洗礼
ミスがあるかもですが、お手柔らかにお願いします。
「ついにこの日がきた!」
「ちょっと兄さん待ってよ!」
俺は勢いよく家から飛び出し教会に向かい、妹が飛び出した俺を追いかけてきた。
走りながら妹が何か言ったのを聞いたが、待つつもりはなかった。そもそも逸れてみる積もりだったので、むしろ逃げ切るつもりで全力で走り出した。
昔からこういったことで妹には勝てた試しがないので、あわよくば教会に着く前に何か一つでも妹に勝てればとも思ったのだが……儚い夢に散った。
「兄さん! 待って! って言ったのにむしろ速度上げたよね? どういうつもり」
アリスの声が後ろで聞こえたと思ったら、いつの間にか横にならんでいた。
速すぎる……
「いや、俺が全力を出そうがアリスが追いつけないわけないだろ?」
俺がとぼけたようにそう言うと、妹が凄みのある笑顔で返してきたので、とりあえず逃げることはやめた。
「それはそうかもしれないけど、どうして私が声をかけてから速度上げたの? ……まあ、兄さんのことだから、ちょっとしたイタズラなんだろうけど」
ま、バレるか。あと、いつも側にいるので、俺が突然離れるとどんな反応するのか見たい思いもあった。一瞬だが見た感じは、離れることを良しとしなさそうだな。正直こんな一瞬じゃなくて、もうちょっとしっかり離れて様子を見たかったが、アリス相手に本気で撒けるとは思ってなかった。
俺の妹アリスは身体能力がかなり高い、最初から高かったわけではなく成長率とでも言うのか、とにかく成長が早い。赤ん坊だった時の立つ、歩く、走るといったことが普通の子よりかなり早くできたそうだ。
その後は赤ん坊の頃の立とうとする、いわゆる鍛えることをしなかったからなのか、異常なほど成長するということはなく、普通の子より力がある程度で、アリスも鍛えようなどとは思ってもいなかったらしい。
だが、ある過去で俺がアリスを守ったことがあり、そこから俺が強くなることを望み、アリスも強くなることを望んだ。
当時は俺も小さかったが、身体能力の成長が早いとは言え、小さい女の子であるアリスを鍛えるのはどうなのかと思ったのだが、アリスの決意の固さから、冒険者をやっていた親に鍛えてもらうことになったのだ。
その結果が、今のアリスと俺の力の差……
「まあ、そんなことはいいじゃないか。それより早く行こう」
「ふーん……」
あ、これは……
「まあ、いいけどねっ!」
結構な早さで殴りかかられた……まあ、くるのはわかっていたので、左手で受けにいき、受けたと同時にアリスの拳とほぼ同じ速度で左手を引きながら、アリスが拳を出し切るタイミングを見計らって、アリスの力で反撃しようと右手を出してから、しまった! と思ったが、何故か上手く相手の力がのらなかった。
そして、そのことを考えているうちに……
「っっ!!」
自分から反撃を受けてしまった。
「こんなことで殴ろうとしなくても! ってぇぇ」
くぅぅっ! 中途半端に痛いとこうなるんだよなぁ……
「殴られたの私なんだけど……」
そうなんだけど! 痛い! 人を殴ると自分が傷つく身体の脆さが憎い……けど、俺が脆いおかげでアリスに怪我がなさそうでよかった。
「それが嫌なら不意打ちでいきなり殴るの止めてくれ。俺だって殴りたくないのに反射的に手が出るんだから」
「別に嫌じゃない。それに、それじゃあ修練にならない。でも流石兄さん、当たる気配がまるでなかった。それに、カウンターも相変わらず理屈がわからない、受けた力を返すって」
「そうか? 攻撃を受けたら衝撃がくるだろ? その衝撃を左手で受けて、右手で放つだけなんだが」
「わからない……」
「うーん、確かに難しいことは難しいが、攻撃を受けたら後ろに吹き飛ぶ衝撃がくるから、それを前に吹き飛ぶ衝撃にしているだけなんだが。こう、拳を早く打つだけじゃなくて、腰を高速で動かして遠心力みたいな?」
「言ってることはわかるけど、どうすればそれができるのか理解ができない。この分だと、当分兄さんには敵わない」
評価してくれるのは良いんだが、いきなりやるのは勘弁してくれ。俺に対する不意打ちの懸念はわかるけど……
そんなことを言うアリスが、ほんの少し言動を変化させて言う。
アリスはこういうことがよくある。さっきまでのは妹としての甘え、殴ってしまった後は武闘家としてのアリス、父さん、母さんですら最初は戸惑ったようだった。俺はその変化を特に触れずに、普通に接していたからなのか好かれている。多分……
「そう言ってくれるのは嬉しいが、純粋な力勝負だとアリスにはまったく敵わないのがなぁ」
そう、アリスは武道の技術を磨くことに関しては俺より才能はないが、身体能力はかなり高い。ただし、技術の才能が無いわけではない。
俺は武道の技術を磨くことに関しては才能があるようだが、身体能力が高くない。歩く、走るといった行動で困ることは無いのだが、戦うための身体が脆いのは致命的で、なおかつ圧倒的に腕力が足りない!
