外道達
体調崩して遅れました……
誰かがちょっと辛い目に合いますが、抑えたつもりです。
ちょっと展開が早く感じるかもしれないです。もっと伏線とか色々したかったですが、一話で長くやるのもあれなので、特急で進めます。
「う〜ん、楽しいね〜」
何度見ても人が魔物に襲われる様を見るのはいいね。欲を言うともっと苦しんでくれると楽しいんだけどな〜、四肢を喰われてすぐ死んじゃうんだもんな。
「実験と役割は終わったけど誰か持って行くべきかな〜、苦しみやら恐怖を与えるならそうすべきだろうけど」
僕が作った魔物から逃げ叫び、死んでいく無様な人を見ながら考える。
「でもな〜冒険者のくせに弱すぎない? こんな奴ら生かしてもすぐ死ぬだろうな〜」
ヴォルフの痕跡を残しておいたから、それなりのが来てる筈なんだけどな〜。Cランクってこんなもんだったかな?
「(ベリアー、そろそろおわりまして?)」
おっと、もうそんなに時間がたってたかな。
「(大体ね。誰か生かすべきか考え中)」
「(あら、生きのいいのでもいました?)」
「(いや、雑魚すぎてどうしようかと)」
「(なら気にする必要ないでしょう。ゴミを無理に生かす理由はないですから、貴方が死体をナームにでも持っていけば使い道はありますわ)」
「(あれ? アスロトがナームの話をするのは珍しいね)」
「(……事実を言っているだけですわ。対価として貴方の命が散るかもしれませけれど)」
ちょっと拗ねちゃったかな? ナーム相手だとあり得るけど。
「(ごめんごめん、協力しようとしてくれるのはありがたいよ)」
「(そんなつもりはないですわ。ただ、対応を間違えて殺されないように気をつけるのですね。あの子は貴方相手でも容赦なく殺しますわ)」
それはナームに限った話じゃないんだけどね〜……おや? 生きのいいのがいるじゃん、一緒のパーティだった人だ。
「(アスロト〜、終わったら2人ぐらい連れて帰るからそのつもりで迎えよろしく〜)」
「(いいのがいたのですか?)」
「(うん。若い2人の女性を連れて行くよ)」
「(……うふふふ、いいですわ〜。最近は子供とゴミばかりでしたから、それも好きにしていいのでしょう?)」
「(そうだね。出来るだけ苦しめるようなやつでよろしく〜。あと、孤児院の方もよろしくね〜あいつらだけだと心配だからね)」
「(どちらもわかってますわ。うふふふ……楽しみですわ〜、久々に苦しみもがく姿と声を聞いて、1日を過ごせるかもしれませんわ〜)」
やっぱりアスロトもナームと同類なんだよな〜。
「(今日で最後だから存分にできるよ。孤児院の方が終わったら迎えをよろしくね〜)」
「(わかりましたわ。ふふふふふ……)」
多分、今日くらいで限界だと思うんだよな〜のんびりは出来ないけど、与えるまでは焦ることはないか。アスロトの準備が終わるまでは、嬲られ、裏切られ、殺し合いをして、殺される無様な人を見てようかな、フフフ……
「あんた達、さっさと昼休憩に入りな。孤児院に行くんだろ」
「「「「はーい(です)」」」」
「ちょっと行ってくるわ。ハガー、いつも通りよろしくね」
「ああ」
「気を付けて行けよー」
ムハサさん達にそう言われて、私たちは孤児院に向かう。
お店にはずいぶん慣れ、ハガーさんも馴染んできた。マザーは奥さんと仲良くなって砕けた口調になってる、です……まだ心の中はついつい出ちゃうですね。
「今日も大量ね。奥さんは私の仕事代って言ってるけど、本当かどうか怪しいわね」
マザーが収納袋の中身を見て言う。
奥さんは私達にお金を渡したうえで、マザーの仕事に応じた食料をくれてるらしい……です。この量でそれは無いと思うです。ちなみに、奥さんは名前を教えてくれないです。マザーやライクお兄ちゃん達も知らないらしいです。
「気にしても仕方ないぜ、マザー」
「僕たちには働くことでしか返す方法ないからね」
「それに、受け取らないとお兄ちゃん達に、私達が飢えてる、って伝えられるところだったから仕方ないの」
「あれは、斬新な脅しだったわね」
奥さんは、唯でさえ世話になっている私達に、お兄ちゃん達への恩をさらに積み上げようと脅してきたです。正直、奥さんになるか、お兄ちゃん達になるかの違いしかないです。が、これ以上お兄ちゃん達を振り回したくなかったので、みんな納得して受け取ることになったです。
「なあ、兄ちゃん達に何か感謝の印みたいなのあった方が良くないか? お金も少し貰ってるし」
「それはいいかもしれないけど、お金はお店に預けて貯めてる状態だし」
「あれは家を借りるために貯めると約束してるの。だから、奥さんが許してくれないと無理なの」
「あの人も甘いから、恩返しなら許してくれそうだけどね」
だとしても、お兄ちゃん達にはどんなお礼をすればいいのかな? 洗礼の件でまた増えてしまいましたし……あの時は嬉しさのあまり何も考えてなかったです。反省です……体を差し出すという最終手段があると聞いたことがあるです。なので、私でも出来るのかマザーに聞いてみたですが、もっと大きくなってからだと言われたです。
「大きくなったらいいです?」
「違うわ、ライク君に気に入られないとね」
気に入られる?
