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光の音  作者: 文屋薫
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守りの音

キラキラ光るいくつもの糸。


うっとりするような耳に心地良い音が生まれてくる。


いつまでも聞いてたい。


もっとたくさん聞きたい。


私も、鳴らしてみたい。




「律さん、起きなさい。」


「はえ?」


「おや、目が覚めたかな?」


「な、な、な、何ですか!」


びっ、びっくりした!


なんでイケメンが朝からドアップで目の前に!?


「起こしにきたんですよ。そしたら掴んで君が離してくれないものだから。」


「ええ!?」


手を見ると確かにイケメンの裾を掴んでいるではないか‼︎


「ご、ごめんなさいっ‼︎」


がばっと起き上がり頭を下げる。


「いえいえ。役得ですね。寝顔、とても幸せそうで可愛らしかったですよ。」


にこにこしながら頭を撫でてくる。


「か、か、か、可愛らし⁉︎」


だめだ発言と行動のレベルが高すぎて免疫がない。さすがイケメン。爽やかに社交辞令も言えるんだ。


「黒猫のようですねえ。律さんは。」


そう言いながら顎の下に手をかけて、頬にキスをされた。


「でぇえええい!」


思わず、全力でつきとばしてしまった。


キャパオーバーだ。なんなんだ都会はみんなこうなのか?それともこの人だけなのか?


「ふふ。そんなところも本当に猫のようだ。」


思いっきり突き飛ばしたのに痛くもかゆくもなさそう、というか嬉しそうなイケメンになぜか空恐ろしいものを感じる。


しかも猫ってなんだ!


「ひ、人を猫のかわりにしないでください!」


ん?でも待てよ?


そうか!猫だ!このイケメンにとって私は猫。構いたいだけ。そうだ、それだけ。


「おやおや、何か閃いたような顔ですね?ふふ。まったく楽しませてくれますね。でも残念。もっと構いたいところですが、さっそくお仕事ですよ。」


「お、お仕事?」


なんだか更に空恐ろしいこといってた気がするがどうでもいい。


「はい。また悪念が出ました。もう負旋律が出始めてる。すでに奏さんを派遣し、負旋律の侵攻を食い止めてますが時間の問題でしょう。」


昨日の気味が悪い音と正気を失ってる男性を思い出してぞっとする。


「お姉ちゃんが⁉︎早く行かないと‼︎」


「良いお返事です。では着替えたらエントランスに来てください。着替えは用意してあります。」


言うが早いか部屋を出た男と入れ替わりに女の人が2人入ってきてあっという間に服を脱がされた。


なっなんじゃこりゃ!


「え、いや、あの!着替えくらいできますから!」


「いえ。耐悪念用の服ですのでコツがいりますから。大人しくされててください。」


赤毛のハーフと思われる女性に淡々とそう言われ、ぐっと返答につまる間に下着姿にされた。


そして真っ暗なパンツ、タンクトップと黒づくめにされたかとおもうと着物のようなスカラップレースが施された上着を羽織らされ、銀色に光る細い帯のようなものを複雑に巻かれた。


仕上げにと髪を整えられて、ブーツをはかされる。


「な、なにこのコスプレみたいな格好‼︎」


どこの漫画キャラだよ‼︎


「武装です。よくお似合いですよ。」


表情を変えずにそんなこと言われても‼︎


文句を言おうと口を開いた瞬間、いくつも鈴のような音が聞こえてきた。


「え?なに?」


「お静かに。彼女が守りの音を施します。」


ハーフのお姉さんにそう言われ、側にひかえていたもう1人の黒髪おかっぱのお姉さんを見ると、目を閉じて、たくさんの鈴がついた楽器のようなものを両手に持っていた。


あれって巫女さんとかがもってるやつじゃないか?


「清らかなるものたちよ、彼のものを清め、悪しきものから護り給え。」


シャンシャンシャンシャン


鈴の音を鳴らしながら黒髪のお姉さんがタンっと地面を蹴って踊りだした。


お姉さんの周りから音の光線が飛び出してくるのがわかる。


光線の数はだんだん増え、気がつけば身体のまわりを幾重にも回転しはじめた。銀糸のような光線が黒づくめの服に巻き、刺繍のように縫われていく。


清らかな音と光。


気分は悪くないし、むしろふわっと身体が軽くなってきた。悪いものではなさそうだ。


「っ!?」


と、おもったら旋回していた光線が糸のようにふわふわと浮き出して、音が急に狂ったかのように大音で鳴り出した。


な、なに?


