イアと謎の男
時間が掛かりすぎだー。
次は事件が起こるところまで書くつもりです。
もう少し早く投稿します。
正直、待っているつもりだったんだが、ミラニールさんは2人をたたき起こし、1人を泣き止ませ、引きずるように連れて行く。俺達はそれについて行き、食堂らしき場所に来ると、ミラニールさんの前で3人の子供が正座して並べられる。
「さあ、あんなことをした理由を、正直に! 答えなさい」
「「「は、はい!」」」
「(子供に優しそうな人も怒る時は怒るんですね)」
それはそうだろう、子供を叱るのは危険を知らせる意味でも大切だ。その危機の感覚が麻痺して死んだ奴を見たことあるし。
そして、その危険を犯した子供たちが襲った理由としては、イアという子にアリスとヤイのことを聞いて自分達も、と思いアリス達のような人を待ってみたが、そんな人は当然現れなかった。
そんな中、ふとスラムで虐げられてる人を見た時に、甘い人のアリス達なら自分達でもスキを突けばやれると思うと同時に、マザーやみんなを助けられると思ったそうだ。
「言うべきことはそれで全部ね?」
「「「は、はい……」」」
「それじゃあ、食いしばりなさい」
え、殴るの?
かと思ったが、飛んだのは平手だった。けど、中々の威力だったみたいで、パアァーン! と大きな音を三連続で立て、子供たちは涙目になりながら頬を押さえていた。
「次にこんなことをしたら、問答無用で孤児院から出すと心得ておきなさい」
「「「はい……」」」
「よろしい。なら、次はどうしてそんな選択肢が出てきたのかを考えましょうか」
「「「……?」」」
俺達も子供たちも首を傾げる。
「(どういうことですかね?)」
さてな。
「あの、マザー? ふと思ったからということでしたし、ただの気の迷いなのでは?」
俺もそう思っていたけどな。
「ラミナ、あなたはサイク達がこんなことをしたことに驚いたでしょうし、疑問をもったでしょ?」
「それはそうですね。正直、信じられませんでした」
「そうね、サイク達を知っている私達からしたら信じられないわ。唐突にこんなことが出来る子達じゃないし、予兆もまるでなかったわ」
そうなのか。まあ、それが出来るような子は、ここには居られないってことだろうな。
「だから、サイク、イサカ、ラール何かあったの? ここに不満でもあった? 私に落ち度があったのかしら」
ミラニールさんが少し残念そうに言う。
「そ、そんなことない!」
サイクという子が大きな声で言う。
「そうだよ、マザーは何も悪くない。僕達がバカで考えなしだっただけだよ」
「マザー、自分を責めないで……私達が悪いだけなの。マザーは何も間違ってないの……本当にごめんなさい」
他の2人も全力で否定していた。
「そう、良かったわ。私の知ってる3人と何も変わってなくて。なら、あの人達にすること、ちゃんとわかるわね?」
3人は頷いてからこちらを向いて、俺達の前に来ると。
「「「ごめんなさい! もう2度としません!」」」
土下座をしてきた。
この短い間に2度も土下座を見ることになるとは思わなかった。
そして、俺としては反省をしていれば良かったので良しとして、アリス達も怪我をしていないので問題ないと言って許していた。
「本当にごめんなさいね、3人とも。そして、ありがとう。今は何もできないけど、私達にできることがあったら何でも手伝うわ」
ミラニールさんが低姿勢になり、子供たちとラミナさんは全力でそれに頷いていた。
「わかりましたから、そんなに下手に出ないでください。手伝ってほしいことがあったら言いますから」
低姿勢なミラニールさんを持ち上げ、俺達に対する話は終わらせ、念のため子供たちの治癒もしておいた。すると、ミラニールさんを治したこともあり、子供たちにアリス共々感謝され懐かれ、この場は孤児院の一員になっていた。正直、最初に襲ってきた時とずいぶん雰囲気が違うように感じる。
気になったので、ミラニールさんが確認しようとしていたことの続きを子供たちに聞く。
「それで、サイク達が襲う切っ掛けは虐げられてる人を見たからってことなのか?」
「そうだと思うけど、そんなもの日頃から見てる筈だから不思議なんだ」
「そうよね。極限状態だったならまだしも、そこまでではなかった筈だし、この子たちが浮かべる選択肢が、3人揃って襲うことなのは唐突すぎるわ」
「そう言えば、そうだよね。僕たちの意見が分かれることもなくて、揃ってその意見だったよね」
「うん、不思議なの。私たち、意見が合う方じゃないのに反対は誰もしなかったの」
ますます変だな。
「そうよね。なら、その時にはおかしかったと考えると……その少し前は何をしていたの?」
「えーと……何してたっけ?」
「サイクは忘れやすよね。確か孤児院で兵士の人と話してたよ」
「それは正しくないの。兵士の人の知り合いって人と話したの」
兵士? 知り合い?
