010 人騒がせは続くよどこまでも
改行修正
運営に蛮族認定されたからと、世捨て人みたいな活動の弊害か、すっかり世の中の事に疎くなっていたようです。
あのままだったら討伐依頼も出かねない事になっていたようで、これからもそういうのには気を付けないといけないと思った。
という訳で、召喚砲の練習がやれなくなってしまった訳で、またしてもあの無人島での練習をしようと思い、例のクエストを受注しようと……
《当該クエストは既にクリアされております》
おっかしいな。
クエストは基本的に何度でも請けられるはずなのに。
知らない間に仕様変更になったようで、あのクエストはレア扱いになっていた。
レアクエストは1度しか請けられないクエストの事で、王宮や王侯貴族などから出されるクエストが殆どで、早い者勝ちでもあったりする。
だけどあの島で終わりになるクエストは、オレ以前にも請けた人はそれなりに多い。
オレは何度もクリアしている人から紹介されて挑んだぐらいなのに、いきなりレアクエスト扱いされるとは。
「あのクエスト、レアになってるけど」
「そうなんだよな。オレもそれ聞いて驚いてんだ」
「じゃあ、転移石と祝福石と魔晶石の相場が上がってしまうね」
「それは間違いないところだろう。ま、オレはかなりの在庫があるけどな」
「中でひたすら殲滅しといて良かったよ」
「くっくっくっ、さすがは蛮族だな。あんなのを中で何度も倒すのかよ。普通は1回でクリアしちまうもんだぞ」
「何度もやれば楽だろ」
「1回倒すと次に雑魚が倍沸くだろうが、あれを嫌がって請け直すんだよ」
「まあ、普通は弾切れになりそうな数だったけどさ、所詮は雑魚なんだし、物理でやれば知れてたさ」
「召喚士のステータスはどうなってんだ。ガンマンじゃ物理でとかやれねぇんだぞ」
「そうなのか」
「当たり前だろ。筋力とか銃を撃つのに何の役に立つよ。敏捷もそこまで必要無いし。だからその手のステータスが殆ど伸びなくてよ、伸びるのは物理防御とか物理攻撃力とか魔法防御とか、そういう総合的な物だけだ」
「それは知らなかったな」
「オレも召喚士に転職すっかな。もうガンマンも飽きちまったぜ」
「交代してくれ」
「くっくっくっ、いいなそれ」
普通、クエストはクリアするまでが1回と認識されている。
なので彼から転移石の話を聞いて、途中リタイアを何度もやって最後にクリアした訳で、だからこそ途中で得られるアイテムはかなり獲得している。
ただ、彼も言った通り、いかにリタイアしたとしても中ボスから得られるアイテムは、倒すと子分が倍に増える。
もちろん倍になるのは1回だけで、中ボス3体を倒してリタイアってのをひたすらやれていたのもそういう訳だ。
ただし、普通はクリアしてからまた請けるのが殆どらしいけど、オレは最初の手続きみたいなのが嫌でパスしただけの事だ。
はっきり言って連続ログイン時間のうち、ダンジョンに入るまでの手続きに5時間も掛かるとか勘弁して欲しいので、それをパスしたに過ぎない。
ダンジョン内でリタイアした場合、またダンジョン入り口からやり直しになるだけで、最初の手続きはパスされる。
だからこそそいつを何度もやって最後に島への魔法陣に飛び乗ったと、そういう訳だ。
だけどあれがレアクエストになったら、転移石と祝福石と魔晶石の相場が上がってしまうだろうな。
転移石は転移魔法陣の作成には必須のアイテムだし、祝福石はセーフティエリアを作るのに無くてはならないアイテムになっている。
そして魔晶石は結界の主要部品になっていて、それが無くてはうっかり魔法対決や闘技会もやれない事になる。
もちろんモンスターの襲撃対策もやれなくなるし、都市の防衛にも不備をきたすようになるだろう。
小さな村では祝福石を使ったセーフティゾーンが精々だけど、それなりの都市には都市結界も施されている。
もちろん一度作れば長持ちするアイテムではあるけど、長い目で見れば消耗品なのは確かだ。
しかもでかい都市の結界には石を複数必要とするし、その寿命もそこまで長いものではない。
なので毎年の検査で石の交換ってのもやっているようで、中古の石が近隣の村落へ払い下げられているとか。