「それは仕方ないよ。それに、それをどうにかしたくて教会に向かってるんでしょ?」
相変わらず唐突に言動が変化するなぁ、もう慣れたが。
「まあ、そうなんだけどな。それより本当に大丈夫か? いくら貧弱とは言え俺の反撃が当たってたけど…」
「大丈夫、寸止めするつもりだったから私の力は乗ってないし、兄さんの腕力だけでダメージがあるわけないよ。それに、兄さんの攻撃を本当の意味で受けたら五体満足なわけないんだから。それより早く行こ」
寸止めするつもりだったのか、反撃が上手くいかないわけだ。まあ、怪我がなくて何よりだが、危険だと知ってるんだからマジでやめてくれ。そして、俺の腕力だけじゃ本当にダメージないのか……でも、洗礼の後ならもしかしたら。
今日は洗礼という祈りをすると決めた日だ。洗礼は教会などで行う特別な祈りのことで、主には自分の才能を女神から示してもらうだけなのだが、初めて行う洗礼は特別で、示された才能の開花と、運が良ければ女神の恩恵で特殊な能力を授かることがあるそうだ。
それを聞いた俺は能力を授かるためには運だけが必要なのか? 他にも要因がある可能性を考えて能力を貰うために色々調べてみた。
その結果、昔は洗礼の行う時期が違っていたこと、それと能力持ちが多くいたことを知った。だけど、ある日を境に減り始めたらしい。
その昔は王の独裁で酷い状態だったみたいで、その王を失脚させるために反逆などがあった結果、王が殺され解放された。この後からなぜか徐々に減り始めたみたいだ。
その原因が、解放された日を記念日にしその時期に洗礼する様に! との新しい王から通達される出来事があって、本来行うべき洗礼の時期がずれてしまい、長い時を得てその間違った時期が一般的になってから、減り始めたのだと教えてもらった。情報は教えて貰ったことがほとんどなので信憑性はない。が、他に情報もないのでこれを頼りにするしかなかった。
とにかくその昔にやっていた時期に行えば、恩恵が貰える可能性があるということで、今日、その待ちに待った日が来た。
「でも、その話や、その日が今日って言うのは本当なのかな? 何百年も前の話だよね?」
「確かにほとんど司祭さんから聞いたことだし、なんで知ってるか不思議だけど、自分でもある程度調べたし特に嘘って断言はできないと思う。能力は欲しいけど貰えたらいいなって程度だし、無理なら仕方ない」
「待ちに待った日なのに?」
「才能の開花で、新しく何かの技術が手に入るのはわかっているからな、それだけでも楽しみさ」
「そっか、でも大丈夫。能力が貰えなかったとしても、兄さんは私が守るから」
それが嫌だから強くなろうとしてるんだが……
アリスは昔の影響で、必要以上に俺を守ろうとするのが困りどころだ、昔のことはアリスが気にする必要はないんだが……とりあえず、今はアリスを守れるようになることが目標だ。
そんなことを考えながら通りを歩いて教会に向かっていると。
「おう、ライクにアリスちゃんじゃねぇか」
「あらあら、二人揃ってお出掛け?」
バイトと外食でお世話になっている飲食店のムハサさんと、ギルドの受付をしているミナネさんの二人だった。
「そんなところです」
「お二人はどうしたんですか?」
「なに、ちょっと見かけたんで雑談ついでに仕入れに関することでもと思ってな」
「そうなのよ、朝っぱらからの不倫のお誘いでもよかったのにー」
「み、ミナネ嬢ちゃん! なにいってんだぁ!?」
「冗談ですよー」
「勘弁してくれぇ」
ミナネさんは上品に笑いながら、ムハサさんは肩を落としながらが言った。ミナネさんはまだ若いのに年上の人をからかうことがある、大丈夫かと心配になるが、人は選んでいるようなので大丈夫なのだろう。
