〜、サーリアは随分ライクを信用してるんだね〜。実は想い人はライクなのかな? それなら効き目が悪かったのもわかるんだけどな」


 まだ、挑発するのか。正直、早くこの状況を何とかしたいが、あいつはラン達をいつ殺してもおかしくないからな……


「さあ? 貴方の好きなように解釈すれば? でも、一応言っておくと、信用=想い人? フッ……笑える。女の心、人の心を学んで出直して来るべき」


 サーリアの言葉にベリアは何とも言えない表情をする。


 ……サーリアさーん、調子を取り戻したのはいいけど挑発しないで〜、そいつ何するかわかんないから。


「(良い反撃です)」


「(小さい子供が恋愛をからかってるみたいだね。フフ、頭がおかしい人が真面な恋愛をしてるわけないから、それ関係で人を惑わすことは雑みたいだね)」


 2人はベリアの奴が押し黙っている様子に気分を良くしていた。

 気持ちはわかるがちゃんと注意してくれよ。


「……やっぱり彼がいると今のままじゃダメみたいだね。まあいいさ、無駄に消費することはないし、そろそろ連れて行こうかな。あっちも終わったみたいだし」


 ベリアがそう発すると、また突然ラン達の側に何かが現れた。


「やあ、アスロト。そっちは問題なかったかい?」


「問題というほどではありませんけど、兵士のあれが捕まりましたわ」


 ……人? シスターっぽい服を着たエルフだった。


「(綺麗な人だけど……)」


「(あのエルフからも嫌な気配を感じます……)」


 あいつと親しげに話している時点でな……というか、魔物が出現したり、エルフが出現したり、あいつらも転移的なことができるのか。不味いな……


「あ〜、ナジって奴だったかな? まあ、確かに問題はないね。神具でもないと暴けないと思うし、今更バレても影響ないでしょ」


ナジ? なんであいつの名前が……同じ名前の別人か?


「ですわね。それでベリア、この子達ですの?」


「そうそう、こっちのランって子がアスロト向きかな」


「ありえない、していないはずなのになんで頭の中で映像が……うそうそうそ」


「もう既に少し壊れてません? 私の楽しみ奪わないでほしかったですわ」


「ごめんごめん。思った以上に精神面は脆かったみたいでさ、でも君の毒で正気に戻る程度だと思うよ」


「ならいいのですけど」


 エルフもやばい奴、確定だな。

 それと、転移はベリアの奴がサッサとしなかったことから、あいつはその手段がなくて、エルフの方が使えるってところか。

 俺はミースとアリスに転移の可能性があることを伝え、ラン達を連れて行こうとするタイミングで突撃することも伝える。


「(わかりました。ぶっ飛ばします)」


「(私はベリアって人をやるよ)」


「(お、おう。ミースは一応アリスのフォローを頼む)」


 闘争心高いな、あれ相手じゃ当然とも言えるか。


「もう1人は僕がやるから残しておいてよ」


「わかりましたわ。それじゃ、連れて行きます––––」


 その言葉と同時に「瞬」で一気に近付き、エルフの方に軽く「発」を打つも、うまく当たらなかった。

 なんだ? 手ごたえとしては当たってはいるが、受け流された?


「わ……っと、なんですの?」


 技を打って直撃しないのは初めてだった。明らかに危険な奴らだし、手加減する必要はないか。


「アリス! 手加減するな!」


 その言葉のすぐ後にベリアが吹き飛ぶ


「っえ!?」


「あら、ベリアが……」


 呑気なエルフに通常での本気の「発」を打つ。


「くっ!?」


 今度は届いたみたいでエルフも吹き飛ぶ。


「アリスはベリアの奴を見ていてくれ」


「わかった」


 アリスがベリアの吹き飛んだ方向に向かい少し離れる。

 その後に、ラン達を押さえ付けていた魔物が両前足で俺に襲い掛かってくるも、俺は真正面から両手で受け止めるように「発」を打ち、魔物の前足だけを吹き飛ぶようにして、前足が背中に生えているような状態にし、前足が前に無くて倒れこむ魔物に「発」と「圧」を同時に放つ「圧発」を打ち、吹き飛ばしながら絶命させる。

 こんな所で倒れて、ラン達の上に乗っかられても困るからな。


「ライク!」


 サーリアの叫びに振り向くと、ランが消えており、自分のお腹とサーリアを押さえたエルフの女が立っていた。


「結構痛かったですわ」


「いつの間に……」


 こいつら、注意し続けないとすぐ気配が消えるな……ベリアも今は気配を感じないが、アリスについてるミースから何とか居場所はわかる。神眼を洗練すれば、もう少し何とかなるならいいんだが。


「悪いですけど、この子も連れて行かせてもらいますわ。何か言い残すことでもあります?」


 ……こいつ殴られた割に随分冷静だな。それに、なんのつもりだ?