「兵士の人って誰なの? 私は知らないけれど」
「あれ? あ、そっかマザーが倒れた時くらいに来てたかも、ラミナ姉ちゃんはよく話してたよな」
「そうね。マザー、その人は悪い人ではないと思います。時々ここに援助してくれる人です」
兵士が援助? 総隊長さんみたいな人ならあり得そうだけど。
「……少し不安だけど、まあいいわ。その時は兵士とその知り合いの2人が来たのね?」
「うん。でも、何の話をしたのかハッキリ思い出せないんだよ」
「……え? 兵士さんが来る時に誰かと一緒の時なんてあったかな?」
ラミナさんが少し素になったように言う。
「あったの。ラミナお姉ちゃんは兵士さんと話してたから、気付かなかったと思うの」
「……そう、だったのかな?」
ラミナさんは何か納得がいってなさそうだった。
「とにかく、今の話だと知り合いの人が1番怪しい感じね。何とか思い出せない?」
「うーん…………ダメだ、顔も思い出せない」
「それなら、その時に何を考えていたか思い出してみたらどうかな。その考えていたことが会話の切っ掛けかもしれないよ?」
アリスが違う道順を示す。
「その時? えっと誰も食料くれなくて……」
「少し落ち込みながら孤児院に帰ったんだよね……」
「それから、この後のマザーやみんなの食料のことを考えてたの。そしたら……」
「「「……あーー!?」」」
な、なんだ。
「そうだ! 「どうかした?」って話しかけてきた!」
「だれ? って聞いたら「兵士の知り合い」って言ってたよ!」
「そんで、悩みを言ったの! そしたら「マザーを助けない人、苦しめる人から奪えばいい」って言ったの!」
3人とも急に思い出したみたいだ。何かの効果が切れたのか、思い出すのも3人一緒だった。
その会話内容が、助けてくれない俺達が悪い、助けてくれないからマザーが苦しいんでいる、というようなことを話したらしい。
「最初は何を言ってるのかと思ってたんだけど、同じようなことを何度か聞いてるうちにそう思うようになってきてたな……」
「子供を攫う、みたいなこともその人から聞いて、ライクお兄さん達を探さなきゃ、と思うようになったよね……」
「そんな時にイジメられてる人をみたの。そしたら、こうすれば解決するのって頭が塗りつぶされたの」
「魔法か何か知らないけど、悪人が持つとろくでもないことに使いそうな効果みたいだね……」
「そうですね。子供たちに使うような人、という時点で関わりたくないタイプのようです」
アリス達は少し嫌悪感を抱いたようだ。
しかし、催眠系の何かか? だとしても何でそんなことをしたのかわからないな。それに、聞いてる限りだと一部分だけ記憶を消してたのか? 知り合いってところは覚えてたみたいだし。
「(催眠系でしょうが、そんなに一瞬で掛かる催眠は心当たりがありませんね……)」
面倒そうな相手だな。
「しかし、いつ襲う衝動みたいなのが収まったんだ?」
「えっとー、俺はマザーが立ち塞がった時に徐々に収まっていった感じかな?」
後の2人もマザーが元気そうに立っているのを見て、収まっていったらしい。
「とにかく、原因はその人で間違いなさそうね。今後はその人には注意するように。あと、念のために兵士の人にも気を付けなさい。仲間の可能性もありますからね」
「「「はい!」」」
「……わかりました」
子供たちは元気に、ラミナさんは何とも言えない様子で頷く。
その後、兵士と謎の人物の名前を確認するも、兵士はナイルと名乗ったが、謎の人物は答えなかったそうだ。
そして、念のため兵士ナイルとの会話をミラニールさんが確認していると……
「ただいまですー!」
玄関から元気な声が聞こえてきた。
「あれ?」
「この声は……」
「イアね」
アリス達の待ち人が帰ってきたようだ。
「あれ? ラミナお姉ちゃーん、いないですかー?」
誰もいないのはおかしいと思ったのか、その子は宿舎の中と外に叫んでいた。
「イアー、食堂の方へいらっしゃい。あなたの待ち人が来てるわよー」
ミラニールさんがそう言うと、ドドドっと足音が大きくなって聞こえてくる。
「マザー!」
食堂に走って現れたと思ったら、サイク達より少し小さい少女が、ミラニールさんに飛び込んできた。
「おかえりなさい、イア。また1人で行ってたの?」
「危険な所には行ってないですよ。それより! マザーは動いて大丈夫です!?」
「大丈夫よ。この子が治してくれたの」
そう言ってミラニールさんは、まず俺を紹介する。
「ほ、本当です!? ありがとうございますです! 感謝感激です!」
少女が俺に向かって土下座をする。
