クズ達
ある事情で遅れました。すみません
あと、アリスを知ってもらうために、アリスの過去の話をするべきだと思ったので、どこかで入れます。
「ああ、すみません」
俺は怒号をあげた体がゴツいおじさんに謝罪する。説明を聞いていて待たせてる自覚はあったので、思わず敬語で謝っていた。
「誤る必要なんかないよ。この程度の時間が待てない方がおかしいんだから」
「怒鳴り過ぎ」
「なんだと!」
「まあ待て、そんなケンカ腰になるな」
「(うーん、どうなんでしょう。私からすると気が短いように感じますけど、ライクさんには気が長いと怒られましたし」
「(明らかにアッチが短気なだけだよ)」
謝っておいてなんだが、短気だとは思う。
「俺達はなぁ、魔物退治で疲れてんだよ」
「それはこっちも同じだよ」
「ふん、どうせEランク程度だろ。俺達はDランクを相手してきたんだ。敬え」
「威張れるランクじゃない。この2人は50の魔物の群れを倒してる。中にはオークもいた」
オークはDランクらしい、そういえばEランクのゴブリンは戦わずして逃げたっけ。
「はぁ? 冒険者ですらない人間がか? ははは、そんな嘘を誰が信じると思う。もう少しマシな嘘をつくんだな」
そんな嘘をついてなんの得になるんだ。
「嘘ではないぞ。機器でもわかっているし、ちゃんとこの目で見た」
「ふん、どうだか。ゴブリンの子供と見間違えたんじゃないか? それを一掃したところを見せて、人の評価を得ようとしたとかな」
「は? 何それ本気でいってるの?」
「その発想に至るお前こそ信用ならない」
「そうだな。その考えは改めてもらわないとな」
普通の人だとそういう得があるのか。しかし、ラン達がお怒りだ。特にランやサーリアが口調が怖くなるほど怒っている……だけど、アリス達は何も言わないな。
「(今回アリス達は冷静だな)」
「(だって、兄さんが貶められていると言うより、私達に言ってるようなものだし)」
「(私達が大半を倒しましたからね。それに、ランさん達が怒ってくれているので、感謝というか感動みたいなものを感じます)」
ミースが完全にアリス色に染まってるな。
「あ? 喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩なら買うよ」
「低脳はぶっ飛ばす」
「仕方ないな。バカは殴って黙らせないと」
おいおい、ゲオルまで完全にやる気か。俺達に対する思いで怒ってるから止めにくい。
「ミナネさん、止めないんですか?」
こういう時は素直に大人の助けを……
「無理無理、私は武闘派じゃないし、こういう時のために決闘場があるんだから」
この場を大人の女性に頼るのは間違いだったか。
「駆け出し冒険者風情がいい度胸だ。なら、賭けをしてもらおうか」
「何でもいいよ」
「そうかぁ、なら俺達が勝ったら女は1日相手をしてもらおうか」
は?
「(クズ)」
「(やはりゲスでしたか)」
「わかった。ならそっちは謝罪と金品全部」
え!?
「よし! いいだろう。地下に仲間がいるから来い!」
おっさんは、笑いながら地下に下りていった。
「おい。ラン、サーリアそれはマズイだろ」
ゲオルが2人を心配する。
「なに? ゲオルはあんなのに負けるつもりなの?」
「ゲオルは肝が小さい。ライク達を貶める輩に負ける筈がない」
「俺達はまだ駆け出しだぞ。負ける可能性はあるだろ」
「そうねー、ランさん達じゃあ厳しいかもしれないわね」
ミナネさんもそう言う。
そうだよな、確実に勝てるとは言えないよな。早い展開についていけなかったが、俺達のせいでランとサーリアにそんなことさせられないので、俺達が代わりに戦う、というと。
「いやでも、これは私達が買ったケンカで、ライク達は巻き込まれただけだよ? 悪いよ」
「そう、私達が勝手にやったこと」
「残念ながら、それを見過ごせる人間じゃないんだよ」
「そうだね。兄さんならあの程度は確実に勝てるので任せて大丈夫ですよ」
「そうかもしれんが……」
「私はちょっと心配ね。実力を見たわけじゃないから」
4人が浮かない顔だが、これを譲る気は全くないので、俺達はさっさと地下に下りていった。
「「ちょっ、ライク君!」」
それをミナネさん、ラン達も追ってきた。
「来たか」
「へー、可愛いじゃん」
「悪くない」
おっさんが仲間と一緒に武器を出して待っていた。そして、視線から仲間も見事なクズだとわかった。
「早速ぶっ飛ばっ、んんーー!」
サーリアが俺達を押しのけて戦おうとしたので、後ろから口を抑える形でとめる。
「おっさん。悪いけど、俺達に代理で戦わしてくれないか?」
「はあ?」
「彼らが怒ったの俺達の責任でもあるし、おっさんも実力見せれば素直に謝罪できるだろ?」
「舐めてんのか? 俺が謝罪すること前提になってるぞ!」
「そんなつもりなかったけど、それより代理は認めるのか?」