「……ライク、無理に助けに––––」


「絶対助けるから諦めるな」


 相手に俺の攻撃があまり通じてないことを心配したのか、何かを決意したような顔で、サーリアが言おうとした言葉を俺は遮る。


「……ふふ、アリスが「兄さんは自分を過小評価し過ぎ」って言ってたけど、その割に自信はあるんだ……期待して待ってる」


 自信があると言うより、決意を固めただけだ。


「終わりまして? では」


「ちょっと待った。何のつもりで言葉を待ったんだ?」


 エルフは心底不思議そうな顔して言う。


「何って、人は希望があれば頑張るものでしょう? 簡単に壊れたり、死なれたりしたら面白くないですし、困りますわ」


 本当に人を傷付けることが目的なのか……こいつら狂いすぎだろ。ただ、ベリアの奴は【簡単に言うと】と言っていたから何か他に目的があると思うが、人を惑わすような奴の言葉だからなぁ。

 俺はラン達が連れて行かれることにかなりの危険を感じ、サーリアだけでも「迅」で助けようかと考えたが、相手の能力やらが謎すぎる上に、「迅」の攻撃力を試してないので、サーリアに危険が及ぶかと思い、考え直す。「瞬」でも考えるが、結局賭けの要素が多すぎてサーリアが危険なだけと考えた。


「ライク、頑張るけど早めにきてくれると助かる」


 サーリアはいつもの様子で、俺が重く考えないようにか、軽い感じで言ってくる。


「わかってる」


「それじゃあ、失礼しますわ」


 そう言い2人は消え去った。


「あ、しまった。場所も聞いておけばよかった……」


 案外、油断して教えてくれたかもしれない。


「まあ、いいか。ベリアの奴がまだいる筈だし」


 俺はアリス達の気配のする方に向かうと……


「(ライクさん! アリスさんの様子が変です!?)」


 ミースが叫ぶ。


「(どうした!? 何があった!)」


「(それが攻撃を受けた様子はなくて、精々触れられた程度なんですが、急に頭を押さえて、さっきのランさんみたいな様子なんです)」


 くそ! 疑っていればどうにかなるレベルのものじゃなかったのか! 俺たちに効果が薄いだけであって、効果が無いわけではないことをもっと考えるべきだった。

 俺は急いでアリスの元に向かう。


「くううう!! 違う違う!!」


「頑張るな〜、やっぱり概念使いだと掛かり(にく)いな」


 たどり着くと、そこに頭を押さえて必死に何かを否定しているアリスがいて、そのアリスに近付こうするベリアがいたので吹き飛ばす。


「っく!? いったいな〜」


 ベリアは無視してアリスの様子を確認する。


「アリス! 何があった? どんな感じだ」


「わ、かんない……にい、さんが、敵って頭が……うる、さい」


「(すみません、私ではどうすればいいのか分からない(たぐい)のものです……)」


「(気にするな、あいつは概念のことを知っていた。多分、概念かそれに近い能力で何かしたんだろう。わからないのも無理はない)」


 概念使いという言い方から、俺たちよりは概念魔法のことには詳しいんだろう。


「(アリス、なんとか概念で「正常に近づける」ことだけを考えるんだ。あいつは何とかするから)」


「う、ん……」


 俺はベリアと向き合う。


「うん? こっち向いてていいの? そのアリスって子に君を敵と認識するようにしてるから危ないよ? 概念使いでも掛けようと思ったら掛けれるからね?」


「あり、えない……にいさん……が、敵なんて……」


「アリス、聞くな集中してろ」


「う〜ん、確かに中々上手くいってないけど、それは僕が敵になってるからなんだよね。だから、僕が味方に見えれば敵に見えやすくなるよね? 例えば、僕が兄さんになるとか?」