「そうね〜、とりあえず料理と掃除が出来ればいいわね」
ど、どっちも出来ない……私はライクお兄ちゃんに気に入られてない、ということですか……ショックです……
「嫌われてるって言ってるわけじゃないんだから、いちいち落ち込まないの。好きになってもらえるように頑張れって言ってるの」
なるほど! 頑張る! です。
「マザー? それだと色々な意味があると思うの」
「何でもいいじゃない。ライク君に好かれたら不幸にはなりそうにないでしょ?」
「そうかもだけど、体を差し出すってそういうことじゃないと思うの」
「あら、その辺のこと教えた覚えはないのだけどね。ならラールは、あなたが考えてる体の差し出し方で恩を返してみる?」
「へ!? えっと、それは……」
「その様子だと、ちゃんと意味は理解しているみたいね。満更でもないようだけど、子供がやるようなことじゃないわよ」
「そ、そんなことわかってるの!」
ラールとマザーが何か話してたけど、何のことかわからなかったから、料理や掃除を学ぶための方法を考えることに集中したです。
「体を差し出すって何だろうな、イサカ」
「さあ? マザー達が知ってるんだから、女の子にしか出来ないことなのかも?」
「……やっぱり教えるの少し早かったんじゃねーか?」
「……ハガー? 貴方が教えたのかしら?」
「い、いや俺じゃないぞ!? 店の女将が……」
そんなこんなで、気が付いたらだいぶ話しが逸れていたですが、プレゼントは買う物決めてから奥さんに相談することになったです。
「じゃあ、イア達はここで待って頂戴」
そう言ってマザーはギルドに入って行った。ギルドに寄るのは、帰りが遅かった時に気付いてもらうために、受付のミナネさんにいつも伝えているです。
「早く解決してほしいです」
スラムで子供が消えた事件はまだ解決してないです。ラーナさんという人が色々してくれてるらしいですが、探している人物が全く姿を見せないみたいです。
「そうだなー、俺たちのところは大勢いるからコッソリやるのは無理だと思うけど」
「それでも、危ないことに変わりはないからね」
「変な魔法で連れて行かれることもあり得るの」
「催眠を掛けるってやつか、人数が多ければその分消耗するから難しい筈だがな」
ハガーさんも色々と警戒してくれてる。最初の頃はあまり喋らなかったけど、最近は仲良く出来てるです。正直、お兄ちゃん達を襲った人とは思えないです。
「お待たせー」
話していると、今日はマザーが随分早く戻ってきたです。
「早いんだな」
「それが、忙しそうにしててね。ひと声掛けたら頷いて、すぐに作業に戻っていったわ」
何かあった? です?
