雨の、音、たち
統合失調症
不安神経症
精神疾患者の頭の断片
脳にしまわれた、日常の記憶
ノンフィクションでありフィクション
アナタはどこまで自分の記憶を信用していますか?
今日も雨が降っている
酷く歪な雨が降っている
『たん、たたたたん、たん、たん』
雨が屋根に当たり歪な音をたててゆく
他の人にはどんな音に聞こえているんだろうか
真っ暗な部屋の隅でふと、考える
3階建ての小さなマンション
普段は近隣の住人の音は聞こえない
しかし、ここは小さな子供を持つ家庭をターゲットにしたマンションであるため、ふとしたきっかけで唐突に聞こえる音がある
子供の泣き声、わめき声、夫婦喧嘩、エトセ、トラ
その一室で一人暮らしを営む僕は、音を聞く度に不安になる
遥か遠くの地平で、獰猛な獣が嘶いているのを聞いたような不安に襲われる
雨の音もまた、同じであった
『たん、たたたたん、たん、たん』
その酷く歪な、屋根を叩く音は、僕を悩ませる
いつからだろうか、こんなにも雨の音が苦手になったのは
いつからだろうか、明るい場所にいると不安を感じるようになったのは
遠い遠い記憶の片隅で、何かが囁いたような気がした
しかし、雨の音により、思考は引き戻される
『ねえ、はやくきて、ねえ、ねえ』
今日も雨は僕に呼びかける
いつまでもいつまでも呼びかける
耳を塞いでも、息を殺しても、頭の中で響く雨の、音、た、ち
『たん、たたたたん、たん、たん』
『たん、たたたたん、たん、たん』
同じリズムで響く歪な雨音
僕は、呼ばれるままに、ベランダから飛び出した
今、いくよ
遠くで人の声が聞こえた気がした
身体が思うように動かない
『ねえ、はやくきて、ねえ、ねえ』
今日も雨の音がする
歪な歪な音がする
いつまでもいつまでも音がする
真っ暗闇の世界で僕は思考を、停止、した