「…………は?」


 アリスが切れた。


「クズ、が兄さん……を名乗るな! かなら……ずぶっ、とばす!」


 アリスは凄まじい殺気を出す。

 これは、ちょっと不味そうだな……


「怖! まあ、実際は向けている感情が正反対すぎて、消費が激しいからやらないけどね。で、それだけ冷静さを欠いてくれると、やりやすいんだよね」


「くうう! 違う違う違う!!」


「(アリスさん!?)」


 アリスはまた苦しそうに頭を振る。が、俺はベリアを見続ける。


「ライク君は随分冷静だね〜。隙がないや」


「人を惑わすような奴だと知ったからな」


「うんうん。大したもんだよ」


 やっぱり冷静さを欠くとダメなやつだったか……概念を使う以上、触れられて最大限に効果を発揮されると不味そうだが、サッサとやるのが一番だな。

 俺はベリアに突撃しようとしたら……


「(ライクさん!)」


 気配はあったので、後ろからの蹴りを避ける。


「……」


 早いな……

 目が明らかに正常ではないアリスだった。


「隙をつければ案外早いんだよ。で、この状態なら僕を味方に見せるのも––––」


 そんなことを俺がさせる筈も無く、「瞬」で一気に詰めるが……


「そのスピードはさっき見たから2度目はないよっ……いて!? なんで壁が!?」


 ベリアは距離をとろうと、俺に負けないスピードでバックに移動しようとしたが、あるはずのない透明な壁に阻まれていた。


「(逃すわけないですよ! ライクさん!)」


「(ナイスだ!)」


 ミースが作り出した壁に追い詰めて、殺すつもりで繰り出す。


「消!」


「ぐふっ!」


 ベリアは驚いた顔をしながら、ミースの壁を突き破って軽く吹っ飛ぶが、俺も「消」で風穴が開かないことに少し驚いていた。


「消」は威力やらスピードが早すぎるからか、基本は貫通して俺の手のサイズの風穴が開くことしかなかったからだ。その威力にベリアは耐えられる体ということになる……これは少なくとも人外認定した方がよさそうだな。


「(ライクさん……余裕ですね)」


 そんなことを考えながら、アリスの攻撃は避け続けていた。


「(いや、だってな。身体能力だよりの攻撃なんて本来のアリスの10分の1にも満たないぞ)」


 操られたアリスは本能で動く動物のようで、目の前の敵を襲うことしか考えていない。

 それよりも、どうすれば元に戻るんだ? 時間なり、相手が概念を止めるなりすれば戻るとは思うんだが。


「ごほっごほ! 驚い……た。ここまでのダメージを受けるなんて……」


 そんなことを考えていると、ベリアが立ち上がる。

 まだあんなに喋れるとか、頑丈なやつだな。


「丁度いい、アリスを戻すつもりはあるか?」


「正直、君を敵にまわしたことを少し後悔してるけど、戻すつもりはないよ。君にはアリスちゃんとここで時間を潰しててほしいからね」


 なんの話かわからないが、戻すつもりがないなら仕方ない。


「そうか……フッ!」


 俺は暴れるアリスを手刀で軽く気絶させて、ゆっくり地面に寝かせる。


「そういえば、お前は俺が冷静だと言ったがそうでもないぞ? アリスを苦しめた奴を許すつもりはないし、下手に出て油断を誘うような奴に容赦はしないぞ?」


「あ、バレてたか〜、でもやっぱり冷静だね〜気絶されたら惑わすも何もないからね」


「(ミース、アリスの側に)」


「(わかりました)」


 ミースが側につくと、おれは改めてベリアに向き合う。


「さて、アリスを苦しめた罰として半殺し、もしくは……死んでしまえ」


 俺は、1度目や2度目とは違う本気の「瞬」で––––


「––––え」


「瞬、圧発」


 あまりの速さから聞こえる風の音を聴きながら、瞬時に詰めて、概念を攻撃手段として本気で人に使う。


「っっっ!?」


 当てた途端、瞬く間にベリアが真っ直ぐ吹っ飛び、見えなくなるまで木々を折り倒し続けた。森の外まで吹き飛んだのか、森の中から外の平原が見えるほどに木々がなくなり、切り株のような木々の残骸がまるで森の出口への道しるべのようになっていた。


「(…………随分飛びましたね)」


「(……そうだな)」


 少し驚いたが、当然と言ったら当然か。「瞬、発」だけで人より重く大きい岩石が吹っ飛んだからな。


「(流石に死んだんじゃないです? 良かったんですか?)」


 ミースはアリスのことを心配しているんだろう。

 一応なんとかする方法は考えているし、あいつを生かしてても仕方ないからな。それに、技は確かに全力で打ったが、威力は弱い方の技を打ったので、死ぬだろうとは思っても確実に殺すほどではないつもりだから、生きてる可能性はあると思う。頑丈みたいだし、クズだったから概念を人サイズに打つ実験にも良かったしな。