「まあ、気にしても仕方ないわ。行きましょ」
マザーの言葉で私たちは孤児院に向かう。
……スラムに入ると、いつもより空気が重く、人の気配もなく静かでスラム全体がおびえているように感じたです。そして、孤児院が見えてくると、誰かが……いた。なんと言うか凄く嫌な感じがした……です。今すぐ逃げ出したい……です。
「お帰りなさい」
「……貴方、誰かしら?」
女性だった……服装はシスターの服に露出が増えて、フリルなど色々手を加えたような物で、耳の特徴からエルフ、肌は白く、髪は紫色のロングで綺麗な人でした……けど、震えが止まらなかった……です。
私はマザーの服をギュッと掴みました。
「あら? 貴方たちはやっぱりダメみたいですわね。それに、いつの間にか元気になってらっしゃいますし」
「何の話かしら?」
「貴方のことですわ。私の魔法で実験をしていたのですけど、治ってしまっては困りますわ。どうやって、誰に治してもらったのですか?」
「お、お前がマザーを!」
サイクが暴れそうだったけど、ラールが無言で止めた……です。ラールも危険を感じているのかもしれない……です。
「教える義理はないわね。それより、貴方……孤児院で何をするつもりなのかしら?」
「貴方は答えないのに随分勝手ですわね。まあ、いいですわ。1つ教えて差し上げますと、もう用は終わりましたわ」
それを聞くと、マザーはハガーさんにコッソリ「ハガーのタイミングで子供たちを連れて逃げて」と命令し、ハガーさんは渋々頷いていたです。
「……子供たちをどうしたのかしら?」
「ある場所に連れて行きましたわ。ま、安心して大丈夫ですわ。すぐに会えますから、生きた状態かどうかは知りませんけれど」
そう言うとこちらに歩いて来る……
エルフの女性は笑っていた……笑顔に恐怖したのは初めて……です。
「逃げなさい!」
マザーは私たちを押して動くように促した。私はすぐに動けそうになかったけど、ハガーさんが私を抱えてくれたです。
「行くぞ!」
「マザーは!?」
「いいから逃げなさい!」
ラールがサイクを引っ張り、イサカはハガーさんのもう一方の腕で抱えられて、私は運ばれながらマザーの後ろ姿を見つめていた……です。
「あら、判断が早いですわね。もう少し近付けると思ったのですけど、これもベリアに伝えておかないといけませんわね」
「追わないのかしら?」
「確認することは終わりましたから、追わせてもらいますわ。ちなみに、貴方では壁にすらなりませんわよ」
「っ!?」
くっそー! 何なんだあの女! ライクの奴と同じくらいの殺気だったぞ。
そんなことを考えながら必死で逃げる。正直、ミラの奴を放って行きたくはなかったが、これはミラとの約束で2人ではどうにも出来ない時の手段だ。ミラは魔法で時間を稼ぐ、俺は力で出来る限りガキ達を運ぶ、あの女にはこうするしかないと2人で判断した結果だった。
とにかく、ギルドまで行ってライクの奴たちに伝えるくらいはしないと……
「危ない!?」
え……
「1人回収ですわね」
俺の右腕に抱えていたイサカが、俺の腕ごと女に抱えられていた。
「ぐああぁぁー!」
「おっさん!」
痛い痛い痛い!!
「大げさですわね、たかが腕の切断くらいで。こんな汚物はいりませんから返しますわ」
女は俺に向かって腕を放り投げる。
俺は痛みに耐えながら女を見る。すると女は本当に呆れたように、擦り傷で泣き叫ぶ大人を見て蔑むような目だった。
「こ、このやろうー! イサカを離せ!」
サイクの馬鹿が女に飛びかかる。ラールはどうしたのかと見たら、固まっていた。俺の腕が飛んだ様子を見て、完全に硬直してしまったみたいだ。
「うるさいですわ」
「グフッ!」
女は足のつま先でサイクを蹴った。明らかに子供にするような攻撃ではなかった。
「この子みたいに大人しくしてほしいものですわ……あら、死んだかしら?」
イサカは恐怖からか気絶していた。女は蹴飛ばしたサイクの様子を確認する。
「……まだ生きてますわね。こんなことで死ぬなんてありえませんか。全く、ややこしいですから大袈裟に苦しまないでほしいですわ」
何なんだ……この女。今の蹴りも下手したら死んでもおかしくなかったぞ……攫うことが目的じゃないのか。
女が触れるとサイクはかき消え、イサカもいつの間にか消えていた。
「マザーは……」
イアがそっと呟く。
この女が来たってことは、やられちまったのか……
「あの女性ことでしたらまだ生きてますわよ。あれはまだやることがありますから」
喜んでいいのかわからねぇ情報だな……まあ、まだ助けられると考えたら嬉しいことか。
「さて、2人も行きますわよ。大人しくしてくれると面倒がなくて良いのですけど」
ラールは何も発せず、俺も何も出来そうになかった。が、イアは言葉を発した。
「ついて行くのはいいけど、この人はどうなるの?」
敬語をやめたイアが、俺を指差して言う。この女を相手に、言葉を交わそうとする豪胆さに心底驚いていた。
「そうですわね〜、ゴミは処分と相場が決まってますから、跡形も無く燃やし尽くしましょうか」
ゾクッと寒気がした……
「見逃してもらうことは出来ない?」
