ライクの強さ
説明の仕方に悩みました。が大体説明は終わった筈なので、話を進めるつもりです。
これから、2日に一回は投稿するつもりで頑張ります。
ようやく街を出て目的地に向かっていると、どデカイ岩石が見えてきた。
「変わってないな」
「こんなに大きいからね。一、二年じゃ変わらないよ」
街壁と大体同じ高さの、懐かしの岩を俺達は眺めた。
「(ここが、ライクさん達が昔に来ていた場所ですか)」
ミースは、周りのあちこちにある、人より大きい岩石を見回していた。
「(岩が欠けていたり、穴が空いていたりしてますね)」
「(ああ、それは兄さんが昔やったやつだよ)」
「(え? ……いえ、ライクさんですからね)」
「(そうそう、兄さんだからね)」
全部を俺だから、で済ませるつもりか。
「(それよりミース、魔法と武術、どっちから確認する?)」
「(では、お二人の武術の実力が見てみたいです)」
「(じゃあ、模擬戦でいいか。アリス、ほどほどで頼む)」
「(わかった)」
アリスが俺から距離をとりはじめた。
アリスさん? 闘志というか闘気みたいなものを感じますよー。本気でやるなよー軽くでいいんだぞー。
「じゃあ、行くよ。兄さん」
距離をとったアリスが聞いてきた。
やる気満々だな。寸止めはできるだろうから、まあ、いいけどさ。
「ああ、いいぞ」
「––––っ!」
音も無くアリスが正面から飛んで蹴りを繰り出してきた。それを、右足を軸にしてアリスが通り過ぎるように避ける。
「く!?」
アリスは自分の足でガガガっと地面を削りながらブレーキをかけ、止まり、今度は地面を走りながら距離を詰めてきた。
「ふっ!」
詰めてから蹴りで横薙ぎがきたが、それを一歩下がり避ける。そこで距離を詰めようとしたが、横薙ぎから一回転して二撃目がきたので詰めきれなかった。
「ダメか」
俺が呟く。
「兄さんに詰められたら負けだから」
そう言ってアリスは距離をとる。
カウンターの対処や、距離のとり方がうまくなってるな、仕方ない。
「(ミース、回復はできるんだよな?)」
「(……)」
返事がない。
「(おーい! ミース!)」
「(は、はい! なんでしょう)」
「だから、回復魔法はできるんだよな?)」
「(はい、大丈夫ですよ。アリスさんも同じこと聞いてきましたけど、お互い大きな怪我はしないでくださいね)」
アリスはアリスで気にしてたか。治してもらってた司祭さんが近くにいないからな。
「兄さん、どうするか決めた?」
わざわざ待ってくれたようだ。
「ああ。アリス、ちょっと痛いのは我慢しろよ」
手加減がうまくできるといいが。
「楽しみ、兄さんに攻撃を当てること宣言されたの初めて」
そうかもな、訓練とは言え家族を傷付けるの嫌だったし、一撃あれば十分で、寸止めする余裕もあったからな。
今回はアリスの成長があって、二撃が必要だ。
「いつでもいいぞ」
俺は待ち構えた。
「––––っ!」
アリスがまた正面に飛んできた。今度は横薙ぎで蹴り込んできたが、屈んで避けると、俺の上を通り過ぎる時に、もう一方の足でかかと落としをしてきた。
「ふっ!」
アリスと交差するように前進して避けたが、ビキッと何か割れるような音を立てて、かかと落としを地面に突き刺し、無理やり停止して、遠心力をつけて背後から腰辺りをめがけて追撃してきた。
「っ!」
それを、アリスに背後を見せた状態で腰の高さまで屈んでから、追撃してきた足を振り向きざまに下から掌底し、足を打ち上げた。
「ぐっ!」
アリスが体勢を崩したので、距離を詰め、お腹を手のひらで触れた。
「……降参」
「また、強くなったな」
俺は少し足を痛がっているアリスを支えながら言う。
「兄さんにそう言ってもらえたら、本当に強くなってるんだって実感できるね」
アリスは嬉しそうに言いながら、地面に突き刺していた足を抜いた。
「地面に刺していた足は大丈夫なのか? あの勢いを無理やり止めてたが」
「こっちは何の問題もないよ。それより、兄さんの掌底の方が痛い」
手加減はできたと思うが。
「歩けるか?」
「大丈夫、ちょっと痛いだけだから」
なら良かった、ミースに魔法で治してもらおう。
「(ミース、魔法で治してくれないか)」
「(……いです)」
「(ん? 何だって?)」
「(凄いです! ビックリです! ライクさん達強すぎです!)」
お、おう。凄くテンションが高いな。
「(アリスさんの攻撃は地面を割りましたし、ライクさんはその攻撃すべてを避けました。最後に、ライクさんが何をしたのか見えなかったのが残念でしたが)」
結構勢いをつけたからな。少し早かったかもしれない。