今まではβからの知識のままに大勢があのクエストで得られたアイテムを流通させたから比較的安価で出回っているが、レアクエストになってしまっては高級品になってしまうだろう。
そうなればそれなりの都市はまだしも、小さな村とかは経済破綻の可能性も高い。
運営はちょっとした変更のつもりなのかも知れないけど、今回の変更で国の未来がどうにも心配なところだ。
あいつがどれだけの在庫を持っているかは知らないし、オレも2桁の在庫しかない。
他にも資産として持っている人も居るだろうから、すぐに市場から消えたりはしないだろう。
だけどもう手に入らないアイテムと知られれば、否応無しにレア物扱いされる事になる。
そのうち国での買い付けが決められて、個人売買がやれなくなる可能性もある。
そうなっちまったらもう、レア物はレア物としての価値を失い、二束三文で国に買い叩かれる事にもなるだろう。
それが嫌なら闇に流すしかなく、そういうのを狙って周辺都市からの買い手が参入する事になり、国の闇が増大する事になる。
つまり国が荒れてしまう訳だ。
世界に必須のアイテムを停止させるって事がどんな影響を生むとか、運営なら分かるはずなのにそれを実行する事の裏は、そういうシナリオに基づいての判断と予想される。
つまりこの先、モンスターの大暴走とかのイベントがあったり、それこそ魔王の出現みたいなのがあったりするんだろうな。
その時にそういう防衛装置が邪魔なので、衰退させてプレイヤーの参入で防衛させようって腹なのかも知れない。
となればだ、今はひたすらレベルを上げて、その対策をすべきだろう。
召喚砲なんかで遊んでいる場合じゃないか。
そのうちまたいい環境が見つかるまで砲術士はお預けと、嫌だけど蛮族な生活に戻る事にする。
それでも防御系の装置に使われる素材も集めておこうと、トレント系モンスターの乱獲を開始した。
トレント材は防護柵の素材には最良の品で、魔力の通りが良い為にそこらの防壁より強固に出来る。
ただそのトレント系モンスターは魔の森と呼ばれるタイプの森にしか生息しない為、そういう森の端からひたすら倒していく事になる。
もちろん、魔の森の木が全てトレント系モンスターって訳じゃないので、一般家屋用の木材になったり木工の材料になったりする木がたくさん取れる。
端から倒してアイテムボックスに入れていき、満載になったら普通の木は売りさばいていった。
レベルもかなり上がったのでアイテムボックスの容量もかなり増えており、大量の木素材で近隣の町村では俄かに建築ラッシュが起こっているとか。
どうやらプレイヤーは木を切って売ったりしないようで、NPCでは魔の森の木を切るのも大変で、今までは冒険者に護衛を頼んで細々と集めていたらしい。
それがいきなり大量に売りに出されたものだから、近場の村はもとより近隣の町村からも発注が相次ぎ、売っても売っても相場が下がらなかった。
だからオレも金稼ぎになると思ってひたすら木を切ったりトレント倒したりしていたんだけど、魔の森が魔の切り株になってしまっていた。
いや、参ったな。
確かに毎日ログインしてひたすらやっていたけどさ、辺り一面切り株だらけになっているんだよ。
この切り株、アイテムになんないかな?
どうやら切り株も売り物になるようで、切り株に手を当ててアイテムイン……おお、掘り起こす手間が省けたぞ。
またぞろ切り株を満載にして売りに行き、魔の森があった場所には荒野があるばかり。
いやぁ、この1ヶ月の充実していた事。
(大変です)
(どうしたのじゃ)
(国の南の魔の森が消えました)
(なんじゃと)
(今は荒野になっているらしく、あのままでは隣国が)
(うぬぬ、早急に兵を送るのじゃ。そして国境線を定めねば侵略されてしまう)
(分かりました)
「世界は不穏になろうとしていた」
「何を他人事みたいに言ってんだ」
「いやまさか、あの森が国境線だったとは知らなくてよ」
「今、双方の国が国境線の制定で会議してるってのによ」
「しまったな。細長く残しておけば良かったな」
「それはそれで問題だろ」
「よし、東の森は少し残そう」
「まだやる気かよ」