この孤児院の教育方針は土下座なのか? 感謝や謝罪は確かに伝わるけど。
「(アリス、この子なのか?)」
「(うん。喋り方が少し違うけど、間違いないよ)」
まあ、ちょっと変わってるな。俺もなんだけど髪が黒なのも珍しいな。
俺は土下座をやめさせてから感謝を受け取る。
「どういたしまして。ちょっと聞きたいんだけど、君がギルドに依頼を出した子で合ってる?」
「あ、はい。出しましたです」
「そうか、君が会いたい人達はこの2人であってるかな?」
改めてアリス達を紹介する。
ミラニールさんや俺しか見てなかった少女は、改めて近くに居るアリス達を見る。
「やっほー、前見た時より元気そうだね」
「元気なのは何よりです」
「あ! 服装が違いますけど、お姉ちゃん達です!」
ようやくって感じだな。簡単に終わると思ってたのに、色々起こったからそう思うんだろうけど。
そうして、イアって子にも名前などの自己紹介と俺達の関係を伝え、アリス達に対するお礼のことを聞くことになった。
「それで、私達にお礼がしたいってことだったと思うけど?」
「はいです。まずはシッカリと感謝したかったのです。食事を与えてくれて、ありがとうございますです」
また、土下座をしている。
そろそろ、気になってきたのでミラニールさんにコッソリ聞く。
「あの、子供たちの土下座が多くないですか?」
「最大限の感謝と謝罪を表したい時は土下座をしなさいって言ってるのよ。私もこんなに連続してする時がくることは考えてなかったわ」
色々重なった結果、こうなったのか。
「(こんなに見かけると、なんとも言えない気持ちになりますね)」
空中土下座をしでかしたお前が言うのか。
「ちなみに、あの子には土下座の教育を伝えてなくて、敬語も教えてなかったんだけど。アリスちゃん達に助けられた時に色々教えたら、きちんと出来なかったことを反省して急いで覚えたのよ」
なるほど、だから少し変な感じになってるのか。このままだと、個性として残りそうだな。
「思いは十分伝わりましたから、顔を上げてください」
「ありがとうございますです。それと、これがお礼なのです」
イアはペンダントのような物を差し出していた。
「これは?」
「私が持っていた物らしいのです。少しはお金になると思うのです」
「え……イア? それは、家族が持たせてくれた大事な物じゃないの」
「……いいの。今いない家族より、今いる家族なのです。受け取ってほしいのです」
イアは渡そうと手を伸ばしているが、アリスはその手を取ると、渡そうと開いている手の平をペンダントを握るように閉じさせて、イアの胸元に押し返す。
「そんな大事な物を貰うほどのことはしてないよ」
「で、でもほかに渡すものなんてないのです!」
「別に何かを貰うためにしたわけではありませんよ。あえて言うなら、お礼の言葉があれば十分です」
「あ、ヤイさん。それ私のセリフだよ」
「いいじゃありませんか、その想いに共感したということで」
「まあ、いいけどね」
2人は笑い合う。
「でも……」
「イア、今はその言葉に甘えさせてもらいなさい。私だって助けてもらったお礼ができてないんだから」
「あ、そうです! お兄ちゃんにもマザーを治してもらったお礼をしないとです!」
それから、今度は体で返すとか言い出したが、ミラニールさんに説得してもらい、後で何かしらで返してもらうことで納得してもらった。
「うぅ、早く恩を返したいですぅ」
真面目な子だな。あ、丁度いいのがあったな。
「なら、住み込みで働くのはどうだ?」
「働けるです?」
「大丈夫だ。イアみたいなスラムの子供1人ぐらいなら働ける所があってな、働いて少しずつお金で返せるぞ」
「……マザー、ラミナお姉ちゃん。これは恩を返すことになるですか? 何か違う気がするですが」
「えっと、返すことにはならない気がするね」
「そうね。普通は疑うところだけど、ライク君相手だとおそらく恩が積み重なるわね」
「お兄さん、甘々だね」
「お兄ちゃん、甘々なの」
「兄ちゃんは甘いよ。蹴飛ばされた時は思いもしなかったけど」
あれ?
「兄さんは礼を尽くす人にはこういう人だから」
「昔の私を見ているようです」
「(ライクさんは人助けがクセになってるんでしょうか?)」
だから、誰彼構わずやってるわけじゃないから。
なんだかんだ言いつつ、イアの働く場所はとりあえず見た方がいいだろうと思い、ムハサさんのお店に向かうことにする。
しかし、孤児院はほかの子もいるので、ラミナさんには残って出迎えてもらって、アリス達とイア、サイク達、ミラニールさんを連れて行くことになった。