「チッ、条件がある。相手はお前1人で、勝った時にそこの女も1日の相手に加えろ」
おっさんはアリスを指さした。
は? コイツ……殺してやろうか。
「はぁ? なんでそうなるの!」
「そんなに勝つ自信が無いとか、冒険者やめるべき」
「うるさい! どうなんだ!?」
「わかった」
アリスが返事をする。
「…………」
「よし! ならいい。サッサとやるぞ」
「ナイスだ」
「これで人数分だな」
クズ達が決闘場の中央に向かう。
「なにあのクズ達」
「ぶっ倒したい」
「おい、いいのか?」
「大丈夫です、兄さんが負けるわけないので。ミナネさん、ギルドの一員として審判お願いしますね」
「心配だけど……アリスちゃんがそう言うなら、了解よ」
ミナネさんと一緒に決闘場の中央に向かう。
兄さん、怒ってそうだなぁ。私があんな奴の言うこと聞くわけないのに。
「アリスちゃん。本当によかったの? 3体1だよ?」
「兄さんならなんの問題もないです。そもそも、あの人の相手をするなんて言ってないです」
兄さんと飲みに行くとか、食事をするでも相手をしたことになるし。
「私達と同じような考え」
「え!? そうだったのか……」
ゲオルさんが頭を落としていました。
「でも、ライク本当に大丈夫?」
「はい。兄さんが戦う意思を見せたら、相手が死なないかの心配をするべきですね」
「「そっち!?」」
ランさんとゲオルさんが驚いていました。
「……本当みたい。アリスがそれほど信頼する強さが楽しみ」
サーリアさんは、私の顔を見て嘘ではないと思ったみたいで、楽しそうに笑っていました。
「本当ですよ。今の兄さんは、ゲオルさんと同じように考えて、負けられないと思ってやり過ぎるかもしれないです」
前にあったんだよね。
「そうなんだぁ。まあ、いいんじゃないかな。決闘で死ぬこともあるみたいだしー」
「自業自得、ケンカする相手を間違えた」
「相手の死で、ライクに不都合がないなら良いんだがな」
「(まあ、私がフォローしますけど。けど、ライクさんに伝えなくていいんですか? 相手をするわけじゃないこと)」
「(兄さんだってイタズラするし、これくらいは許されるよ)」
「(わかりました)」
たまには真剣に戦う兄さんもみたいしね。
私は決闘場で相手を見据えている兄さんを見る。
さて、どうするかな……まだ何もしてない以上殺すのはやり過ぎか。ミースに冷静になるように言われたしな。
「で、決闘のルールは?」
「降参もしくは、死んだらでいいだろ」
「それでいいんじゃね」
「そうだな」
死ぬ覚悟があるようだし、やっぱり殺してやろうか……
「(ライクさん。目立ちたくないんですよね?)」
「(時と場合によるぞ。特に、クズが関係したらそんなことは考えないからな)」
「(はい、それはそれでいいです。やり過ぎないように考えてくれればいいです)」
やり過ぎないように? 殺すなってことか? 本気でそこまでは考えてないが、少しやる気を出して半殺しにはさせてもらうぞ。
「ライク君、本当に大丈夫?」
ミナネさんが心配してくる。
「はい、大丈夫ですよ。死にそうだったら止めてくださいね」
「わかったわ」
ミナネさんが頷いて、中央に立つ。
「どっちも準備はいいわね?」
「はい」
「いつでもいいぜ」
少し沈黙が流れたのち……
「……始め!」
「「「はああー!」」」
3人が一斉にきたが、距離がある状態から構えて拳を高速で突き出す。
「……圧」
「「っっ!?」」
クズのおっさん以外が、胸を抑えて、声もなくうつ伏せに倒れた。
一応、加減はしたが死んだか? いや、苦しそうにもがいてるな。
「(生きてますね……何をしたんですか?)」
「(ああ、技の1つに、圧って言うのがあってそれだな。名の通り一部分だけに圧力を掛けている感じだ。簡単に言うと、目に見えない何かを飛ばしていると思ったらいい。ゼロ距離が本来の射程なんだが、遠距離としても使えるからな)」
「(よく生きてますね、あの2人。発、って言うのが威力一番低いんですよね?)」
「(飛ばせば、発よりは威力が落ちた筈だ。加減次第ではあるが)」
今回の場合は心臓辺りに圧を掛けた。かなり苦しいと思うし、しばらくは苦しい筈なので、罰としてはいいだろう。
「な、何をした!」
おっさんが焦った様子で叫んでいた。
「何って、技を使ったんだが。まあ、見える筈もないか」
「く! あの2人を倒したくらいで!」
おっさんが切り掛かってくるが、オークより遅く、力もない。これが自分の力を、強さを勘違いした奴の姿か……これだから強い人にはなりたくないんだ。
「このっ!」
当たらない攻撃を続けているこのおっさんには、あの2人よりはもう少し痛い目を受けてもらうか。
「野郎!」
振り下ろしてきた攻撃を避け、相手の手に掌底を当てる。
「ぐぁっ!」
おっさんが武器を手放して痛がっているところに近付き、腹にも掌底を当てる。
「発––––」
「ぐぼぉぁ」