「(あれね、私の方が早く仕掛けたはずなのに、兄さんが私の足を下から打ち上げたんだよ)」
「(ライクさんは、そんなに素早く動くことができるんですね)」
「(限定的にだけどな)」
「(限定的?)」
「(えっとね、兄さんは移動しない動きが早いって感じでね)」
「(移動しない動き?)」
「(その場で体を一回転とか、その場で拳を出すとかは目で見えないくらい早いんだ。けど、走るのは普通の速さで、走りながらの拳を出す動作、走りながらの一回転とかは普通の早さになるんだよね)」
「(結果、リーチが限られてるわけだ)」
「(でも、兄さんの射程に入ったら、どれだけ早く行動していても先手を取られるから、脅威以外の何物でもないけどね)」
「(凄いです。未来予知も神眼もありますから倒しようがありませんね)」
「(いやいや、未来予知じゃないから。あと、俺の攻撃力の問題もあるだろ)」
「(遠心力で攻撃力変わること? でもそれ、兄さんの早さなら何回転しても1秒も掛からないし、兄さん1回転で岩を粉砕できるよね)」
「(隙がないです)」
「(ぐ……いや、でも俺は一撃で戦闘不能になり兼ねないぞ)」
「(避けるよね?)」
「(避けますよね?)」
二人がお互いで確認してから、俺に視線を向けてきた。
く、避けるけど! 俺が思う強い人間になるつもりはないぞ。
「(なんと言おうと、俺自身が強い人間と認めるつもりはないぞ)」
「(強情だね。ミース、兄さんはこうやって頑なに、自分が強いことを認めない人だから知っておいてね)」
「(わかりました。ライクさんの謙遜を真に受け侮る人には注意し、時に罰を与えます)」
えぇ……そういうことじゃないだろ。
「(うん。いい心構えだね)」
ええぇ!? 正解なのか……まあ、いいけど。
「(それより、戦いの中にミースとアリスは会話したんだよな? それが聞こえなかったのは遮断してたのか?)」
「(そうですよ。アリスさんが心配して私に確認してきたことを流すと、ライクさんの邪魔になるかと思いまして)」
そういう察しの良さは抜群なんだがな……いい加減にアリスの足を治してもらいたい、気になるし。
「(ミース、そろそろアリスの足を治してやってくれ)」
「(あ! すみません!)」
「(別にそこまで痛くはないよ)」
「(わかってる。ミース、ついでに魔法について詳しく教えてくれ)」
「(わかりました。前に言いましたが、魔法は基本、精霊や私達妖精が扱います。魔法の属性は、四元素、光、闇、生命が基礎です。ちなみに私が使えるのは、四元素、光、生命魔法の6つです。で、これが……)」
ミースがアリスに手を当て、目を閉じると手が光った。
「(あれ? 痛みが消えたね)」
「(これが、光の癒しです)」
うーん、アリスが治ったのはいいんだが、呪文ってないのか? 女神様の知識からは何もなくて、本にはあったりしたんだが。
「(呪文ってないのか? あと、手が光ると魔法を使うことがバレて目立たないか?)」
「(呪文は必要ない人には意味はありません。イメージを言葉で明確にする人は使うようですね。手が光って見えたのはライクさんの目だからです。基本そういったものは見えないはずです)」
「(そうだろうね。私は光なんて見えなかったし)」
なんだ、そうなのか。
「(あと、触れないと回復はできないのか?)」
「(いえ、魔法のほとんどが触れた方が効果が高いというだけで、離れても使うことはできます)」
なるほど。
「(それで、原因は分かりませんが魔法は基礎以外の属性、色々なものに変化します。ヤイさんの幻術などがそうですね。使っている本人は意識せず感覚で行っていて、基本的には初めての洗礼で身につくみたいです)」
「(でも、魔法自体は精霊が行っているんだろ?)」
「(そうですね。精霊達にも変わった個体がいたりするので、そういった子の影響も考えられます。そういった子は1人の人間に付いていたりしますから)」
「(そうなんだ。なら、私は普通なのかな? 基本的な四元素しかないし)」
「(そんなことはないと思います。変化した属性が基礎の魔法より強いとは限りませんし、基礎の魔法を使えるというより、4種類の魔法が使えると考えると良いと思います。そもそも魔法は、使えない人には全く使えませんから)」
「(それもそっか)」
それを言ったら、俺は基礎の1種類しかないからな。
「(それから、基礎属性の地水火風はそのままでそれぞれを操る魔法。光、生命は主に体を守るための魔法。闇は魔力を操って魔力自体を攻撃手段にする魔法、といったところでしょうか)」
「(魔力を操る? 人は魔力が少ないっていってたよな?)」