「(まあ、罰としては良かったですかね。生きていても相当辛い状態でしょうし、死んでいたらそれはそれで良いですね)」


「(そうだな。とりあえず、見に行くか)」


 俺は力を強化して、アリスをお姫さま抱っこで運び、ベリアの様子を確認しに行く。


「(……これほどの木が折れたり、倒れたりしながらも止まらなかったんですね……」


 ミースは木々の様子に驚きながら、俺はベリアやエルフの仲間に注意しながら森を抜けると、平原の一部が地面を抉って土に変化していて、そこにベリアが倒れていた。


「ぐっ……ごふっ……相手をするべき人じゃなかった……ちょっと死んだかな……」


 マジか……


「(い、生きてますね。あれはもう人じゃないですね……)」


 それは間接的に俺も人外と言ってるみたいで嫌なんだが……まあ、確かにあれを食らってあんなに元気だと、言いたくはなるだろうが。


「頑丈な奴だな」


「まあ、ね。これくらい……頑丈じゃないと、怖い人達が、いるからね……」


 流石にダメージは大きいようで、足を震わしながら何とか立ち上がり、「消」を当てた時とは違い今回は本当に苦しそうにしていた。


「で、まだやるのか?」


「え、遠慮しておくよ……迎えも、呼んだから」


 そう言うと、エルフの仲間がまた突如現れた。


「失礼しますわ。また会うとは思いませんでしたが」


 エルフは最初に現れた時とは違い優雅に礼をする。


「……随分やられましたわね。それとも、またウソでからかってるんですの?」


「酷いな……今回は本当だよ。それで、森の方は終わった?」


「貴方が突然呼ぶからまだ終わってませんわ。こんなに早いなら言っておいてほしかったですわ」


「これは想定外だからね、あっちもそうみたいだし……よし、ちょっと回復してきたかな」


 軽く手足を動かしてベリアの奴が言う。

 回復するの早すぎだな、人のことは言えないが。やる時は本気でいかないとやれそうもないな。


「それで、どうするんですの? この子をやるんですの?」


 その言葉に俺は気持ちだけ身構えた。


「いや、それはやめた方がいい。ライク君たちは使徒の連中と同じレベルで警戒するよ」


 ベリアは真剣な顔と口調でエルフを止めた後、またふざけた少年口調に戻る。


 ……使徒?


「それほどの相手ですか、ならサッサと街から撤退ですの?」


「いや、与えてからでも遅くはないよ。森の連中はもういいや、作った獣は適当なタイミングで放っておいてよ」


 こいつら、何をするつもりなんだ。


「おーい、逃げるような話に聞こえるが、アリスを戻す気はないのか?」


「悪いね。ライク君を自由にさせると面倒そうだから、アリスちゃんでちょっと時間稼ぎをさせてもらうよ。そんな状態だと君は好きに動けないだろうし、治さない方が僕たちを見逃すよね?」


 ベリアが確信しているように言い、俺は間違ってない言葉に何も言えなかった。

 こいつ、よくそこまで確信出来るな。確かに、大事に思ってることも伝わったかもしれないし、アリスへの危険を考えると無理には攻めれないが、お前を倒そうと考える可能性だってあるはずだが……確信に至る何かがあるのか? もしかすると、アリスへの挑発もそれで効果的な言葉を選んだのかもしれないな。


「間違ってないみたいだね。じゃあ、去る前にちょっとした意趣返し、じゃないけど伝えておこうかな。ライク君、冒険者の人たちのこと忘れてない?」


 ……ん?


「(……そう言えば、ランさん達といた冒険者の人たちはどうなったんでしたっけ?)」


 ……忘れてた? いや、そんなレベルじゃない。冒険者たちはここに居ない、安全だと思い込んでいた?