思わず耳を抑え、黒髪のお姉さんを見ると顔色が真っ青で汗がすごい。


「大丈夫!?」


思わず声をだしたのとほぼ同時に、黒髪のお姉さんは膝から崩れ落ちてしまった。


「ちょっちょっと!」


走り寄ろうとしたら、ものすごい速さで移動したらしい赤毛のお姉さんが黒髪のお姉さんを抱きとめていた。


「何事ですか?」


呆然としていると弦さんがいぶかしげな顔で真後ろにいた。


いつの間に。


いつもなら音で気がつくのにこの人も耳がいいらしいから能力がなせる技なのか?


てか、ノックくらいしろ、変態。と言いたいがそれどころじゃない。


「申し訳ありません。律さまの調律が緻密すぎたようで、鏡花の力が及びませんでした。」


「ふむ。それは予想外ですね。そこまでとは。茜、あなたは鏡花を安静にさせに行きなさい。奏さんが戻られたら癒していただきます。律さんには私が施します。」


「承知しました。」


茜というらしいハーフ美女はまったく表情を変えずに答えたかと思うと軽々と自分と同じ背丈の鏡花さんを抱き上げて出ていってしまった。


な、なんなんだ。あの人、大丈夫なのかな。。


どういうことなのか問い詰めようとイケメンのほうを見ると、じーとこっちを見つめていた。


「な、なんですか」


「鏡花は守りのエキスパートなんですがねえ。彼女の能力でも半分程度しか施せないなんて益々興味深いですよ。律さん。」


人が倒れたっていうのになんでこいつこんな嬉しそうなんだ。


「意味がわかりません。さっきの人は大丈夫なんですか?」


「ええ。要は能力の限界にたっして気を失っただけです。充電が切れたスマートフォンみたいはものなので良く寝て、念のため奏さんに癒してもらえば全快しますよ。」


スマートフォンて。。倒れた人に使う例えとしてどうなんだ。。


「では、つづきをしましょうか。」


にっこりとまたもや無駄にイケメンスマイルをかまされたかとおもったら鈴の音が聞こえてきた。


ただ、弦さんは例の鈴の楽器をもっていない。


はて?と首をかしげていると真顔になった弦さんは、


「彼のものを清め、護れ」


とつぶやいた。


その途端、糸のようにふわふわと浮いていた光線がまたぴんっと張り詰めくるくると旋回しはじめた。


銀色の糸があっという間に服の上から下まで縫いついて、うっすらと発光して紋様のように輝いてる。


「きれい。」


思わずそうつぶやくと頭をなでられた。


「なんですか?また猫扱いですか?」


せめてもの抵抗に睨みつけたがなぜか嬉しそうにされた。やはり変態なのか?


「ふふ。久々に詠唱なんてしましたよ。あなたは本当に音に好かれているんですね。あまりにあなたの纏う音が正確すぎて守りの音を組み込むのに神経をつかいました。」


そして安定の意味不明トーク。


「いや、だから意味わかんないです」


「人からは音がでているでしょう?人によって性格が異なるようにその音も異なる。だいたいの人はクセがあるので、その隙間を縫うようにすれば術も容易くかけられる。でも君は完璧ともいえる音。つまり調律がきっちりされているから隙がない。そうなるとそれなりの術師でも術を施すのに苦労するのさ。鏡花のように。」


わかるようなわからんような...。


「うんと?それは悪いことですか?」


「とんでもない。とても素晴らしいことさ。音の調律がきっちりされているということは外界から侵されにくいということ。調律師としてはこのうえない素質だ。ただ悪念に近づくには君の耳は良すぎるからね。守りの音を施して対面した時の音の伝達を鈍くするんだ。」


やっとなんとなくわかってきた。


「昨日みたいなのに面しても昨日ほどは辛くないってこと?」


「そのとおり。律さんは頭も良いね。」


なでなでと、また頭を撫でられた。どこまで猫扱いなんだ。拒否るのも面倒になってきた。


まあいい。昨日みたいなのに出会ってもまともに受けなくて良いならありがたい。


「さてでは、行きましょうか。はじめてのお仕事に。」




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