「ふふ、相変わらずお二人は親子みたいに仲が良いですね」
「それは否定しねえけどよぉ、アリスちゃん。かみさんがいる身としては、さっきのようなことを聞かれたら後で殺されそうで気が気でないぜ」
「まあ、そんなこと言ってくるのも、ムハサさんがミナネさんに信頼されてるってことでもあるじゃないですか」
「そのとおりよー」
「信頼は分かったからミナネ嬢ちゃん、かみさんの前でだけは自重してくれ……」
ミナネさんは楽しそうに、ムハサさんはまた肩を落としながら言った。それを見て俺達も笑った。
笑った後に立ち直ったムハサさんが聞いてきた。
「ところで、二人はどこに行くんだ?」
「教会に行こうとしてます」
「教会? なにかあったの?」
「いえ、兄と初めての洗礼を受けに行くんです」
「まだだったのか? 今から初めての洗礼だと、随分遅くないか?」
「そうですよねー、普通は6歳から10歳ほどで済ませているのが一般的ですし。二人は何歳になったの?」
「俺が15で」
「私が14ですね」
「洗礼を遅くしたら良い能力が貰えるとか言われていたりするが、それにしてもかなり遅いな。能力が貰える保証はなかったはずだろ、何でこの時期なんだ? 少し前の本来の時期にできたはずだろ?」
昔は無理やりにでも洗礼をやらされていたそうだが、今は本来の時期と言っても、必ずしもその時期でやる必要はない。その時期にやるのが当たり前になっているだけだ。
「昔はこの時期にやってたみたいで、その時は特殊な能力持ちが多くいたそうなので、この時期にやってみようかと」
「そうなのか? 初めて聞いたな。それでライクがやろうとしたらアリスちゃんも当然一緒ってことか」
「自分の勝手だからアリスは好きな時にすれば良いって言ったんですけどね」
「兄さんと一緒にやることが一番好きな時だから」
「わぁ、愛されてるのね。ライク君」
愛なのか? なんか心配なんだよな、自分のために生きているのかが不安だ。
ミナネさんがそう言うと今度は期待する様な目で聞いてきた。
「じゃあー、力不足だって言ってギルドに入ってくれなかったけど、もしかして可能性があるの?」
「そう言えば断ってばかりで正確な理由を言ってなかったですね、洗礼をしたら入るつもりだったんですよ。洗礼までは自分を鍛えることに集中したかったんです。あまり役に立てないかもですけど、アリス共々お世話になります」
「本当に!? 私が担当するからぜひ私の所に来てね! アリスちゃんもよ!」
「はい、よろしくお願いいたします」
ミナネさんが必死だ……そう言えば担当って冒険者の働きで色々給料に影響するって聞いたことあるな。それでかな? アリスは強いからそりゃあ必死になるか。
「それじゃあ仕事前の時間を取っているのも悪いので、そろそろ失礼しますね」
「気にしなくていいのにー」
「二人を待ってる人がいたら悪いですから。あと、困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」
「馬鹿やろう、それはこっちの台詞だ」
「仕方ないわね、アリスちゃんもまたギルドでねー」
「はい、失礼します」
二人にお辞儀をして教会に向かって歩き出した。
「相変わらずだったね」
「ムハサさんの気苦労がうかがえるよ」
ムハサさん、度々似たようなこと言われてるのにあの反応なんだもんな。まあ、でもその辺がミナネさんや奥さんの信頼が来てるのかな。でも、ムハサさん、ミナネさんと奥さんが仲良いのまだ知らないのかな?