「思い出した? 関係の薄い人同士だとこういうことも出来るんだよね。ライク君達が僕達に注意を向けた、その時にね」


 こいつ、厄介すぎる……やろうと思えばラン達にもできそうだな。


「心配しなくても、関係の薄い人同士じゃないとダメなのは本当だからね?」


「本当かどうか怪しいものですわ」


「アスロトが言うの!? はあぁ、全く……疑われると強調しないと邪教のみんなも僕を信用しないから困ったもんだよ」


 こいつら、狂っているところを隠すなりしたら、その辺の人と変わらないかもしれないな……


「で、冒険者たちをどうしたんだ?」


「連れて行くなり、殺すなりしましたわ。まだ生き残りはいましたから、助けるなら急いだ方がいいですわ」


「殺しておきたかったからアスロトにお願いしてたんだよ。今思えばライク君の相手をせずにコッソリ殺しておけばよかったかな」


 人を殺すことにそこまで執着するのか……


「(殺したいだけなのか、理由があるのか結局わからないままですね……)」


 だな……


「ベリアは話が長いですわ、もうそろそろいいですか?」


「ごめんごめん、撤退しようか」


 正直、撤退する必要あるのかってくらいには回復して元気なように見えるが。


「では、失礼しますわ」


「敵として会いたくないけど、またね〜」


 エルフとベリアがそう言い2人は搔き消える。少しの間は気を張っていたが、なにもないとわかると息を吐く。


「はああ〜、色んな意味で疲れる相手だな」


「(ですね……それより冒険者たちはどうしますか?」


「(そうだな、助けには行くがその前にアリスを起こして正気に戻そう。撤退が嘘で、まだあいつらが戻ってくる可能性はあるし)」


「(何か手段があるんですか?)」


「(思いつきだけどな)」


 俺は殺気で正気に戻そうとすることを伝える。


「(殺気ですか?)」


「(ああ、今のアリスは動物のように敵を本能的に攻撃してるようなものだから、言葉じゃなく気配でなら伝わると思ってな)」


 攻撃しなければならない敵に、勝てない、殺される、といったことを感じさせれば、攻撃をすべき、攻撃したくない、と矛盾が出来て、アリス本来の攻撃したくない気持ちにも近付くから、正気に戻るキッカケになると考えた。

 正直、あまりやりたくはなかったんだがな。


「(なるほど……)」


 ということで、ミースに光の壁のようなものでアリスを囲ってもらう。


「(準備いいですか?)」


「(ああ、起こしてくれ)」


 俺がアリスと5メートルほど距離をとった後、ミースが水魔法でアリスを起こす。


「……っ!」


 起きた途端、俺を見て声も発さずに結界を叩き蹴り始める。


「(壁は大丈夫そうか?)」


「(はい、この程度なら大丈夫です)」


 ミースに確認をしたところで、徐々に殺気を濃く出していくが……


「……っ! っ!」


 いまだに光の壁を蹴り続けているため、あまり効果がないように見える。


「(ダメ……ですか?)」


「(……仕方ない、脅かす殺気じゃなくて本気の殺気じゃないとダメか。ミース、殺気を感じたら魔法を解いていいからな)」


「(え? あ、はい)」


 俺はゆっくりアリスに近付きながら、ある技を出すために気持ちをある方向へ持っていく。


「大切にしている人にこんな感情をぶつけたくはなかったが……」


「っ! っっ!」


 アリスのすぐ近くまで来ると、俺は拳を構え、打ち出す準備をとり……

 目の前の相手を殺す––––


「「っっ!?」」


 ミースは殺気に驚き魔法を解き、アリスは一瞬硬直したがそれでも俺に向かってきたので、アリスの拳が届く前に俺の技を当てる。


「獄」


「(ライクさん!?)」


「っ!」


 俺の拳が当たった途端アリスは動きを止め、少しすると体が震え始めた。

 どんな状態なのかは察したので、俺はイザの時にしたように抱きしめてみた。


「おつかれさん。無事で何よりだ」


「ご、めんっな……さい。めい、わくかけてっ」


「気にするな、お前の意思じゃないんだから」


「でも! 私が、おに……にい……さんっを、ほんっきでキズつけ……るなん、て2度と、許され……ないのに!」


「だから、昔の話はお前が傷付けたんじゃないし、お前のせいじゃないだろ? 今回だって怪我はしてない。あの時は俺の力不足だった、それだけだ」


「でも! 守るって、誓……ったのに……」


「いつもちゃんと守ってるだろ、今回は俺が守る側だっただけだ。いいから泣き止め、俺が操られたらちゃんとアリス達が助けてくれよ? 俺も2人を傷付けるなんて御免だからな」