「見逃す理由がありませんわ。ですが、特別殺す理由もないのも事実ですわね……なら、私の気分を良くしてくれたら見逃しても良いですわ」
「気分?」
何をさせる気だ……
女は人差し指に小さな紫色の玉を出現させた。
「これを舐めて気絶しなかったら見逃してあけますわ。数秒は苦しいでしょうが、死にはしませんわ」
俺の目には毒にしか見えなかった……そして、あの女が苦しいと評していることから、恐ろしい苦しみだろうと思った。
「本当に?」
「誰かさんと違って、嘘はつきませんわ」
イアは頷いてそれを舐めようとする。
「イア! よせ! 何があるかわからないし、死なない保証なんかないぞ!」
俺は必死で止め、ラールは無言でイアを掴み、涙目で首を振る。
「あら、やめますの? 別にかまいませんわよ、ゴミが消えるだけですから」
女が手に炎を作り出す。イアはそれを見て首を振る。
「……ごめん。ハガーさん、1人で逃げてお兄ちゃん達に伝えて」
「うふふ……やるのね?」
イアは頷く。
「舐めてごらんなさい」
「よせ!」
イアは、震えながら女の指についた紫色の玉を舐める。
「っ!!?」
その途端、イアの体が痙攣し喉や胸の辺りを抑え、地面に倒れこむ。
「それだと顔が見えませんわ」
女はイアの髪を掴み、頭を持ち上げて顔を眺めた。
「うふふ、いいですわ〜! 苦しみもがく顔! 気絶しまいと頑張る顔! それでも痛みで涙が出てクシャクシャになる顔! あはははは! 最高ですわ!」
「ゲスがあぁぁ!!」
何なんだこいつは! こんな奴が存在していいのか!? 俺だってクズに当たるクソ野郎だが、いつも情に流され酷い仕打ちは出来なかった。なのにこいつは! なんの躊躇いもなく! 一方的に子供が苦しむ様を見て笑ってやがる! そんな仕打ちを受けるのは俺みたいな奴の筈だろう!
俺はイアの苦しむ姿を見てられなくて目をそらして続けた。
「あっ、あぁぁ……」
数秒してイアが大人しくなった。死んだかもしれないと考えるとイアの方を見れなくて、ラールの方を見ると、声を発さずに号泣していた。
「大変気分が良いですわ! 最高でした。意識はもってます? 気絶していたらゴミは燃やしますわよ? あ、そういえばショック死と言う言葉もありましたわね」
こいつ!
俺は死なば諸共のつもりで突貫しようとしたら……
「……やく、そくは……まも、て……もらう」
イアが、こちらに何とか聞こえる小さな声を発して俺を止めた。ラールは急いでイアに駆け寄る。
「あら、大したものですわ。大半は気絶か死だったのですけど、まあ約束は守りますわ。私は見逃しますが、他のものは知りませんわよ」
く! 他にも仲間がいるのか。
「!? ハガー、さん。にげ、て……おにい、ちゃ……に」
「わかってる!」
俺は自分の腕とイア達に背を向け走り出す。
「さてどうしましょうか、呼んだら確実に逃げられないとは思いますけど。まあ、いいですわ。良いものを見させてもらいましたし、サービスということで呼ぶことはしないであげましょうか」
「ハガー、さん。たの、み……ます」
「行きますわよ〜」
振り返ると、イア達はもう消えていた。
「ちくしょー!」
何も出来なかった。むしろ子供に助けられた。そんな自分が不甲斐ないが、今はライク達に伝えるのが先決だ。
「しかし、片方腕がないとこんなにバランスが取りにくいのか……」
俺は全力で向かっているつもりだが、出血と腕がないことによる動きにくさが、俺の動きを遅くしていた。それでも、もうすぐスラムから出られる所で……
「いたいた」
出口に向かう俺の前と後ろを男二人組に挟まれた。
「……何かようか」
「またまたぁ、わかってるだろ?」
ちっ、あの女の仲間か。
「おっさんを殺す趣味はないんだけど、見た人間は殺せって言われてるし、力を試すのにも丁度いいからさ」
前にいた男が腕を突き出すと、その片腕が変化した……一部の獣人が獣に変わるのとは違う、まるで魔物のような手だった……
「な、なんだその手は……」
「これか? 手っ取り早く力を得るにはこれが良いって言われたからな。見た目もそこそこ良いだろ?」
本気で言ってるのか……女と同様狂ってやがる。
「とりあえず、人間はどれくらいで殺せるのか試させてくれよ」
後ろの男も同様の変化をしていた。
くっそ……何とかしないとイア達やミラが。
「よっ!」
前方の男が近付いて腕を振るってきた。俺は避けようとしたが、腕がないことでバランスを崩した。しかし、それが幸いし結果的に攻撃を避けることになった。
「スゲー! 力がやばいな! ただ、狙いがまだ定まらないな」
攻撃を近くで受け、風圧からヤバイものを感じた……受けたら顔が吹き飛ぶ予感が……
それでも俺はなんとか即座に行動し、男の脇をすり抜け、スラムの出口に全力で走り出す。
「あ、待て! このやろう!」
後ろからヤバイものを感じたが、振り返らず死ぬ覚悟で走りぬく。
「っっ!?」
後ろから凄い風圧を感じたが、それだけだった。男の拳は空を切ったようだった。俺はホッとしながら全力で走り、前方の出口にギルドが見えたと思ったら……
「手だけじゃあないんだよな〜」
すぐ後ろで男の声がし、振り向くと……足も変化していた……
「死ね」
くっそー!!