「(はい。なので、人間が闇属性を持っても余り役に立ちません。精霊達と契約するか、膨大な魔力があれば別ですが)」
「(精霊と契約?)」
「(はい。難しいですが、契約できれば精霊の魔力を使えますから。ライクさんも私から使えますよ)」
「(そうなのか。ちなみに俺には精霊が見えないんだが、ミースには見えているのか?)」
「(見ようとすれば見えます。ライクさん達にも見える筈ですよ、ライクさん達の周りに多くいますから。ただ、私よりも遥かに小さく、触れられないので見つけるのは大変ですが)」
え……ちょっと待て。
「(ミースに触れられる俺は、潰してしまいかねないか?)」
「(大丈夫ですよ。私も精霊も潰れる身体はないですし、そんなに近くにいるわけでもありませんよ。それに、精霊達に余り明確な意思がありません。中にはちょっとした喜怒哀楽がある子もいますが、基本空気や自然みたいなものですよ)」
心底ホッとした。
あと、明確な意思がないから契約も難しいそうだ。確かに、植物と話そうとしているようなものなんだろう。
「(魔法や精霊に関することはこれくらいでしょうか)」
「(そうか、じゃあ次は概念魔法の説明かな。何から説明するか)」
「(私としては、発動する条件を教えてもらえれば十分です。概念を操るところは見せてもらいましたし)」
「(そうか? 基本の条件は視界の範囲に限られて、近付けば近付くほど効果が増すみたいだな。触れることで最大級の効果が出るってところだ)」
「(私も大体同じ。だけど、物は大丈夫でも、人なんかの生命の場合は、相手を視界から外すと効果が切れるみたい)」
「(その辺は俺と違うんだな。俺の概念は人には触れる必要があるけど、効果を与えたら視界から消えても効果は続くみたいだ)」
「(なるほど、わかりました)」
なら、あとは特殊な部分か。
「(アリス、特殊なやつってどんな感じなんだ?)」
「(う〜ん、説明難しいから実演でやるね。えーと、兄さんを指定して、私が効果を受けて……これでいいかな。兄さん、5メートルくらい離れて)」
「(わかった)」
俺は言われた通り離れた。
「(うん、そこでいいよ。あ、名前あった方がいいかな……うーん、 アザードでいいかな)」
アリスが何か言っている。
技の名前かな? で、何が変わったんだ?
「(アリス、何をしたんだ?)」
「(えっとね、兄さんの目だと私は5メートル離れてるよね?)」
「(ああ)」
「(私の目には、目の前に兄さん、5メートル離れた所に兄さん。2人の兄さんが見えてるんだけど)」
はい?
詳しく確認すると、指定した人間を近くに寄せるそうなんだが、発動した時、指定された人間は俺のように何をされたか分からないままに、相手の目の前に移動させられているそうだ。
なので、発動した時に指定された人は、アリスの目の前にいることになっているので、目では遠く離れていても手を出せばアリスに触れることになるみたいだ。
しかし、逆に近付けられた俺はアリス以外には触れることができないらしい。う〜ん、ややこしいのでアリス目線で言うと、俺という存在が増えたようなものらしい。実体はどちらにもあり、どちらにも攻撃は可能だそうだ。近付けられた俺や、能力を使っているアリスは特殊な世界にいると考えるそうだ。
そして、今は目の前に設定しているが、相手を近付ける距離は自由に変更できるらしい。ただし、近付ける能力なので、初めから近距離だと意味を成さないみたいだ。
中々に酷い効果だが、アリスの概念は視界から外れると効果が切れるので、やりようはあるかもしれない。不意打ちされたらどうしようもないが。
「(兄さんの目でもわからないんだね)」
「(そうみたいだな。しかし、恐ろしい効果だな、アリスが敵だったら絶望だったぞ)」
そう、俺の神眼でも何もわからなかった。アリスが妹で、味方で良かった。
「(そんなあり得ないこと考えないでよ)」
アリスが不満そうに言ってきた。
「(そうだな。悪かった)」
アリスの頭を撫でたら、子ども扱いが嫌のような、でも嬉しくもあるような複雑な顔をしていた。
「(しかし、本当に凄い能力ですね。ライクさんも何かあるんですか?)」
あるにはあるが……
「(アリスより地味だから、期待するなよ)」
俺は限定すれば上昇幅が大きくなること、生命力を多く使えば体の負担が軽減することを伝えた。
「(限定って例えば?)」
「(そうだな、踏み込む一歩を早くするのと、10歩の走りを早くするだと、だいぶ違いがでるな)」
「(なるほどです)」
