011 世界観を壊してみよう
制止を食らったのでやれなくなった。
なのでトレントだけの間引きに変更し、普通の木は残す事にした。
これなら森が無くなる事もあるまいと思ったわけで、間引き作戦は順調に進んでいった。
ただ、そうなると建設ラッシュにも陰りが出、あちこちの都市の景気も悪くなっていく。
折角の好景気の陰りを察知した王都では、その原因の追求の結果が明らかになる。
なのでオレがやらなくても国が率先してやり始め、国の国境線の再設定が成される事になる。
それと言うのも魔の森の中のモンスターがいつの間にか消えており、普通の森になっていたから伐採が可能だったとか。
確かに間引きのついでにモンスターも狩ったけど、全滅させていたとは思わなかったな。
「あれはオレのせいじゃないぞ」
「お前が始めたのには変わりねぇだろ」
「あーあ、あんなに木を乱獲して、大気中の酸素が心配だな」
「そうだな、これが異世界ならな」
「ああ、ゲームだったな」
それからは控え目な狩りにしたんだけど、それでも国中から森が減っていった。
オレは控え目にしたんだけど、意外と金になるのを皆が知った為に、我も我もと伐採の勢いは逆に増えていった。
リアルなら植林ぐらいはするが、ゲーム内でそんな事をする奴は現れず、国から緑がひたすら減る羽目になる。
ただでさえ世紀末風な世界観で緑が減ればどうなるか。
天候は不順になり空気は乾燥し、砂漠化はひたすら進行する。
農業生産高は減少し、モンスターも動物が少なくなる。
プレイヤー達が気付いた頃には既に、世界の様相は変わろうとしていた。
モンスターが減って喜んでいたのもつかの間、動物すら見かけなくなり、ますます農業生産高も下がっていく。
それは既に1国だけの問題では無くなっていて、他国でも似たような事になっていた。
おっかしいな。
ゲームの世界なのに何でこんなに荒廃してんだろ。
既に王都近郊じゃモンスターばかりか動物も見かけないと言うし。
だから辺境に皆が押し寄せて、ひたすら狩られていくモンスター達。
最初はポップしていた場所も、何度も狩られる事によって沸かなくなるとかさ、まるで本当の世界みたいじゃないかよ。
ここはゲームの世界だよな?
このままじゃレベル上げも困難になりそうなんだけど、運営はどういうつもりなんだ。
大陸から緑がひたすら減りつつある中、隣の大陸が公開された。
そこはまさに未開の地のような場所で、大陸全体が緑に包まれていた。
プレイヤー達は早速、その大陸に行こうとしていたが、生憎と海中のモンスターがそれを阻む。
その対策に発掘銃のカスタマイズの果てに、水中銃なんてのが開発されるようになった。
それは良いんだけどさ。
オレはどうすりゃ良いんだよ。
水中銃が使えない職なんだけどさ。
召喚リストにそんな銃が出る事もなく、水中で爆弾を振り回すなんて事もやれはしない。
そんな訳で海中モンスター討伐に呼ばれる事もなくなり、オレは残されたモンスターの掃討ぐらいしかやれなくなっていた。
レベルも皆が追い付き、そして追い越していく。
召喚士はまたしても地雷職の位置に収まりつつあった。
今のオレはボスモンスターをひたすら狩るぐらいしかやれず、要りもしない素材ばかりが集まっていく。
それでもまだ隣の大陸への航路が確定になれば復活になると、ひたすらボス狩りを続けていった。
そんな中、途中で付いた木工スキルでトレント細工に夢中になる。
それと言うのもボス狩りにもいい加減飽きていて、違う事がやりたくなったからだ。
そのうちに工作を始めて創意工夫のままに色々な物を作り始め、気付いたら世界観に合わない玩具を造っていた。
飛行機である。
実は召喚42になった頃、召喚砲のカスタマイズなんてのがやれるようになったんだ。
とは言うものの、砲自体のカスタマイズをやっても弾の威力が弱くて結局使い物にならず、放置してそのままだったのだ。
そんな訳で魔法を放出する砲の研究を進め、それを推進器に出来ないかと思い始めた。
確かに生活魔法ぐらいしか使えなくなっている世界だけど、魔石を活用すれば威力の高い魔法も使えそうなのだ。
強い魔石のような代物なら手持ちがある。
今はもう手に入らない3種の石。
結局、市場に流さないままにしておいた3種類の石を使えば、それなりの魔法が連続して使えそうなのだ。
さすがに長期に結界を保持させる程の石を使えば、かなりの持続時間になりそうだった。
どのみちこの大陸ではもう、結界の必要すら無いぐらいにモンスターも少なくなっており、その需要も下がっている。
だからこんな事に使っても構わないよな。
でもまさか飛行機の動力になるとは思わなかったよ。
2つ砲を召喚し、左右に設置して発動させれば、かなりの速度で飛行機は進行し、そして空に飛び立った。
いや、車輪が折れて跳ね上がったと言うべきか。
滑走路が無いからやはり、陸上機は無理があったようだ。
陸がダメなら下駄を履かせよう。
海中エリアの進行がどうにもはかどらないようなので、オレは空から隣の大陸に行くからな。
俄か推進器になった砲は順調に風の魔法を放出し、海上を飛行機は疾走していく。
もはや銃と魔法の世界観から完全に逸脱しているようだけど、蛮族が既に逸脱してるから構わないだろ。
そんな開き直りにも似た心境で、飛行機は大空に舞い上がった。
ラダーの調整にも苦労したけど、何とか無事に飛んでいる。
でもさっきからギシギシと嫌な音はしているけどね。
頼むぞ、トレント材。
燃料の石を継ぎ足しながら、俄か水上機はふらふらと大陸上空に到達した。
それは良いんだけど、どうやって降りたら良いんだろう。
フロートしか無いから陸上に降りられないぞ。
てかもうギシギシが止まらないと言うか……うお、折れるぅぅぅぅ。
空中分解ってこんな状態なのね。
空中に投げ出されたオレは、砲を新たに召喚し、自らの魔力で推進させる。
ここで死んだら元の木阿弥になっちまうんだし、何とか生きて地上に降りないと。
砲を抱き抱えるようにして何とか着陸のような事になりはしたが、水上機もどきは完全に粉砕していた。
さて、もう帰れないぞ。
新大陸の一角にセーフティゾーンを拵える。
石を売らずにおいて良かったと思うが、ゾーン中央に結界用の石を据えて結界発動。
これでひとまずは安全な場所も出来たし、ここでログアウトをすれば死んでも大陸に戻る事は無い。
ただ、もう大陸に戻れなくなるかも知れないけど、どのみち向こうじゃやる事と言ったらボス退治しか無いもんね。
翌日から新大陸の探検が始まった。