キーン!
…………痛みがない? それに今の音は……
俺は、瞑ったままの目を開ける。
「ようやく見つけたぞ。ナジ!」
金髪の少女が剣で男の腕を受け止めていた。
「っ!? なんで隊長がこんなところに!」
「ギルドに用があってな。お前は随分化け物じみた姿になっているなっ!」
金髪少女はナジという男を吹き飛ばし距離をとる。
「襲われていたようだが、貴方は何者なのかな?」
金髪少女が俺に確認する。
「スラム孤児院の護衛だ」
俺は子供らが攫われたこと、ギルドに向かい知り合いに助けてもらおうとしてたことを伝える。
「なるほど、捕まえた人物が護衛になったとは聞いているし、束縛を受けている者が1人でいることから主人に言われて、といったところか」
簡単に信じてもらえるとは、意外だった。
「おそらく、ナジか仲間が子供たちを攫って、現場を見た人間を殺そうとしてたんだろう」
「正解です。なるほど、隊長にバレてたから俺は外に出られなかったんですね」
「こっちこそ、なるほどだ。逆に言えばお前しか分からなかったから、お前を隠してしまえば何も進展しないというわけだ」
知り合いみたいだな。敵対してることは明らかだから俺としては助かった。
「貴方はギルドに向かうといい……その出血は危険だから止めておこう」
そう言い、俺の肩に触れて傷を癒し、出血を止めてくれる。
「た、助かる。あんたは大丈夫なのか? 明らかにヤバイ奴だと思うが」
「問題ない。あれならどう高く評価しても精々ランクBが良いとこだろう」
それは、ランクBに勝てるということか……
「言ってくれますね〜。本命とは違いますが、貴方も痛ぶってやろうと思ってたので丁度いい。楽しませてくださいよっ!」
魔物足を使いとんでもないスピードで突っ込んできた。ナジの野郎が詰めてくる間に、俺は一歩下がる動作しか出来ないほどの早さだった。
金髪少女を見ると、まだ剣を振り上げたところだった。
「遅いよ!」
「お前がな」
ナジが魔物の手で襲いかかるが、その手が少女に届くことはなく落ちた。
「……は?」
少女はいつの間にか剣を振り下ろしており、ナジの腕だった物が切断されていた。
「ぐあぁぁー!? 俺の腕があぁぁー!」
「足も危険そうだな」
そう言い変化している足も切断する。
強い、それと容赦がねぇ……
「ぐあああー! こ、この野郎! さっきは問題なく受けた筈なのに何をした!」
「ふん、教えるわけがないだろう。一回受けたくらいで調子にのるからだ」
側から見てても何も分からなかった、噂に聞く特殊なやつか?
「それにしてもバカな奴だ、その力を人として使えば十分脅威になっただろうに」
「な、なんだとぉ」
「力を過信して突っ込んでくるなど、その辺の魔物とさほど変わらん。お前は力を得たのではなく魔物になっただけだ」
「くっそおー!! おいオッサン! 助けろ!」
ナジはもう1人の仲間に助けを求めたが……
「助ける義理はねぇな」
そう言い、凄いスピードでスラムの奥に消えて行った。
「あの野郎!」
「あの早さだと追いつけそうもないな、面倒な……まあいい、お前から確認すればいいことだ」
少女はナジを睨みつける。
「はっ、俺から情報なんて何もでないですよ。隊長」
「ふん、ギルドで確認すれば分かることだ。あと、部下でもない人間が私を隊長と呼ぶな」
「はいはい」
「片方の手足を切断されて随分元気な奴だな。本当に人間をやめたな」
「手足が生えないですかね〜」
「その時は魔物として処分するだけだ。貴方も行くぞ、情報はあればあるほど良い」
「あ、ああ」
命拾いしたな。俺の運も捨てたもんじゃないか……全員無事でいてくれ……
この後もう少し辛い目に合うかもしれないです。誰とは言いませんが。