「(で、その早さを出すのに体に負担が掛かるから、それを軽減する能力もあるみたいだな。ただ、基本的にはアリスより早く、が一番効果的だな。身体能力が高いし)」
「(兄さんの役に立てるなら嬉しいけど、使う機会あるかな?)」
まあ、危険すぎてそうそう使わないとは思うが。
「(練習はしておいたらどうです? 使うべき時に使えないと困りますし)」
「(そうだね。兄さん、技を打ってみたら?)」
「(技、ですか?)」
「(そう、まだミースは見てなかったね。名前もあるんだよ、発、烈、圧、消って言うんだけど、兄さん面倒がって一言なんだよ)」
技の名前なんて一言で発しやすいほうがいいだろ。恥ずかしくて嫌だったが、その4つ以降も一応名付けてはいる。
「(とりあえず、アリスより早くして慣れるか)」
「(兄さん)」
俺が動こうとしたら、アリスが止めてきた。
「(なんだ?)」
「(概念で早くする時の技名付けたら? 生命魔法の肉体強化と分ける時にわかりやすいし)」
「(そうだな…………瞬でいいだろ)」
「(また、簡単な名前だね。兄さんが良いならいいけど)」
「(わかりやすくて良いんじゃないですか?)」」
理解者がいてくれて助かる。
とりあえず、早速試してみる。
「(……瞬っ!? はや!?)」
「(っ!!)」
「(兄さーん、大丈夫ー?)」
「(大丈夫だ、問題ない)」
概念を発動して走ってみると、想定よりかなり早くて、アリス達と離れてしまった。
色々大変そうだなこれは。
「(……ライクさん、なんですか今の激痛は)」
え……
「(アリスさんには伝えないので、教えてください。ライクさんから激痛に驚いたことが伝わってきましたよ)」
マジか……まさかバレるとはな。
「(……反動だ。人を殴る時に自分も痛いことと同じだ。ミースには激痛が伝わってしまったのか?)」
「(いえ、痛み自体が伝わったわけではないです)」
安心した。
あの痛みはマズイからな……
「(でも、ライクさんは地面をけっただけですよね?)」
「(それは、概念の効果が大きいこともあるが、大半は俺の脆弱な身体のせいだ。俺の殴る行為は自分の方が痛みを伴うこともあるかもな)」
「(それでは、もしかしてアリスさんを打ち上げた時は、激痛があったんですか?)」
「(そうだな、結構痛いかもな。ミースが気付かなかったのは、どれ位の痛みがくるのもわかっていて、平然としていたからかもな)」
「(そうですか……それで、ライクさんに怪我はないんですか? あれほどの痛みならどこか怪我をしているのでは)」
「(それは大丈夫だ。骨に以上はないし、少しすれば痛みも引く、意識不明だったら危ないが、どれ位が危険なのかは経験からわかるしな)」
「(このことをアリスさんは?)」
「(痛みがあることは知っているが、激痛とは思ってないだろうな。内緒で頼む)」
「(そうですね……)」
理解してくれて助かる。こんなこと知ったら自分を責めかねないからな。
「(ならば、私の魔法で最大限に痛みを軽減するように頑張りますね)」
お、おう。軽減することは助かるんだが、戦うことをやめろとは言わないんだな。
「(とりあえず、概念の練習の続きをするぞ。今度は軽減する効果を使うから安心してくれ)」
「(魔法も使っておきますね。外傷がないなら、体の内側を守る感じがいいですね)」
その辺は任せよう。
そうして1時間ほど練習して、ようやく慣れた。
「(よし、試し打ちするぞー)」
俺は弁当をゆっくり食べていた、アリスとミースを呼んだ。
「(え、早くないですか!?)」
「(ミース、兄さんだから)」
「(ああ、そうでした)」
またそれか、話しが早いから助かるけど。
ちなみに、弁当を食べるように言ったのは俺だ。ただ待ってもらうのは申し訳なかったからな。それと、ミースは技を使って大丈夫かと心配をしていたが、ミースの軽減効果も確かめたいし、ミースを頼りにしている。と言って渋々納得させた。
「(よし、いくぞー)」
「(いいよー)」
「(気をつけくださいね)」
俺はアリス達が離れたのを見てから、構えて、人以上の大きさの岩石に突撃する。
「––––発!!」
ドンッ! と、音を立て、岩石が重さを感じさせない勢いで飛んでいき、空中で分解し、どデカイ岩石にめり込んだ。
痛みはだいぶマシだが……
「(……兄さん、発、って基本吹き飛ばす技で、打撃効果余りなかったと思うんだけど)」
その筈だ。
「(そうなんですか? 空中で分解しましたね)」
そうだな。
「(一番弱い技でこれなら、他の技はどんな化け物に使えばいいんだろうね)」
知らん!
攻撃力よりも防御力がほしかったと心底思った瞬間だった。
技の名前はそのままで、発、烈、圧、消です。適当です