「そう言えば、兄さんはどんな能力が欲しいの?」
ん? 言ってなかったか。
「そうだなー、力増強系が欲しいな、力が無さ過ぎる。あとは特殊な魔法とか、魔力とかで身体の補強ができるかもしれないし。気配察知とかもいいな、俺は不意打ちされたら終わりだし。さらに言えば、旅するのに便利なやつとか、自分の位置を教えてくれる高性能な地図とかあれば道に迷わなさそうだし」
「兄さん……無くてもいいって言ってる割に要求が多いね。そもそも、兄さんに力とか必要ないでしょ。唯でさえ凄い威力なのに」
「そうだが、力があればさらに増すからあった方がいいだろ? それに、力がないって普通に不便だぞ」
ちょっと重いだけで持てないからな……
「まあ、それはいいよ。それより、聞き捨てならなかったんだけど、兄さん旅するの?」
「ああ、そのつもりだ。父さん母さんにも言ってある」
聞いてないけど? と言いたげな視線を向けてきた。アリスには言ってないから当然だ、そしてこの先の言葉も当然のように––––
「私も行くから」
となるよな、秘密にすることも考えたが、どうせ追いかけて来るだろうし、少し離れるくらいならともかく長時間離れた後のアリスがどうなるか……さっき少し逃げただけで本気で追いかけてきたからな。遠く離れるなんて、できそうもない。
アリスは俺に合わせてばかりで、自分の本当にやりたいことをやってないんじゃないかと不安になるんだよな。
「本当についてくる気か? 俺のために無理をしてないか?」
「そんなことない。絶対ついて行くから」
「そうは言ってもなぁ」
本当にそう思っていることはわかるんだが……そうしないといけない、と思い込んでたら嫌なんだが。
「私、邪魔かな? 信じられない? 兄さんの邪魔になるならあきらめる……」
そう言うと綺麗で可愛い顔が最大級の悲しみで満ち始めた。こうなるよな……こんな顔させたいわけじゃないのに。絶対行くとか言っても諦めることもできる子なんだよな。そこがまた心配だけど、ここまで悲しくなるのもそうしたいからなんだろうな。
「わかった、わかったからそんな悲しそうな顔するな。ぜひついて来てくれアリスがいると安心だ。けど、一応父さん母さんに言っておけよ、反対するわけないとは思うけどな」
そう言うと笑みを浮かべた後、ちょっと不服そうに言ってきた。
「わかった。けど、悲しい顔なんてしてないから」
うん、可愛いな。良いと言ったら笑みを浮かべるところも、不服そうなところも。こうなると、アリスを笑顔にさせるにはある程度は好きにさせるしかないな。
「そうだな」
そういった会話をしていると、他の教会よりもひときわ大きい教会に着いた。相変わらず大きいなぁ、と思いながら待っているはずの司祭さんを呼んだ。
「司祭さーん、来ましたよ」
大きな声だと祈りなどの邪魔になりそうだが、女神様の教会は基本的にあまり人がいない、一般的には祈りは家などで簡易的に行うこと、他の神様を信仰しているなどが主な理由だ。家で簡易的に済ませるとは言え、少しは人がいたりするものなんだが……まあ言ってしまえば、この街では女神様の信仰者が少ないので人が全くいなかった。
俺は女神様の話をよく聞いていたし、女神様以外に神はいないと聞いて、自分でもわからない謎の確信があり、一応女神様を信じている。だが、信者が少ないのは仕方ないとも思う。そう言うのも、女神様は唯一神、神は女神様だけと言っているのに、別の神の教会でも洗礼ができてしまうからだ。他の神の教会は唯一神とは言っておらず、豊作、戦い、愛、癒し、などと言った限定的な神を名乗っているそうだ。これだと、女神様の教会は嘘を言っているように聞こえてしまって結果、人が信者が集まらない。
俺は絶対いるとは言えない信者だが、いるとしたら……女神様、優しすぎない?