「うん、うん! ごめん、なさい。止めて……くれて、あり……がとう、兄さん」


 その後は、アリスが泣き止む間に、眠っていた間のラン達や冒険者たちのことを走りながらザッと説明をしていた。


「(ライクさんが攻撃を当てた時はびっくりしました。あれほどの恐ろしさを放ったいた状態でのことでしたから)」


「(私もびっくりというか恐怖というか、恐ろしいものを感じて死んだと思ったよ)」


「(確かにそんな技を出そうとはしたが、打ってないし打つわけないだろ)」


「(それは、そうだね)」


「(あり得ないことでしたね)」


 その後、ミースやアリスが「獄」について知りたそうにしていたが、強力な技と簡単に言っておいた。体に負担が大きいなんて知らない方がいいからな。


「それより、冒険者やランさん達を助けないとね」


「ああ、冒険者を助けたらすぐにラン達も探さないといけないが、場所がな……」


 神眼でラン達を探しても反応はなかった。流石にまだ死んでいることはないと思い、恐らく神眼が反応できない概念や結界か何かで隠しているんだろう。


「本当に厄介な人達だね」


「ああ、あいつの惑わす……いや、もう概念と仮定するか、どんな感じだったんだ?」


「とにかく兄さんは敵だ敵だってうるさかったかな。それから徐々に兄さんが敵に見え始めたから、兄さんの思い出なんかで抵抗してたら、兄さんとの思い出が消える? というか書き換えられていった感じかな」


「(人の大切な記憶を……クズですね。しかし、ヒトの記憶や思い出を書き換えるなんて、もしかして概念は魂に働きかけているのでしょうか)」


 さてな……魂に働きかけることが、どれだけ危険なのかわからないから何とも言えないな。


「とにかく、そんな症状がでたらすぐに概念を使え、アリスの概念なら治せるだろうからな。生命力が足りなかったらミースを通して俺のを使うこと、いいな?」


「わかってるよ、私も2度と御免だからね。ベリアって人はいつかぶっ飛ばす」


「(ですね。あの人に触れられないように私もフォローします)」


 ベリアに対する対策を言い含めたところで、冒険者たちの気配がする場所に近付く。


「……居た」


「けど……」


「(冒険者たちだけですね。あの3つの頭の魔物が襲ってるのかと思ったんですが)」


「あ、お前たちは」


「魔物を倒してくれた子だよな」


 俺たちは冒険者たちに経緯を聞くと、ベリアの言うことを聞いた後にすぐ魔物が襲ってきて、それに耐えていたらすぐにエルフが現れて瞬く間に蹴散らされたらしい。エルフがあらかた蹴散らすと、死体を何人か消し去った後エルフ本人も消えさり、残された魔物と戦っていたら、少し前に魔物が逃げるように去って行ったそうだ。


「(逃げたのは恐らくライクさんの殺気ですね。私も感じるくらい四方八方に飛んでましたし)」


 それなら結果的に良かったな。でもそれより、あいつらがすること全てが危険な感じがするな……死体なんてどうするつもりなんだ。


「(ライクさん、この人達に治療をしても良いですか?)」


「(ああ、そうだな。頼む)」


 とりあえず、助かりそうな冒険者たちに治療をしていく。助けられない仲間の死に涙する人も多くいたが、出来るだけ埋めるなど簡単な供養を行い、頭を切り替える人も多くいた。


「君たちには本当に感謝する」


「大半は救えませんでしたけど」


「いや、逆だよ。救われた人がこんなにいるんだ、みんな感謝しかないよ。何かお礼をしたいところだが、早く街に帰ってあの魔物について報告しないといけない。君たちはこれからどうするのかな?」


「そうですね。とりあえず俺たちも街に……」


 街に帰る。そう言おうとしたら、ギルドカードから何かを知らせるように音が鳴り響く。


「なんだ?」


「なんだろね?」


 俺たちが手に取ると音は止まり、文字が表示される。

 依頼か? しかしまあ、改めて考えても謎の技術だよなぁ。

 俺たちは表示された文字を読み進めると……


「「!?」」


「(どうしました?)」


「(孤児院の人達が危ない!)」


「(急いで街に帰るぞ! ラン達の居場所もわかるかもしれない)」


 冒険者たちに先に帰ることを伝え、俺たちは急いで街に向かう。

戦闘がアッサリしてると感じるかもしれませんが、主人公がそれだけ強いと思ってください。今の段階だと苦戦する要素がないので

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