おっさんが吹き飛び、決闘場中央から壁までの物をぶつけ倒しながら激突した。
「……」
口から泡を吹きながら倒れて、体がピクついているが、息はしているので大丈夫だろ。
「(加減はしたんですか?)」
「(さあな)」
手に掌底を当てる時から、余り考えてなかった。今回は、確実に勝つために最大限に集中したからな。
「ラ、ライク君の勝ちね……」
ミナネさんが驚きながら宣言する。
「す、凄いね! ライク君」
「圧倒」
「大したもんだ」
ラン達が俺の方に近付いて言った。
「兄さんの相手をするには弱すぎたね」
「(いえ、むしろあの岩石の件を考えたら、よく生き残った方じゃないですか?)」
アリスは近付きながら嬉しそうに、ミースは皮肉めいた褒め言葉を言う。
いや、岩石は概念を使った時の威力だから。
「さて、戦利品を貰わないとねー」
「さっさと出して、ライク達にも謝る。気持ち悪い視線を向けてきた罰もまだ」
ランとサーリアが床で苦しがっている2人に、物理的と精神的に追い打ちをかける。
「っっあ」
多分、圧の影響で喋れないと思うんだよな。あと、謝ってもらう必要もない。特に気にしてないし、ぶっ飛ばしてスッキリしたしな。
ラン達にそう言うと、ラン達は物理的の追い打ちを続け、ゲオルは金品を探していた。ミナネさんにこれはいいのか聞くと「決闘で負けるっていうのはそういうこと」と言われた。
ちなみに、決闘での賭け事は、お互いに賭けるものを明確にして、ギルド員が間に入り、誤解の無いようにしてから賭け事が成立するそうだ。だから、そもそもあいつらの賭けは成立していなかったらしい。
つまりミナネさんは、アリスやラン達に都合のいい解釈、相手をするという曖昧な賭け、女としか言ってない、などと解釈して味方になってくれていたみたいだ。
道理で賭けるものに対しては何も言わないわけだ……
「言えよ!?」
俺はミースにも向けて叫んでいた。
「(えっとー、言わなくても問題ないかと思いまして)」
「私はミナネさんが、そこまで考えてるのは知らなかったよ?」
「いやいや、アリスはアリスで騙してただろ」
「騙してなんかないよ。兄さんはどうせ勝つから言わなかっただけだよ」
「(実際に勝ちましたしね)」
それは、屁理屈じゃないか?
「まあまあ、問題なかったならいいじゃないの」
「そうそう、問題無しだよー」
「ライクが心配し過ぎなだけ」
説明不足3人組が言う。
「3人も教えてくれよ!? 無駄に真剣になったじゃないか」
「でも、言ったらバカ達にバレるじゃないの」
「いやー、アリスちゃんが大丈夫って言ってたからねー」
「真剣なライクが見れるって聞いた。それに、そんな簡単に自分を賭けるわけない。ライクなら別にいいけど」
「「え!?」」
何がいいんだよ……
まあ、みんなに危険はなかったことを喜ぶとするか。
その後はおっさんからも賭けの金品を回収して、ランとサーリアが満足するまでやらせて、帰ることになった。
クズ達はどうするのかと思ったが、ギルドの方でやるそうだ。逆恨みで報復を行なった場合、どうなるかを教え込むそうだ。
そして、それをギルドが行うことから、決闘関係でギルド員を敵に回すと厄介ということも教えてもらった。実際、ミナネさんが敵だった場合、面倒なことになったかもしれない。
「ということで、はい。カードね」
おっさんに邪魔された作業の続きをして、ミナネさんに俺達の名前、ランク、職業が写されたカードを渡された。
職業は2つあってもいいそうなので、俺は武闘家と剣士を書いた。アリスは武闘家(蹴技)と書かれていた。攻撃の主体は蹴りだから間違ってはないが、書く必要があったのかは謎だ。
「活動は明日からにするの?」
「そうですね。微妙な時間ですし」
なんだかんだ時間が掛かってしまったからな。
「じゃあ、飲みに行こー!」
はい?
「なんだ、突然」
「突然じゃない。元々そのためにライク達を待ってた」
「ああ、奢って借りの一部を返そうと思ったんだが、また借りが増えたな」
ああ、説明を受けている時に待ってたのはそれか。まあ、母さん達も今はいないし、断る理由はないな。
「俺は問題ないぞ」
「私も大丈夫です」
「なら行こー!」
「(美味しいご飯が……)」
あ、ミースには食べさせてやれないな……バレる。
食べなくてもいいとはいえ、食べるのが好きな人にこれは申し訳ない。だけど、悪いが今回は我慢してもらって、次回までに対策を考えることにした。
ミナネさんに別れを告げてギルドを出て、飲みに行くのはどこなのかと思ったら、ムハサさんの所だった。
ムハサさんとラン達をお互いに紹介して、飲み食いを始め、お互いのことを話し合い、明日も朝にギルドで会う約束をしたり、魔法を教えることになったりと、色々話し合った。
「(ごーはーんー! 食べたいですぅ〜!)」
ミースの叫びで、キチンと考えないとな……と思った。
食事、好き過ぎだろ……