そんなことを思っていると、奥から傷も心も全てを癒してくれそうな、柔和な笑顔を浮かべた男性が出てきてくれた。
「おぉ、来たようですね」
「久しぶりです司祭さん」
「お久しぶりです、司祭様」
「ええ、お久しぶりですね」
この人は司祭さん、名前は知らない。というか教えてくれない。理由を聞いても「内緒です」と言ってくるだけ、俺の勘が悪い人ではないと判断しているし、何より世話になったので特に気にしていない。
「教会も久しぶりですけど、やっぱり人がいないのは変わらないですね」
「兄さん!」
睨まれてしまった……貶したつもりはないし、そんなことで怒る人じゃないから大丈夫だと思うんだけど。
「アリスさん、気にしなくて大丈夫ですよ。人がいないことは事実ですし、人がいなくても特に問題はありませんから」
大丈夫だろ? という表情をしたが、叩かれてしまった……解せぬ。
ちなみにアリスは外で他人と話す時は基本的に敬語になる。俺が見る限りアリスなりの壁なのだと思う。もう少し色々な人と仲良くしても良いと思うのだが、俺が側で見る限り親しい人間はいないようだ。
「本当に兄さんがすみません」
頭を掴まれて下げさせられた……
「いえいえ、本当に気にしなくていいですよ」
俺はアリスの手から脱出し、下げていた頭を上げて改めて聞いてみた。
「でも、俺が言うのもなんですけど、仮にも司祭さんが人が居なくても問題ないって言ってもいいんですか?」
「仮ではなく立派な司祭なんですけどね。まあ、この教会に私よりも偉い信徒はいないので問題になりませんし、そもそも私は女神様を信仰しているだけなので、教会のあれこれに従うつもりはありません。信仰は自由ですし、ノルマなどもありませんし、やりたい人がやり、祈りたい時に祈るでいいと思います」
これが信徒の言うことなのかな? 一般的な信徒の人と違うような気がするんだけど。
「でも、女神様を信じましょう! とか、あの教会はでたらめです! とか言って信仰者を増やすとかが信徒なのかと思っていたんですけど」
「そう言う輩はお金のためだったり、自分の考えの押し付けであったり、上に行きたいだけの人達なので、耳を傾ける必要はありませんね。教会に何かを命令される場合は、神の言葉ではなく人の言葉でしかありませんので無視です。ライク君達は女神様を信仰していますが、同じ女神の信徒でも、違う神の信徒でも、そんなことを言う輩がいたらまず疑って下さい。特にお金の恵みを欲しがる信徒は論外です」
「わ、わかりました」
「き、気を付けます」
思うところがあったのか、珍しく妙に迫力がある司祭さんがいて、意地汚い信徒には容赦しない! という勢いがあった。
「さて、そんなことより洗礼ですね。早速やりましょうか」
「あ、はい。お願いします」
「よろしくお願いします」
俺たちは奥にある人の2、3倍ほどの大きさの女神像の所まで近づく。
「二人同時にやりますか? 一人ずつしますか?」
「どっちでも––––」
「ぜひ同時でお願いします!」
「わかりました。では」
アリスが食い気味に、司祭さんは苦笑しながら言った。そして、司祭さんが何か唱え始め少しすると、魔法陣が地面に浮かび始めた。
あれ? こんな特別なことをやるんだっけ?
「では、こちらの魔法陣に入って下さい」
「司祭さん、こんな魔法陣を出してやってるの見たことないんですけど、どうすれば?」
「あぁ、そう言えば言ってませんでしたね。別に特別なことはないですよ、陣に入って祈ればいいだけです。昔はこのようにやっていただけですから」
うーん、なんか誤魔化しているような気配がするけど、まあいいか、悪い感じはしないし何か言えない理由でもあるんだろう。
「兄さん、はやく入るよ」
アリスも楽しみなのか急かしてくる。
「わかったから引っ張るな」
「入ったら1分ほど祈り続けて下さい。才能の開花や能力を授かる時は自分でわかるはずです。授かると祈りをやめて大丈夫です」
「わかりました」
そして、アリスと一緒に魔法陣に入り俺たちは同時に祈り始めた。
戦いの描写と説明は分からなかったら余り深く考えない方が良いです。