開幕
光が聞こえる。
無限に彩る光に合わせるように鳴りやまぬ音。
光に合わせ、音が鳴るのか。
音に合わせ、光が踊るのか。
耳を澄ませば聞こえる、光の源。
天から垂らされた弦から生まれる光と音。
弦に指先を伸ばせば、喜ぶように増える光彩。
鳴らしてみたい。
この極上の光の音を。
----開幕----
都会の喧騒、なんて良く言い過ぎだ。
これはもう、暴力でしょう。
駅の片隅で蹲りながら毒づくが一向に気分は良くならない。
あらゆる足音、数多の電車が通過する音、
人の怒鳴り声やバカ笑い、子供の泣き声、
ガチャガチャと煩いjpop、
おまけに工事音やら信号音やクラクションまで混ざってる。
それだけならまだ良い。
最悪なのは、人の念だ。
物欲、性欲、名誉欲、欲、欲、欲。
膨大な量の欲の念。
どれもこれもが自己愛からくる、欲。
それが不協和音のように耳に届く。
いつもならヘッドフォンに流れる姉特性の音楽で遮断すればどうにかなる。
でもここは、音が多すぎる上にどれもこれも爆音だ。
なんだってこんな体質に生まれたのか。
というかお姉ちゃんはなんでこんな都会のど真ん中で待ち合わせなんて言ったの。
「ううぅ。。。お姉ちゃんん。。」
もうだめだ。吐く。
「キャーー‼︎‼︎」
へ?
なんだ今の叫び声。
思わず顔を上げれば、ほんの数歩先で引き攣った顔をした女性に刃も持ち手も真っ黒な、見た目だけでもぞっとするナイフを向けてる男性がいた。
目は明らかに焦点があっておらず、ナイフを持つ手もおぼつかない。
そして何より男性の頭の後ろあたりに淀んだ禍々しい色の渦が浮かんでる。
なんだあれ。
物凄く嫌な音がしてる。
忘れていた気持ち悪さがこみ上げて来て思わず口に手を当てた。
目の前がぐるぐるしてきて男性を直視できないが、じりと足を前に進め、女性に迫っていくのがわかる。
女性も後ろに下がろうとするが足がうまく動かないらしい。
「っつ‼︎」
ちょ!警察!
焦って鞄に放り込んでおるスマホをさがすも、気持ち悪さから視界が霞んでうまく手が動かない。
なんなのよもう‼︎
-ポロン-ポロンポロン-
え?
何これ。
聞いたこともないような音。
それも光る音だ。
音と一緒に光が聞こえる。
それが、耳に届いたとおもったら、せり上がってきていた気持ち悪さがふっとなくなった。
顔をあげると、唖然とした。
男性の後頭部に渦巻いていたあれを突き抜けるように光の線が何本も垂れ下がってる。
何、あれ。
「ぐあぁああああ‼︎」
「ひぃっ‼︎」
突如、男性は妙な唸り声をあげながら、ナイフを振り上げ、女性は覚悟したように目をぎゅっと瞑った。
「っ‼︎駄目‼︎」
叫んだと同時に光の線がいくつもの色のグラデーションで輝き、キラキラとした音が生まれ、渦巻きは次第に小さくなり、霧散した。
それとほぼ同時に男性の手からナイフは消え、男性も後ろにひっくり返った。
女性はへなへなとその場に座り込み、呆然としている。
なんだったの。今の。
「律‼︎」
呼ばれたかとおもったら後ろから抱きすくめられて、よく知る香りに安堵する。
「お姉ちゃん‼︎」
「無事で良かった。悪念を感じたとおもったら律と待ち合わせた場所に近いことが分かって、どうしようかとおもった。」
泣き声の姉に向き直って自分からも抱きしめ返す。
「お、お姉ちゃん。なんかよくわからないけど、光る
音が聞こえたんだ。」
そういった途端、ばっと顔が見える距離に引き離された。
緩くカールしたセミロングの黒髪に、少しタレ目気味の大きな瞳、そして色白で清楚な姉はいつも朗らかだが、今はいつになく真剣な顔でこちらを見ていた。
「律、光弦が見えたの?」
「こうげん?」
「そのようですね。奏さん。妹さんは調律師のようだ。」
「弦さん‼︎」
うん?
頭上からテノールの耳に心地良い声が降りてきた。
抱き合ったまま見上げると、逆さまから見ても美形だと分かる男性がこちらを見下ろしていた。
不思議な虹彩をした、藍色の瞳。
弦というらしい、その男性は無駄にイケメンスマイルだ。
「我々はあなたを歓迎しますよ。律さん。」
なにごと?